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契約レビュースタートアップ法務

創業者間契約は、仲が良いときにしか作れない

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

スタートアップの法務というと、資金調達契約やストックオプション、業務委託契約など、外部とのやり取りで目につきやすい契約に意識が向きがちです。もちろん、これらはいずれも事業を進めるうえで欠かせない論点です。特にシリーズAに向かう段階では、投資契約や株主間契約、知的財産の帰属など、投資家から確認される項目が一気に増えます。

ただ、創業初期の会社と向き合っていると、かなり早い段階で手を打っておくべきだと感じる契約があります。それが創業者間契約です。

創業者間契約というと、「共同創業者同士が揉めたときのための契約書」という印象を持たれがちです。しかし実務においては、揉めた後に法的に契約を結ぶこと自体が不可能になるわけではないものの、感情的な対立が生じた後では現実的な合意に達することが極めて難しくなります。むしろ、お互いに同じ方向を向き、相手への信頼がある時期にこそ、現実的で納得感のある内容をまとめられる契約だと考えています。

創業者間契約で取り扱う主な内容は、株式の帰属、退任時の株式の取扱い、競業避止、日常および重要事項の意思決定ルールなどです。会社が立ち上がったばかりの頃は、「気心の知れた仲間なのだから、そこまで細かく決めなくても大丈夫だろう」と考えられがちです。しかし資金調達の現場では、投資家は単に「誰が何パーセントの株式を持っているか」という数字だけを見ているわけではありません。その株式が、今後も事業成長に向けて責任を持って働き続ける創業者たちの手元にあるのか、誰かが途中で退任した際に会社の経営権やインセンティブの仕組みに無理な歪みが生じないか、創業者間の個人的な関係の変化によって会社の決定が止まってしまわないかといった点も、丁寧に見極められます。

創業者間契約の役割と早期作成の意義

信頼関係がある時期に話し合う理由

創業者間契約をまとめる難しさは、契約書にどのような文言を並べるかという技術的な面よりも、それを話し合うタイミングそのものにあります。共同創業者同士の関係が良好なときは、「もし誰か一人が途中で辞めたらどうするか」「その人の持っている株式を買い戻すのか」といった話題は、どうしても切り出しにくい側面があります。相手を疑っているように受け取られるのではないか、せっかくの良好な関係に水を差すのではないかと心配になるのも無理はありません。

しかし、創業者の関係が悪化したり、事業への熱量に差が出たりした後は、同じ話題を扱うことがはるかに難しくなります。退任する創業者と残る創業者の間では、株式に対する認識が大きく分かれがちです。すでに相当な割合の株式を持っている共同創業者が会社を離れる場合、残る側からすれば「今後の事業に関与しない元メンバーが、大きな持分を握り続けたままなのは不自然だ」と感じるでしょう。一方で離れる側からすれば「創業時のリスクが高い時期に会社を立ち上げた対価として、株式を持ち続けるのは当然の権利だ」と考えるのも自然な感情です。

この段階になって初めて「では株式をいくらで買い取るか」という交渉を始めると、感情的な衝突に発展しやすくなります。会社の将来性が少しずつ見え始めていればいるほど、株式の経済的な価値も心理的な重みも増しているためです。

退任する人の利益も踏まえて、残る創業者との調整方法を決めるのが創業者間契約の役割です。まだお互いに敬意と信頼がある時期に、将来もし誰かの人生の進路や価値観が変わったとしても、会社が立ち止まることなく前進し続けられるようにするための合意です。健康上の理由や家庭の事情で続けられなくなる場合、重大な義務違反が生じてしまった場合、あるいは経営方針の違いから円満に離れる場合など、それぞれの場面において会社と個人双方の利益をどう調整するかを、冷静に話し合えるうちに文章にしておくことが大切です。

投資家が見るインセンティブ構造

シリーズAなどの本格的な資金調達において、投資家は、創業者が株式をどう持ち、投資後も事業に取り組む動機を保てるかを確認します。シードからシリーズAの段階にある会社では、企業価値を評価するうえで、将来の成長見込みが重視されます。プロダクトや売上が立ち上がりつつあったとしても、事業を大きく伸ばせるかどうかは、創業者を中心とする経営陣が継続して全力を尽くせるかにかかっています。

