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スタートアップ法務

シリーズA前に見直したい法務チェックリスト

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

シリーズAの資金調達は、単に投資契約を締結して資金が入るイベントではありません。現場では事業計画、資本政策、株主構成をはじめ、会社の基礎体力にあたる項目が一気に見られるタイミングになります。創業期からシリーズAまでの法務全体をどの順番で整えるべきかは、スタートアップ法務とは?シードからシリーズAまでに必要な法務の全体像で地図として整理しています。

シード期は、スピードを優先して走ることが多いです。プロダクトがまだ固まっていない段階で、契約や規程を最初から大企業のように整えることは、あまり現実的とはいえません。もっとも、シリーズAに進む段階では、「後で考えます」では済みにくい論点が増えてきます。投資家は、事業の成長可能性だけでなく、会社がこの先スケールしていくための土台があるかを見ています。

そこで、シリーズA前に見直しておきたい法務論点を、実務目線でまとめます。ここでいうチェックリストは、単に「書類があるか」「条項が入っているか」を確かめるだけのものにとどまりません。経営陣が、どのリスクを取るのか、どのリスクは今のうちに直すのか、投資家から聞かれたときにどう説明するのかを決めるための材料だと考えています。

シリーズA前後の会社では、まだ法務専任者を固定費で採用するほどの案件量ではない一方で、経営判断に近い法務論点は急に増えます。この段階では、外部弁護士を単発の書類レビュアーとして使うより、内部法務部員のように事業計画や契約、株主対応まで横断して見てもらうほうが、実務上の効果は大きいと考えられます。切り口は、資本政策・契約関係、知的財産、利用規約・プライバシーポリシー、株主対応の五つです。

資本政策は「今回のラウンド」だけで見ない

シリーズA前にまず確認すべきなのは、資本政策です。創業者の持株比率、既存投資家の比率、ストックオプションプール、今回の発行株式数、次回ラウンド後の希薄化までを一枚で見られる状態にしておきたいところです。

現場でよくあるのは、「今回のバリュエーションでいくら調達できるか」だけを見てしまい、その後の資金調達や出口の場面まで見たときに、創業者やキーメンバーのインセンティブが弱くなってしまうケースです。また、過去の投資契約に拒否権や優先引受権などの条件が入っている場合、新しい投資家との条件調整にも影響します。シリーズAでは、資本政策と契約条件を切り離さず、この会社を今後どう伸ばすのかという経営設計として一体で見ることになります。

投資契約と株主間契約が決める経営の自由度

投資契約や株主間契約は、条項ごとの有利不利だけを見ても、実務上はあまり役に立ちません。見るべきは、会社が資金調達後にどの程度自由に経営できるかです。

たとえば、重要事項の事前承認条項が広すぎると、採用や新規事業への投資など、日々の意思決定のたびに投資家の承認が必要になる可能性があります。もちろん、投資家が一定の重要事項について関与すること自体は自然です。問題は、会社のステージや投資家との関係性に比べて、承認事項が過剰に広くなっていないかです。

また、創業者の専念義務や競業避止義務、退任時の株式買取条項なども、将来の経営判断に大きく影響します。シリーズAの契約は、締結時点では「これくらいなら問題ない」と見えることがあります。しかし、数年後の次回調達や事業ピボット、M&A検討の場面で制約として表面化する条項も多いため、少し先の場面を想像しながら確認しておきたいところです。

知的財産と業務委託契約は、後から直しにくい

スタートアップの価値の中心は、プロダクトや技術、データなどにあります。そのため、知的財産の帰属が曖昧なままシリーズAに進むと、デューデリジェンスで説明に時間がかかることがあります。

特に、創業初期に外部エンジニア、デザイナー、副業メンバー、業務委託先が関与している場合、その成果物の権利が会社に移転しているかを確認しておきたいところです。「口頭では会社のものという認識でした」という説明は、投資家や買収候補先にとっては不十分に見える可能性があります。業務委託契約書、秘密保持契約書、職務発明規程、著作権譲渡条項などを確認し、必要に応じて追加合意を取っておくことが望ましいと考えます。ここは後から直そうとすると、相手方と連絡が取れない、条件交渉が発生するなど、問題が起きやすい領域です。

利用規約・プライバシーポリシーは事業実態と合わせる

シリーズA前後では、ユーザー数や取引先、利用データの範囲などが一気に増えることがあります。そのときに、利用規約やプライバシーポリシーが初期のまま残っていると、実際のサービス内容と書面がずれている可能性があります。

