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信託型ストックオプションと有償ストックオプションの違い|2023年国税庁Q&Aの課税関係と発行手続の選び方

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

「信託型か有償か、どちらがいいですか」という聞かれ方をすることがありますが、この二つは同じ軸で比較できる制度ではありません。信託型は新株予約権の交付方法の一種であり、有償は新株予約権の払込方法の一種です。両者は重なることもあれば、重ならないこともあります。制度を選ぶときに見るべきなのは名称ではなく、誰に、いつ、どの条件で経済的利益を与え、付与・行使・売却のどこで課税され、会社法・会計・税務上どの手続を負うかです。

選択肢を比較する五つの軸

スタートアップが検討するストックオプションの選択肢は、税制適格ストックオプション、税制非適格ストックオプション(無償型)、有償ストックオプションの三つを基本形とし、信託型はこの基本形のどれかに乗せるための交付方法として位置づけられます。比較の軸は次の五つです。

比較軸 税制非適格無償SO 税制適格SO 有償SO
付与対象 制限なし 取締役・執行役・使用人等(大口株主等を除く) 制限なし
付与時期の確定 発行決議時に対象者を確定 発行決議時に対象者を確定 発行決議時に対象者を確定
行使時の課税 給与課税(総合課税、最高税率約55%) 課税なし(株式売却時まで繰延) 課税なし(適正な時価で取得している場合)
売却時の課税 譲渡課税(約20.315%) 譲渡課税(約20.315%) 譲渡課税(約20.315%)
取得時のキャッシュ負担 有(新株予約権の公正価値相当額の払込み)

(根拠資料:経済産業省「スタートアップの成長に向けたインセンティブ報酬ガイダンス-人材獲得のためのストックオプション活用術-」2025年2月、6〜7頁、国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」令和5年7月7日最終改訂、問1・問2・問6)

この表に信託型は登場しません。信託型は、発行会社が新株予約権をいったん信託に交付し、受託者が保管したうえで、あとから指定した役職員に交付するという交付方法の名称であり、非適格・適格のどちらの箱に入るかは信託契約の設計次第だからです。付与時期の軸だけは信託型が例外を作ります。無償SOも有償SOも、発行決議の時点で対象者を確定させる必要がありますが、信託型を使えば、新株予約権を信託に留め置いたまま、あとから入社したメンバーを受益者として指定できます。この柔軟性が信託型を選ぶ動機になっている一方、行使時の課税関係は交付方法とは別に判定されます。ここを2023年の国税庁Q&Aが具体的に示しました。

税制適格・税制非適格・有償SOの違い

税制適格ストックオプションの要件そのものは、税制適格ストックオプションとは?課税の仕組みと要件の基本税制適格ストックオプションの応用論点で条文と数値を確認しながら書いています。権利行使価額の年間限度額は原則1,200万円ですが、令和6年度税制改正により、付与決議日において設立5年未満の会社は権利行使価額を2で除して判定し、設立5年以上20年未満で非上場又は上場後5年未満の会社は3で除して判定する仕組みが加わっています(経済産業省「インセンティブ報酬ガイダンス」7頁)。要件の逐条確認は繰り返さず、有償SOとの比較に絞ります。

有償SOは、発行する新株予約権の理論価値をオプション価格算定モデルで算出し、その公正価値を払込金額として発行する新株予約権です(『新株予約権ハンドブック〔第5版〕』124頁、PDF168頁)。役員・従業員は新株予約権を時価で購入しているため、税務上は株式投資と同様に扱われ、行使時に経済的利益を認識しません(国税庁Q&A問2)。ただし、この結論は「適正な時価で購入している」ことが前提です。国税庁Q&A問2の設例では、購入時の株価200に対して払込金額を50に抑えた設計が示されていますが、この50が理論価値を反映した公正価値であることが条件になっています。払込みを免除したり、相殺構成において実質的に会社が対価を肩代わりしたりする設計であれば、その差額は経済的利益として給与課税の対象になり得ます。有償だから行使時の給与課税が一律に起きない、とまでは言い切れません。

会計処理の面でも、有償SOには費用計上が生じる場合があります。2018年に企業会計基準委員会が公表した実務対応報告36号により、勤務条件や業績条件といった権利確定条件が付された有償新株予約権は、従業員等から受けた役務の対価として用いられていないことを立証できない限り、ストックオプション会計基準に定めるストックオプションとして扱われ、費用計上が必要とされています(『新株予約権ハンドブック〔第5版〕』125頁、PDF169頁)。2018年4月1日より前は費用計上が不要と整理される実務が広く行われていましたが、現在は前提が異なります。

