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信託型と有償ストックオプションの違い|課税と発行手続

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

「信託型と有償ストックオプションのどちらを選ぶべきか」という疑問を持ったとき、まず分類の軸を確かめたいところです。もっとも、この二つは分類の軸が異なります。信託型は新株予約権を届ける「交付方法」の一種であり、有償は発行時に払込みを求める「払込方法」の一種だからです。両者が重なる設計もあれば、まったく別の形態をとることもあります。制度を選択する際に目を向けるべき点は名称の響きにとどまらず、誰に、いつ、どの条件で経済的利益を付与し、付与・行使・売却のどこで課税され、会社法や会計・税務の上でどのような手続を負うかという実質です。

ストックオプションの選択肢と三つの基本形

スタートアップが検討するストックオプションの選択肢は、税制非適格ストックオプション(無償型)、税制適格ストックオプション、有償ストックオプションの三つが基本形となります。信託型は、これらの基本形のどれかに載せるための交付方法として位置づけられます。主要な比較軸は次のとおりです。

比較軸 税制非適格無償SO 税制適格SO 有償SO
付与対象 税制適格の対象者制限なし。属性により所得区分等を確認 取締役・執行役・使用人等。大口株主等を除き、一定の社外高度人材も対象 税制適格の対象者制限なし。契約・証券規制等は別途確認
対象者の確定 申込み・割当て又は総数引受の手続で確定 同左。税務上の付与決議日も確認 同左
行使時の課税 役職員への労務対価なら原則として給与所得。所得額等による 課税なし(株式売却時まで繰延) 課税なし(適正な時価で取得している場合)
売却時の課税 株式譲渡益に原則20.315%(日本の居住者) 株式譲渡益に原則20.315%(日本の居住者) 株式譲渡益に原則20.315%(日本の居住者)
取得時のキャッシュ負担 無 無 有(新株予約権の公正価値相当額の払込み)

ここでは、日本の居住者である役職員が取得する場合を中心に、国税庁ストックオプションに対する課税Q&A(2024年11月改訂)に沿って説明します。個別の所得区分や特例の適用関係は別途確認します。

譲渡制限が付された税制非適格無償SOでは、役職員に対する労務対価であれば権利行使時に原則として給与所得として課税されます(社外協力者等への付与であれば事業所得や雑所得の区分を検討します)。行使時の経済的利益に対して給与課税が行われるため、総合課税による税率負担が生じ得ます。これに対して税制適格SOでは権利行使時の課税が繰り延べられ、株式売却時に譲渡所得として課税されます。有償SOでは、本人が適正な時価で購入している類型であれば行使時の利益に課税せず、売却時まで課税が生じません。株式売却時の課税は、日本の居住者の場合、いずれも株式譲渡益に対して原則20.315%の申告分離課税となります。ただし、売却価額から控除できる金額は制度ごとに異なります。税制非適格無償SOでは行使時の時価、税制適格SOでは権利行使価額、有償SOでは新株予約権の購入額と権利行使価額の合計額等をそれぞれ控除して譲渡益を算出します。課税対象となるのは、売却価額から所定の金額を控除した株式譲渡益そのものです。

税制適格ストックオプションの全体像や要件の詳細は、税制適格ストックオプションとは?課税の仕組みと要件の基本と税制適格ストックオプションの応用論点で条文や具体的な数値とともに解説しています。権利行使価額の年間限度額は原則1,200万円ですが、令和6年度税制改正により、付与決議日において設立5年未満の会社は権利行使価額を2で除して判定し、設立5年以上20年未満で非上場又は上場後5年未満の会社は3で除して判定する緩和措置が加わりました。付与対象は大口株主やその親族等を除く取締役・執行役・使用人等に限られますが、認定等を受けた一定の社外高度人材も対象に含まれ得ます。

この比較表に信託型が独立した項目として登場しないのは、発行会社が新株予約権をいったん信託に交付し、受託者が保管したうえで、あとから指定した役職員に交付するという「交付方法」の名称だからです。信託型SOが適格・非適格のどちらに該当するかは信託契約の設計によって決まります。通常の直接付与では個々の申込み・割当て又は総数引受契約を通じて対象者を定めます。募集事項の決議時に常に全員を確定することが必要とは限らず、取締役等への委任やストックオプション・プール制度の活用によって将来の採用者へ付与する余地もあります。信託型以外にも付与時期に柔軟性を持たせる手法は存在します。信託型を使えば、新株予約権を信託に留め置いたまま、後から入社したメンバーを受益者に指定できる利点があります。ただし、行使時の課税関係は交付方法の形式とは切り離して判定されます。