具体的には、取得している個人情報の種類や利用目的、生成AIの利用に関する記載などは、事業の変化に伴って更新が必要になりやすい項目です。利用規約も同様で、禁止事項や免責、損害賠償の定めなどが、現在のビジネスモデルに合っているかを見ておきたいところです。法務書面は、作った時点では正しくても、事業が伸びることで古くなります。シリーズA前は、事業実態と法務書面のずれを見直す良いタイミングです。

株主対応と社内決議は、説明できる形で残す

シリーズAのデューデリジェンスでは、株主名簿や過去の株式発行、株主総会議事録、投資契約などが見られます。この領域では、書類が存在するかだけでなく、なぜその発行をしたのか、誰にどの条件で割り当てたのかを説明できることが大切になります。

たとえば、創業初期の資金調達で簡易な合意書しか残っていない場合、退職したメンバーとの株式の取扱いが曖昧な場合、ストックオプションの決議と契約書の内容がずれている場合には、投資家から追加質問を受ける可能性があります。このとき、法務の価値は、問題点の列挙にとどまりません。すぐに補正すべきもの、次回ラウンドまでに対応すれば足りるもの、投資家への説明で受け止めてもらうものを分け、経営陣が判断できる状態にすることだと考えています。

実務で見ている資料と条項

シリーズA前の法務確認では、投資契約書だけを見ても足りません。実務では、資本政策表や株主名簿、既存の投資契約、主要取引先との契約書などを横断して見ます。

投資契約書で特に確認するのは、優先株式の内容やみなし清算条項、事前承諾事項、表明保証などです。株主間契約では、株式譲渡制限や先買権、ドラッグアロングなどを確認します。ここで大事なのは、「投資家にとって一般的な条項か」にとどまりません。その会社の事業計画、採用計画、次回ラウンド、企業買収・合併等の可能性を見たときに、経営の自由度を不必要に狭めないかです。

事前承諾事項に「重要な契約の締結」が広く入っている場合、金額基準や事業への影響度を入れないと、日常的な営業契約まで承認対象に見えてしまうことがあります。借入や子会社設立、役員報酬なども同じです。どこから投資家承認にするのか、どこまでは経営陣で判断できるのかを、条文上も運用上も見ておくことが大切です。

外部弁護士が内部法務部員のように入る場合、このような資料をまとめて確認し、「今回直すべき条項」「受け入れてよい条項」「次回ラウンドまでに整えるべき事項」を分けて返すことが望ましいと考えます。単に契約書に赤字を入れるだけでなく、経営陣が投資家との交渉で使えるメモまで作って初めて、シリーズA法務として役に立ちます。

法務は事業スピードを止めない形で整える

シリーズA前の法務対応で大切なのは、重要な論点を一度に整え切ろうとすることではなく、優先順位を付けることです。限られた時間の中で、投資家から見て問題になりやすい部分、後から直すコストが高い部分、経営判断に影響する部分から優先順位を付けることです。

LegalAgentでは、スタートアップの資金調達や投資契約、ストックオプションなどについて、AIと弁護士が協働しながら、スピード感を持って確認する体制を作っています。AIは、論点抽出、契約や資料の棚卸し、修正文案のたたき台作成を速くするために使います。他方で、どのリスクを会社として受け入れるのか、投資家にどう説明するのか、契約交渉でどこを譲りどこを残すのかは、弁護士が経営陣と一緒に判断すべき領域だと考えています。

法務専任者を採用する前の段階でも、外部弁護士を継続的に使えば、必要なときに必要な分だけ法務機能を厚くすることが可能になります。固定費として管理部門を先に大きくするのではなく、事業フェーズや案件量に応じて変動費として法務を使う発想は、シリーズA前後の会社に合いやすいと考えられます。資金調達直前は投資契約と株主対応を厚めに見て、調達後は採用拡大に合わせてストックオプションと労務を見直し、次回ラウンドが見えてきたらデューデリジェンス資料の棚卸しを進める、といった使い方です。会社の成長段階に合わせて法務の重点を動かすことが、限られた予算の中では現実的です。

多くの案件では、1営業日で一次回答を行う形を基本としており、固定金額で対応できる業務もあります。シリーズA前に、どこから手を付けるべきか分からない場合には、まず既存の資本政策や主要契約、利用規約を見せていただければ、優先順位を一緒に検討できます。

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