← AI法務ラボへ戻る
Insight
スタートアップ法務資金調達・投資契約M&A法務

優先株式発行の手続|定款変更・種類株主総会から登記・クロージングまで

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

シリーズAをはじめとする優先株式による資金調達では、投資契約書や株主間契約書の交渉がまとまった時点で、実務上の山場が終わったように感じられることがあります。しかし、実際にはそこから決議、書面回収、登記という一連の手続が控えており、この「決議と書類のフェーズ」が想定より重い作業になることは少なくありません。

投資契約や株主間契約の内容面での合意ができていても、それを会社法上有効な決議として成立させ、払込みを受け、登記を完了させるまでには、複数の書類を並行して準備し、関係者から署名や同意を回収する時間が必要になります。特に既存の株主が複数存在する会社や、既に他の種類株式を発行している会社では、どの決議が必要かを整理するだけでも一定の検討時間を要します。

払込期日、いわゆるクロージング日が先に決まっているケースでは、そこから逆算して、いつまでに決議書類の原案を作成し、いつまでに株主から同意を回収し、いつ登記申請を行うかを組み立てていく段取りが求められます。この段取りを誤ると、払込期日の直前になって書類が揃わない、あるいは海外投資家からの署名回収が間に合わないといった事態にもつながりかねません。

この記事では、優先株式の発行手続について、契約締結後の決議・書面・登記・クロージングの実務を、発行会社側の視点から時系列に沿って整理します。なお、以下は取締役会を設置していない非公開会社(株式の全部に譲渡制限が付されている会社)を主に想定した説明です。取締役会設置会社では、募集事項の決定の委任や機関設計が異なるため、別途の整理が必要になります。

決議設計の入口で整理しておく論点

時系列の説明に入る前に、手続設計の入口で整理しておきたい点を挙げておきます。

  • 定款変更(種類株式の内容の新設・発行可能種類株式総数の設定)の要否
  • 募集株式の募集事項の決定に係る、株主総会の特別決議の段取り
  • 既存の種類株主に損害を及ぼすおそれによる、種類株主総会の決議の要否
  • 定款上の種類株主総会を排除する定めの有無と、排除できない事項の切り分け
  • J-KISSの転換やストックオプションの発行など、同じタイミングで決議すべき他の議案の有無

クロージング日から逆算する全体の流れ

優先株式による資金調達は、一般に、タームシートの合意、デューデリジェンス、投資契約書・株主間契約書等の契約交渉という段階を経て、決議、契約締結、払込み、登記へと進みます。契約交渉がまとまった段階では実務が終盤に入ったように見えますが、決議書類の準備や株主からの同意回収には相応の時間がかかるため、払込期日を起点として逆算したスケジュールを組むことが望ましいと考えます。

具体的には、払込希望日をまず固定し、そこから登記申請に必要な日数、払込みの確認に要する日数、決議書類の回収期間、決議書類の原案作成期間を順に差し引いていく形でスケジュールを設計します。株主数が多い会社や海外投資家が含まれる案件では、署名回収だけで数日から数週間を要することもあるため、この期間を十分に見込んでおくことになります。

契約書の内容が固まっていても、決議が成立していなければ払込みを受けることはできません。契約交渉と並行して、どのような決議が必要になるかの整理を早期に始めておくことで、クロージング直前の混乱を避けやすくなります。資金調達全体の流れは種類株式(優先株式)による資金調達とは?シリーズAの契約書と手続の全体像で整理していますので、契約段階からの流れを確認したい場合はあわせてご覧ください。

必要な決議の整理

優先株式の発行にあたって必要となる決議は、大きく三つの束に分けて整理すると理解しやすいと考えます。

第一に、定款変更です。優先株式のような種類株式を新たに発行する場合、その種類株式の内容(残余財産の分配、議決権、取得請求権、取得条項等)を定款に定める必要があり、これは定款変更に該当します。あわせて、発行可能種類株式総数の設定又は変更も定款変更事項です。定款変更には株主総会の特別決議が必要です(会社法309条2項11号)。

第二に、募集事項の決定です。非公開会社が募集株式を発行する場合、募集事項の決定は株主総会の特別決議によることが原則とされています(会社法199条・309条2項5号)。

第三に、種類株主総会です。会社法322条は、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがある一定の行為を行う場合に、当該種類の株主を構成員とする種類株主総会の決議を要求しています。定款に「種類株主総会を要しない」旨の定めを置くことで排除できる事項も多く、実務上はこの排除規定が広く使われていますが、株式の種類の追加など、定款によっても排除できない類型が存在する点には注意が必要です。既に優先株式を発行している会社が2回目以降のラウンドを行う場合、普通株主・既存優先株主それぞれについてどの種類株主総会が必要になるかを整理することが、手続設計の最初の作業になります。

書面決議で回す実務

株主数が限られる非公開会社では、実際に株主総会や種類株主総会を開催する代わりに、会社法が定める決議の省略、いわゆるみなし決議の制度を利用することが多いと感じています。取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をし、当該提案につき株主全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、その提案を可決する株主総会の決議があったものとみなす制度です。

実務では、「株主総会決議省略提案書兼同意書」といった名称で、提案内容と同意欄を一体化した書面を株主数分用意し、全員から回収する方法がよく使われています。種類株主総会が必要な場合も同様に、当該種類の株主全員から同意を得る形で決議を省略することが可能です。複数の種類株式を発行している会社では、実際に、普通株式と2つの優先株式クラスそれぞれの種類株主総会を書面決議で行った例があり、クラスごとに別の書面を用意し、対応する株主から個別に回収することになります。

