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株式譲渡と事業譲渡の違い|手続・契約・従業員・許認可を比較

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

M&Aの検討を始めるとき、「会社を丸ごと買い受けるのか、事業だけを切り取って取得するのか」という選択によって、その後の検討項目や進めるべき手続は大きく変わります。同じ買収案件であっても、株式譲渡と事業譲渡とでは、法的に何が移転し何が会社にとどまるのかという前提が根本から異なるためです。

どちらの手法が適しているかは、税務と事業の継続に必要な手続を合わせて検討します。引き継ぐ権利義務の範囲、取引先の承諾取得、従業員や許認可の扱いなど、幅広い論点を照らし合わせて総合的に判断していきます。

買収対象と権利移転の基本構造

株式譲渡は、対象会社の株主が保有する株式を買主に譲渡する取引です。対象会社という法人格はそのまま存続し、買収対価は株主に対して支払われます。会社の中身である資産や負債、個々の契約関係、許認可などは、株主が入れ替わっても対象会社に帰属したまま維持されます。買主は株式を通じて間接的に会社を支配する形となり、債務を直接引き受けたり法人格そのものが移転したりする取引とは異なります。

事業譲渡は、これとは異なる構造を持ちます。対象会社の法人格は売主(譲渡人)のもとにとどまり、事業を構成する資産や負債、契約上の地位、知的財産権などを、買主との合意によって個別に特定して移転させます。対価は売主会社に対して支払われるため、既存株主に対価が入る株式譲渡とは資金の流れが異なります。なお、事業譲渡であっても通常の在庫や物品の売買には、それ自体について第三者の承諾までは不要ですが、契約上の地位の移転には民法539条の2に基づく相手方の承諾が必要となります。

比較項目 株式譲渡 事業譲渡
譲渡の対象 対象会社の株式(会社の資産や負債自体は移転しない) 事業を構成する資産・負債・契約等を個別に特定
対価の帰属先 既存株主 対象会社(譲渡人)
法人格 対象会社はそのまま存続 譲渡人・譲受人ともに別法人として存続
契約上の地位 原則として変動なし(チェンジ・オブ・コントロール条項の対象になり得る) 相手方の承諾が必要(有効な事前承諾を含む)
債務 会社に帰属する債務を包括的に維持 譲渡対象として特定した債務のみ承継(商号続用・詐害譲渡の例外あり)
従業員 雇用契約はそのまま存続 転籍として個別の合意が必要
許認可 名義人である会社が変わらないため維持されやすい(業法上の届出等を要する場合あり) 譲受人に当然には移転せず、新規取得または業法上の承継手続が必要
株主総会決議 対象会社側は原則不要(譲渡制限株式の承認は別途確認)。売主側は重要子会社株式譲渡(467条1項2号の2)に該当すれば特別決議が必要 全部譲渡(467条1項1号)や重要な一部譲渡(同2号。総資産の1/5以下等を除外)、買主側の全部譲受(同3号)は原則特別決議。略式・簡易の例外あり

株式譲渡では契約相手方の承諾が原則として不要とされますが、契約上の手続が完全に不要となる取引とは限りません。対象会社が締結している主要な取引契約や融資契約にチェンジ・オブ・コントロール条項がある場合、法人格自体は変わらなくても、株主構成の変動によって相手方への事前通知や承諾取得を要する場合があります。承諾を得られないと契約解除や期限の利益喪失につながるおそれがあるため、事前の条項確認が欠かせません。条項の具体的な読み方はチェンジ・オブ・コントロール条項レビューのチェックポイントで扱っています。

承継範囲と簿外債務のリスク

株式譲渡では、過去の紛争や負債が対象会社に残ります。買主が債務を直接引き継ぐ形ではないものの、買収後に簿外債務や偶発債務が表面化すれば、取得した株式の価値やその後の会社経営に直接影響します。買収前に発見できなかったリスクは、契約上の表明保証や補償条項で手当てされない限り、買主が経済的な損失を抱え続けることになります。リスクを洗い出す調査の進め方は法務デューデリジェンスの目的・流れ・必要資料で説明しています。

