取締役会の運営実務|招集・決議・議事録・書面決議の整え方
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
資金調達を機に取締役会設置会社へ移行し、社外取締役として投資家指名の1名が加わった。この段階になって初めて、これまで代表者と共同創業者の間で口頭のやり取りだけで済ませてきた意思決定を、どこまで正式な手続に乗せる必要があるのかという問いに直面する管理部門は多いと思います。招集通知はメールで済むのか、決議は多数決で足りるのか、議事録には誰の署名が必要なのか。設置直後はこうした基本的な手順の一つひとつが手探りになりがちです。
取締役会は、株主総会と違って会社法上の招集手続や決議要件の柔軟性が比較的高い機関ですが、柔軟性があるからこそ、何を省略でき、何は省略できないのかの境界を正確に押さえておく必要があります。株主総会側の招集手続の短縮については株主総会スケジュールを短縮したいときに、会社法上どこまでできるかで取り上げましたが、取締役会は決議要件や書面決議の要件が異なるため、別に押さえておく必要があります。
招集手続と招集通知の期間
会社法368条1項は、取締役会を招集する者について、取締役会の日の1週間前までに各取締役(監査役設置会社では各監査役にも)に招集通知を発しなければならないと定めています。ただし、この1週間という期間は、定款でこれより短い期間を定めた場合はその期間で足りるとされています。定款で招集通知期間を短縮している会社では、意思決定のスピードを確保しやすくなります。定款にどのような期間が定められているかは、取締役会運営を整える最初の確認事項です。
さらに368条2項により、取締役(監査役設置会社では監査役も含む)全員の同意があるときは、招集手続そのものを省略して取締役会を開催できます。全員が同じ場に集まって急ぎ協議したいという場面では、この全員同意による招集手続の省略が使われることがあります。もっとも、社外取締役が加わった後は、この「全員同意」の取得を口頭やその場の空気で済ませず、同意の事実を記録に残しておくことが望ましいと考えます。招集手続を経ずに開催した取締役会は、後から同意の有無が争われると決議の効力に疑義が生じかねないためです。
決議要件と特別利害関係人の扱い
会社法369条1項は、取締役会の決議について、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数(いずれも定款でこれを上回る割合を定めた場合はその割合以上)をもって行うと定めています。定款で特に加重していない限り、出席取締役の過半数で決議が成立します。
同条2項は、決議について特別の利害関係を有する取締役は議決に加わることができないと定めています。社外取締役が投資家の指名で就任している場合、投資家自身が関係する取引(たとえば当該投資家からの追加出資や、投資家関連会社との取引)を取締役会に諮る場面では、この特別利害関係人への該当性を都度確認する必要があります。該当する取締役は、決議の際に議決権を行使できないだけでなく、実務上は定足数の算定からも除外して考えるのが安全です。誰が特別利害関係人に当たるかを事前に洗い出さずに決議を進めると、後日その決議の有効性そのものが問題になり得ます。株主間契約書で投資家に事前承諾事項が定められている場合は、取締役会決議とは別に、株主間契約上の手続も並行して確認する必要があります。この点は株主間契約書のレビューポイント|事前承諾事項・情報提供・経営株主の義務で扱っています。
議事録の作成義務と記載事項
会社法369条3項は、取締役会の議事について法務省令で定めるところにより議事録を作成し、議事録が書面で作成されているときは出席した取締役及び監査役がこれに署名又は記名押印しなければならないと定めています。議事録が電磁的記録で作成されている場合は、会社法施行規則225条にいう電子署名を行う必要があります(同条4項)。
社外取締役が加わった後の実務で特に注意したいのは、この署名又は記名押印の対象が「出席した取締役及び監査役」である点です。招集通知は発したが欠席した取締役の署名は不要ですが、出席した以上は社外取締役であっても署名の対象から外れません。リモート参加であっても出席として扱われるのが通常であり、電子署名の運用を整えておかないと、議事録の完成が招集の都度の課題になります。また同条5項により、決議に参加した取締役で議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定されます。反対の意思があった取締役は、議事録上にその旨を明記してもらう必要があるという点も、社外取締役を含む体制では周知しておくべき実務です。