海外投資家が株主に含まれる場合、時差や電子署名サービスの利用状況によって、署名回収に数日を要することが珍しくありません。全株主からの同意が揃わなければ決議は成立しないため、この回収期間をあらかじめスケジュールに織り込んでおくことが大切です。

総数引受方式による契約と手続の接続

募集株式の発行手続では、本来、会社が申込みを受け、それに対して割当てを行うという個別の手続を踏むことになります。もっとも、投資契約書に総数引受契約を兼ねる旨の条項が定められている場合、この申込み・割当ての個別手続を省略できます(会社法205条)。実務上、投資契約書自体に総数引受文言を組み込む設計が広く採用されており、この場合、投資契約書の締結をもって引受けの手続が完了する形になります。

払込期日には、投資家からの払込みが着金したことを確認し、払込みがあったことを証する書面、いわゆる払込証明書を作成します。払込証明書は登記申請の添付書類となるため、着金確認のタイミングと登記申請の準備を連動させておくことになります。複数の投資家が同一の払込期日に払込みを行う設計の場合、全員分の着金が確認できてから次のステップに進む段取りです。

J-KISS・ストックオプションとの同時処理

シリーズAのクロージングでは、優先株式の発行だけでなく、既存のJ-KISSの転換や、ストックオプションの発行に関する決議が同じ株主総会に載ることが少なくありません。実際の案件でも、J-KISSの転換、ストックオプションの発行、役員選任を同じ定時株主総会でまとめて決議した例があります。

J-KISSの転換にあたっては、新株予約権の内容変更に係る同意書を投資家全員から回収する必要が生じることがあります。また、J-KISSの転換先として、シリーズAの優先株式とは別の転換用クラスを定款に新設する設計も実務上見られ、実際の案件でも、転換用クラスの新設と内容変更同意書の回収をセットで行った例があります。この場合、転換用クラスの内容決定も定款変更事項に含まれるため、シリーズAの優先株式の内容決定とあわせて議案を整理することになります。J-KISSの転換手続の詳細は、J-KISSの転換(行使)手続|シリーズAで慌てないための実務ガイドで扱っています。

ストックオプションの発行についても、募集新株予約権の発行に係る決議が必要であり、同じ株主総会にまとめて上程されることが多いと考えられます。ストックオプション発行手続の流れは、ストックオプション発行手続の実務|株主総会決議から登記・調書までで整理しています。

このように、一回のクロージングで複数の議案(定款変更、募集事項の決定、種類株主総会、J-KISS転換、ストックオプション発行、役員選任等)が同時に決議されるケースでは、議案の数が増えるほど必要な書類も比例して増えていきます。決議書類の作成に着手する前に、まず議案一覧を固定し、それぞれの議案についてどの決議(株主総会・種類株主総会)が必要かを一覧化しておくことが、後の書面作成の手戻りを防ぐうえで有効です。

2週間以内の登記申請と登録免許税

優先株式の発行により、発行済株式の総数並びに種類及び数、資本金の額に変更が生じるほか、定款変更により発行可能種類株式総数や種類株式の内容にも変更が生じます。これらはいずれも登記事項であり、効力発生日から2週間以内に変更登記を申請することになります。

資本金の額については、払込みに係る額の2分の1を超えない額を資本準備金として計上することが認められています(会社法445条)。資本金額をどう設定するかは、税務上の影響にも関わるため、税理士等とも連携しながら検討することが望ましいと考えます。

増資に係る変更登記の登録免許税は、増加した資本金の額の1000分の7とされており、これによって計算した額が3万円に満たないときは、申請1件につき3万円とされています。登記申請にあたっては、株主総会議事録、種類株主総会議事録(必要な場合)、株主リスト、総数引受契約書又はこれに相当する書面、払込証明書といった書類をひとまとまりのセットとして整えることになります。私たちも、登記手続書類はこの単位でまとめて納品しています。書類の一部でも欠けると申請が通らないため、登記書類一式をチェックリスト化してから最終確認を行う運用が実務的です。

クロージング後にやること

登記が完了した後も、いくつかの実務対応が残ります。まず、株主名簿の更新です。新たに株主となった投資家の氏名又は名称、住所、保有株式の種類と数を株主名簿に反映します。

既存の株主間契約がある場合、新たな投資家の参加に伴って、変更合意書や参加契約書による契約の巻き直しが必要になることがあります。既存投資家と新規投資家との間で権利内容の整合性を確認しながら、契約書一式を更新していく作業です。

また、次のラウンドやM&Aの場面で改めてデューデリジェンスを受けることを見据え、議事録、契約書、株主名簿等を一元的に管理できる状態にしておくことも大切です。スタートアップ法務では、資金調達のたびに書類が積み重なっていくため、クロージングごとに書類を整理し、いつでも第三者に開示できる状態を保っておくことが、将来の手続を円滑に進める土台になります。シリーズA前の法務対応全般は、シリーズAの法務DD準備でも取り上げています。

キーワード
投資契約株主総会
キーワード一覧から探す

あわせて読みたい記事

この記事と近いテーマの記事・プロンプトです。

Insight / 2026.07.05 分配合意書とは?M&A時の分配とみなし清算条項の実務 Insight / 2026.07.02 税制適格ストックオプションの応用論点|行使価額・税制改正・海外居住者・M&A Insight / 2026.06.13 チェンジ・オブ・コントロール条項レビューのチェックポイント|M&A・資本政策・取引継続の実務論点
AI法務ラボで他の記事を見る