信託型SOの仕組みと課税関係

国税庁Q&A問3の例で扱う信託型は、発行会社又はその代表取締役等が信託会社に金銭を信託して法人課税信託を組成し、信託会社がその金銭で発行会社の譲渡制限付き新株予約権を適正な時価で購入し、信託期間中に会社へ貢献した役職員を受益者に指定して新株予約権を交付する、という三段階の構造をとります。

国税庁Q&A問3(2024年11月改訂版)は、この仕組みのうち税制適格要件を満たさない類型について課税関係を整理しています。信託の組成時には金銭に対する法人課税が生じ、信託会社が新株予約権を適正な時価で購入した段階では経済的利益は発生せず、同設例では役職員が受益者に指定された段階でも課税関係は生じません。しかし、役職員がストックオプションを行使して株式を取得した時点では、その経済的利益は給与所得として課税され、発行会社は源泉所得税を徴収して納付する必要があります。設例では、行使時株価800から、信託から引き継いだ取得額50と権利行使価額200を控除した550が給与所得の課税対象とされています。その後、その株式を仮に1,000で売却した場合、売却価額1,000から行使時株価800を控除した200が株式譲渡益となり、申告分離課税が適用されます。問3は、信託の受託者が有償で新株予約権を取得したという外形よりも、発行会社が役職員にストックオプションを付与しており役職員自身に金銭等の負担がないという実質を重視する判断を示しました。過去に導入された信託型SOで源泉所得税を納付していない事例があれば、国税庁Q&A問4が示すとおり速やかに納付する必要があります。発行会社が求償しない扱いにすると追加の給与等としてグロスアップ計算が必要になる点にも注意が必要です。

もっとも、信託型にも税制適格となる設計があります。同じQ&Aの問12は、信託型であっても所定の要件を満たすことで税制適格ストックオプションとして扱われる道を示しています。受託者が自身の判断で行使や第三者譲渡を行えない旨の信託契約上の定めに加え、発行会社の取締役等への無償付与や新株予約権・受益権双方の譲渡禁止が前提となります。行使期間は受益者指定日後2年を経過した日から10年(設立5年未満かつ非上場等の会社は15年)以内でなければならず、年間権利行使価額の限度額管理も求められます。さらに、権利行使価額を信託受益権の付与契約の締結時における1株当たり価額相当額以上とすることや、株式交付時の保管委託または発行会社自身による所定の管理(譲渡制限株式の場合)を満たすことも定められています。行使期間の起算点が「付与決議日」から「受益者指定日」に置き換わっている点が通常の税制適格SOとの違いです。信託型という名称が直接課税関係を決めるのではなく、受託者の裁量をどこまで制限し、受益者指定日を基準とした要件を契約に落とし込んでいるかで結論が分かれます。契約書類の形式を整えただけで当然に適格性が認められるとは限らないため、自社の設計が問3の非適格類型に当たるのか、問12の適格類型に当たるのかを個別に判定します。

有償SOの公正価値評価と発行手続

有償SOは払込金額を定めて発行する新株予約権です。ここで行使時の課税が生じないと説明されるのは、役職員本人が適正な時価を自己資金等で払い込んで取得する類型であり、その時価を客観的な評価方法で算定します。役員・従業員は新株予約権を時価で購入しているため、税務上は株式投資と同様に扱われ、行使時の利益には課税しません(国税庁Q&A問2)。ただし、この扱いは適正な時価で購入していることが前提です。国税庁Q&A問2の設例では、購入時の株価200と、新株予約権自体の適正な時価50は別の価値を示しています。これは株式自体を200から50へ値引きした取引とは別の評価です。売却時の譲渡益は、売却価額から新株予約権の購入額(50)と権利行使価額(200)等を控除して計算します。払込みを免除したり、相殺構成によって実質的に会社が対価を肩代わりしたりする設計であれば、その差額は経済的利益として給与課税の対象になり得ます。有償という形式をとっていることだけで行使時の給与課税が一律に起きないと即断することはできません。

