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Insight

創業者間契約は、仲が良いときにしか作れない

こんにちは!LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

スタートアップの法務では、資金調達契約、ストックオプション、利用規約、プライバシーポリシー、業務委託契約、秘密保持契約など、外から見えやすい契約に目が向きやすいと感じています。

もちろん、これらはいずれも重要です。特にシリーズAに向かう会社では、投資契約、株主間契約、種類株式の設計、知的財産の帰属、主要取引先との契約、個人情報の取扱いなど、投資家から見られる法務論点が一気に増えます。

ただ、私が創業初期の会社を見ていて、かなり早い段階で向き合った方がよいと感じているものがあります。

それが、創業者間契約です。

創業者間契約というと、共同創業者同士が揉めたときのための契約、という印象を持たれることがあります。しかし、実務上は、揉めた後に作る契約ではありません。むしろ、仲が良く、同じ方向を向いていて、まだ相手のことを信頼できている時期にしか、現実的な内容で作りにくい契約だと考えています。

創業者間契約で扱う論点は、株式の帰属、退任時の株式処理、譲渡制限、一定の場合の強制売却、競業避止、秘密保持、表明保証、意思決定、役割分担などです。これらは、会社が大きくなる前は「そこまで細かく決めなくても大丈夫」と思われがちです。

しかし、資金調達の場面では、投資家は「誰がどれだけ株式を持っているのか」だけを見ているわけではありません。その株式が、今後も会社の成長にコミットする人の手元にあるのか。創業者が退任した場合に、会社の支配やインセンティブ設計に大きな歪みが残らないか。会社の重要な意思決定が、個人間の関係悪化によって止まらないか。こうした点も、かなり重要な確認事項になると考えられます。

この記事では、創業者間契約を単なる条項集としてではなく、創業初期の法務体制の一部として、なぜ資金調達前に整えておくべきなのかを書きたいと思います。

創業者間契約は、関係が悪くなってからでは作りにくい

創業者間契約の難しさは、契約書の文言そのものよりも、話し合うタイミングにあります。

共同創業者同士の関係が良いときは、「もし一人が辞めたらどうするか」「株式を買い戻すべきか」「競業する事業を始めた場合にどう扱うか」といった話は、少し言い出しにくいことがあります。相手を疑っているように見えるのではないか、関係が悪くなるのではないか、と感じることもあると思います。

しかし、関係が悪くなった後は、同じ話がさらに難しくなります。

たとえば、創業者の一人が会社を離れることになった場面を考えます。その人がすでに相当割合の株式を持っている場合、会社に残る創業者としては、今後の事業に関与しない人が大きな株式を持ち続けることに違和感を持つことがあります。一方で、退任する創業者としては、自分が初期にリスクを取って会社を立ち上げた以上、株式を持ち続けるのは当然だと考えるかもしれません。

この段階で初めて、「では株式をいくらで買い取るのか」「そもそも売却義務があるのか」「退任理由によって扱いを変えるのか」という交渉を始めると、かなり感情的な対立になりやすいです。会社の将来価値が見え始めていればいるほど、株式の扱いは金銭的にも心理的にも重くなります。

創業者間契約は、このような場面で相手を追い込むための契約ではありません。むしろ、まだ関係が良い時期に、「将来、誰かの人生や考え方が変わったとしても、会社が前に進めるようにしておく」ための契約だと考えています。

仲が良いときにこそ、冷静に話せることがあります。会社に残る場合と離れる場合、病気や家庭の事情で働けなくなる場合、重大な義務違反がある場合、単に方向性が合わなくなる場合。それぞれの場面で、会社と創業者個人の利益をどのように調整するのかを、まだ信頼関係があるうちに話しておくことが重要だと感じています。

株式は、創業者の努力に対する報酬であると同時に、会社の支配権でもある

創業初期の会社では、株式を「創業メンバーへの報酬」のように捉えることがあります。

資金も十分ではなく、役員報酬も高く出せないため、初期から大きなリスクを取る創業者に株式を持ってもらう。これは自然な発想です。株式があるからこそ、創業者は短期の給与ではなく、会社の長期的な価値に向けてコミットしやすくなります。

