← AI法務ラボへ戻る
Insight
スタートアップ法務

IPOの上場審査で確認される法務論点|関連当事者取引・許認可・反社対応

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

上場審査の質問回答書を作成する場面で、主幹事証券や東証の審査担当者から「その取引はいつ発覚し、どのような手順で是正したか」と尋ねられる場面を想定します。取引を解消した結論だけを伝えても、発見から是正に至る経緯を示す資料が揃っていなければ十分な回答にはなりません。

以下では、東証の新規上場ガイドブック(グロース市場編)の2026年7月21日更新版を確認した上で解説します。

審査の対象は多岐にわたります。許認可や法令遵守の体制のほか、関連当事者取引やガバナンス、反社会的勢力との関係遮断、労務や知財や訴訟の状況、開示の正確性などが点検されます。規程の存在にとどまらず、実際の運用実績と説明可能性まで確認される点が特徴です。

形式要件と実質審査基準の違い

東証グロース市場の上場審査は、有価証券上場規程217条に基づく形式要件と、同規程219条に基づく実質審査基準という性質の異なる二つの基準で構成されています。

形式要件は株主数150人以上、流通株式時価総額5億円以上、事業継続年数1か年以上といった数値で判定する項目を含みます。これらは例示であり、監査報告書や株式の譲渡制限に関する条件なども定められています。数値条件も、各項目の算定時点や上場に伴う公募・売出しの見込みを踏まえて確認します。

これに対して実質審査基準は、数値だけでは判定できない定性的な基準です。「新規上場ガイドブック(グロース市場編)」では、実質審査基準について上場会社に求められる5つの適格要件で構成され、具体的な観点をガイドラインに定めていると説明しています(同ガイドブック47頁)。5つの要件とは、開示の適切性、企業経営の健全性、ガバナンスおよび内部管理体制の有効性、事業計画の合理性、公益または投資者保護の観点から東証が必要と認める事項です(同48頁)。

同ガイドブックは、基準に適合していると判断される場合でも、より望ましい姿となるよう改善を要請することがあると述べています(同47頁)。基準適合は固定的な終着点というよりも、審査の過程で改善を重ねていく位置付けです。なお主幹事証券の引受審査、会計監査、東証審査の役割分担はIPO準備の法務スケジュール|N-3・N-2・N-1の呼称と監査証明・運用実績の整え方で詳しく解説しています。

企業経営の健全性と関連当事者取引

実質審査基準の二番目である企業経営の健全性(規程219条1項2号)は、「事業を公正かつ忠実に遂行していること」を定めています(同ガイドブック61頁)。関連当事者との不当な利益供与や享受の有無、役員の親族関係や兼職状況、親会社等からの独立性などが確認対象となります。

審査で問われるのは取引の有無にとどまりません。取引を継続する合理性(事業上の必要性)と取引条件の妥当性が厳密に見られます。同ガイドブックは、条件が第三者比較で妥当であっても、取引を行うこと自体に合理性がなければ不当な利益供与とみなす場合があると注意を促しています(同62頁)。条件面を整えるだけでなく、なぜその取引が必要なのかを組織として説明できなければなりません。

事前チェックリスト4(107頁)では、関連当事者等との取引が存在する場合について、五つの確認項目が示されています。第一に継続の合理性、第二に取引条件の妥当性、第三に定期的な見直し、第四に監査項目への反映、第五に適切な開示準備です。会社側に有利な支援目的の取引であっても無条件に認められるわけではなく、開示が前提となります。支援者の影響力が過大になれば不当な利益享受とみなされる場合もあります。取引を漏れなく把握し、牽制する仕組みがあるかも確認されます。

会社法上の承認手続や特別利害関係人の整理はグループ会社間取引の利益相反|承認手続と議事録の実務で解説しています。上場審査では法令上の承認議事録に加え、継続の合理性と条件の妥当性を検討した証跡や、監査役監査等で定期的に見直した運用記録を揃えておく必要があります。

