スタートアップの定款・機関設計|資金調達で見直す条項と株主間契約との役割分担
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
シリーズAの投資契約交渉で、株主間契約書の事前承諾事項の欄に「取締役会の承認を要する」という条項が並んでいるのを見て、はじめて自社が取締役会を設置していないことに気づいた、という相談を受けることがあります。設立時に司法書士や行政書士のひな形をそのまま使った定款は、株主総会と取締役だけを機関として動いており、契約書が前提とする決議機関そのものが存在していないという状態です。
定款と機関設計は、法務局に提出して登記を終えれば役割を終える書類ではありません。誰がどの事項を決め、投資家がどの場面で関与し、決定の記録をどう残すかを定める、会社運営の基盤です。成長段階に見合わない過剰な機関を置くことも、意思決定の権限区分が曖昧なまま簡素にしておくことも、どちらも運営上の負担になります。
定款で決まる事項と下位規則に置く事項
会社法27条は、目的、商号、本店の所在地、設立に際して出資される財産の価額またはその最低額、発起人の氏名または名称および住所を、定款に必ず記載しなければならない絶対的記載事項として定めています。これらを欠くか、記載が違法である場合、定款全体が無効となり得ます(『定款・各種規則の作成実務〔第4版〕』3頁)。
これに対し、会社法29条は、法律の規定により定款の定めがなければ効力を生じない事項、およびその他の事項で法律の規定に違反しないものを、定款に記載または記録できると定めています。前者は相対的記載事項と呼ばれ、株式の内容についての特別の定めや基準日の定めなど、定款に置かなければその事項自体の効力が生じないものです。後者の任意的記載事項は、定時株主総会の開催月など、定款に書かなくても定款自体の有効性には影響しませんが、取扱いを明確にするために記載される事項です(同書3〜4頁)。
実務上見落とされやすいのは、定款には何でも書き込めばよいわけではないという点です。株式の取扱いのような事務的な事項や、取締役会の運営方法のような機関内部の自治規範は、定款本体ではなく株式取扱規則や取締役会規則といった下位規則に委ねる例が増えています(同書5頁)。定款は株主総会の特別決議がなければ変更できませんが、取締役会規則のような下位規則は取締役会決議で足りることが多く、細目まで定款に書き込むと、些細な変更のたびに株主総会を開く負担が生じます。何を定款に残し、何を下位規則に落とすかは、変更の頻度と、誰の承認を得て変更したいかで決める事項です。
非公開会社が選べる機関設計の型
会社法326条1項は、株式会社に1人または2人以上の取締役を置かなければならないと定め、株主総会は会社法295条1項によりすべての株式会社に必置の機関です。この2つを除けば、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会、指名委員会等は、いずれも定款の定めによって置くことができる任意の機関です(会社法326条2項)。
もっとも、会社法327条は一定の会社に機関設置を義務づけています。公開会社、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社は取締役会を置かなければならず(同条1項)、取締役会を設置した会社は、監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社を除き、原則として監査役も置かなければなりません(同条2項)。株式の譲渡制限を定款で定めている非公開会社であれば、これらの機関を選ばない限り、取締役会も監査役も置かず、取締役だけで運営する型を選ぶことができます。
取締役会を置かない会社では、定款、定款の定めに基づく取締役の互選、または株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができます(会社法349条3項)。代表取締役を定めなければ、取締役が複数いる場合は各取締役が単独で会社を代表することになるため(同条2項)、代表権の所在をどう定めるかも、機関設計とあわせて確認しておく事項です。
非公開会社かつ非大会社が選べる機関設計は、取締役のみで運営する型から、取締役会・監査役会・会計監査人まで備える型まで、10種類に及びます(『定款・各種規則の作成実務〔第4版〕』33頁)。創業直後で取締役が1人か2人の会社が取締役会設置会社の体裁だけを整えても、実際の意思決定は代表者の一存で進み、取締役会の議事録は形だけのものになりがちです。逆に、複数の共同創業者が対等な立場で意思決定に関与している会社が取締役だけで運営する型のまま資金調達に進むと、投資契約や株主間契約が前提とする決議機関が存在しないことになります。機関設計は登記のために選ぶものではなく、実際に誰が何を決めているかに合わせて選ぶ事項です。