ただ、株式は報酬であるだけではありません。議決権を通じた会社の意思決定権であり、将来の資金調達、M&A、IPO、組織再編に影響する権利でもあります。

会社法上、株主は原則として株式を譲渡できるものとされています。他方で、スタートアップでは、定款で株式の譲渡について会社の承認を要する旨を定め、譲渡制限株式としていることが一般的です。譲渡制限がある場合でも、株式が創業者の個人財産であることに変わりはありません。そのため、会社や他の創業者が当然に取り上げられるものではなく、事前の合意や会社法上の手続を踏まえて設計する必要があります。

この点を曖昧にしたまま、共同創業者に大きな株式を配分してしまうと、後から調整することが難しくなります。

たとえば、技術担当の共同創業者に三〇パーセントの株式を渡したものの、半年後に方向性の違いで退任したとします。その時点で何も合意がなければ、その人は会社を離れた後も三〇パーセントの株主として残り続ける可能性があります。会社に残る創業者から見ると、今後の経営、資金調達、ストックオプション設計に大きな影響が残ります。退任した創業者から見ると、初期に会社を作った貢献に対する対価として株式を維持したいという考えもあり得ます。

どちらか一方だけが常に正しいというより、最初にどういう前提で株式を持ってもらったのかが重要になります。

株式を創業時の貢献に対する確定的な対価と見るのか。将来の継続的なコミットメントに対するインセンティブと見るのか。一定期間働き続けることを前提に段階的に権利が固まるものと見るのか。この前提が共有されていないと、退任時にかなり大きな認識のずれが生じます。

創業者間契約は、この認識のずれを事前に言語化するための道具だと考えています。

退任時の株式処理は、資金調達前に見られやすい

投資家が創業者の株式を気にするのは、創業者同士の仲を詮索したいからではありません。投資後に会社の成長を支えるインセンティブ構造が保たれているかを確認したいからです。

シリーズAの段階では、会社の価値の多くは、まだ将来の成長可能性にあります。プロダクト、顧客、組織、売上が立ち上がってきていたとしても、会社の価値を大きく左右するのは、創業者を中心とする経営チームが今後も走り続けられるかどうかです。

そのため、すでに退任した創業者が大きな株式を持っている場合や、主要な創業者が退任したときの株式処理が決まっていない場合、投資家から見ると気になるポイントになりやすいと考えられます。

典型的には、退任時の株式をどの範囲で売却するのか、誰が買い取るのか、会社が買い取るのか、他の創業者が買い取るのか、価格をどのように決めるのか、退任理由によって扱いを変えるのかが問題になります。

ここで注意したいのは、「退任したら株式をすべて会社が買い取る」とだけ書けば足りるわけではないことです。会社が自己株式を取得する場合には、会社法上の手続や財源規制などを確認する必要があります。会社が買い取れない場合に備え、他の創業者や指定された第三者への売却を組み合わせることも検討対象になります。また、取得価格を極端に低く設定すると、税務、会計、当事者間の公平性、後日の紛争リスクの観点から問題が生じる可能性があります。

さらに、退任理由を一律に扱うかどうかも重要です。

たとえば、重大な義務違反、競業、秘密情報の持ち出し、会社への背信的行為がある場合と、病気、家庭の事情、経営方針の違いによる円満退任の場合を同じ扱いにするのがよいかは、会社ごとに考える必要があります。悪意のある退任と、やむを得ない退任を分ける設計にすることもありますし、あえて複雑にしすぎず、一定期間の在籍や貢献に応じて処理することもあります。

大切なのは、揉めた後にその都度「これは良い辞め方か、悪い辞め方か」を判断する状態にしないことです。主観的な評価に依存しすぎると、契約があるにもかかわらず、結局は争いの火種になりやすいです。

資金調達前に、この点を一定程度まで文書化しておくと、投資家に対しても、創業者株式に関するリスクを会社として認識し、対応していることを説明しやすくなります。

譲渡制限だけでは、創業者間の問題は処理しきれない

スタートアップの多くは、定款に株式の譲渡制限を置いています。譲渡制限があれば、創業者が勝手に第三者へ株式を譲渡することを一定程度防ぎやすくなります。

会社法上も、譲渡制限株式については、譲渡による取得について会社の承認を要する旨を定款で定めることができます。承認機関についても、取締役会設置会社かどうか、定款の定めによって扱いが変わります。

もっとも、譲渡制限は、主に「望ましくない第三者が株主として入ってくること」を防ぐ仕組みです。創業者が退任した場合に、その人の株式をどのように処理するのかまで、自動的に解決するものではありません。