コーポレート・ガバナンスと内部管理体制の有効性

実質審査基準の三番目(規程219条1項3号)は、ガバナンスと管理体制が企業規模等に応じて整備され、「適切に機能していること」を求めています(同ガイドブック69頁)。確認事項は役員の職務執行体制、経営活動を支える管理体制、必要な人員の確保、実態に即した会計組織、法令遵守の有効な体制の五つです。

機関設計について有価証券上場規程436条の2から439条は、独立役員1名以上の確保(一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役)、取締役会や監査役会等の設置、会計監査人の選任を求めています。さらに社外取締役1名以上の確保やIR体制の整備も遵守事項に定められています(同69頁から70頁)。

内部監査では、公正かつ独立した立場から実施できる体制が構築できているかが問われます(同73頁から74頁)。内部通報制度については、社内窓口に加えて経営陣から独立した窓口の設置や、通報受付から是正までの対応手順、通報者保護ルールの整備状況が確認されます(同75頁)。通報実績がゼロであっても、周知や利用促進の取り組みから制度の実効性が確かめられます。

取締役会の運営実務は取締役会の運営実務|招集・決議・議事録・書面決議の整え方、議事録の法定記載事項は株主総会・取締役会議事録の作り方|法定記載事項と登記・DDで見られる点で扱っています。審査では規程の存在だけでなく、招集通知の発送控え、議事録、内部監査の実施記録、通報があった場合の受付・対応記録といった運用の実態が確認されます。

事業基盤に関わる許認可・契約と法的リスク

実質審査基準の五番目(規程219条1項5号)を具体化するガイドラインⅣ6(3)には、主要な事業活動の前提となる事項について、その継続に支障を来す要因が発生していないかを確認する基準があります。対象となるのは主要な許認可や登録、あるいは販売代理店契約や生産委託契約です(同ガイドブック79頁)。

行政の許認可や特定先との契約に依存する事業では、これらが失われると事業継続が困難になります。東証グロース市場のフォーマットには「主要な事業活動の前提となる事項について」という提出様式が用意されています。単に期限を一覧化するだけでなく、取消事由や解約事由に該当する事実がないかを契約書や許認可証の原本と突き合わせて確認します。

労務や知的財産、個人情報、訴訟については、実質審査基準に独立した項目はありません。しかし経営健全性や法令遵守体制、リスク情報の開示を通じて審査されます。同ガイドブックはリスク情報の例として、大量の個人情報保有に伴う漏えい損失リスク、重要な訴訟事件等の発生リスク、特定の技術への高い依存度リスクを挙げています(同55頁から56頁)。

ヒアリングでは過去3年間および申請期における訴訟・係争や行政指導等について経緯や内容の説明が確認されます(同事前チェックリスト6、112頁)。過去の係争があることだけで上場が否定されるわけではありません。ただし事業への影響が大きい事案は弁護士等の見解を踏まえて丁寧に説明します。未払残業代の有無や職務発明の権利帰属も、申請期までに解消しておくべき論点となります。

反社会的勢力の排除と問題発覚時の対応記録

実質審査基準では、反社会的勢力による経営活動への関与防止体制を整備し、その実態が適当と認められることが掲げられています(ガイドラインⅣ6(4))。直接的な関係だけでなく、資金提供や意図的な交流を通じて活動に関与している場合も不適当と判断されます(同ガイドブック80頁)。確認対象は企業グループ本体にとどまらず、役員およびこれに準ずる者、主な株主、主要な取引先にまで及びます。

審査では「反社会的勢力との関係がないことを示す確認書」などの提出を通じて確認が行われます。「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」等を踏まえ、定期的な調査や新規取引時の確認、有事の遮断手順を社内に定めて運用している実態が問われます。

過去に法令違反や不適切取引があった場合でも、その事実だけで直ちに上場が認められなくなるわけではありません。同ガイドブックは、重大性に応じて法的瑕疵の治癒状況と再発防止体制を慎重に確認すると説明しています(同75頁から76頁)。重大な違反については、形式的に治癒されていても審査上の重大な論点として扱われます。