そのため、すでに退任した創業者が多くの株式を持ったまま残っていたり、主要な創業者が抜けた場合の株式の処理方法が定まっていなかったりすると、投資家にとって大きな懸念点になりやすいといえます。

あらかじめ退任時の取扱いを整理して文章に残しておけば、投資家に対しても、創業者株式に関する潜在的なリスクを会社として十分に把握し、無理のない形で手当てしていることを明確に説明できるようになります。

株式の法的性質と退任時の取扱い

支配権としての株式と事前の前提共有

創業初期には、株式を「創業メンバーへの働きに対する報酬」のように捉えて配分してしまう例が見られます。手元資金が限られ、役員報酬を十分に支払えないスタートアップにおいて、初期のリスクを背負ってくれた創業者に株式を持ってもらうこと自体は自然な判断です。株式を持つからこそ、目先の給与にとらわれず、会社の長期的な価値の向上に向けて力を注ぐことができます。

しかし、株式は金銭的な報酬にとどまりません。株主総会における議決権を通じて会社の意思決定を左右する支配権であり、将来の資金調達やM&A、組織再編などの重要な局面にも直結する権利です。

そして会社法上、株式は創業者の個人財産です。会社を退任したからといって、当然に会社へ返還されたり失われたりするものではありません。会社や他の創業者が一方的に取り上げることは法的にできず、あらかじめ合意を結んでおくか、会社法に則った手続を踏んで設計する必要があります。

この前提を曖昧にしたまま大きな割合の株式を渡してしまうと、後から調整することは難しいです。仮に、技術を担当する共同創業者に株式の30パーセントを持ってもらったものの、わずか半年後に方向性の相違で離脱することになったとします。事前に何も取り決めていなければ、その人は退任後も30パーセントを保有する大株主として残り続ける可能性があります。残された側から見れば、今後の経営判断や新たな資金調達、従業員へのストックオプションの付与枠の設計に大きな制約を抱え込むことになります。一方で離脱した側から見れば、創業時の貢献に対する確定した対価として株式を持ち続けたいと考えるのも一理あります。

ここでは、どのような前提で株式を持ってもらったかという、事前の共通認識が問われます。株式を過去の貢献に対する確定的な対価と見なしているのか、将来にわたる継続的なコミットメントを促すためのものと見なしているのか、あるいは一定期間働き続けることで段階的に権利が確定していく仕組みとして捉えているのか。この認識をあらかじめ文書として共有しておくことが、退任時における大きな齟齬を防ぐ土台となります。

定款の譲渡制限が持つ実務上の限界

多くのスタートアップでは、定款に株式の譲渡制限を設けています。会社法上、譲渡による株式の取得について会社の承認を要する旨を定款で定めることが認められており、これによって望ましくない第三者が突然株主として入り込んでくる事態を一定程度防ぐことができます。譲渡承認を行う機関についても、取締役会を置く会社かどうかや定款の定めに従って決まります。

ただし、定款の譲渡制限は、主に望ましくない第三者が株主として入ってくることを防ぐ仕組みにすぎません。創業者が退任した際に、その人が保有する株式をどう処理するかという問題までは自動的に解決してくれません。退任した創業者が第三者に譲渡しようとせず、自分名義のまま手元に持ち続ける場合、定款の譲渡制限は何の制約にもならないからです。

さらに、創業者が亡くなって相続が発生した場合や、離婚に伴う財産分与、個人の破産などが起きた場合にも、当人に悪意がなくても会社の意図しない株主構成が生じるリスクがあります。会社法174条では、相続その他の一般承継によって譲渡制限株式を取得した者に対し、会社がその株式を売り渡すよう請求できる旨を定款に定める制度が用意されています。しかし、この会社法174条の売渡請求は相続などの一般承継を対象としたものであり、離婚による財産分与や破産手続による処分にまで当然に及ぶものではないため、取得の原因に応じた譲渡承認手続や、契約上の買取り・売却義務の効力を個別に確認します。定款の譲渡制限の規定にとどまらず、創業者間契約を組み合わせて補完し合う関係を整えておくことが望まれます。

