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SPA(株式譲渡契約)とは|M&A最終契約の構成と主要条項の全体像

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

基本合意書を結び、法務デューデリジェンスの報告書を受け取った数日後に、売主側の弁護士から数十ページの株式譲渡契約書のドラフトが届きます。目次には前提条件、表明保証、誓約、補償と見慣れない章が並び、どの章が自社の負担を決めているのかは目次を眺めただけでは分かりません。買主側の担当者が最初に直面するのは、この分厚いドラフトをどの順番で読むかという問題です。

SPA(Share Purchase Agreement)は株式譲渡契約のことで、株式の取得によるM&Aで売主と買主が結ぶ最終契約です。基本合意(LOI)が秘密保持や独占交渉など一部の条項を除いて法的拘束力を持たせない文書であるのに対し、SPAは法務DDで確認した事実を前提に、誰が何をいつ行い、前提が崩れたときに誰が負担するかを確定させます。

SPAの位置づけと当事者

当事者は売主と買主の二者が基本です。対象会社を当事者に加えることも理論上は考えられますが、売主が株式を100%保有して対象会社を支配している場合には、対象会社に関する事項も売主に義務を負わせれば足ります。売主から独立して運営されている会社では、契約条件をすべて対象会社に開示することが望ましくない場合もあります。このため、対象会社が当事者になる例は実務上ほとんどありません。売主側が複数になることはあり、創業家の一族が株式を分けて持っている場合や、役員や従業員が株主になっている場合が典型です。

株式譲渡の条項は、「売主は、本契約の規定に従い、クロージング日において、売主が保有する対象会社の発行済株式の全てを買主に譲り渡し、買主は、本契約の規定に従い、これを譲り受ける」という形で置かれます。一読すると無条件の売買の約束に見えますが、そうではありません。前提条件が満たされなければ譲渡は行われないという規律を、「本契約の規定に従い」という一句で読み込む書き方です。

契約書の骨格

一般的なSPAは、次の章で構成されます。

  • 前文・定義
  • 株式譲渡
  • 譲渡価額と価格調整
  • クロージング
  • 前提条件
  • 表明保証
  • 誓約事項(クロージング前・クロージング後)
  • 補償
  • 解除
  • 一般条項(秘密保持、費用負担、準拠法、管轄など)

これらの章は互いを参照し合っています。売主の表明保証が重要な点で真実かつ正確であることと、売主がクロージングまでに履行すべき事項を履行していることは、買主が代金を支払う前提条件になります。クロージング前に重大な表明保証違反が分かれば、買主は前提条件の不充足を理由に実行を拒み、解除条項によって取引から離脱できます。クロージング後に違反が判明すれば、補償条項に基づいて損害の填補を請求します。一つの事実が、取引の段階に応じて前提条件、解除、補償のいずれかに接続する構造です。

譲渡価額とクロージング

クロージングは、売主が株式を引き渡し、買主が代金を支払う日です。モデル条項では、売主は代金全額の支払を受けることと引換えに株券を交付して株式を譲渡し、買主は株券の引渡しを受けることと引換えに代金を支払うと定め、振込先口座の通知期限や振込手数料の負担まで書き込みます。株券を発行していない会社では、株券の交付に代えて株主名簿の名義書換が中心になります。

譲渡価額は、締結時に確定した金額を支払う方式のほか、クロージング日時点の貸借対照表が確定してから要調整額を精算する方式があります。要調整額が正なら買主が売主に、負なら売主が買主に、確定日から一定の営業日以内に支払います。価格調整の計算項目と異議申立ての手続は、補償・価格調整・クロージングの設計で扱っています。

前提条件(クロージングの実行条件)

前提条件(CP:Condition Precedent)は、定められた条件がすべて充足された場合にのみクロージングの義務を履行するという合意です。株式の取得に許認可や官公庁への届出が必要な場合のように、手続が完了しなければ取引を実行できない事情は多くあります。前提条件を置けば、条件が満たされるまで取引を実行しなくてよい状態を作れます。一定の期日までに取引が実行されなければ解除できるという条項と組み合わせると、期日までに条件が満たされない場合に取引から離脱する権利が各当事者に生まれます。

条件がそろってから契約を結ぶ方法でも同じ目的は達成できます。ただし、その方法では、条件が満たされなかった場合に限らず、別の理由で、場合によっては理由なく、相手方が契約の締結を拒めることになります。契約締結上の過失を理由とする損害賠償請求の余地はあっても、本来実行されたはずの取引の履行は強制できません。先に契約を結んで前提条件を置く方法には、各当事者が取引から離脱できる場面を限定する意味があります。

モデル条項では、相手方の表明保証が締結日およびクロージング日において重要な点において真実かつ正確であること、相手方がクロージングまでに履行または遵守すべき事項を重要な点において履行していること、独占禁止法10条2項に基づく公正取引委員会への届出などクロージング前に必要な許認可等が取得または履践され、法定の待機期間が経過し、排除措置命令など取引を妨げる措置がとられていないことが、各当事者の義務履行の前提条件として並びます。前提条件はその利益を受ける当事者が任意の裁量で放棄でき、放棄しても補償等の請求は妨げられないと定めるのが通例です。

