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上場審査で見られる法務論点|実質審査基準5項目と関連当事者取引・許認可・反社排除の確認事項

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

上場審査の質問事項回答書を作成している場面で、主幹事証券や東証の審査担当者から「その取引はいつ発覚し、どのような手順で是正したか」と重ねて問われることがあります。取引を解消した事実だけを回答しても、発見から是正に至る経緯を示す資料が伴わなければ、説明としては足りません。

上場審査は、書類の有無を数える手続ではありません。事業を継続するために必要な許認可、法令を遵守するための体制、関連当事者との取引、コーポレート・ガバナンス、反社会的勢力との関係、労務・知的財産・個人情報・訴訟の状況、そして開示内容の正確性について、規程の存在だけでなく、運用の実績と説明可能性まで確認する手続です。

形式基準と実質審査の違い

上場審査は、有価証券上場規程217条に基づく形式要件と、同規程219条に基づく実質審査基準という、性質の異なる二つの基準で構成されています(日本取引所グループ「上場審査基準概要(グロース市場)」、2025年12月26日更新、2026年7月11日確認)。

形式要件は、株主数150人以上、流通株式時価総額5億円以上、事業継続年数1か年以上など、株主数や時価総額のように数値で判定できる基準です(同資料、形式要件は2023年4月1日現在、2025年12月26日更新、2026年7月11日確認)。数値基準を満たしているかどうかは、上場申請の前提として個別に確認できます。

これに対して実質審査基準は、開示の体制やガバナンスの状況など、数値だけでは判定できない定性的な基準です。日本取引所グループ「新規上場ガイドブック(グロース市場編)」2026年3月25日公表版は、実質審査基準について「上場会社として必要とされる5つの適格要件で構成されており、各々の適格要件に適合するか否かを判断する具体的な観点を『上場審査等に関するガイドライン』において定めています」と説明しています(同ガイドブック47頁)。5つの適格要件は、企業内容、リスク情報等の開示の適切性、企業経営の健全性、企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性、事業計画の合理性、その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項です(同ガイドブック48頁)。

同ガイドブックは、「申請会社の企業グループが当該基準に適合していると判断される場合であっても、上場会社としてより望ましい姿となるよう改善を要請する場合もあります」とも述べています(同47頁)。基準への適合は最終地点というより、審査の過程でも改善が求められ得るという位置付けです。

主幹事証券による引受審査、監査法人による会計監査、東証による上場審査は、根拠と目的が異なる別々の手続です。三者の役割分担はIPO準備の法務スケジュール|N-3・N-2・N-1の呼称と監査証明・運用実績の整え方で扱っています。

企業経営の健全性と関連当事者取引

実質審査基準の二番目、企業経営の健全性(規程219条1項2号)は「事業を公正かつ忠実に遂行していること」を内容とし、関連当事者その他の特定の者との間で不当な利益供与又は享受がないこと、役員の親族関係や兼職の状況が公正な職務執行や監査を損なっていないこと、親会社等を有する場合はその独立性を有することを確認します(同ガイドブック61頁)。

審査で問われるのは取引の存在の有無ではなく、その取引を継続する合理性(事業上の必要性)と、取引条件の妥当性です。同ガイドブックは「取引条件が第三者との比較において妥当と認められる場合であっても、その取引行為の存在自体に合理性(事業上の必要性)がない場合には、ここでいうところの不当な利益供与とみなす場合がある」と説明しており(同62頁)、条件面だけを整えても、取引を継続する必要性を組織的に説明できなければ、この基準への適合を示せません。

事前チェックリストの「会社関係者等との取引により、企業経営の健全性が損なわれていませんか」では、関連当事者等との取引が存在する場合、①継続する合理性(事業上の必要性)があるか、②支援目的である場合を除き取引条件が第三者取引や近隣相場などと比較して妥当か、③継続の合理性や取引条件を定期的に検討・見直しているか、④監査(監査役監査・内部監査)における確認項目としているか、⑤開示書類において適切に開示する準備を進めているか、の五点が確認されます。取引の有無にかかわらず、関連当事者等との取引の存在を適切に把握できるか、取引に対して適切に牽制する仕組みがあるかも確認対象です(同事前チェックリスト4、107頁)。