実務では問題への対応プロセスが問われます。発見から調査、是正、再発防止に至る流れを組織的に行った証跡を揃えておく必要があります。いつ発見し、どのように調査や手当を行い、牽制の仕組みを整えたかを書面で説明できる状態を作ります。この記録は主幹事証券や監査法人からも参照されます。三者の役割分担はIPO準備の法務スケジュール|N-3・N-2・N-1の呼称と監査証明・運用実績の整え方で整理しています。

審査対応の一次資料と相談窓口

上場審査のヒアリングや質問回答書への対応では、一次資料の所在を即座に示せる準備が役に立ちます。以下の一次資料について社内の保管場所を整理しておくことが初動の起点となります。

  • 関連当事者等との取引一覧と、合理性・妥当性の検討資料および承認議事録
  • 主要な事業活動の前提となる許認可・契約の一覧と、有効期限・取消解約事由の管理表
  • 過去3年間および申請期における係争・紛争・行政指導の一覧と対応経緯の資料
  • 反社会的勢力との関係がないことを示す確認書の作成状況と確認対象者の範囲
  • 内部通報の周知・運用記録、内部監査の実施記録、問題発覚時の是正と再発防止の記録

規程や台帳の存在にとどまらず、実際の運用記録として保管されているかが問われます。一覧化した時点で記録が薄い項目が見つかれば、優先して整備に着手します。

LegalAgentでは、関連当事者取引の説明資料作成、許認可や契約の期限管理、反社会的勢力との関係確認、問題発覚時の是正プロセスの整理まで支援しています。上場審査に特化した支援内容はIPO支援で確認できます。準備段階全体の進め方はIPO準備の法務スケジュールで詳しく扱っています。

具体的なご相談はIPO支援のページからご連絡いただけます。自社の課題に即した法務体制の整備をお手伝いします。

よくある質問

上場審査で法令違反や不適切な取引が一つでも見つかると、その時点で上場できなくなりますか。

一律にそうとは言えないと考えられます。日本取引所グループの新規上場ガイドブックは、法令遵守体制の基準について、法令違反があった場合や恐れがある場合には、その重大性に応じて、当該違反に伴う法的瑕疵の治癒状況及び再発防止体制の整備状況を慎重に確認すると説明しています。発見、調査、影響評価、是正、再発防止、開示判断という一連の対応を組織的に行い、説明できる記録を残しているかどうかが確認対象になると考えられます。

関連当事者との取引は、取締役会や株主総会の承認決議さえ得ていれば、上場審査上問題になりませんか。

承認決議のみで足りるとは言えないと考えられます。上場審査では、取引の存在の有無ではなく、その取引を継続する合理性(事業上の必要性)と取引条件の妥当性が確認され、当該取引を監査における確認項目とし、定期的に見直しているかという運用実績も審査対象になります。会社法上の承認手続に加えて、継続する合理性と条件の妥当性を組織的に検討した記録を残しておく必要があると考えられます。

主幹事証券の引受審査を通過すれば、東証の上場審査も同様の基準で通過できますか。

同様の基準で通過できるとは言えないと考えられます。主幹事証券による引受審査、監査法人による会計監査、東証による上場審査は、それぞれ根拠と目的が異なる別の手続です。東証の実質審査基準は、有価証券上場規程219条に基づく5つの適格要件(企業内容等の開示の適切性、企業経営の健全性、コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性、事業計画の合理性、その他公益又は投資者保護の観点から必要な事項)によって独自に判断されると考えられます。

キーワード
反社条項
キーワード一覧から探す

あわせて読みたい記事

この記事と近いテーマの記事です。

Insight / 2026.08.29 予測市場の適法性|Polymarket・Kalshi、賭博罪・金融規制 Insight / 2026.07.20 ドローン事業|機体登録・特定飛行の許可・撮影時の個人情報 Insight / 2026.07.11 副業規程・リモートワーク規程の作り方|労働時間管理と制限できる場合

このテーマに関連するサービス

スタートアップ法務・資金調達支援 契約、規約、資金調達書類、ストックオプション、法務体制づくりを支援します。
AI法務ラボで他の記事を見る