会社法上の手続と強制売却条項の設計

創業者間契約において中核となるのが、一定の事由が生じた際に、契約当事者である創業者に対して株式の売却義務を課す条項です。実務では強制売却条項や買戻し条項などと呼ばれます。この条項は、あくまで契約を締結した当事者間を拘束する債権的な合意であり、会社法上の全部取得条項付種類株式のように契約を結んでいない株主まで当然に拘束する強制取得の手続とは性質が異なります。

創業者が早期に退任したにもかかわらず多くの株式を保有し続ける事態を防ぐためや、重大な義務違反や競業行為、秘密情報の持ち出しなどがあった場合に会社や残る創業者が株式を取り戻せるようにしておくことには、合理的な理由があります。

ただし強制売却条項は、創業者個人の財産権を直接制約する強力な条項です。そのため、発動する条件や買い取る価格の算定方法が曖昧だと、将来の紛争の原因になりかねません。実務では、どのような事由が発生したときに売却義務が生じるのか、誰が買取りを請求できるのか、買い取る株式の対象は全部か一部か、価格をどう算定するのか、いつ代金を支払うのかといった点を詰めておくことになります。

ここで留意したいのは、「退任時には会社がすべて買い取る」とだけ定めても十分ではないという点です。会社が自己株式として買い取る場合には、株主総会決議などの会社法上の所定の手続を満たす必要があるほか、分配可能額の範囲内でしか取得できないという財源規制を受けます。会社の資金繰りや財源規制によって会社自身が買い取れない事態を想定し、残る他の創業者や会社が指定する第三者が買い取れる仕組みを併記しておく設計が検討されます。

また、買取り価格の設定にも細やかな配慮が欠かせません。懲罰的な意図から極端に低い価格や名目的な金額で買い取ると定めてしまうと、税務上で低額譲渡と見なされて予期せぬ課税リスクが生じることや、会計処理、当事者間の公平性の観点から条項の有効性自体が争われるおそれがあります。どのような算定式であっても特定の金額が常に税務上や法的に安全だと保証されるわけではないため、合理的な説明がつく価格基準を置くことが望まれます。

退任理由を一律に扱うかどうかも重要な検討事項です。重大な背信行為や競業による退任と、病気や家庭の事情、友好的な経営方針の相違による円満な退任とを同じ条件で扱うのか、あるいは在籍期間の長さに応じて段階的に買い取れる割合を減らしていくのかなど、主観的な対立を生まない客観的な基準で条項を組み立てておくことが実務上役立ちます。

競業避止・秘密保持と表明保証の実務

創業者の立場に即した競業避止と秘密保持

創業者は、事業計画や技術仕様など、会社の重要情報を知る立場にあります。顧客との関係や価格戦略、資金繰りも把握していることがあります。そのため、創業者が会社を離れた後に競合する事業を立ち上げたり、同じ顧客層を狙う事業に関与したりすると、残された会社にとって大きな痛手となります。

とはいえ、競業避止義務は、創業者個人の職業選択の自由や事業活動の自由を直接制限するものです。創業者だからといって無制限に活動を禁止できるわけではなく、裁判実務においても制約の合理性が個別に判断されます。単に「退任後2年間、会社と同一または類似する事業を行ってはならない」と定めるだけでは、対象範囲が広すぎて効力が否定されるリスクもあります。特に事業領域が変化しやすいスタートアップでは、創業時の事業内容と数年後の事業内容が大きく変わることも珍しくありません。

そのため競業避止条項を設ける際は、会社として本当に守るべき事業領域を具体的に特定し、禁止する期間や地域を合理的な範囲にとどめるとともに、受動的な少額投資や事前の承諾を得た活動などをどう扱うかまで整理しておくことが現実的です。

秘密保持義務についても同様です。親しい仲間同士であっても、何が会社の秘密情報にあたり、どのような目的での利用が許され、退任時にどのように返還や破棄を行うかを明確にしておく必要があります。創業者は会社の根幹情報に触れているからこそ、一般的な従業員向けの就業規則よりも踏み込み、創業者の実際の権限や業務実態に即した内容で定めておくことが実務に合致します。資金調達時の法務デューデリジェンスでも、主要な営業秘密や知的財産が会社に守られている体制にあるかは丁寧に確認されます。