取締役会を置くかどうかは義務と要請を分けて判断する
会社法327条1項は、公開会社、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社に取締役会の設置を義務づけていますが、非公開会社がこれらの機関を選んでいなければ、取締役会の設置義務は生じません。シリーズAで投資家が取締役会の設置や指名した取締役の受け入れを求めてくる場合、それは投資契約または株主間契約上の要請であり、会社法が課す設置義務とは別の話です。この区別を曖昧にしたまま「資金調達を受けるから取締役会を置かなければならない」と説明すると、法律上の義務であるかのように伝わり、投資家との交渉で条件を調整する余地があることを見落とします。
投資家の要請を受けて取締役会を設置するかどうかを判断する際に確認する事項は、人数、招集の方法、決議要件、監督機能、そして投資家指名取締役の位置づけです。取締役会を置けば、会社法362条2項により、業務執行の決定、取締役の職務執行の監督、代表取締役の選定・解職が取締役会の権限になり、株主総会の権限は会社法または定款に定めた事項に限定されます(会社法295条2項)。株主総会で何でも決められた状態から取締役会中心の意思決定に切り替わるため、招集手続や決議要件、議事録の作成といった運用実務が新たに発生します。この運用実務の詳細は取締役会の運営実務|招集・決議・議事録・書面決議の整え方で扱っています。
投資家指名の取締役が加わる場合は、その取締役が会社法362条4項各号に定める重要な業務執行の決定(重要な財産の処分および譲受け、多額の借財など)に関与する立場になる点も踏まえておく必要があります。取締役会の設置は、株主総会中心の運営から取締役会という合議体中心の運営への切り替えであり、投資家の要請に応じるかどうかは、その切り替えに見合う運用体制が整っているかとあわせて判断する事項です。
資金調達のたびに見直す定款条項
資金調達のラウンドが進むごとに、見直しが必要になりやすい定款条項があります。
- 発行可能株式総数(増資を見込んだ設定になっているか)
- 種類株式の内容(優先株式の残余財産分配・取得請求権等の定め)
- 株式の譲渡制限(承認機関を取締役会・株主総会のどちらにするか)
- 招集通知期間(外部株主が増えた後も定款の期間で足りるか)
- 役員の任期(10年まで伸長するかどうかの検討)
- 公告方法
このうち任期の伸長は、判断が割れやすい事項です。会社法332条2項により、非公開会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く)は、定款の定めにより取締役の任期を10年まで伸長できます。10年に伸ばせば毎年の株主総会での役員選任議案が減り、招集や議事録作成の負担が下がります。他方で、任期満了に気づかないまま放置すると重任登記懈怠として過料の対象になり得ること、任期の途中で正当な理由なく取締役を解任すると残存任期に応じた損害賠償請求を受け得ることは、取締役の任期はいつ満了するか|重任登記・辞任・解任の実務で扱った通りです。資金調達で役員構成の変更が見込まれる会社ほど、任期を安易に10年へ伸ばすと、この解任時のリスクが顕在化しやすくなります。
定款変更そのものは、株主総会の特別決議によって行います(会社法466条・309条2項11号)。発起人全員の署名または記名押印を経て公証人の認証を受ける必要があるのは、会社成立前に作成する原始定款に限られます(会社法30条1項)。成立後の定款変更に公証人の認証は不要であり、必要な手続は株主総会の特別決議と、登記事項であれば変更後の登記です。
定款・登記・株主間契約は同じ効力を持たない
定款、登記事項、株主間契約は、いずれも会社の運営ルールを記載した書面ですが、効力の及ぶ範囲が異なります。
定款は、それを作成した発起人だけでなく、会社の株主および取締役をはじめとする機関を当然に拘束する自治規範です。第三者は当然には定款に拘束されませんが、株式を取得しようとする者や会社債権者として会社と接触しようとする者との関係では、会社は定款の定めを主張できるとされています(『定款・各種規則の作成実務〔第4版〕』3頁)。