信託型SOの仕組みと2023年Q&A

信託型ストックオプションの基本的な仕組みは、発行会社又はその代表取締役等が信託会社に金銭を信託して法人課税信託を組成し、信託会社がその金銭で発行会社の譲渡制限付き新株予約権を適正な時価で購入し、信託期間中に会社へ貢献した役職員を受益者に指定してそのストックオプションを交付する、という三段階の構造です(『新株予約権ハンドブック〔第5版〕』124〜125頁、PDF168〜169頁、国税庁Q&A問3)。

2023年7月改訂の国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」問3は、この仕組みのうち税制適格要件を満たさない類型について、次のとおり課税関係を整理しました。信託の組成時には金銭に対する法人課税が生じ、信託会社が新株予約権を適正な時価で購入した段階では経済的利益は発生せず、役職員が受益者に指定された段階でも課税関係は生じません。しかし、役職員がストックオプションを行使して株式を取得した時点では、その経済的利益は給与所得として課税され、発行会社は源泉所得税を徴収して納付する必要があります。問3は、信託が役職員に付与し有償で取得しているという形式よりも、発行会社が役職員にストックオプションを付与しており役職員に金銭等の負担がないという実質を重視する考え方を明示しています。過去に導入された信託型SOの中で、源泉所得税を納付していない事例があれば、国税庁Q&A問4が示すとおり速やかに納付する必要があり、発行会社が求償しない扱いにすると追加の経済的利益とみなされる点にも注意が必要です。

もっとも、これをもって信託型SOが一律に利用できないとは言えません。同じQ&Aの問12は、信託型ストックオプションであっても、次のような要件を満たせば税制適格ストックオプションとして扱われる道を示しています。信託契約において受託者が自身の判断で行使や第三者への譲渡をできないと定められていること、付与が無償であること、行使が受益者指定日後2年を経過した日から10年(一定の設立5年未満の会社は15年)を経過する日までの間に行われること、権利行使価額の年間合計額が限度額を超えないこと、権利行使価額が信託受益権の付与契約締結時における1株当たりの価額相当額以上であること、譲渡が禁止されていること、株式の交付や保管委託の要件を満たすことです。起算点が「受益者指定日」に置き換わっている点が、通常の税制適格SOとの違いです。信託型という名称は課税関係を直接には決めません。受託者の裁量をどこまで制限し、受益者指定日を基準とした要件をどこまで契約に落とし込んでいるかで結論が変わります。既存の信託型SOを持つ会社は、自社のスキームが問3の非適格類型に当たるのか、問12の適格類型に当たるのかを個別に確認する必要があります。

有償SOの公正価値と発行手続

有償SOの発行で最初に必要になるのは、新株予約権の公正価値の算定です。株式オプションの合理的な価格算定モデルとして広く受け入れられているブラック・ショールズ・モデルや二項モデルなどを用いて算定するのが原則ですが、未公開企業については、付与日現在の本源的価値の見積りに基づいて処理することも認められています(『新株予約権ハンドブック〔第5版〕』341頁、PDF385頁)。算定された公正価値が払込金額になるため、税制適格SOの権利行使価額算定(財産評価基本通達の例による特例方式)とは算定の目的も方法も異なります。両者を混同して同じ算定書で済ませることはできません。

払込方法には、金銭による払込みのほか、会社に対する報酬債権と払込債務とを相殺する構成があります。相殺構成を使う場合、その報酬債権の付与自体が会社法361条にいう取締役の報酬等に当たるかどうかが問題になり得ます。有償SOは新株予約権を時価で発行する任意の投資制度であるから会社法の報酬規制を受けないと整理されてきた実務がある一方、学説上は、有償SOが職務執行の対価としての性質を持つ以上、報酬規制に服させるべきではないかという見解も示されています(『新株予約権ハンドブック〔第5版〕』126頁、PDF170頁)。相殺構成を採るのであれば、報酬決議の要否をあらかじめ検討し、必要であれば株主総会の報酬決議を経ておく設計が安全です。

発行手続そのものの流れ(募集事項の決定、割当契約、登記、原簿管理)は、税制適格SOと共通する部分が多く、ストックオプション発行手続の実務で順を追って説明しています。有償SOに固有の追加作業は、公正価値の算定書を用意すること、払込みの実行(又は相殺の意思表示・相殺契約の締結)を記録として残すこと、そして権利確定条件付きの設計であれば会計上の費用計上を織り込むことです。

付与対象者確定の柔軟性と管理

税制適格SOは、対象を発行会社及び一定の子会社の取締役・執行役・使用人(大口株主等を除く)に限定しており、社外の協力者は原則として対象外です。有償SOにはこの対象者要件がないため、社外高度人材の認定要件を満たさない外部専門家や社外協力者にも付与できます(経済産業省「インセンティブ報酬ガイダンス」9頁)。この違いは、顧問や業務委託先へのインセンティブ設計を検討する場面で実務上の分岐点になります。業務委託先への付与で確認すべき役務内容との対応関係や利益相反の論点は、ストックオプションの資本政策上の位置づけで扱っています。

