株主総会スケジュールを短縮したいときに、会社法上どこまでできるか
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
投資契約の締結日、払込日、登記申請日、ローンチ日、入社日、買収実行日。スタートアップの株主総会は、たいていこうした動かせない日付から逆算して組まれます。資金調達、ストックオプション発行、役員変更、定款変更、M&Aの場面で「できるだけ早く決議を取りたい」という要望が出るのは自然なことですし、会社法にも短縮の余地は用意されています。
一方で、株主総会は会社の基本的な意思決定機関です。短縮する場合でも、招集通知、議案、議決権、株主の同意、種類株主総会、投資契約上の承認を確認せずに進めることはできません。ここを雑にすると、形式的には議事録が存在していても、後日の資金調達DDやM&Aで手続の有効性を問われます。この記事では、短縮の手段を会社法の制度ごとに追い、最後にDDで説明できる資料の残し方まで確認します。
出発点は定款と機関設計
短縮を検討するとき、最初に開くべき書類は定款です。
会社が公開会社か非公開会社か、取締役会設置会社か、監査役設置会社か、種類株式があるか、招集通知期間について定款で別段の定めがあるか。この組み合わせで、取り得る手続が変わります。
スタートアップの多くは非公開会社ですが、シリーズA以降で優先株式を発行していると、定款は複雑になっています。投資家が入ったタイミングで取締役会設置会社に移行している会社もあります。創業初期の感覚のまま「全員にメールで確認すればよい」と進めると、実際には種類株主総会が必要だった、投資家の事前承認が必要だった、定款上の通知期間を見落としていた、ということが起こり得ます。
株主総会の短縮対応は、議事録作成の問題ではなく、定款・会社法・投資契約の読み合わせの問題です。この読み合わせを飛ばすと、後の工程がすべて不安定になります。
招集通知期間の短縮と招集手続の省略
会社法上、株主総会を開催する場合には、原則として一定期間前までに招集通知を発する必要があります。
ただし、非公開会社では、定款によって招集通知期間を短縮していることがあります。さらに、株主全員の同意がある場合には、招集手続を省略して株主総会を開催できると解される場面があります。実務でよく使われるのは、株主全員から招集手続の省略に関する同意を取得したうえで、同日又は短期間で株主総会を開催する方法です。
この方法を使う場合の確認事項は、誰が株主か、その株主は議決権を有するか、種類株主総会が必要か、同意の取得方法を後から証明できるか、という点に集約されます。
株主が投資ファンド、事業会社、海外投資家、信託、持株会などの場合は、同意を取る相手にも注意が要ります。担当者のメール返信で足りるのか、署名権限者の同意が必要か、先方の社内決裁に何日かかるか。会社法上短縮できるかどうかと同じくらい、実際に同意を取れる相手かどうかがスケジュールを決めます。
書面決議という選択肢
株主総会を実際に開催する代わりに、書面決議を使える場合があります。
会社法には、取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案した場合に、株主全員が書面又は電磁的記録により同意したときは、その提案を可決する旨の株主総会決議があったものとみなされる制度があります。株主数が少なく、株主と連絡が取れるスタートアップでは、この方法で迅速に決議を行うことがあります。
注意点は、書面決議には株主全員の同意が必要だということです。議決権の過半数や3分の2では足りません。反対者がいないというだけでも足りず、全員から明確な同意を取得する必要があります。種類株主総会が必要な場合には、普通株主総会の書面決議だけでは足りない可能性があり、種類株主総会についても同様に同意を取得します。
同意取得に漏れがあると、決議の有効性そのものが後日のDDで争点になります。株主名簿、同意書、メール、電子署名、議案資料、決議日を一体として保存しておくと、この争点を短時間で閉じられます。
取締役会側の短縮
株主総会を急ぐ場面では、取締役会決議も同時に必要になることが多いです。新株予約権の発行、株式発行、株主総会の招集決定、代表取締役の選定、重要な業務執行、利益相反取引などです。
取締役会についても、会社法や定款に基づき招集通知期間が定められていることがありますが、取締役及び監査役全員の同意がある場合には、招集手続を省略して取締役会を開催できると解されます。定款に取締役会の決議省略に関する定めがある場合には、取締役全員の同意など一定の要件のもとで、取締役会決議があったものとみなされる制度を利用できる場合もあります。
ここでも証明の問題が残ります。「取締役全員がSlackで了解した」という状態は、後から見ると同意の対象と時点を特定できないことがあります。議案、同意文言、同意者、日時、監査役の異議の有無を、資料として残します。
種類株式がある会社の追加論点
優先株式を発行している会社では、確認の階層が一段増えます。
普通株主総会の決議だけでよいのか、種類株主総会が必要か、投資契約上の事前承認が必要か、種類株主の同意が必要か。資金調達、定款変更、株式併合、合併、会社分割、事業譲渡、ストックオプションプールの拡大などは、種類株主に影響を与える可能性があります。
見落とされやすいのは、会社法上の種類株主総会が不要であっても、投資契約上は投資家の事前承認事項とされているパターンです。この場合、会社法上は最短で決議できても、投資家側の承認フローに時間がかかり、結局スケジュールは縮まりません。短縮日程を組むときは、会社法上の最短日程と投資家の承認フローの両方を並べて、遅い方に合わせて逆算する必要があります。この確認は、投資契約と定款の両方を突き合わせて初めて確定します。どちらか一方だけを見て「承認は不要」と判断するのは危険です。
登記までを含めた逆算
決議を取って終わりにならない場合があります。役員変更、定款変更に伴う登記事項の変更、新株予約権の発行、募集株式の発行、種類株式の内容変更などでは、登記申請が必要になります。
登記に必要な添付書類、押印、電子署名、司法書士確認、法務局の処理期間まで含めて日程を組みます。払込日を急ぐ資金調達では、決議日、契約締結日、払込日、登記申請日、登記完了予定日を逆算して並べることになります。ストックオプション発行でも、登記の遅れが次の資金調達DDで確認事項になることがあります。決議だけ急いでも、登記や投資家確認が遅れれば全体は進みません。
短縮したときほど資料を残す
短縮手続には、通常の手続よりも後から説明しにくいという性質があります。だからこそ、資料管理は通常より丁寧にします。
残しておくべきものは、議案資料、招集手続省略同意書又は書面決議同意書、株主名簿、議決権数のメモ、種類株主総会要否の検討メモ、投資契約上の承認の確認記録、取締役会決議又は同意書、株主総会議事録、登記添付書類、登記完了後の履歴事項全部証明書です。
目指す状態は、「なぜこの日程で有効に決議できたのか」を、当時を知らない人が資料だけで追える形です。ここまで残っていれば、資金調達DDやM&Aで短縮手続について質問を受けても、落ち着いて回答できます。逆に資料が欠けていると、有効な決議だったとしても、その説明のために当時の担当者の記憶やメールの発掘に頼ることになります。
最後に
株主総会スケジュールをどこまで短縮できるかは、非公開会社かどうか、定款の定め、株主全員の同意の取りやすさ、書面決議の可否、種類株主総会の要否、投資契約上の承認の要否によって決まります。手続を急ぐ場面ほど、定款・会社法・投資契約・登記を丁寧に読み合わせることになるのは、一見逆説的ですが実務の実感です。
LegalAgentでは、資金調達やストックオプション発行のスケジュールに合わせて、株主総会、取締役会、書面決議、種類株主総会、投資家承認、登記対応をまとめて確認しています。議事録を作るだけでなく、後日のDDで説明できる手続の組み立てまで含めて対応しています。