グループ会社間取引や代表者が複数社を兼務する場合の会社法上の承認手続、特別利害関係人の扱い、事後報告の要否はグループ会社間取引の利益相反|承認手続と議事録の実務で扱っています。上場審査で確認されるのは、この承認手続を経た議事録に加えて、取引を継続する合理性と条件の妥当性を組織的に検討した記録、そしてその検討を監査項目として定期的に見直している運用実績です。承認決議の議事録だけでは、継続する合理性そのものを裏付ける資料にはなりません。

コーポレート・ガバナンスと内部管理体制の有効性

実質審査基準の三番目(規程219条1項3号)は、コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が「企業の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能していること」を内容とします(同ガイドブック69頁)。確認事項は、役員の職務執行を確保する体制、経営活動を有効に行うための内部管理体制、経営活動の継続に必要な人員の確保、実態に即した会計処理基準と会計組織、法令等を遵守するための有効な体制の五点に分かれます(同上)。

機関設計については、有価証券上場規程436条の2から439条が、独立役員1名以上の確保、取締役会・監査役会等の設置、会計監査人の選任、社外取締役1名以上の確保、業務の適正を確保するための体制整備を、上場会社として遵守すべき事項に定めています(同ガイドブック69頁から70頁)。

内部管理体制の審査では、内部監査が「公正かつ独立の立場から実施可能な体制が構築できているか」が確認されます(同73頁から74頁)。内部通報制度についても、社内の窓口のほか経営陣から独立した窓口の設置状況や、通報受付、調査、是正措置、再発防止策という対応フローの整備状況、通報者保護に係る社内ルールの整備状況が確認対象になります(同75頁)。

取締役会の招集・決議・議事録の運用実務は取締役会の運営実務|招集・決議・議事録・書面決議の整え方、議事録の法定記載事項は株主総会・取締役会議事録の作り方|法定記載事項と登記・DDで見られる点で扱っています。上場審査で確認されるのは、これらの規程が存在する事実にとどまりません。招集通知の発送履歴、決議の議事録、内部監査の実施記録、内部通報の受付記録が、審査対象期間にわたって積み上がっているかどうかが問われます。

事業継続の前提となる許認可・契約

実質審査基準の五番目、その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項(規程219条1項5号)には、「主要な事業活動の前提となる事項について、その継続に支障を来す要因が発生していない状況が見られないこと」という基準が含まれます。ここでいう「主要な事業活動の前提となる事項」とは、「主要な業務又は製商品に係る許可、認可、免許若しくは登録又は販売代理店契約若しくは生産委託契約」を指します(同ガイドブック79頁)。

行政の許可・認可・免許・登録を必要とする業態や、特定の取引先との販売代理店契約・生産委託契約に大きく依存する業態では、それらが取り消されると事業活動が立ち行かなくなります。審査では、企業グループの主要な事業活動の前提となる事項の内容、許認可等の有効期間その他の期限、取消し・解約等の事由、継続に支障を来す要因が発生していない旨及び当該要因が発生した場合に事業活動に重大な影響を及ぼす旨を記載した書面の提出が求められます(同上)。東証の提出書類フォーマット(グロース市場)には、「主要な事業活動の前提となる事項について」という様式が用意されています(日本取引所グループ「提出書類フォーマット(グロース市場)」、2026年3月25日更新、2026年7月11日確認)。

許認可の期限管理は、更新手続の要否と時期を一覧化するだけでは足りません。取消し・解約事由に該当する事象が生じていないかを、契約書・許認可証の原本と突き合わせて確認する作業になります。生産委託契約や販売代理店契約への依存度が高い事業では、契約の解約条項、更新条件、独占・非独占の区分も確認対象に含まれます。