信託型を選ぶ動機の中心は、この付与対象者確定の時期をずらせる点にあります。無償SOも有償SOも、発行決議の時点で受け取る人を確定させる必要があるため、発行後に採用したメンバーには別途発行し直す必要があります。信託型であれば、新株予約権をいったん信託に交付してプールしておき、その後の受益者指定日に個別の対象者を決めることができるため、発行後に参画したメンバーにも既存メンバーと同じ条件で付与する機会を作れます(『新株予約権ハンドブック〔第5版〕』125頁、PDF169頁)。もっとも、この柔軟性は信託契約の設計に依存しており、受託者の権限、受益者指定の基準、指定の記録が整っていなければ、前節で確認した問3の非適格類型に流れやすくなります。柔軟性と引き換えに、信託契約書、受託者との契約、受益者指定の意思決定過程という管理対象が増える点は、導入前に見込んでおく必要があります。

既発行SOの確認

資金調達やM&Aのデューデリジェンスでは、既発行のストックオプションが個別に確認されます。確認対象は、発行要項、割当契約書、株主総会・取締役会の決議書、新株予約権原簿という基本セットに加えて、有償SOであれば公正価値の算定根拠と払込みの実行記録、信託型SOであれば信託契約書、受託者との契約、受益者指定の記録と指定日です。

既に信託型SOを導入している会社では、2023年の国税庁Q&A公表後にどう対応したかという記録も確認対象になります。自社のスキームが問3の非適格類型に当たると判断した場合、源泉所得税の追加納付や権利者への説明を行った記録があるか、問12の適格要件を満たす設計として税理士の見解を得ているかを確認します。この確認を後回しにすると、次回ラウンドやM&Aの交渉の場で、買主や投資家から先に指摘を受ける形になります。

専門家へ渡す条件表

信託型・有償SOのいずれを検討する場合も、税理士・弁護士に最初に渡す条件表を整えておくと、初回の打ち合わせで具体的な検討に入れます。条件表に含める項目は次のとおりです。

  • 付与対象者の属性(取締役・従業員・業務委託先等の別)と想定人数
  • 想定する行使価額と、その算定方法(財産評価基本通達の例による特例方式か、公正価値算定モデルか)
  • 有償SOであれば新株予約権の公正価値評価の要否と依頼予定先
  • 信託型を検討する場合は、受益者指定日を基準とした要件充足の可否
  • 既発行のストックオプションの有無、種類、発行時期、対象者数
  • 想定する発行スケジュールと、直近の株主総会・取締役会の開催予定

翌営業日には、直近の資本政策表、既発行SOがあればその発行要項一式、想定する付与候補者のリストと役割、直近の決算又は仮決算に基づく純資産の状況をそろえておくと、この条件表と合わせて税理士・弁護士が具体的な設計に入れます。

よくある質問

信託型ストックオプションは、もう使えない制度ですか?

使えないと一律に説明することはできません。国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」問3は、税制適格要件を満たさない信託型ストックオプションについて、権利行使時の経済的利益が給与所得として課税され、発行会社に源泉徴収義務が生じるという考え方を示しました。一方、同Q&Aの問12は、受託者の裁量を制限し、受益者指定日を基準とした行使期間・行使価額等の要件を満たせば、信託型ストックオプションも税制適格ストックオプションとして扱われ得ることを示しています。既存のスキームがどちらの類型に当たるかを個別に確認する必要があります。

有償ストックオプションであれば、権利行使時に課税されないと考えてよいですか?

新株予約権を適正な公正価値で購入していることが前提です。国税庁Q&A問2は、有償で取得したストックオプションについて権利行使時の値上がり益を課税しない取扱いを示していますが、これは購入価額が理論価値を反映した公正価値であることを前提としています。払込みを免除する設計や、実質的に会社が対価を肩代わりする相殺構成を用いる場合には、経済的利益が生じたとして給与課税の問題に発展する可能性があります。

信託型・有償ストックオプションを検討する際、最初に何を準備すればよいですか?

既発行のストックオプションがあればその発行要項・割当契約・決議書一式、直近の資本政策表、想定する付与対象者のリストと役割、行使価額の算定方法(財産評価基本通達の例による特例方式か、有償SOであればオプション価格算定モデルによる公正価値評価か)の方針です。これらを条件表としてまとめたうえで税理士・弁護士に渡すと、初回の打ち合わせから具体的な設計の検討に入れます。

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