独占禁止法10条2項は、国内売上高合計額が200億円を超える会社が、国内売上高(子会社分を含む)が50億円を超える会社の株式を取得し、議決権保有割合が20%を超えることとなる場合などに、あらかじめ株式取得計画を公正取引委員会に届け出ることを求めています。届出を行った会社は、届出受理の日から30日を経過するまで株式を取得できません(同条8項)。届出が必要な取引では、この待機期間の経過を前提条件に置き、クロージング日を逆算して設定します。

前提条件が日本法上どのような性質を持つかには議論があり、民法127条1項の停止条件と解する見解と、義務の履行条件と解する見解があります。

表明保証

表明保証は、契約当事者の一方が他方に対し、一定の時点において一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、その内容を保証するものです。英米法で発展した概念で、日本の民商法が元来想定していた制度ではなく、実務上の機能概念として持ち込まれました。日本の裁判例は比較的少なく、判例法理が確立しているとはいえない状況です。そのため条項を置く際は、当事者が期待する機能を踏まえ、どのような法的効果を意図しているかを条文から読み取れる書き方にする工夫が求められます。

表明保証が担う機能は、端的にはリスク分担です。当事者は、対象会社が一定の状態にあることを前提に、譲渡価額を含む取引条件と実行の是非を判断します。その前提が崩れたときの負担を売主と買主のどちらに割り当てるかを、あらかじめ契約で決めておく仕組みが表明保証と補償です。

モデル条項では、売主は買主に対し、締結日およびクロージング日において、別紙に記載された各事項が真実かつ正確であることを表明し保証すると定めます。売主の表明保証事項には、売主自身に関する事項と対象株式に関する事項に加え、取引条件を決める前提になった対象会社に関する事項が含まれることが多くあります。買主が違反を構成しうる事実を知り、または知り得たことは表明保証の効果や救済手段に影響を与えない、という条項例もあります。

例外(カーブアウト)の書き方について、LegalAgentは立場を決めています。売主側のドラフトには、「開示されたものを除き」「買主に開示された事項のほか存在しない」という書き方で例外を広く取ろうとするものがあります。何がいつ誰に開示されたのかは後日争いになりやすく、表明保証と補償の範囲が曖昧になるため、この書き方は買主側では受け入れません。例外を設けるなら、契約名、当事者、締結日、金額のように、例外とする契約や事実を個別に特定します。件数が多ければ別紙に1件ずつ列挙し、本文からは別紙を引用します。買主が知っていたことを理由に売主の責任を否定しないという条項と、抽象的な開示免責は矛盾するため、同じ契約に併存させません。

創業者が売主として表明保証に応じる側の視点は、SPAの表明保証で創業者が見落としやすいリスクで扱っています。

誓約事項(クロージング前後の義務)

誓約事項は、買収に付随して、各当事者が相手方に対し一定の行為をすること、またはしないことを約する合意です。英米法のコベナンツに由来し、日本法上は株式の売買という主たる義務以外の付随的な契約上の義務と考えるのが一般的です。誓約に違反すれば、補償条項がなくても民法415条に基づく債務不履行責任を追及できると考えられています。

クロージング前の誓約には二つの目的があります。一つは、譲渡価額やその他の契約条件の前提になった対象会社の状況を、締結日からクロージング日まで確保し、または創り出すことです。通常の業務の範囲を超える資産の処分、借入れ、増資、役員報酬の変更などを買主の同意なく行わない義務が典型です。もう一つは、取引の実行に必要な手続を進めることです。会社法上の譲渡承認決議、許認可の取得や届出、主要な取引先の契約にあるチェンジ・オブ・コントロール条項に基づく同意の取得がここに入ります。

クロージング後の誓約は、買主が取得した事業の価値を守るための義務です。売主の競業避止、経営陣や創業者による引継ぎへの協力、売主グループの商号や商標を対象会社が使い続ける場合の条件と使用停止の時期などを定めます。経営陣の残留に関する取り決めはキーマン条項とリテンションで扱っています。

補償と解除

補償は、当事者に表明保証違反、誓約事項違反その他の義務違反があった場合に、それによって相手方が被った損害を填補する合意です。日本法の損害賠償に似ていますが、補償の方法や範囲について契約上の制限を合意する点に特徴があります。責任の上限額(キャップ)、請求期間、軽微な損害を除く下限(バスケット)、故意または重過失の場合に上限を適用しない除外、対象会社に生じた損害を買主の損害とみなす規定などがその内容です。

表明保証違反に基づく補償の法的性質は、損害担保契約と解するのが実務上有力です。民法改正で瑕疵担保責任が契約不適合責任として整理された後も、同じ理解が適当と考えられています。買収価格の算定の前提になった事実が不正確だった場合の価格修正としての機能を持つ、という見方もあります。上限、期間、バスケットの設計は補償・価格調整・クロージングの設計で、表明保証違反による損失を保険で手当てする方法はW&I保険で扱っています。