事業譲渡では、譲渡対象となる財産や権利義務を個別に指定できるため、買主が必要な事業用資産や契約だけを選んで引き継ぐことができます。譲渡対象から除外した債務は、原則として買主に移転しません。ただし、対象資産を自由に選定できるとしても、過去の債務を遮断できる保証があるとは言い切れません。

この原則には法令上の重要な例外が存在します。まず、譲受人が譲渡人の商号を引き続き使用(商号続用)する場合、譲渡人の事業によって生じた債務を弁済する責任を負います(会社法22条1項)。これを回避するには、遅滞なく免責の登記を行うか、譲渡人と譲受人の双方から、譲受人が債務を弁済する責任を負わない旨を遅滞なく通知する方法があります。通知による除外は、通知を受けた債権者に対して効力を持ちます(同条2項)。また、譲渡人が残存債権者を害することを知って事業譲渡を行った場合、残存債権者は譲受人に対し、承継した財産の価額を限度として履行を直接請求できます(会社法23条の2第1項)。譲受人が債権者を害する事実を知らなかったときはこの請求を受けませんが、譲渡会社について破産手続、再生手続又は更生手続が開始された場合は、この条項に基づく請求権を行使できないとする規定もあります(同条3項)。したがって、譲渡人の財務状況や商号の取り扱いを慎重に見極める必要があります。

もう一つ見逃せないのが、譲渡対象の特定漏れです。事業譲渡では、事業に必要な契約、許認可、システムの利用権限、業務フローの一部などを個別に契約書へ記載して移転させます。記載から漏れた項目は買主に移転しないため、取引完了後に事業運営が滞る事態を招きかねません。包括的に会社全体を維持する株式譲渡と、個別に特定して切り出す事業譲渡の性質の違いに配慮して設計を進めます。

契約・従業員・許認可の移転手続

契約上の地位の引き継ぎは、両手法で実務の手順が大きく分かれます。株式譲渡では対象会社が契約当事者にとどまるため、原則として契約相手方の個別承諾は不要です。一方、事業譲渡では契約上の地位を買主に移転させるため、民法539条の2に基づき、相手方から個別に承諾を得る手続をとります(契約書にあらかじめ有効な事前承諾条項がある場合を除く)。取引先が多い会社ほど、承諾取得に要する交渉期間や工数が膨らみます。

従業員の処遇についても明確な違いがあります。株式譲渡では雇用主である対象会社が変わらないため、個々の雇用契約や労働条件はそのまま維持されます。これに対して事業譲渡で従業員を引き継ぐ場合は、転籍の合意を従業員一人ひとりから個別に得る必要があります(民法625条1項)。ここで会社分割と混同しないよう整理しておかなければなりません。会社分割では、労働契約承継法に基づき、分割事業に主として従事する労働者で分割計画書等に記載された者は、法定手続を経て個別同意なしに承継会社へ引き継がれます。計画書から漏れた主たる従事者は異議を申し出て承継される権利があり、主として従事しないのに計画書に記載された者も異議を申し出て残留することができます。さらに労働者への通知や事前協議、書面による異議申出期間も法律で細かく定められています。事業譲渡にはこうした法定の承継ルールが存在しないため、全員が無条件に移るわけではなく、個別の合意形成が前提となります。会社分割は事業譲渡とは異なる組織再編手法であり、両者を同一の包括承継として扱うことはできません。

許認可の扱いも実務上の負荷を左右します。許認可は名義人である法人に対して付与されるのが原則です。株式譲渡では法人格が変わらないため許認可は維持されやすいものの、業法によっては株主構成や役員の変更に伴う届出や事前承認が義務付けられている場合があります。事業譲渡では、譲渡人に与えられた許認可が譲受人へ当然に移転することはありません。譲受人側で新規に取得し直すか、根拠法令に地位承継手続(認可や届出)が用意されていればその手続を踏みます。組織再編である合併や会社分割であってもすべての許認可が当然に移転するわけではないのと同様、承継手続が利用可能かどうかやその要件は法規制ごとに異なるため、事業運営に必要な許認可を洗い出し、法的手続のルートを個別に確認します。

