優先株式の内容設計|残余財産優先分配・転換・ダウンラウンド調整
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
シリーズAなど種類株式を用いた資金調達では、投資契約書や株主間契約書とともに、「種類株式の内容」と題された定款別紙のドラフトが投資家側から提示されるのが通例です。この書面は投資契約の添付資料にとどまらず、定款変更の議案として株主総会で承認を受け、発行する株式の内容などの登記につながる資料です。
契約書であれば原則として合意した当事者間を拘束するにとどまりますが、定款で定める種類株式の内容は、会社の株主となるすべての者に対して対世的な効力を持ちます。次のラウンドで参加する投資家もこの定款の定めに拘束されますし、株式を譲り受けた第三者にもそのまま及びます。そのため、種類株式の内容のドラフトを確認する際には、目の前の投資家との関係だけでなく、将来の資本政策全体への波及を見据えた視点が欠かせません。
発行会社や創業者の視点からこのドラフトを読むと、残余財産の優先分配、普通株式への転換、ダウンラウンド時の調整、上場時の取得条項など、聞き慣れない専門用語が並んでおり、どこまで交渉すべきか判断に迷うことも多いはずです。ここでは、定款別紙に含まれる主要な条項について、法的な位置づけと実務上の確認ポイントを見ていきます。なお、資金調達の全体像や契約書間の役割分担については、種類株式(優先株式)による資金調達とは?シリーズAの契約書と手続の全体像で扱っています。
種類株式の設計における主要な確認項目
各条項の詳細に入る前に、定款別紙全体の設計としてまず確認しておきたい骨格を挙げます。
- 残余財産優先分配における倍率と参加型・非参加型の区分
- 複数クラスの優先株式間における分配順位と按分計算の基準
- ダウンラウンド調整における加重平均方式(ブロードベース・ナローベース)と適用除外の範囲
- 上場時における普通株式への取得条項および転換時期の条件
- 会社法322条に基づく種類株主総会決議の定款排除の範囲
種類株式の定款自治と登記の効力
種類株式の内容は、会社法108条に基づいて定款で定めます。優先株式を発行する場合、発行可能種類株式総数を定めるとともに、残余財産の分配、株主総会での議決権、取得請求権や取得条項といった、自社が採用する具体的な権利内容を定款に盛り込むことになります。定款に規定し得るすべての権利をもれなく盛り込む義務はなく、合意された権利設計に応じて取捨選択されます。
投資契約の締結に際しては、これらの事項を定めた定款変更議案が株主総会に上程され、可決された内容が登記されます。したがって、投資家から送られてくるドラフトは、契約交渉の対象であると同時に、定款変更議案の別紙としても機能しています。
この点が、株主間契約上の合意と種類株式の内容との大きな違いです。株主間契約に基づく義務付けは当事者間の債権関係にとどまりますが、種類株式の内容は定款で定められ、登記されます。その種類の株式を将来取得する株主も、定められた権利内容を前提に株主となります。次回以降のラウンドで新たな投資家を迎える際にも、既存の定款規定を前提に条件が組み立てられるため、初回の設計がその後の資本政策の土台となる点を意識して確認を進めます。
残余財産優先分配における倍率と参加方式
種類株式の内容の中で、経済的な影響が大きい条項の一つが残余財産の優先分配です。会社が解散して残余財産を分配する際、優先株主は普通株主に先立って、あらかじめ定めた優先分配額を受領できる仕組みです。
この残余財産は、公租公課や債権者への弁済を終えた後に残った財産を指します。仮に残余財産が十分に存在しなければ優先株主であっても満額の分配を受けられないため、優先分配額の倍率が1倍と定められていても、投資元本の払い戻しを保証する定めとは異なります。
優先分配額は、優先株式1株あたりの払込金額に所定の倍率を乗じて算出されます。日本のスタートアップ実務では1倍が標準的な水準として用いられることが多く、倍率が1倍を超える定めは投資家に有利な条件となるため、まずは1倍にとどまっているかを確認します。