労務、知的財産、個人情報、訴訟

実質審査基準は、労務・知的財産・個人情報を独立した項目として列挙していません。これらは、企業経営の健全性や法令遵守体制の確認、事業計画の合理性における事業基盤の確認、そして開示の適切性におけるリスク情報の記載を通じて審査対象になります。

同ガイドブックがリスク情報の記載事項例として挙げるのは、「大量の個人情報を保有していることに係るリスク」(大量の個人情報を保有する必要があるビジネスモデルで、漏えいした場合に補償に伴う多額の損失が発生し得る場合など)、「重要な訴訟事件等の発生に係るリスク」(業績に重要な影響を与える訴訟事件の発生や、今後の業界環境の変化により訴訟を受ける可能性がある場合など)、「特定の製品、技術等で将来性が不明確であるものへの高い依存度に係るリスク」(特許権等を有しない技術に依存している場合など)です(同ガイドブック55頁から56頁)。これらは記載事項例であり、申請会社の事業内容に応じて過不足なく開示することが求められます。

上場審査に向けたヒアリングでは、「最近3年間及び申請期において、解決済み及び未解決の事件について、事件発生の経緯及び事件の内容等」の説明が求められ、特許・実用新案関係などビジネスモデルに影響を与えると考えられる係争事件については、弁護士や弁理士の見解を踏まえた説明が求められます(同事前チェックリスト6、112頁)。労務については未払いの割増賃金や固定残業代の運用不備の有無、知的財産については職務発明や業務委託先の成果物の権利帰属の説明可能性が、申請直前期に個別に解消すべき論点として扱われます。

反社会的勢力との関係排除

実質審査基準は、「反社会的勢力による経営活動への関与を防止するための社内体制を整備し、当該関与の防止に努めていること及びその実態が公益又は投資者保護の観点から適当と認められること」を求めています(規程219条1項5号)。

ここでいう関与は、申請会社の企業グループが直接反社会的勢力である場合に限られません。同ガイドブックは、「申請会社グループ及び関係者が資金提供その他の行為を行うことを通じて反社会的勢力の維持、運営に協力若しくは関与している場合、申請会社グループ及び関係者が意図して反社会的勢力と交流を持っている場合など、実態として反社会的勢力が申請会社の企業グループの経営活動に関与しているとき」も、上場物件として不適当と考えられると説明しています(同80頁)。確認範囲は、企業グループ本体だけでなく、役員又は役員に準ずる者、主な株主、主な取引先にまで及びます。

審査では、申請会社が作成する「反社会的勢力との関係がないことを示す確認書」等に基づいて確認が行われます(同上)。東証の提出書類フォーマット(グロース市場)には、「反社会的勢力との関係がないことを示す確認書」及び「反社会的勢力との関係がないことを示す確認書(別添 個人法人リスト)」の様式が用意されています(日本取引所グループ「提出書類フォーマット(グロース市場)」、2026年3月25日更新、2026年7月11日確認)。体制整備にあたっては、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)等を踏まえることが望まれるとされています(同ガイドブック80頁)。

確認書を提出するだけでは足りません。企業グループ及び関係者の状況を定期的に把握し、新たな関係を構築する場合に確認を行い、問題発生時の対処方法を明確にする体制そのものが、この基準の確認対象です。

問題が見つかった場合の記録

法令違反や不適切な取引が過去に発覚していたとしても、それだけで一律に上場が認められなくなるとは限りません。同ガイドブックは、法令遵守体制の基準について、「最近において法令違反を犯した場合や、法令違反の恐れがある行為を行っているような場合には、その重大性に応じて、当該違反に伴う法的瑕疵の治癒状況及び再発防止体制の整備状況について慎重に確認を行う」と説明しています(同75頁から76頁)。違反の重大性に応じた確認であり、瑕疵の治癒状況と再発防止体制の整備状況が、発生の有無と並んで確認対象になります。