解除条項は、契約締結日とクロージング日の間に期間が置かれるため、その間に想定外の事情が生じた場合に備えて置きます。モデル条項では、各当事者はクロージングまでに限り、相手方の表明保証に重要な点で違反があった場合、相手方が契約上の義務に重要な点で違反した場合、相手方について倒産手続等の開始の申立てがあった場合、自らの責めに帰すべからざる事由により一定の期日までに株式譲渡が実行されなかった場合に、書面で通知して解除できると定めます。解除後も、補償、秘密保持、準拠法、管轄などの条項は効力を残します。

会社法上の手続との接続

非上場会社の株式の多くは譲渡制限株式です。会社法136条は「譲渡制限株式の株主は、その有する譲渡制限株式を他人(当該譲渡制限株式を発行した株式会社を除く。)に譲り渡そうとするときは、当該株式会社に対し、当該他人が当該譲渡制限株式を取得することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる。」と定めます。承認するかどうかの決定は、会社法139条1項により「株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。」とされ、会社は同条2項により決定の内容を請求者に通知します。

譲渡の効力と対抗要件も会社法が決めます。会社法130条1項は「株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。」と定め、同条2項により、株券発行会社では名義書換がなければ「株式会社」に対抗できないと読み替えます。株券発行会社の株式の譲渡は、株券を交付しなければ効力を生じません(会社法128条1項)。

この規律をSPAに落とし込むと、譲渡承認決議の取得をクロージング前の売主の誓約またはクロージングの前提条件に置き、クロージング日に名義書換請求を行い、株券発行会社では株券を交付する流れになります。承認決議の議事録、株主名簿記載事項証明書、印鑑証明書は、クロージング当日の交付書類として契約に列挙します。独占禁止法の届出が必要な規模の取引では、届出と待機期間の経過も同じく前提条件に置きます。

買主がドラフトを読む順序

売主側のドラフトを第1条から順に読むと、各条項がどこに接続しているかが見えないまま読み終わることになります。LegalAgentでは、買主側のレビューを次の順序で進めています。

最初に、前提条件と解除条項を並べて読み、どの場合に取引を実行しなければならず、どの場合に離脱できるかを確認します。次に、表明保証の別紙と例外の書き方を確認し、例外が契約名や日付、金額で特定されているか、開示行為一般を指す免責になっていないかを見ます。三番目に、誓約事項で、クロージングまでに売主に何をさせるか、取引先の同意取得や許認可の届出が売主の義務になっているかを確認します。四番目に、補償の上限額、請求期間、除外事由を法務DDの結果と突き合わせ、見つかったリスクが手当てされているかを照合します。価格調整条項があれば、最後に定義と異議申立ての手続を確認します。

法務DDで判明した既知のリスクは、売主に「開示してもらう」のではなく、契約本文に実装します。割り当て先は四つあります。クロージングまでに是正させ、是正を前提条件にする方法。当該事実に起因する損害を上限の外で填補させる特別補償にする方法。是正義務をクロージング前後の誓約にする方法。見込まれる損失を譲渡価額に反映する方法。どれを選ぶかは、金額の大きさ、発生の可能性、売主の資力で決めます。

ドラフトを受け取った翌日にできる作業として、表明保証の各項目に「重要な点において」「売主の知る限り」という限定語が付いているかを一覧にする方法があります。限定語が付いた項目は、違反があっても救済が狭まる領域です。一覧にしておくと、交渉で外すべき限定語と受け入れてよい限定語を分けて議論できます。

法務DDの進め方は法務デューデリジェンスとは、株式譲渡と事業譲渡の使い分けは株式譲渡と事業譲渡の違い、弁護士費用の目安はM&Aの弁護士費用で扱っています。

よくある質問

SPA(株式譲渡契約)とは何ですか?

株式の取得によるM&Aで売主と買主が結ぶ最終契約です。基本合意(LOI)と法務DDを経て、譲渡価額、クロージング、前提条件、表明保証、誓約事項、補償、解除を確定させます。

SPAの前提条件(CP)とは何ですか?

定められた条件がすべて充足された場合にのみクロージングの義務を履行するという合意です。相手方の表明保証が重要な点で真実かつ正確であること、許認可や独占禁止法の届出の完了などが典型で、一定期日までに充足されなければ解除できる条項と組み合わせます。

表明保証の例外はどう書くべきですか?

「開示されたものを除き」のような開示行為一般を指す書き方は、何がいつ誰に開示されたかで争いになるため避け、契約名・当事者・締結日・金額で例外を個別に特定します。件数が多ければ別紙に1件ずつ列挙します。

非上場会社の株式譲渡で会社法上必要な手続は?

譲渡制限株式では会社法136条の譲渡承認請求と139条の承認決議(株主総会または取締役会)が必要です。譲渡を会社や第三者に対抗するには130条の株主名簿の名義書換が必要で、株券発行会社では株券の交付が譲渡の効力要件です(128条1項)。

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株式譲渡契約(SPA)
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