たとえば、創業者が会社を離れた後、株式を誰にも譲渡せずに持ち続ける場合、譲渡制限だけでは対応できません。創業者が第三者に売ろうとした場合には承認手続が問題になりますが、持ち続けること自体を止める仕組みにはなりにくいです。

また、株式を相続した場合や、離婚、差押え、破産などの事情が生じた場合にも、創業者本人が悪意を持っているわけではないのに、会社にとって望ましくない株主構成になる可能性があります。このような場面では、定款上の売渡請求制度や、創業者間契約上の買取・売却義務を組み合わせて考える必要があります。

つまり、定款の譲渡制限は大切ですが、それだけで創業者間契約が不要になるわけではありません。定款、株主名簿、創業者間契約、投資契約、株主間契約をそれぞれの役割に応じて整えることが望ましいと考えます。

特に資金調達前は、これらの文書がばらばらに作られがちです。設立時の定款は司法書士や行政書士に依頼して作成し、創業者間契約は後回しになり、投資契約の段階で初めて弁護士が全体を見る、ということもあります。そうすると、投資家対応の時点で、創業者株式の処理について過去の合意が不足していることが見つかる可能性があります。

資金調達の直前にこの問題が見つかると、交渉の主導権を失いやすくなります。投資家から指摘されて慌てて創業者同士で話し合うよりも、資金調達を始める前に、自分たちの会社としてどう扱うのかを決めておく方が、実務上はかなり進めやすいと感じています。

強制売却条項は、使う場面をかなり丁寧に設計する

創業者間契約でよく議論になるのが、一定の場合に創業者が保有株式を売却しなければならないという条項です。いわゆる強制売却条項と呼ばれることがあります。

強制売却条項は、会社にとって有用な場面があります。たとえば、創業者が退任したにもかかわらず大きな株式を持ち続ける場合、重大な義務違反をした場合、競業会社を立ち上げた場合、秘密情報を持ち出した場合などに、会社や残る創業者が株式を取得できるようにしておくことには、一定の合理性があると考えられます。

ただし、強制売却条項は、かなり強い効果を持つ条項です。創業者個人の財産権に直接影響しますし、発動要件や価格が曖昧だと、後で争いになりやすいです。

実務上は、少なくとも、どの事由が発生した場合に売却義務が生じるのか、誰が売却を請求できるのか、売却先は誰か、対象となる株式の範囲は全部か一部か、価格はどのように決めるのか、支払時期はいつか、会社法上・税務上の手続に支障がある場合にどうするのかを検討する必要があります。

また、退任理由によって価格を変える設計もあります。たとえば、正当な理由のない退任や重大な義務違反がある場合には低い価格、やむを得ない退任の場合には公正価値に近い価格とする考え方です。ただ、このような設計は、何をもって正当な理由とするのか、誰が判断するのかが難しくなります。

そのため、創業者間契約では、条項の強さと運用可能性のバランスを見ることが重要です。会社を守ろうとして過度に強い条項を入れると、創業者間の信頼関係を損ねたり、後日その条項自体が争われたりする可能性があります。他方で、発動条件が緩すぎると、会社にとって必要な場面で機能しにくくなります。

資金調達前の段階では、投資家に見せることも意識しながら、会社として説明可能な内容にしておくことが望ましいと考えます。投資家は、会社が創業者を不当に縛っているかどうかも見ますし、逆に創業者株式が何もコントロールされていないかどうかも見ます。どちらかに振り切るのではなく、会社の成長と創業者個人の合理的な利益の両方を踏まえた設計が必要になります。

競業避止と秘密保持は、創業者だからこそ曖昧にしない

創業者は、会社の最も深い情報を知っています。

プロダクトの構想、技術上の課題、顧客候補、価格戦略、採用計画、資金調達の状況、投資家とのやり取り、事業上の弱点、失敗した施策、将来のロードマップ。これらは、従業員や業務委託先よりも、創業者の方が広く深く把握していることが多いです。

そのため、創業者が会社を離れた後に競合事業を始める場合や、同じ顧客・同じ市場に向かう事業に関与する場合、会社にとって大きなリスクになることがあります。

もっとも、競業避止義務は、創業者個人の職業選択や事業活動の自由にも影響します。そのため、期間、地域、対象事業、禁止される関与形態、例外を丁寧に設計する必要があります。創業者であれば何でも広く禁止してよい、という発想は取りにくいと考えられます。

