取締役の任期はいつ満了するか|重任登記・辞任・解任の実務
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
自社の取締役の任期がいつ満了するか、この場で即座に答えられるでしょうか。設立時に司法書士や行政書士のひな形どおりに定款を作った会社では、この問いに答えられないことが珍しくありません。任期満了後の重任は登記の対象であり、満了に気づかず放置すると、重任登記の懈怠という形で表面化します。
任期2年の原則と非公開会社が選べる伸長
会社法上、取締役の任期は、原則として、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされています(会社法332条1項)。ただし、定款又は株主総会決議によって短縮することはできます。多くの中小企業は3月決算や12月決算など事業年度を1年で区切っているため、実務上は「2期分の定時株主総会が終わるまで」が任期の目安になります。
この原則には、非公開会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く)のための例外があります。定款で定めることにより、任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長できます(同条2項)。株式の譲渡制限を定款に置いている非公開会社であれば、この伸長を利用できる立場にあります。
伸長するかどうかは、会社の状況によって判断が分かれます。役員構成が固定的で、株主総会を毎年開いて役員を選び直す事務負担を減らしたい会社であれば、10年への伸長は選択肢になります。一方で、資金調達を予定していたり、役員構成の変更を機動的に行いたい会社であれば、2年のままにしておく方が、株主総会での信任を定期的に得る機会として機能します。設立時のひな形をそのまま使った会社では、この伸長規定が入っているかどうかを定款で確認する必要があります。伸長されていれば重任登記の頻度は下がりますが、逆に「10年に一度」という低頻度ゆえに満了自体を忘れやすくなる面もあります。
気づかないまま過ぎる任期満了と重任登記の懈怠
取締役の任期が満了しても、株主総会で同じ人物を再任すれば、取締役としての地位は連続します。この再任の登記を重任登記と呼びます。ここでの落とし穴は、任期満了の事実そのものに気づかず、株主総会での再任決議を取らないまま期間が過ぎてしまうことです。
会社の登記事項に変更が生じたときは、2週間以内に、その本店の所在地において変更の登記をしなければなりません(会社法915条1項)。取締役の重任は登記事項の変更にあたるため、株主総会で再任を決議した日から2週間以内に登記申請が必要になります。この期間内に登記をすることを怠ったときは、100万円以下の過料に処せられます(会社法976条1号)。
過料は、登記懈怠に気づいた法務局から裁判所に通知され、裁判所が過料決定を行う形で発生します。設立時に定款をひな形のまま作り、その後の役員変更を意識してこなかった会社ほど、この通知を受け取って初めて任期満了に気づくという事態に陥りやすくなります。10年に伸長した非公開会社であっても、満了日を社内で管理していなければ同じ問題が起きます。任期満了日をカレンダーや株主総会運営のスケジュールに組み込み、満了の数か月前から再任の株主総会決議を準備しておくことが、過料を避ける実務的な対応になります。
辞任という一存の手続とその後始末
取締役と会社との関係は委任に関する規定に従うため(会社法330条)、取締役は委任の一般原則により、いつでも辞任することができます(民法651条1項)。辞任に会社の承諾や株主総会の決議は不要で、取締役本人の意思表示によって効力が生じます。ただし、会社に不利な時期に辞任したときは、やむを得ない事由がない限り、辞任した取締役が損害を賠償しなければならない場合があります(民法651条2項)。
辞任した場合も、登記事項の変更にあたるため、辞任によって欠員が生じないときは辞任の効力発生日から2週間以内に変更登記が必要になります。辞任によって法令又は定款上の員数を欠くときは、後任取締役の就任まで権利義務取締役の状態が続きます(会社法346条1項、915条1項)。重任登記と同様、この期限を守らなければ100万円以下の過料の対象になります(会社法976条1号)。
ここで見落としやすいのが、辞任によって取締役の員数が法令または定款で定めた人数を欠くことになる場合です。この場合、辞任した取締役は、新たに選任された取締役が就任するまで、なお取締役としての権利義務を有します(会社法346条1項)。いわゆる権利義務取締役の状態です。本人が「辞めた」と認識していても、後任が決まるまでは取締役としての義務を負い続けるため、辞任の意思表示だけで関与を終えられるとは限りません。取締役が1名または2名の小規模な会社では、辞任者が出るたびにこの状態が生じやすく、後任者の選任を先送りにすると、権利義務取締役の状態が長期化します。
解任という株主総会の権限と正当な理由のない解任の代償
役員は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができます(会社法339条1項)。取締役の解任は、会社側の意思で任期の途中でも行える点で、辞任とは逆の場面にあたります。
もっとも、解任された取締役は、その解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(会社法339条2項)。正当な理由がない解任は自由に行える一方で、金銭面の代償を伴う可能性があるという構造です。損害の内容としては、解任がなければ残存任期中に得られたはずの報酬相当額が問題になります。任期を2年のまま据え置いている会社より、非公開会社として10年に伸長している会社の方が、任期途中の解任に伴う損害賠償額が大きくなりやすい点は、伸長の可否を検討する際に踏まえておく事項です。
解任の決議を検討する場合は、解任理由が正当な理由に当たるといえる客観的な事情を、決議前の時点で整理しておく必要があります。あわせて、解任によって取締役の員数を欠くことにならないか、欠く場合には後任候補をどのタイミングで選任するかを、決議の前に決めておく必要があります。解任は辞任と異なり会社側が主導する手続であるため、正当な理由の有無について社内で見解が割れる場合には、決議の前に弁護士へ相談した方がよい段階だといえます。
登記懈怠を防ぐための管理
任期・辞任・解任のいずれの場面でも、共通する実務上の要点は同じです。役員の異動が生じた日から2週間という期限を起点に、いつまでに何をすべきかを逆算して管理することです。
具体的には、次の3点を押さえておくと管理がしやすくなります。
- 定款に記載された取締役の任期(2年か、非公開会社として伸長した期間か)の確認と、各取締役の任期満了日の一覧化
- 任期満了、辞任、解任のいずれが生じても、変更が生じた日から2週間以内に変更登記を申請する社内運用の共有。辞任により員数を欠く場合は、後任取締役の就任時期もあわせて管理する
- 辞任によって取締役が法定または定款所定の員数を欠く場合に生じる権利義務取締役の状態と、解任によって員数を欠く場合の後任候補の選任時期の事前検討
定款をひな形のまま使い続けている会社ほど、これらの管理が属人的になりがちです。役員変更のたびに司法書士へ都度依頼する運用でも登記自体は完了しますが、任期満了に気づく仕組みそのものは、会社の内部に置いておく必要があります。
任期管理を仕組みにするための支援
役員の任期管理や重任登記の運用は、コーポレートガバナンスの一部として、株主総会の運営や社内規程の整備とあわせて確認すべき事項です。定款の任期規定の見直しや取締役会・株主総会の運営体制についてはコーポレートガバナンスのページで支援内容をご案内しています。役員変更のたびに都度対応する体制から、任期管理を含めて継続的に法務を任せられる体制に移行したい場合には、法務アウトソーシングもあわせてご確認ください。改選時期と総会準備の関係ははじめての定時株主総会、改選後の報酬決議は役員報酬の決め方で扱っています。創業期の定款設計との関連では創業者間契約は、仲が良いときにしか作れない、資金調達前の法務体制の見直しではシリーズA前に見直したい法務チェックリストでも関連する論点を扱っています。