書面決議(決議の省略)を使うための前提
取締役全員が出席する取締役会を毎回開催するのが難しい場面で検討されるのが、会社法370条の書面決議(決議の省略、いわゆるみなし決議)です。同条は、取締役会設置会社において、取締役が決議の目的である事項について提案をした場合に、当該事項について議決に加わることができる取締役の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社では監査役が異議を述べたときを除く)は、当該提案を可決する旨の取締役会決議があったものとみなす旨を、定款で定めることができると規定しています。
ここで見落としやすいのが、株主総会の書面決議とは異なり、取締役会の書面決議は定款に根拠規定がなければ利用できないという点です。定款に370条に基づく規定が置かれていない会社では、取締役全員から書面で同意を取り付けたとしても、法的には取締役会決議があったとは扱われません。社外取締役の就任を機に取締役会運営を整えるのであれば、まず自社の定款に書面決議を可能とする規定があるかどうかを確認し、なければ株主総会で定款変更を検討することが実務上の出発点になります。定款に規定がある場合でも、対象事項について議決権を持つ取締役全員の同意が必要であり、一人でも同意しない、あるいは監査役設置会社で監査役が異議を述べれば、みなし決議は成立しません。
3か月に1回の職務執行報告は省略できない
取締役会の負担を軽くする手段として、会社法372条1項は、取締役、会計参与、監査役又は会計監査人が取締役(監査役設置会社では取締役及び監査役)の全員に対し取締役会に報告すべき事項を通知したときは、その事項を取締役会へ報告することを要しないと定めています。個々の報告事項を、次回の取締役会を待たずに全員へ通知する形で済ませられるという規定です。
しかし同条2項は、この報告省略の規定について、会社法363条2項の規定による報告には適用しないと明記しています。363条2項は、代表取締役及び取締役会の決議によって業務執行取締役として選定された取締役について、3か月に1回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならないと定めており、この報告義務は372条の省略の対象から明示的に除外されています。つまり、書面決議や通知による報告省略をどれだけ活用しても、代表取締役や業務執行取締役が自らの職務執行状況を報告するための取締役会は、少なくとも3か月に1回は実際に開催しなければなりません。取締役会運営を効率化する設計を検討する際は、この3か月に1回の開催だけは書面決議で代替できない実開催の枠として、年間スケジュールに先に組み込んでおくことが実務上の起点になります。
毎回の取締役会で守るべき最低限の型
取締役会設置会社になった直後は、招集通知の期間と方法、決議要件と特別利害関係人の有無、議事録の署名対象と異議の記載、書面決議を使う場合の定款上の根拠、そして3か月に1回の職務執行報告という実開催の枠、この5点を毎回の運営でチェックする型を作っておくと、社外取締役が加わった体制でも手続の抜けを防げます。招集通知は定款の期間を確認したうえで発送し、決議前には対象事項について特別利害関係人に当たる取締役がいないかを洗い出し、議事録は出席した取締役及び監査役の署名又は記名押印(電磁的記録の場合は電子署名)を得てから確定させ、書面決議を使う場合は定款の根拠規定を確認し、そして3か月に1回の報告のための取締役会だけは省略せずにカレンダーへ先に確保しておく。この型を最初に決めてしまえば、以降の運営は都度の判断ではなく、確認作業として回せるようになります。
取締役会運営の体制整備における支援
取締役会の運営ルールは、社外取締役や投資家が加わった段階で見直しの機会が生まれます。招集手続や決議要件の設計、書面決議を可能にするための定款整備、議事録フォーマットの整備など、ガバナンス体制全体の見直しについてはコーポレートガバナンスの支援対象です。議事録の法定記載事項や登記添付時の確認は、株主総会・取締役会議事録の作り方で詳しく扱っています。日常的な取締役会運営における個別の相談や議事録レビューについては、法務アウトソーシングの枠組みでも継続的にサポートしています。