たとえば、退任後二年間、会社と同一または類似する事業を行わない、という表現だけでは広すぎる可能性があります。会社の事業領域が変化するスタートアップでは、「同一または類似」の範囲が後から大きく広がることがあります。創業時には小さなSaaS事業だったものが、数年後にはFinTech、HR、AI、データ分析など複数領域に広がっていることもあります。

そのため、競業避止を置く場合には、会社が本当に守りたい事業領域を特定し、禁止期間を合理的な範囲に置き、受動的な少数投資や事前承諾を受けた関与をどう扱うかまで考えることが望ましいと考えます。

秘密保持についても同じです。創業者同士だからといって、会社の秘密情報の定義、利用目的、第三者提供、退任後の返還・削除、違反時の対応を曖昧にしてよいわけではありません。むしろ、創業者は会社の情報を最も多く持っているため、秘密保持義務は一般的な従業員向けの規程よりも、創業者の立場に即して書いた方が実務に合うことがあります。

資金調達のデューデリジェンスでも、主要な知的財産や営業秘密が会社にきちんと帰属し、外部に流出しにくい体制になっているかは見られやすいです。創業者間契約は、この点でも会社の法務体制を示す資料になります。

表明保証は、創業者間でも意味がある

表明保証というと、投資契約やM&A契約で使われるものという印象があるかもしれません。しかし、創業者間契約でも、一定の表明保証を置くことには意味があると考えています。

創業者間で確認しておきたい事項には、たとえば次のようなものがあります。

  • 創業者が会社に出資する資金について、第三者との間で権利関係の問題がないこと
  • 創業者が会社に提供する知的財産、ソースコード、デザイン、資料、ノウハウについて、第三者の権利を侵害していないこと
  • 前職や過去の業務委託契約に違反して、会社に情報や成果物を持ち込んでいないこと
  • 会社の事業と競合する既存の業務、顧問、出資、兼業関係がないこと、または開示されていること
  • 反社会的勢力との関係がないこと
  • 他の創業者に開示すべき重要な事情を隠していないこと

これらは、創業者同士の信頼だけで済ませたくなる事項です。しかし、資金調達の場面では、投資家から見るとかなり重要な論点になります。

特に、前職で作ったコードをそのまま持ち込んでいないか、会社の中核となる知的財産が本当に会社に帰属しているか、創業者が別会社で同じような事業をしていないかは、後から問題になると会社の価値に大きく影響する可能性があります。

表明保証は、相手を疑うためだけのものではありません。創業者全員が、会社に持ち込むもの、持ち込んではいけないもの、開示しておくべきものを確認するための手続でもあります。

創業初期は、スピードを重視するあまり、個人のGitHub、過去の業務で作った資料、友人との口頭合意、外部協力者との曖昧な関係が混ざりやすいです。これをそのままにして資金調達に進むと、投資家からの質問に対して、後から事実確認をすることになります。

創業者間契約の段階で、表明保証と知的財産の帰属を確認しておくことは、将来のデューデリジェンスへの準備にもなると考えます。

意思決定のルールは、会社が止まらないために必要になる

創業者間契約では、株式や退任時の処理だけでなく、意思決定のルールも重要です。

共同創業者が二人で五〇パーセントずつ株式を持っている会社では、関係が良いときは対等で美しく見えます。しかし、意見が割れたときには、会社の意思決定が止まる可能性があります。新株発行、資金調達、重要な採用、役員報酬、事業譲渡、借入、M&A、代表者の選任など、重要事項について合意できない場合、会社が前に進めなくなることがあります。

三人創業の場合でも、二対一で決めるのか、全員一致を求めるのか、代表者に一定の裁量を与えるのかによって、会社の動き方は大きく変わります。

初期の会社では、何でも全員で相談して決めることが多いと思います。それ自体は悪いことではありません。ただ、会社が成長すると、意思決定の頻度も速度も変わります。すべての重要事項について全員一致を求めると、少数派の創業者が事実上の拒否権を持つことになります。一方で、代表者が何でも単独で決められる設計にすると、他の創業者の信頼を失う可能性があります。