あわせて、参加型か非参加型かの区分も大きな論点です。参加型は、優先株主がまず優先分配額を受け取った後、なお残余財産があれば普通株主とともに残りの財産の分配にもあずかれる設計です。これに対して非参加型は、優先分配額を受領した後は追加の分配を受けない設計であり、優先分配額を受け取るか、普通株式に転換して分配を受けるか、又は契約所定のみなし転換による金額を選ぶ設計があります。実際にどの方法を使えるかは、定款と分配合意の内容を確認します。優先分配額と普通株式としての分配を重ねて受け取ることはありません。
経済産業省の『我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項(増補版)』(2025年9月)においても、国内実務で1倍・参加型が多く見られる傾向が報告されています。もっとも同留意事項では、参加型を当然の前提とする慣行を見直し、Exit時の想定企業価値や評価額の水準に応じて、非参加型や分配額に上限を設けるキャップ付き参加型の採用を検討することも提唱されています。参加型か否かは当事者間で交渉して決める事項であり、後続ラウンドの投資条件にも影響を与える要素です。
複数のラウンドを経て異なるクラスの優先株式が存在する場合には、クラス間の優先順位や按分方法も確認します。例えば新旧クラスを同順位とし、残余財産が不足する場合には各クラスの優先分配額の比率で按分する設計にすれば、投資家間の公平性を保ちやすくなります。なお、会社の清算時だけでなくM&Aの売却代金の分配にも優先分配の考え方を及ぼす仕組みについては、分配合意書とは?M&A時の分配とみなし清算条項の実務で扱っています。
取得請求権とダウンラウンド調整の算式
優先株式には、優先株主側の請求により普通株式を対価として取得することを求める権利(取得請求権、会社法166条・167条)が付されるのが一般的です。ただし、いつでも無条件に請求できると一律に決まっているわけではなく、請求可能な期間や条件は定款の定めに従うため、権利行使期間の定めを確認します。
転換比率は、優先株式の払込金額を定款に定める取得価額で除して算出されます。当初は1対1、すなわち優先株式1株につき普通株式1株が交付される比率に設定される例が多いですが、これは取得対価の基準額と取得価額が同額に設定されている結果です。
この取得価額は、ダウンラウンド調整によって引き下げられることがあります。優先株式の取得価額を下回る価額で新株等を発行した場合に、条項に従って既存の優先株式の取得価額を引き下げる仕組みです。新株予約権等については、権利自体の発行価額だけと比べるのではなく、目的株式数や行使価額を使って、条項所定の比較対象となる価額を計算します。取得価額が引き下げられると、普通株式への転換時に交付される株式数が増加し、既存投資家の持分希薄化が緩和されます。
調整方法としては、新規発行価額まで一気に取得価額を切り下げるフルラチェット方式と、発行済株式数や発行価額を織り込んで計算する加重平均方式があります。加重平均方式はフルラチェット方式に比べて発行会社側に配慮した設計です。加重平均方式の中にも、算式の分子と分母の双方に含める基礎株式数に潜在株式まで広く含めるブロードベースと、算入範囲を限定するナローベースがあります。他の条件が同じであれば、基礎株式数を広く取るブロードベースの方が取得価額の引き下げが緩やかになり、発行会社・普通株主に有利です。ナローベースは投資家側に有利に働きますが、実務上提示される例も見られます。無条件に受け入れることを避け、自社の資本政策への影響を踏まえて検討します。
ダウンラウンド調整には、実務上の例外規定が置かれるのが一般的です。代表的なものとして、優先株主の一定割合(多数投資者など)が同意した場合の適用免除や、ストックオプション等の潜在株式が一定割合(完全希薄化後株式数の10%など)以内にとどまる場合の除外枠があります。たとえば行使価額1円のストックオプションを発行する場合も、その発行が除外条件に入るかを確認します。これらの例外は、個別の定款や契約で設ける条件です。除外枠が発行済みの潜在株式を指すのか未発行のプール枠まで含むのか、またどの時点の発行済株式数を基準とするのかを条項に即して確認します。
上場時の取得条項と手続上の実務調整
