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税制適格ストックオプションとは?課税の仕組みと要件の基本

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

シリーズAの準備や幹部採用の現場では、「ストックオプションを税制適格で設計したい」という相談をよく受けます。税負担を比較するときは、付与対象者と行使時期を先に決めます。契約条項と実際の運用が法定要件に合致するかも確認します。

なお、本稿は2026年9月13日時点における租税特別措置法29条の2、および国税庁の2024年11月改訂Q&A等に基づいています。記載している税率は日本国内の居住者を前提とした標準的な取扱いです。国外居住者への付与や高額所得に伴う追加の税負担など、個別の事情は税理士等と確認します。

発行要項作成前の確認事項

設計に着手する前に、次の基本事項を整理できているか確かめておきます。

  • 行使時課税と売却時課税のどちらが生じるストックオプションかの把握
  • 発行要項や割当契約のどの条項で税制適格要件を満たしているかの特定
  • 自社の設立年数や株主構成を踏まえた、対象者・行使期間・年間限度額・行使価額の各要件の確認
  • ベスティングや退職時失効といった社内設計と税制適格要件との区別

課税時期と対象所得の区分

ストックオプションを行使して株式を取得し、その株式を売却して現金化する流れを考えると、課税のタイミングは「付与時」「行使時」「株式売却時」の3つに分かれます。ここでは主に、役員や従業員に対して労務の対価として無償または有利な条件で付与され、譲渡制限が付されたストックオプションを取り上げます。この類型では付与時点で所得を認識しません。非適格ストックオプションの課税関係は、付与の対価や条件によって異なります。

このタイプのストックオプションが税制非適格である場合、権利行使時の株価と行使価額との差額は、原則として給与所得として扱われます。給与所得には総合課税が適用されるため、所得税と住民税を合わせた最高税率は、復興特別所得税を除いて55パーセントに達します。株式を現金化する前に納税資金を用意しなければならず、未上場会社のように株式の売却先が限られる局面では、手元資金の負担が重くなります。その後、取得した株式を売却した際には、売却価額から行使時の株価と譲渡費用などを控除した金額が、株式等の譲渡所得等として課税されます。また、独立した事業者との役務提供契約に基づく対価であるときは、行使時の所得が事業所得や雑所得に区分されることもあります。

一方で、適正な時価で購入した有償ストックオプションについては、税制非適格であっても権利行使時に所得を認識しない取扱いが存在するため、無償付与とは区別して扱います。有償発行の場合、株式売却時の取得費には新株予約権自体の取得価額と権利行使時の払込金額が反映されます。

これに対し、租税特別措置法29条の2の要件を満たす税制適格ストックオプションでは、権利行使時における経済的利益への課税が繰り延べられます。株式を実際に売却した段階で初めて課税され、売却価額から行使価額や譲渡費用などを差し引いた譲渡益に対して申告分離課税が適用されます。日本国内の居住者に対する基本的な税率は、所得税15パーセント、復興特別所得税0.315パーセント、住民税5パーセントを合算した20.315パーセントです。

無償付与の非適格ストックオプションと比較すると、株式の売却時点まで課税を繰り延べられる点、および給与所得に代わって株式譲渡益として課税される点に大きな違いがあります。もっとも、給与所得に適用される実際の税率は個人の総所得金額によって変動するため、税制適格になれば誰もが一律の割合で税負担を軽減できるとは限りません。

信託型ストックオプションに関しては、国税庁のQ&Aにおいて、一定の設計について権利行使時に給与所得課税を行う取扱いが示されています。その一方で、同Q&Aの問12では、所定の要件を満たす信託型について税制適格として扱う道筋も説明されています。信託型の課税関係を判断するには、信託契約の内容や受益者の指定方法を確認し、具体的な付与条件と照合します。

租税特別措置法29条の2が定める適格要件

税制適格ストックオプションとして認められるための要件は、租税特別措置法29条の2に規定されています。会社法上の決議(会社法238条2項等)に基づき、金銭の払込みを要しない無償発行の新株予約権であることが前提となり、そのうえで付与に関する契約において次の各条件を定めておく必要があります。

1. 付与対象者の範囲

通常の役員・従業員向けの付与対象は、発行会社および一定の関係会社に所属する取締役、執行役、使用人等に限定されます。ここでいう関係会社とは、発行会社が議決権のある発行済株式または出資の50パーセント超を直接または間接に保有しているなど、法令が定める基準を満たす法人を指します。また、権利者の一定の相続人も対象に含まれます。なお、監査役や会計参与は、その役職のみを理由としては取締役等の枠に含まれません。