そのため、創業者間契約では、日常的な業務執行と、創業者全員または一定多数の同意を要する重要事項を分けることが考えられます。

たとえば、通常の採用や営業施策は代表者または担当役員が進める一方で、一定金額を超える借入、株式発行、M&A、主要事業の変更、役員報酬の大幅な変更、重要な知的財産の処分、子会社設立などは、創業者間で同意を求める設計にすることがあります。

ここで重要なのは、創業者間の合意と会社法上の機関決定を混同しないことです。創業者間契約で「全員の同意を要する」と書いても、会社法上は株主総会や取締役会の決議が必要な事項があります。逆に、会社法上は代表取締役が行える事項でも、創業者間契約上は事前同意を求める設計にすることがあります。

創業者間契約は、会社の意思決定を法的に置き換えるものではなく、創業者同士がどのように会社を動かすかの内部ルールとして機能するものだと考えると分かりやすいと思います。

投資契約や株主間契約とぶつからないようにする

資金調達前に創業者間契約を作る場合、将来の投資契約や株主間契約との関係も意識しておく必要があります。

シリーズA以降では、投資家との間で投資契約や株主間契約を締結することが多くなります。そこでは、株式譲渡、優先引受権、先買権、共同売却権、ドラッグ・アロング、拒否権、情報提供、役員派遣、みなし清算条項などが定められることがあります。

創業者間契約で、これらと矛盾する内容を先に置いてしまうと、資金調達時に修正が必要になります。

たとえば、創業者が退任した場合の株式売却先を他の創業者だけに限定していると、投資家が先買権や共同売却権との関係を気にする可能性があります。創業者間で特定の重要事項について全員一致を求めている場合、投資家の拒否権や取締役会決議事項との関係を調整する必要があります。創業者間契約の守秘義務や情報提供義務が、投資家への情報開示と緊張することもあります。

そのため、創業者間契約は、資金調達前に作ればそれで終わりというものではありません。むしろ、創業初期の段階で土台を作り、シード、プレシリーズA、シリーズAと進む中で、投資契約や株主間契約に合わせて見直すものだと考えています。

ただ、見直しが必要になるからといって、最初に作らない方がよいわけではありません。最初に創業者間で合意した考え方があれば、投資家との交渉でも、自分たちの方針を説明しやすくなります。逆に、何も決まっていない状態で投資家から指摘を受けると、創業者間でまだ話していなかった論点を、資金調達の時間的プレッシャーの中で話すことになります。

この差は、実務上かなり大きいと感じています。

創業者間契約は、会社の法務体制そのものを映す

創業者間契約は、創業者同士の個人的な契約であると同時に、会社の法務体制を映す資料でもあります。

投資家から見ると、創業者間契約がある会社は、少なくとも創業者株式の扱い、退任時の処理、競業、秘密保持、意思決定について、問題意識を持っている会社だと見えやすいです。内容が会社の成長段階に合っていれば、創業者間の関係に一定のルールがあることも説明しやすくなります。

他方で、創業者間契約がないこと自体が直ちに致命的な問題になるとは限りません。創業者が一人である場合や、株式配分が明確で、退任者もおらず、投資家との契約で十分に手当てされる場合もあります。

しかし、共同創業者が複数いて、それぞれが相当割合の株式を持っている場合には、何もない状態のまま資金調達に進むのは、少し不安が残ると考えています。

特に、次のような会社では、早めに検討した方がよいことがあります。

  • 共同創業者が複数いて、株式を大きく分け合っている会社
  • 役割分担が明確で、一人が抜けると事業への影響が大きい会社
  • 技術、顧客、営業秘密、知的財産が創業者個人に強く依存している会社
  • 退任済みまたは関与が薄くなった創業者が株式を持っている会社
  • 近いうちに外部投資家から資金調達を予定している会社
  • 創業者間で重要事項の決め方が曖昧な会社

創業者間契約は、会社が大きくなってから作るほど難しくなります。会社の価値が上がるほど、株式の処理は重くなります。創業者の役割が変わるほど、過去の貢献と将来のコミットメントを切り分けることが難しくなります。投資家が入るほど、既存の創業者間合意と投資家の権利を調整する必要が増えます。