知的財産の帰属と表明保証

表明保証という言葉は、投資契約やM&Aで使われる印象が強いかもしれませんが、創業者間契約においても有益な機能を持ちます。創業者間で確認しておくべき典型的な項目は次のとおりです。

  • 創業者が会社に提供する知的財産や資金について、第三者との権利関係に疑義がないこと
  • 前職や過去の委託先との契約に違反して、情報や成果物を持ち込んでいないこと
  • 会社の事業と競合する既存の業務や兼業関係が存在しないこと、または開示されていること

創業初期は開発のスピードを優先するあまり、個人のアカウントで管理していたコードや、前職時代に作成したデータ、外部の知人との口頭の約束などが混在しやすい環境にあります。もし前職で作成したプログラムコードがそのまま製品に組み込まれていたり、中核技術の権利が個人に留保されていたりすると、後から重大な法的トラブルに発展し、企業価値を大きく損なうことになりかねません。

表明保証は相手を疑うための手続きにとどまらず、全員が会社に持ち込む資産の権利関係を点検し、将来のデューデリジェンスに耐えられる状態を整えるための共同確認として機能します。

意思決定ルールと投資契約との整合性

意見の対立に備える議決権と機関決定の役割分担

創業者間契約では、株式の処理と並んで日々の意思決定のルールをどう決めておくかも大きな論点です。共同創業者が二人で株式を50パーセントずつ持ち合っている場合、関係が順調なときは対等なパートナーシップとして機能します。しかし方針をめぐって意見が割れた場合、株主総会の決議が成立せず、重要な経営判断が止まるおそれがあります。

三人以上で創業した場合でも、多数決で決めるのか、全員一致を条件とするのか、あるいは代表者にどの範囲の裁量を委ねるのかによって、経営の機動性は大きく左右されます。何でも全員一致で進めるルールにすると、少数派が事実上の拒否権を持つことになり、事業の成長スピードを阻害しかねません。一方で、代表者が独断ですべてを決められる設計にすると、他の創業者の信頼を失う要因になります。

そこで創業者間契約では、日常的な業務執行と、創業者間での合意を要する重要事項とを適切に切り分ける工夫が有効です。通常の雇用や日常的な営業方針は代表者や担当役員の裁量に委ねる一方で、一定額を超える借入れや主要な事業計画の変更などには創業者間の事前合意を求めるといった設計が考えられます。

気を付けたいのは、創業者間の契約上の合意と、会社法が定める株主総会や取締役会などの機関決定を混同しないことです。創業者間契約で「全員の同意を要する」と定めても、それは当事者間の合意にすぎず、法令上必要な株主総会決議や取締役会決議を法的に省略したり置き換えたりできるわけではない点に留意します。また、株主の持株比率だけで日常業務のすべての決定権が決まるわけでもありません。創業者間契約は、法令のルールを前提としながら、創業者同士が会社をどう運営していくかという内部的な規律を定めるものとして理解しておくことが適切です。

次回ファイナンスを見据えた条項調整

資金調達の前に創業者間契約を結ぶ際には、将来の投資家と締結する投資契約や株主間契約との関係も意識しておく必要があります。シリーズA以降の資金調達では、投資家との間で新株引受権や優先引受権、拒否権、事前承認事項などを定めることが一般的です。

もし創業者間契約の中で、これらと矛盾する取り決めをあらかじめ作ってしまうと、資金調達の段階で条項の修正や廃止を余儀なくされます。一例として、退任時の株式の売却先を他の創業者だけに限定していると、投資家が持つ先買権や共同売却権との関係で衝突が生じることがあります。また、創業者間ですべての重要事項に全員一致を義務付けていると、投資家側の拒否権や取締役会の決議事項とどのように整合させるかが議論になります。

創業者間契約は、資金調達や創業者の構成が変わる際にも見直します。シード期に会社の土台として作成し、シリーズAなどのファイナンスの進展に合わせて投資契約と調和を取りながら見直していくものです。事前に創業者間で基本的な考え方を合意していれば、投資家との交渉においても自社の方針を落ち着いて説明できます。何も決めていないまま投資家から指摘を受け、資金調達の厳しい時間的制約の中で慌てて創業者間の取り決めを議論する事態を避けられる点に、早期から準備しておく大きな価値があります。

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