さらに、付与決議の日における大口株主およびその特別関係者は対象から除外されます。大口株主に該当する持分基準は、未上場会社では発行済株式等の3分の1超、上場会社では10分の1超です。持分の算定方法や配偶者等を含む特別関係者の範囲もあらかじめ確認しておきます。創業者も、この持分基準や役職などに即して判定します。

雇用関係や役員関係にない外部協力者は原則として対象外ですが、中小企業等経営強化法に基づく計画認定を受けることで、一定の社外高度人材を税制適格の対象に含める制度が整備されています(2024年の制度改正により対象範囲が拡充されました)。

2. 権利行使期間の制限

権利行使を行うことができる期間は、付与決議の日から2年を経過した日から10年を経過する日までと定められています。税制適格として行使できる期間に制限があるという意味であり、これを外れる権利保有や行使が一律に禁止されるということではありません。

例外として、付与決議の日において「設立5年未満」かつ「非上場」である会社が付与する場合、権利行使期間の終期は15年を経過する日まで延長されます(2023年度税制改正)。「すべてのスタートアップで15年行使できる」と誤認せず、付与決議日時点で設立年数と非上場という双方の要件を満たしているか確かめることが大切です。

3. 年間の権利行使価額限度

同一人が1年間(暦年)に行使できる権利行使価額の合計額には上限が設けられており、原則として1,200万円です。この限度額を超える行使を行った場合、超過額だけでなく、限度額を超えることになるその回の権利行使全体が税制適格の取扱いを受けられなくなります。

2024年の改正以降は、付与決議の日に設立5年未満の会社であれば行使価額を2で除し、設立5年以上20年未満で非上場または上場後5年未満等の条件を満たす会社であれば行使価額を3で除した金額を用いて、1,200万円の上限と比較します。単一の区分のみであれば実質的な上限は2,400万円または3,600万円となりますが、複数社や複数回にわたって付与を受けている場合は、区分ごとに調整計算を行った額を個人単位で合算します。なお、1回の行使ごとに計算した除算後の金額に1円未満の端数が生じるときは切り上げます。付与契約が法改正に対応しているか確認するとともに、2024年末を期限としていた経過措置について、現在でも既存契約を遡及修正できる制度と誤解しないよう留意します。

4. 1株当たりの権利行使価額

1株当たりの権利行使価額は、付与に関する契約を締結した時点における1株当たりの価額(時価)以上で設定しなければなりません。権利行使価額を低く設定するほど付与対象者の経済的利益は膨らみますが、契約締結時の時価を下回る水準で定めた場合、その時点で税制適格の要件を満たさなくなります。

市場価格のない未上場株式については、国税庁Q&Aの問7以下に示された条件に従い、財産評価基本通達の例による特例方式を選択できます。この枠組みでは純資産価額方式等を用いますが、種類株式を発行している会社では、優先配当や残余財産分配等の権利内容を反映して普通株式の価額を算定します。直近の資金調達における優先株式の発行価額が、そのまま普通株式の評価額になるとは限りません。また、この特例方式はあくまで税制適格の行使価額要件を判定するための契約時評価に適用されるものであり、非適格ストックオプションの行使時評価等に汎用的に使える制度ではありません。

5. 新株予約権の譲渡禁止

新株予約権そのものについて、他者への譲渡を禁止する旨を契約条項に明記しなければなりません。付与を受けた役職員がストックオプションの権利形態のまま第三者へ売却することは認められません。

6. 株式の交付と保管管理

権利行使に伴う株式の交付は、会社法238条1項に定める募集事項に反しない態様で実施します。行使により取得した株式については、事前の取決めに従い、取得後直ちに証券会社等を通じた所定の振替・保管・管理信託に付すか、または発行会社自らが譲渡制限株式を権利者ごとに区分して管理する方法を選択します。後者は2024年に新たに加わった選択肢ですが、契約書に「会社で管理する」と文言を置くだけでは足りず、法令が求める記録の作成や実態としての分別管理を伴います。

7. 手続要件(誓約書と法定調書)

権利者は行使に際して、付与決議日時点で大口株主等に該当しないことなどを誓約する書面を提出し、同一年内の他の権利行使状況についても申告を行います。これとは別に、会社側には付与に関する法定調書を税務署へ提出する義務があり、原則として付与した年の翌年1月31日が提出期限とされています(休日等による期限の順延も考慮します)。権利行使時の誓約・申告と会社による調書提出は別個の手続として管理し、法定調書の提出が遅延したからといって直ちにすべての税制適格性が否定されると決めつけず、欠落した手続の内容とその法的効果を冷静に検証します。