有償SOの発行にあたっては、まず新株予約権の公正価値の算定を行います。株式オプションの合理的な価格算定モデルとして広く用いられているブラック・ショールズ・モデルや二項モデルなどを、権利行使や失効の条件に応じて選びます。未公開企業では会計処理上、本源的価値を用いる取扱い(企業会計基準第8号13項)がありますが、これは会計上の費用測定を目的とした簡便法にすぎず、有償SOの払込金額や税務上の適正な時価を決める方法と混同してはなりません。払込金額の適正性を検討する評価は、税制適格SOの行使価額の基礎となる株価算定(一定の場合に利用できる財産評価基本通達の例による方法等)とは算定の目的も手法も異なります。株式の価値、新株予約権自体の価値、会計上の費用測定を区別し、算定資料がそれぞれの目的に即しているかを確かめておきます。

会計処理の面でも、有償SOに費用計上が生じる場合があります。実務対応報告第36号では、勤務条件と業績条件の双方、又は業績条件が付された市場価格のない有償新株予約権など、同報告2項の対象取引について、従業員等から受けた役務の対価として用いられていないことを立証できない限り、ストックオプション会計基準に定めるストックオプションとして扱います。会計上の公正な評価額から払込金額を控除した額を基礎に、対象勤務期間等に応じた費用を算定します。計算上の差額がなければ費用が生じない場合もあります。ただし、権利確定の見込み数量の変動等に応じた見直しがあるため、発行時に費用がゼロでも、その後の費用計上が不要と決まるわけではありません。同報告は原則として2018年4月1日以後適用されますが、適用前に付与した取引について従来の会計処理を継続できる経過的な扱いもあります。付与時期と自社が採用している会計方針を確認しておくことが大切です。

払込方法には、金銭による払込みのほか、会社の承諾を得て報酬債権等と払込債務とを相殺する構成があります(会社法246条2項)。これは新株予約権の発行時の払込みについての規定であり、行使時の出資払込みに関する規定とは区別して整理します。取締役へ職務の対価として報酬債権を与えて相殺する設計では、定款又は株主総会決議(会社法361条等)に沿った報酬決定の手続を経ているかを確かめます。「有償」という呼称を用いているからといって、役員報酬規制の対象から外れると考えるのは誤りです。本人が自己資金で時価購入する取引と、会社が報酬を支給して購入に充てる取引を分け、報酬自体の課税関係や源泉徴収の要否も併せて把握します。

発行手続の全体的な流れ(募集事項の決定、割当契約、登記、原簿管理)は税制適格SOと共通する部分が多く、ストックオプション発行手続の実務で順を追って解説しています。有償SOに固有の作業としては、公正価値の算定書を用意すること、払込みの実行(又は相殺の意思表示・相殺契約の締結)を記録として残すこと、そして権利確定条件付きの設計であれば会計上の費用計上を計画に織り込むことが挙げられます。

付与時期の柔軟性と設計上の留意点

税制適格SOは、対象者を発行会社及び一定の子会社の取締役・執行役・使用人(大口株主等を除く)に限定しており、社外協力者はそのままでは対象になりません(法定の認定等を受けた社外高度人材を除く)。一方、有償SOにはこの対象者制限がないため、認定要件を満たさない外部専門家や顧問、業務委託先等にも付与できます。顧問や業務委託先へのインセンティブ設計を検討する場面では、この違いが実務上の選択肢を分けます。業務委託先への付与で検討すべき役務内容との対応関係や利益相反の論点は、ストックオプションの資本政策上の位置づけで詳しく扱っています。

信託型を選ぶ大きな動機は、付与対象者を確定する時期を後ろにずらせる点にあります。直接付与では対象者ごとに割当て等の手続を行いますが、募集事項決定の委任やストックオプション・プール制度の活用も視野に入るため、将来参画するメンバーへの対応は信託型SOに限られた仕組みというわけでもありません。信託型であれば、新株予約権をいったん信託に預けてプールしておき、その後の受益者指定日に個別の対象者を決定できるため、設立から時間が経って入社したメンバーにも交付する機会を確保できます。