その意味で、創業者間契約は、創業直後からシリーズA前までのどこかで、一度きちんと向き合うことが望ましいと考えます。

作るときは、ひな形をそのまま使わない

創業者間契約には、ひな形が多く存在します。インターネット上にも、株式の譲渡制限、退任時の売却義務、競業避止、秘密保持などを含むひな形が見つかります。

ひな形を参考にすること自体は有益です。しかし、ひな形をそのまま使うことには慎重であるべきだと考えています。

理由は、創業者間契約ほど、会社ごとの差が大きい契約も少ないからです。

二人創業なのか、三人以上なのか。代表者がどれだけ株式を持っているのか。技術創業者とビジネス創業者の関係はどうか。株式はすでに発行済みなのか、これから発行するのか。創業者が会社に提供した知的財産は何か。退任時に買い戻すための資金はどこから出すのか。外部投資家が入る予定はいつか。会社法上の機関設計はどうなっているのか。

これらによって、適切な条項は変わります。

たとえば、退任時の株式処理について、すでに発行済みの普通株式を対象にする場合と、今後発行する株式やストックオプションを対象にする場合では、設計が変わります。会社による自己株式取得を想定するのか、他の創業者による買取を想定するのかによっても、手続と資金の問題が変わります。

競業避止についても、プロダクト型の会社、受託開発から始まった会社、メディア事業、AI事業、FinTech事業、医療・ヘルスケア領域では、守るべき情報や禁止すべき行為が異なります。

意思決定のルールも、創業者の人数、持株比率、代表者の権限、取締役会の有無、投資家の関与によって変わります。

そのため、創業者間契約を作るときは、ひな形に会社を合わせるのではなく、会社の実態を見たうえで、ひな形を調整することが重要だと考えています。

創業者間契約は、創業者同士の信頼を壊すものではない

創業者間契約の話をすると、「そんな契約を持ち出すと、相手に不信感を与えないか」と心配されることがあります。

この感覚は理解できます。まだ会社を立ち上げたばかりで、熱量を持って一緒に走っている相手に対して、退任時の株式処理や競業避止を話すのは、少し冷たく見えることがあります。

しかし、私は、創業者間契約は信頼関係を壊すためのものではなく、信頼関係が変化しても会社が壊れにくくなるためのものだと考えています。

創業者同士の関係は、時間とともに変わります。事業が伸びると、役割が変わります。資金調達をすると、責任が変わります。従業員が増えると、創業者だけの会社ではなくなります。家族、健康、価値観、経済状況も変わります。

最初の信頼関係だけで、これらすべてを乗り切るのは簡単ではありません。

むしろ、仲が良い時期に、「もし誰かが離れることになっても、会社と残るメンバーと離れるメンバーが、できるだけ納得しやすい形にしよう」と話しておくことは、かなり誠実な対応だと感じています。

創業者間契約は、相手を疑う文書ではありません。会社の将来、従業員、投資家、顧客、そして創業者自身を守るために、今のうちに合意しておく文書だと考えると、話し合いの意味が変わると思います。

LegalAgentでできること

LegalAgentでは、生成AIと企業法務に精通した弁護士の協働により、創業者間契約、資金調達契約、株主間契約、ストックオプション設計、知的財産の帰属確認、デューデリジェンス対応などを支援しています。

創業者間契約についても、単にひな形を埋めるのではなく、会社の資本政策、創業者の役割分担、退任時の株式処理、将来の資金調達、投資家との株主間契約との関係まで踏まえて確認することが重要だと考えています。

生成AIを使うことで、既存の定款、株主名簿、資本政策表、過去の合意メモ、投資家向け資料、知的財産に関する資料などを横断的に確認し、論点の洗い出しや契約案のたたき台作成を進めやすくなります。もっとも、実際の進み方は資料の整い方や事案の複雑さによって変わります。そのうえで、企業法務に精通した弁護士が、会社の成長段階と資金調達の文脈を踏まえて、実務で使える形に整えることが大切だと考えています。

創業者間契約は、問題が起きてから慌てて作るものではなく、問題が起きる前に、会社の基礎として置いておくものです。

仲が良いときにしか話せないことがあります。だからこそ、資金調達に向かう前のタイミングで、創業者同士の合意を一度文書にしておくことが望ましいと考えます。

シリーズAに向けて、創業者株式の扱い、退任時の処理、競業避止、秘密保持、意思決定のルールを一度確認したい場合には、定款、株主名簿、資本政策表、過去の合意メモを見せていただければ、どこから手を付けるべきかを一緒に確認できると考えています。

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