この基準が前提としているのは、発見、調査、影響評価、是正、再発防止、開示判断という一連の対応を、会社が組織的に行ったかどうかという説明可能性です。関連当事者取引で条件の見直しが漏れていた事例であれば、いつ、誰が発見したか、取引条件や継続の必要性をどこまで調査したか、業績や既存の開示内容にどの程度の影響があるかを評価したか、条件変更・解消・承認手続の追完のいずれで是正したか、同種の取引が再発しないための牽制の仕組みをどう整えたか、そして「Ⅰの部」等の開示にその経緯を反映する必要があるかどうかの判断、という流れを資料で示せる状態にしておく必要があります。

この記録は、主幹事証券の引受審査、監査法人による監査、東証の上場審査のいずれからも参照される可能性があります。三者は根拠と目的が異なる別の手続であり、一つの手続への説明で他の手続の確認が終わるわけではありません。役割分担の詳細はIPO準備の法務スケジュール|N-3・N-2・N-1の呼称と監査証明・運用実績の整え方で扱っています。

審査質問に答えられる法務ファイル

上場審査のヒアリングや質問事項への回答は、論点ごとに一次資料の所在を即座に示せるかどうかで、準備の状態が測られます。翌営業日に着手できる範囲では、次の一次資料の所在を一覧化しておくと、以降の棚卸しの起点になります。

  • 関連当事者等との取引一覧と、各取引を継続する合理性・条件の妥当性を検討した資料及び承認議事録の保管場所
  • 主要な事業活動の前提となる許認可・契約の一覧と、有効期限・更新手続・取消解約事由の管理表
  • 過去3年間及び申請期における係争・紛争事件、行政指導・処分の一覧と、対応経緯を示す資料
  • 反社会的勢力との関係がないことを示す確認書の作成状況と、役員・主な株主・主な取引先の確認範囲
  • 内部通報制度の受付記録、内部監査の実施記録、法令違反が発覚した場合の是正・再発防止の記録

いずれも、規程や台帳の存在だけでなく、運用の記録として保管されているかどうかが問われる資料です。一覧化した時点で記録が薄い論点が見つかれば、そこから優先して整備に着手することになります。

よくある質問

上場審査で法令違反や不適切な取引が一つでも見つかると、その時点で上場できなくなりますか。

一律にそうとは言えないと考えられます。日本取引所グループの新規上場ガイドブックは、法令遵守体制の基準について、法令違反があった場合や恐れがある場合には、その重大性に応じて、当該違反に伴う法的瑕疵の治癒状況及び再発防止体制の整備状況を慎重に確認すると説明しています。発見、調査、影響評価、是正、再発防止、開示判断という一連の対応を組織的に行い、説明できる記録を残しているかどうかが確認対象になると考えられます。

関連当事者との取引は、取締役会や株主総会の承認決議さえ得ていれば、上場審査上問題になりませんか。

承認決議のみで足りるとは言えないと考えられます。上場審査では、取引の存在の有無ではなく、その取引を継続する合理性(事業上の必要性)と取引条件の妥当性が確認され、当該取引を監査における確認項目とし、定期的に見直しているかという運用実績も審査対象になります。会社法上の承認手続に加えて、継続する合理性と条件の妥当性を組織的に検討した記録を残しておく必要があると考えられます。

主幹事証券の引受審査を通過すれば、東証の上場審査も同様の基準で通過できますか。

同様の基準で通過できるとは言えないと考えられます。主幹事証券による引受審査、監査法人による会計監査、東証による上場審査は、それぞれ根拠と目的が異なる別の手続です。東証の実質審査基準は、有価証券上場規程219条に基づく5つの適格要件(企業内容等の開示の適切性、企業経営の健全性、コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性、事業計画の合理性、その他公益又は投資者保護の観点から必要な事項)によって独自に判断されると考えられます。

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