契約条項と実運用の整合性

税制適格の要件を満たすには、発行要項や割当契約に所定の条項を盛り込むだけでなく、その契約内容に沿った権利行使や株式管理が実際に行われる必要があります。付与対象者の属性を確かめ、権利行使のたびに行使期間や年間上限額、所定の管理手続が守られているかを確認します。

税制適格ストックオプションの設計は、税務の知識だけでも、契約書の文案作成だけでも完結しません。行使期間、年間限度額、譲渡禁止、株式管理といった各要件が、発行要項や割当契約のどの条文に反映されているかを突き合わせ、将来の権利行使がその定めに即して行われるよう手順を整えておくことが大切です。契約書や発行要項の文案を確認する作業は、まさにこうした実務上の整合性を保つための工程といえます。

ベスティング・退職時失効と税制要件の区分

実務で混同されやすい点ですが、在籍期間に応じて権利を確定させるベスティングや退職に伴う失効条項は、租税特別措置法が定める税制適格の法定要件ではありません。「何年間勤務すれば権利を行使できるか」「退職時に未確定・未行使の権利をどう処理するか」は、会社が発行要項や割当契約を通じて主体的に決める設計事項です。もっとも、税制が求める2年経過後の行使期間や年間限度額、会社法上の制約は守らなければなりません。

代表的な設計例として、割当日から12か月経過後に全体の25パーセントが確定し、残る75パーセントについてその後の36か月間で毎月36分の1ずつ確定させていく「1年クリフ付き4年ベスティング」が挙げられます。また、株式上場まで原則として権利行使を制限しつつ、買収発生時には例外的に行使を認める条項を置く例もあります。ただし、契約上で行使条件を緩和したとしても、税制適格の取扱いを受けるには、「付与決議後2年の経過」や「年間1,200万円の上限(区分調整後)」も満たす必要があります。

退職時に未行使の権利を失効させるか否か、競業行為や非違行為があった際にどのような措置を講じるか、権利者死亡時に相続を認めるかといった論点も、社内の設計判断に委ねられています。一度付与した後に不利益な変更を行う場合は、変更内容に応じて、割当契約上の根拠、本人の個別同意の要否、会社法上の決議や内容変更手続を確認します。そのため、制度設計の当初から「4年間勤続して退職した人」「1年で退職した人」「買収が成立した局面」など複数のケースを具体的に想定しておくことが大切だと考えています。

応用論点と発行手続への展開

税制適格ストックオプションは、税制上の要件、会社法上の手続、そして自社の資本政策が一枚の発行要項と割当契約に集約される制度です。基本構造を把握した後は、実務上、次の2つの側面から検討を進めることになります。

第1に、実際の事案で論点となりやすい応用的な判断事項です。未上場株式の行使価額を具体的にいくらに設定できるか、税制改正が行われた際に既発行のオプションをどう取り扱うか、海外居住のメンバーに対する付与はどう整理するか、M&Aが生じた場合にどう対応するかといった課題です。これらは会社の置かれた状況によって個別の事情が大きく異なり、発行要項のわずかな条項設計の違いで法的効果が左右されます。詳細については税制適格ストックオプションの応用論点|行使価額・税制改正・海外居住者・M&Aで解説しています。

第2に、発行に至る手続の管理です。発行期日から逆算して株主総会・取締役会の決議を予定し、登記申請と税務署への法定調書の提出期限を管理します。具体的な手続の流れについてはストックオプション発行手続の実務|株主総会決議から登記・調書までで順を追って説明しています。

また、社内における配分バランスやストックオプションプールの設計については、シリーズA前にストックオプションで後悔しないためにおよび資本政策としてのストックオプション設計|プールと付与対象の考え方も参考にしてください。

ストックオプション設計のご相談

LegalAgentでは、スタートアップ法務の一環として、税制適格ストックオプションの設計、発行要項および割当契約書の文案作成、会社法上の発行手続、資本政策との整合性の検証まで、弁護士とAIが協働して一体的に確認を進める体制をとっています。

よくある質問

税制適格ストックオプションとは何ですか?

租税特別措置法上の要件を満たすことで、権利行使時には課税されず、株式売却時に譲渡所得として課税されるストックオプションです。要件を満たさない無償ストックオプションは、行使時に給与所得等として課税され得ます。

税制適格の主な要件は何ですか?

付与対象者の範囲(取締役・従業員等で一定の大口株主を除く)、無償発行であること、権利行使期間、権利行使価額が契約時の時価以上であること、年間の権利行使価額の限度額、譲渡禁止などの要件があります。

要件を満たさないとどうなりますか?

権利行使時に、その時点の株価と行使価額の差額について給与所得等として課税され得ます。株式を売却する前に納税資金が必要になるため、付与対象者の負担が大きくなりやすい点が実務上の問題です。

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