登記事項は、商業登記を通じて公示され、変更が生じた日から2週間以内に登記をしなければなりません。登記を怠った場合の過料を含む具体的な期限管理は株主総会・取締役会議事録の作り方|法定記載事項と登記・DDで見られる点で扱っている通りです。定款の定めそのものは登記されなくても効力を生じますが、発行可能株式総数や役員の氏名のように登記事項とされている事項は、登記を経て初めて第三者との関係で確定的な状態になります。
株主間契約は、これらとは性質が異なります。契約当事者となった株主と会社の間でのみ効力を持つ債権的な合意であり、契約に署名していない将来の株主や、株式を譲り受けた第三者を当然には拘束しません。事前承諾事項や情報提供義務のような株主間契約上の合意は、定款や登記に反映されない限り、契約当事者以外には主張できない取り決めにとどまります。株主間契約の内容を確実に機能させたい事項があれば、譲渡制限のように定款へ落とし込むか、新株主に契約への加入を求める条項を置くかを、契約書の作成段階で検討する必要があります。株主間契約の事前承諾事項や経営株主の義務については、株主間契約書のレビューポイント|事前承諾事項・情報提供・経営株主の義務で扱っています。
変更決議から登記までの工程
定款を変更する場合、取締役会を設置している会社であれば、まず取締役会で変更議案を決定し、株主に招集通知を発して株主総会を招集します。招集通知には、会議の目的事項に加えて議案または議案の概要を記載する必要があります。
株主総会では、定款の変更について特別決議、すなわち議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の多数による決議を経ます(会社法309条2項11号)。定款によって定足数を緩和したり、決議要件を加重したりすることも可能です。
定款変更の効力は、株主総会の決議によって発生します。変更事項のうち登記事項とされているものについては、効力発生日から2週間以内に本店所在地で登記をしなければなりません。株主総会議事録の作成、登記添付書類としての記載事項や押印の要否は、株主総会・取締役会議事録の作り方で確認できます。定款変更を伴う資金調達では、種類株式の発行や株主間契約の締結と、定款変更の株主総会決議、登記のタイミングを1つの工程として並べておくと、クロージング日程の中で手戻りが生じにくくなります。
現在の定款を読むためのチェックリスト
自社の定款を読み直す際のチェックリストは、次のとおりです。
- 発行可能株式総数は、直近の調達で必要になる募集株式数を踏まえているか
- 株式の譲渡制限の有無と、承認機関が取締役会か株主総会か
- 設置している機関(取締役会、監査役、会計参与等の有無)と、実際の意思決定の実態が一致しているか
- 取締役・監査役の任期が原則の2年か、10年まで伸長されているか
- 株主総会・取締役会の招集通知期間が定款でどこまで短縮されているか
- 公告方法をどう定めているか
このチェックリストを埋めてみて、実態と合わない条項や、投資契約・株主間契約が前提とする機関が存在しない箇所が見つかったら、翌営業日には現在の定款と直近の株主間契約書を並べて、どの条項をどちらに合わせて直すかを確認する作業から始めることになります。
よくある質問
資金調達を受ければ必ず取締役会を設置しなければなりませんか?
会社法上、非公開会社が公開会社・監査役会設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社のいずれにも当たらなければ、取締役会の設置義務はありません(会社法327条1項)。投資家が株主間契約で取締役会の設置や指名取締役の受け入れを求めることがあるとしても、それは契約上の要請であり、会社法が課す設置義務とは別の話です。設置するかどうかは、投資家の要請と自社の運用体制の両方を踏まえて判断する事項です。
定款を変更するたびに公証人の認証が必要ですか?
必要ありません。公証人の認証が必要なのは、会社成立前に作成する原始定款に限られます(会社法30条1項)。会社成立後の定款変更は、株主総会の特別決議によって行い(会社法466条・309条2項11号)、登記事項であれば変更後に登記をします。
取締役の任期を10年に伸ばすことにデメリットはありますか?
非公開会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く)は、定款により取締役の任期を10年まで伸長できます(会社法332条2項)。ただし、任期満了に気づかず放置すると重任登記懈怠として過料の対象になり得ること、任期の途中で正当な理由なく解任すると残存任期に応じた損害賠償請求を受け得ることは、伸長を判断する前に踏まえておく事項です。