顧客情報などの個人データの取扱いも押さえておきたい論点です。事業譲渡や合併といった事業承継に伴って個人データを提供する場合、法令上は「第三者」への提供に該当しないとみなされ、本人の事前同意を得ずに提供を受けることができます(個人情報保護法27条5項2号)。ただし、あらかじめ本人の同意を得ている場合や法定の例外事由(同法18条3項)を除き、承継前の利用目的の範囲を超えて個人データを取り扱うことは認められません(同条2項)。外国にある第三者への提供が生じる場合は同法28条の要件も別途確認します。株式譲渡では法人自体が存続するため事業譲渡のような資産移転に伴う提供論点は生じにくいですが、買収前のデューデリジェンスにおける開示手続や、買収後に買主が対象会社のデータを無制限に利用できるわけではない点には注意を払います。

株主総会決議と反対株主の手続

事業譲渡において、株主総会の特別決議が常に必要になるとは限りません。会社法467条1項は、事業の全部の譲渡(同項1号)、または事業の重要な一部の譲渡(同項2号)を行う場合に、株主総会の特別決議(会社法309条2項11号)による契約承認を原則として定めています。このうち「重要な一部の譲渡」からは、譲渡する資産の帳簿価額が総資産額の5分の1(定款でこれを下回る割合を定めた場合はその割合)を超えない取引が除外されます。ただし、総資産の20%を超える資産であっても、それだけで直ちに重要と判断されるわけではなく、事業内容に照らした重要性の実質判断を伴います。また、他の会社の事業の全部を譲り受ける買主側も、原則として株主総会の特別決議を要します(会社法467条1項3号)。事業の一部のみを譲り受ける場合はこの3号の承認対象には当たりません。

さらに、法令上の要件を満たすことで承認決議を省略できる制度があります。一つは略式手続(会社法468条1項)で、事業譲渡等の相手方が総株主の議決権の90%以上(定款で上回る割合を定めた場合はその割合)を保有する特別支配会社である場合、支配されている側の株主総会決議を省略できます。ただし、相手方側の株主総会決議まで当然に省略できるとは限りません。もう一つは簡易手続(同条2項)で、他の会社の事業全部を譲り受ける際、交付する対価の帳簿価額の合計額が譲受会社の純資産額の5分の1(定款で下回る割合を定めた場合はその割合)以下であるときは、譲受会社側の決議を省略できます。もっとも、簡易手続であっても、一定数の株式を有する株主が法令の定めに従って反対を通知した場合は、原則どおり決議を経なければなりません(同条3項)。

株式譲渡についても、対象会社の株主が変わるだけなら対象会社側の株主総会決議は原則として不要です。ただし、売主会社が重要な子会社株式を譲渡する場合で、譲渡する株式の帳簿価額が売主会社の総資産額の5分の1(定款でこれを下回る割合を定めた場合はその割合)を超え、かつ譲渡後に子会社の議決権の過半数を有しなくなる取引は、売主会社側で株主総会の特別決議を要します(会社法467条1項2号の2)。また、対象会社の株式に譲渡制限が付されているときは、定款の定めに従って取締役会や株主総会による譲渡承認手続が別途必要です。

事業譲渡等について株主総会の決議を要する場合、議決権を行使できる株主は、総会前に反対を通知し、総会でも反対することが買取請求の要件となります。その総会で議決権を行使できない株主は、この事前通知・反対投票を要せず、自己の株式を公正な価格で買い取るよう請求できます(会社法469条)。簡易手続により株主総会決議が不要となる場面では原則として株式買取請求権は発生しませんが、略式手続では少数株主の買取請求権は排除されません。また、事業の全部譲渡の承認決議と同時に解散の株主総会決議を行う場合など、買取請求権が除外される法定の例外もあります(同条1項1号)。少数株主が存在する企業では、手続の選択とあわせて買取請求への備えも視野に入れておく必要があります。