種類株式の内容には、株式上場に際して会社側が優先株式を取得し、対価として普通株式を交付する取得条項(会社法108条1項6号・2項6号)が置かれる例が多く見られます。上場時に発行済みの優先株式をすべて普通株式へと一本化するための規定です。
従来の実務では上場申請の前後に普通株式へ転換する運用が多く見られましたが、その時期に転換することが法律や東京証券取引所の上場審査上の一律の義務とされているわけではありません。経済産業省の2025年9月増補版でも示されているとおり、上場日当日に転換する方法も上場審査や開示規則上許容されています。
ただし、上場日に転換する設計を採用する場合、定款上の取得事由の発生条件や取締役会決議の時期、開示書類における転換時期や希薄化リスクの記載について、主幹事証券会社、証券取引所、財務局、証券保管振替機構(保振)、株主名簿管理人との綿密な調整を要します。特に保振の口座への新規記録が上場日より後になる実務上の可能性も考慮に入れる必要があります。また、万一上場が中止された場合に優先株式へ戻す手続も自動的に効力が復帰するわけではないため、事前の取り決めや決議手続が必要です。
したがって、上場時の取得条項は標準的な規定だから内容を争う実益に乏しいと決めつけず、転換時期の柔軟性や上場中止時の手続を含めて条件を検討する姿勢が大切です。
種類株主総会の決議要件と交渉の視点
種類株式を発行すると、会社法322条1項等に基づき、ある種類の株主に損害を及ぼすおそれがある一定の行為を行う際に、種類株主総会の決議を経る必要があります。しかし、機動的な意思決定を維持するため、定款において種類株主総会の決議を要しない旨を定め(会社法322条2項)、投資家の意向確認は株主間契約の事前承諾事項に集約する設計が実務上広く用いられています。株主間契約における事前承諾事項の設計は、株主間契約書のレビューポイント|事前承諾事項・情報提供・経営株主の義務で詳しく扱っています。
もっとも、会社法322条3項により、株式の種類の追加、株式の内容の変更、発行可能株式総数や発行可能種類株式総数の増加に関する定款変更(単元株式数に関するものを除く)については、損害を及ぼすおそれがあり、かつ議決権を有する種類株主が存在する限り、定款の定めをもってしても種類株主総会決議を排除できません。また、募集株式の発行における種類株主総会(会社法199条4項)など別の制度による制約も存在します。定款の文言上「種類株主総会を要しない」と書かれていても、すべての決議を省略できるわけではない点を理解しておきます。
各条項を検討する際、残余財産優先分配の倍率が1倍を超えていないか、参加型か非参加型かという点は経済的な影響が大きいため、優先して確認します。ダウンラウンド調整の方式についても、ナローベースが提示された場合にはブロードベースへの変更を交渉する余地があります。ストックオプションの除外枠についても、今後の採用計画に見合っているかを点検します。条項が経営判断として持つ意味については、優先株式の投資契約で、創業者が経営判断として見るべき条項でも触れています。
LegalAgentでは、定款別紙「種類株式の内容」について、条項ごとの確認にとどまらず、将来のラウンドや資本政策全体への影響を見据えた助言を行っています。分配倍率の設計やダウンラウンド調整の方式など、投資家との協議が必要な論点についても支援しています。
よくある質問
残余財産優先分配の参加型と非参加型はどう違いますか?
非参加型は、優先分配を受けるか普通株式と同順位で分配を受けるかを選択する設計、参加型は優先分配を受けたうえで残りの分配にも加わる設計です。参加型は投資家に有利で、その分、創業者や普通株主の取り分が小さくなります。
ダウンラウンド調整(希薄化防止条項)とは何ですか?
前回より低い評価額で追加調達した場合に、既存優先株主の転換価額を調整して希薄化を緩和する条項です。ブロードベース加重平均などの調整方式があり、方式の選択によって創業者への影響が大きく変わります。
上場するとき優先株式はどうなりますか?
日本では上場前に優先株式を普通株式へ転換するのが通常であり、そのための取得条項や転換手続が種類株式の内容にあらかじめ定められます。