合弁契約(JV契約)レビュー|出資比率と解消条項の設計
こんにちは!Legal Agent代表弁護士の朝戸です。
合弁契約は、会社を作るときの条項より、会社を畳むとき・株主が別れるときの条項で価値が決まります。設立時点の出資比率や事業計画の合意は双方の関心が高く、交渉にも時間がかけられます。一方で、意思決定が止まったとき、追加出資に片方だけが応じないとき、片方が合弁を離脱したいときに何が起きるかは、設立を急ぐ過程で後回しにされがちです。合弁が数年単位で続くビジネスである以上、うまくいかなくなった局面の設計こそが契約書の本体だと考えています。
デッドロックを生む50:50出資
合弁会社の出資比率を50:50にする交渉は、双方が対等なパートナーであることを示す意味合いから選ばれやすい設計です。しかし50:50は、株主総会では単独で過半数を形成できる株主が存在せず、取締役会も双方が同数の取締役を指名する設計にすると過半数を形成しにくいことを意味します。両社の意見が割れる議案は可決も否決もされないまま宙に浮きます。これがデッドロックです。
デッドロックは、事業計画の変更、追加出資の可否、役員の選任、重要な業務提携先の選定など、日常的な意思決定の場面で顕在化します。解消手続が定められていないと、双方の担当役員が個別協議を重ねるほかなく、その間は事業判断が止まり、取引先への説明や資金繰り計画にも影響が及びます。
出資比率を50:50にしない、取締役の員数を奇数にする、あるいは双方が合意した独立取締役を加える設計もありますが、対等な関係を志向する合弁では、この選択自体が争点になりやすい部分です。50:50を維持する場合は、デッドロックの解消手続を契約に明記しておく必要があります。一定期間の協議を経ても合意に至らない議案は代表者間の上位協議に持ち込み、それでも解決しなければ第三者調停や仲裁に付し、最終的には後述するプット・コールオプションで解消する段階的なエスカレーション手続を設けておく設計が実務上とられています。
役員指名権と拒否権事項の対象範囲
出資比率が50:50に近い合弁では、取締役の指名権を出資比率に応じて配分し、各社が指名した取締役で取締役会を構成する設計が一般的です。議決が同数で割れる場面を想定し、重要事項について一方の株主の事前承諾や拒否権を要求する条項(拒否権事項)が置かれます。
拒否権事項の対象は、事業計画の変更、年度予算の承認、増資、多額の借入れ、重要な資産の処分、役員報酬の決定、配当方針、合弁会社の解散など多岐にわたります。確認すべきは対象事項の範囲が広すぎないかという点です。範囲が広範になるほど、一方の株主が事実上の拒否権で他方の事業運営を止められる状態になり、デッドロックの発生頻度が上がります。
拒否権事項を設計する際は、合弁会社の資本構成や事業計画の根幹に関わる事項に絞り込み、日常的な業務執行は取締役会の通常決議や代表取締役の権限に委ねる整理が実務的です。株主間契約における事前承諾事項の設計は、合弁契約に限らず投資契約全般で共通する論点であり、株主間契約書のレビューポイント|事前承諾事項・情報提供・経営株主の義務でも取り上げています。
追加出資と希薄化への対応
合弁会社が事業拡大や赤字補填のために追加出資を必要とする局面は、設立後まもなく訪れます。問題になるのが、一方の株主だけが追加出資に応じ、他方が応じられない、あるいは応じない場合の扱いです。
追加出資に応じなかった株主の持株比率が希薄化すること自体は資本構成の原則からすれば当然の帰結です。しかし合弁契約では、出資比率がそのまま役員指名権や拒否権事項の発動基準、事業撤退時の清算配分に連動していることが多く、希薄化によって当初合意した力関係が崩れる可能性があります。
このため合弁契約では、増資の際に既存株主が持株比率に応じて新株を引き受けられる優先引受権(プロラタ引受権)を定めておくのが一般的です。あわせて、優先引受権を行使しない株主が生じた場合の希薄化の扱いや、持株比率が一定水準を下回った場合の役員指名権・拒否権事項の変動を、あらかじめ契約書に落とし込んでおく必要があります。この設計を欠くと、増資の都度、比率変動の影響を個別協議でやり直すことになります。
競業避止と親会社との取引における利益相反
合弁会社は、多くの場合、親会社となる各出資者の既存事業と近い領域で事業を行います。ここで生じるのが、親会社自身が合弁会社と競合する事業を続けてよいか、親会社と合弁会社の間の取引にどのような条件を適用するかという論点です。
競業避止条項は、親会社が合弁事業と同一又は類似の事業を自ら行うこと、第三者との間で類似の事業を行うことを制限します。争点は、対象事業の範囲と地理的範囲、期間、合弁契約終了後にも義務が存続するかどうかです。範囲を広く取りすぎると親会社側の既存事業や将来の展開を過度に縛り、逆に狭すぎると合弁会社の事業基盤が親会社の別動隊によって侵食されるおそれがあります。