税務処理の確認と事前準備資料

税務上の取扱いも、株式譲渡と事業譲渡のどちらが有利かを一律に割り切ることは困難です。消費税において、株式譲渡は有価証券の譲渡として非課税取引とされます。一方、事業譲渡では、譲渡対象に含まれる棚卸資産や機械設備、のれんなどが課税資産として消費税の対象となります(土地などの非課税資産を除く)。不動産が事業譲渡の対象に含まれる場合には、登録免許税や不動産取得税も、適用される特例と合わせて確認します。

株主側の課税関係も、株主が法人か個人かによって異なります。個人の譲渡所得に対する株式の税率は保有期間によって自動的に変わるものではありませんが、対価の受領方法や取引構造によって税務上の扱いは変動します。また、対象会社に繰越欠損金が存在する場合、株式譲渡では法人内に欠損金がとどまるものの、特定株主による支配に伴う利用制限の有無を確認しなければなりません。事業譲渡では、対象事業に紐づく繰越欠損金を買主に引き継がせることはできません。税務の影響を法務の検討だけで見通すことは難しいため、スキームの最終決定前に税理士と連携して試算を進めます。契約条項の設計についてはSPA(株式譲渡契約)の補償・価格調整・クロージングでも解説しています。

株式譲渡と事業譲渡の比較検討をスムーズに進めるため、初期の段階で以下の資料を整えておくと、専門家との協議が具体的になります。

  • 契約一覧(相手方、契約期間、チェンジ・オブ・コントロール条項、譲渡禁止条項の有無)
  • 許認可一覧(根拠法令、名義、承継手続の有無、届出・再取得の要否)
  • 従業員一覧(雇用形態、勤続年数、対象事業への従事状況)
  • 資産負債一覧(帳簿価額、簿外債務・偶発債務の有無、担保設定状況)
  • 株主構成(株主総会決議の要否、反対株主の有無、譲渡制限の有無)
  • 税務試算(消費税・不動産関連税の発生見込み、株主属性ごとの課税関係)
  • クロージング後の移行計画(システム、契約、許認可、従業員の引継ぎ時期)

これらの資料を早期にそろえておくことで、手続上の障壁や必要となる期間を早い段階で把握できます。特に取引先の承諾取得や許認可の手続は事業譲渡における作業量を大きく左右するため、優先的に着手することが望まれます。

M&Aスキームの相談窓口

LegalAgentでは、株式譲渡と事業譲渡のいずれについても、承継範囲の整理、契約や許認可の移転可否の確認、株主総会手続の要否、株式譲渡契約や事業譲渡契約への反映までを一貫して支援しています。取引規模や事業内容の概要を共有いただければ、初期段階から各スキームの課題を整理して対応方針をご案内します。

よくある質問

株式譲渡と事業譲渡では何が違いますか?

株式譲渡は対象会社の株式を取得する取引で、法人格はそのまま維持され、会社に帰属する資産・負債・契約を包括的に引き継ぎます。事業譲渡は資産・負債・契約等を個別に特定して移転する取引で、譲渡対象に含めなかった債務は原則として承継されません。

株式譲渡なら契約の同意なしで進められますか?

対象会社が当事者である契約は株主が変わっても当然には終了しませんが、主要契約にチェンジ・オブ・コントロール条項があれば、株主構成の変更自体が通知義務や承諾義務の対象になることがあります。事業譲渡では、契約上の地位を移すために相手方の個別の承諾が必要です。

事業譲渡で従業員や許認可はどう扱われますか?

事業譲渡では従業員を承継させる場合に転籍として個別の合意が必要で、会社分割のように同意なく労働契約が承継される仕組みはありません。許認可は原則として名義人である法人に与えられるため、事業譲渡では譲受人に当然には移転せず、譲受人側での新規取得又は業法上の地位承継手続(認可・届出)が必要になる場合があります。

キーワード
株式譲渡契約(SPA)
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