ただし、信託型で税制適格を目指す場合は、受益権付与契約時の株価等を行使価額の基準とするため、初期の低い行使価額を後から入る全員にそのまま適用できるとは限りません。信託契約の設計において、受託者の権限範囲、受益者指定の客観的な基準、指定の決定記録を含め、税法上の適格要件を実際に満たしているかを確かめておかなければなりません。書類上の体裁を整えるだけで当然に適格性が認められるとは言えません。柔軟な運用が得られる一方で、信託契約書、受託者との契約、受益者指定の意思決定プロセスなど、管理すべき書類や手続が増加する点は導入前に見込んでおくべき要素です。

既発行SOの確認と事前準備

資金調達やM&Aのデューデリジェンス(DD)では、既発行のストックオプションについて、発行回ごとの条件と権利者ごとの保有・行使状況を確認します。確認対象となるのは、発行要項、割当契約書、株主総会・取締役会の決議書、新株予約権原簿という基本資料一式に加え、有償SOであれば公正価値の算定根拠資料と払込みの実行記録、信託型SOであれば信託契約書、受託者との契約書、受益者指定の記録と指定日です。

既に信託型SOを導入している会社では、国税庁Q&A公表後にどのような対応をとったかという記録も確認対象となります。自社のスキームが問3の非適格類型に当たると判断した場合、源泉所得税の追加納付や権利者への説明を行った記録が存在するか、問12の適格要件を満たすとする根拠を、契約や運用記録、必要に応じた税理士の見解等で確かめます。見解書の取得自体が適格要件になるわけではありません。この確認を後回しにすると、次回ラウンドの投資家やM&Aの買主から交渉の場で指摘を受け、手続が停滞する要因になります。

信託型や有償SOの設計を検討する際は、税理士や弁護士に最初に渡す条件表を整理しておくと、初回の打ち合わせから具体的な検討に入れます。条件表に盛り込む項目は次のとおりです。

  • 付与対象者の属性(取締役・従業員・業務委託先等の別)と想定人数
  • 想定する権利行使価額と、その基礎となる株式価値の算定方法(新株予約権自体の払込金額評価とは区別する)
  • 有償SOにおける新株予約権の公正価値評価の要否と算定の依頼予定先
  • 信託型を検討する場合の、受益者指定日を基準とした要件充足の見通し
  • 既発行ストックオプションの有無、種類、発行時期、対象者数
  • 想定する発行スケジュールと、直近の株主総会・取締役会の開催予定

あわせて、直近の資本政策表、既発行SOの発行要項一式、想定する付与候補者のリストと社内での役割、直近の決算又は仮決算に基づく純資産状況などの基礎資料をそろえておくと、条件表と突き合わせながら専門家が円滑に具体的な設計を進められます。ストックオプション設計から発行手続までの支援範囲はスタートアップ法務・資金調達支援にまとめています。

よくある質問

信託型ストックオプションは、もう使えない制度ですか?

使えないと一律に説明することはできません。国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」問3は、税制適格要件を満たさない信託型ストックオプションについて、権利行使時の経済的利益が給与所得として課税され、発行会社に源泉徴収義務が生じるという考え方を示しました。一方、同Q&Aの問12は、受託者の裁量を制限し、受益者指定日を基準とした行使期間・行使価額等の要件を満たせば、信託型ストックオプションも税制適格ストックオプションとして扱われ得ることを示しています。既存のスキームがどちらの類型に当たるかを個別に確認する必要があります。

有償ストックオプションであれば、権利行使時に課税されないと考えてよいですか?

新株予約権を適正な公正価値で購入していることが前提です。国税庁Q&A問2は、有償で取得したストックオプションについて権利行使時の値上がり益を課税しない取扱いを示していますが、これは購入価額が理論価値を反映した公正価値であることを前提としています。払込みを免除する設計や、実質的に会社が対価を肩代わりする相殺構成を用いる場合には、経済的利益が生じたとして給与課税の問題に発展する可能性があります。

信託型・有償ストックオプションを検討する際、最初に何を準備すればよいですか?

既発行のストックオプションがあればその発行要項・割当契約・決議書一式、直近の資本政策表、想定する付与対象者のリストと役割、行使価額の算定方法(財産評価基本通達の例による特例方式か、有償SOであればオプション価格算定モデルによる公正価値評価か)の方針です。これらを条件表としてまとめたうえで税理士・弁護士に渡すと、初回の打ち合わせから具体的な設計の検討に入れます。

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