親会社と合弁会社の取引についても、独立当事者間の取引条件(アームズレングス)で行うことを契約書に明記し、取引の都度、他の株主への通知や承認を要求する設計が用いられます。合弁会社の取締役に親会社から派遣された者が含まれる場合、その取締役が親会社との取引に関与する場面では、会社法上の利益相反取引規制との関係も意識する必要があります。取締役が自己又は第三者のために会社と取引をしようとするときは、取締役会設置会社では取締役会の承認を要するという規律があり、承認を欠いた取引は事後的に問題視される可能性があるためです。誰が承認権限を持つか、特別の利害関係を有する取締役は議決に加われないことを前提に、合弁契約や取締役会規程の運用として整理しておいた方がよいです。
情報アクセスと監査の設計
合弁会社の株主は、自らの持分の価値を把握し、拒否権事項の判断材料を得るために財務情報や事業運営情報へのアクセス権を必要とします。合弁契約には、月次試算表や事業報告の提出義務、株主による帳簿閲覧請求権、株主が指名する監査人による会計監査を受け入れる義務などが定められます。
見落とされやすいのが情報の流れ先です。提供された情報が、親会社の投資部門にとどまらず、合弁会社と競合する製品を持つ事業部門にも共有されると、両社の信頼関係に影響します。対象部門を契約書上限定し、秘密保持の範囲を明確にする手当てが必要です。監査人がアクセスできる範囲や費用負担、頻度も事前に決めておく必要があり、複数の株主から異なる報告様式を求められる負担を避けるため、様式を統一し対応窓口を一本化しておく設計が有効です。
プット・コールオプションによる解消設計
合弁契約の中で最も重い交渉になるのが解消(イグジット)の設計です。合弁事業がうまくいかなくなったとき、あるいは一方の株主が事業戦略を転換して撤退したいときに、株式をどう動かすかという条項です。
代表的な仕組みが、プットオプションとコールオプションです。プットオプションは一方の株主が自らの保有株式を他方に買い取らせる権利、コールオプションは一方が他方の保有株式を買い取る権利です。デッドロックが一定期間解消しない場合、重大な契約違反があった場合、支配権変更(親会社の株主が交代する場合)など、あらかじめ定めた発動事由が生じたときにこれらのオプションが働く設計にするのが一般的です。
争点になるのが価格算定方法です。第三者算定機関による公正価値評価、あらかじめ合意した算定式(純資産方式やディスカウント・キャッシュフロー方式など)、ロシアンルーレット条項(一方が提示した価格で相手方が買うか売るかを選択する方式)など複数の手法があります。算定方法が曖昧なまま「協議して定める」とだけ書かれていると、解消が必要になった局面で価格交渉自体が難航し、株式が塩漬けになります。
譲渡制限と清算の順序
合弁会社の株式は、原則として第三者への自由な譲渡を制限するのが通例です。合弁は特定の相手との協業を前提に組成されるため、一方の株主が事前承諾なく第三者に株式を譲渡し、見ず知らずの会社が新たな株主として現れる事態は、他方の株主にとって想定外の負担になります。譲渡制限条項では、他の株主への事前通知、先買権(同条件で自ら買い取る権利)、親会社グループ内の組織再編に伴う移転が例外に当たるかを整理しておく必要があります。
合弁を解消する最終段階として、株式の譲渡や買取りでは収まらず、合弁会社そのものを清算する場合もあります。清算では、債務を弁済した後の残余財産を株主に分配する順序が問題になります。定款の内容や会社法上の選任手続を前提に、清算人候補や議決方針を株主間で合意しておくと、実際の解消局面での手続がスムーズになります。まずプット・コールオプションや譲渡による解消を試み、それでも解消できなければ清算を最終手段として位置付ける段階構造を、契約書に明記しておくことをお勧めします。
合弁契約に特有の交渉環境
一般的な合弁契約を一律に直接規律する単一の特別法があるわけではなく、会社法上の株式会社に関する規律、独占禁止法上の企業結合規制、契約法上の一般原則などを組み合わせて設計します。株主総会や取締役会の意思決定には会社法上の決議要件が適用され、拒否権事項や事前承諾事項はこの決議要件に上乗せする形で設計されます。合弁会社の設立が一定の規模に達する場合、独占禁止法上の企業結合の届出が必要になることもあり、届出要否は出資者の売上高規模や議決権保有割合など複数の基準で個別判断するため、設立検討の早い段階で確認しておくべき事項です。
合弁の組成から解消までの支援
合弁契約のレビューでは、設立時の出資比率や事業計画の合意だけでなく、デッドロックが生じたとき、追加出資に応じられないとき、そして合弁を解消するときにどう動くかという解消局面の設計が交渉の核心になります。LegalAgentでは、事業提携・JV・アライアンスとして合弁契約の交渉支援を行うほか、解消局面での株式買取りや清算が組織再編・売却の性質を帯びる場合にはM&A支援の観点からも対応しています。合弁契約のドラフトを受け取った段階、あるいは相手方と出資比率や役員構成について話し合いを始めた段階で、一度ご相談ください。