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スタートアップ法務資金調達・投資契約

コンバーティブルノートとJ-KISSの違い|返済義務・満期・転換条件で選ぶスタートアップの資金調達

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

シード期の資金調達の相談で、「コンバーティブルノートでもJ-KISSでも構わないので、とにかく早く着金したい」という依頼を受けることがあります。ここで一度立ち止まって確認するのが、いま提示されている条件が新株予約権なのか、それとも金銭消費貸借契約に基づく貸付金なのか、という点です。この確認を省いたまま契約書に署名すると、次回ラウンドが計画より遅れた場合の対応がまったく違う結果を招きます。

コンバーティブルノートは、貸付金として資金の供給を受け、将来の株式による資金調達を条件に株式へ転換する契約です。法的な器は消費貸借であり、返済義務、満期、利息を伴うデット性を持ちます。これに対してJ-KISSは、取得条項付きの新株予約権を有償で発行する仕組みであり、法的な器は新株予約権で、貸借対照表上は純資産として計上されます。どちらを選ぶかは、着金の速さではなく、返済リスク、転換条件、次回ラウンドへの接続、投資家保護、そして会計・税務上の扱いから決める事項です。

J-KISSの基本的な仕組みと創業者が確認すべき条件はJ-KISSとは?仕組み・資本政策・創業者の確認ポイントJ-KISS調達前のチェックリストで扱っているため、それらを前提に、コンバーティブルノートとの比較という切り口から見ていきます。

貸すか、予約権を渡すか|二つの手段の法的な器

コンバーティブルノートは、米国のシード投資で広く使われている手法で、投資家が発行会社に金銭を貸し付け、将来ベンチャーキャピタル等による株式での資金調達(適格ファイナンス)が実行された時点で、その株式に転換するという約束を契約書だけで交わすものです。法的な性質は金銭消費貸借契約であり、負債として貸借対照表に計上されます。

磯崎哲也氏『起業のエクイティ・ファイナンス』は、日本ではコンバーティブルノートという負債性の調達方法があまり普及せず、新株予約権を用いたコンバーティブルエクイティが普及したと述べています(同書101頁)。同書によると、貸付金の形で資金供給を行う場合、貸金業法上の貸金業者登録が必要になるというのが多くの法律専門家の見解だったため、貸付けという手軽な方法を用いることができなかった経緯があります。その代替として、まず転換社債(転換社債型新株予約権付社債、会社法2条22号・248条)を使う方法が試みられましたが、社債発行の実務経験者が少ないこと、社債の内容変更に裁判所の関与が必要になる場面があること、次のラウンドの投資家が制度を理解しにくいことから、トラブルも多く、この方式は使われなくなったとされています(同書101頁)。

コンバーティブルエクイティの側にも複数の系譜があります。米国ではY Combinatorが2013年末に「SAFE」という契約類型を発表し、シリコンバレーのアクセラレーターである500 Startupsは「KISS」という契約書を設計しました(同書115頁)。日本では2016年、森・濱田松本法律事務所の増島雅和弁護士がこれらを参考にしつつ日本の会社法に適合させる形で設計し、500 Startups Japan(現Coral Capital)が「J-KISS」として公開しました(同書115頁)。日本の会社法には米国のSAFEに相当する証券類型が存在しないため、J-KISSは株式を直接発行する構成を取らず、取得条項付きの新株予約権(会社法236条以下)を法的な器として採用しています。行使に際して出資すべき価額を1円とし、発行価額の総額を転換価額で除した数の株式が交付される設計です(会社法236条1項1号・2号)。

convertible noteSAFEKISSJ-KISSはいずれも将来の株式転換を予定した資金調達という共通点を持ちますが、法的な器が貸付・社債型か新株予約権型かで根本的に異なります。会計処理も異なり、コンバーティブルノートや転換社債は負債の増加として計上されるのに対し、新株予約権は純資産の部に計上されます(企業会計基準適用指針第8号)。負債が増えれば自己資本比率は下がり、創業間もない会社では債務超過に陥りやすくなります。この会計上の違いは、次に説明する満期・利息・返済請求の違いと表裏一体の関係にあります。

満期、利息、返済請求という負債特有の負担

コンバーティブルノートの契約書には、満期日と利息(年率)が定められます。満期までに適格ファイナンスが実行されなければ、投資家は貸付金の元本と利息の返済を請求できる立場にあります。これは会社にとって、資金繰りに直接影響する確定的な金銭債務です。満期が到来した時点で会社に返済原資がなければ、期限の利益を喪失させる条項次第では、当事者の想定より早い時期に資金繰りの問題として表面化します。

J-KISSには利息の定めがなく、転換期限が到来した場合も、直ちに金銭の返還を投資家に求められる設計にはなっていません。ひな形上は、転換期限までに次回株式資金調達が発生しない場合、発行価額総額の過半数を保有する投資家の承認によって普通株式への転換を行使できる仕組みが置かれています。

もっとも、J-KISSにも金銭流出のリスクは残ります。転換前に支配権移転取引等(M&A等)が生じた場合、ひな形では、会社が新株予約権を取得するのと引き換えに、発行価額の2倍に相当する金銭を交付する条項が置かれています(磯崎哲也『起業のエクイティ・ファイナンス』127頁)。約定返済義務としての「借金」とは法的性質が異なりますが、支配権移転という特定の事由が生じれば、会社から投資家へ実際に金銭が流出する設計です。「J-KISSは借金ではないからリスクがない」という理解は不正確で、負債特有の返済請求リスクが後退する代わりに、取得条項に基づく金銭対価という別の資金流出リスクが残っている、と押さえておく必要があります。

次回ラウンドで交渉すべきこと

コンバーティブルノートとJ-KISSのいずれも、転換価額を決める要素として、適格ファイナンスの基準額、ディスカウント、バリュエーションキャップ、完全希釈化後株式数という組み合わせを使います。この計算手続の詳細と、実際にシリーズAで転換手続を進める際の書類・登記の段取りは、J-KISSの転換(行使)手続で扱っています。ここでは、発行前に何を交渉すべきかに絞って確認します。

一つ目は、適格ファイナンスの基準額です。基準額を低く設定しすぎると、想定より小規模な資金調達でも転換イベントに該当してしまい、逆に高く設定しすぎると、次回ラウンドが優先株式による調達であってもJ-KISS上は転換イベントに当たらないという事態が起こり得ます。磯崎哲也氏は同書で、J-KISSのひな形が適格ファイナンスで発行される株式を優先株式に限定していないため、基準額を低く設定すると普通株式に転換されてしまう確率が上がると指摘し、少なくとも1億円以上に設定しておくことを勧めています(同書126頁)。この水準はあくまで同書の著者の見解であり、案件ごとの調達規模や次回ラウンドの想定評価額に応じて検討すべき事項です。

二つ目は、ディスカウントとキャップのどちらが実際に効くかです。会社の評価額が大きく伸びるほどキャップが強く効き、伸びが緩やかであればディスカウントが基準になります。複数のシナリオで転換価額と転換後株数を試算しない限り、この判断はできません。

三つ目は、投資家に転換の選択権があるかどうかです。コンバーティブルノートでは、転換するかどうかについて投資家側に選択権がないのが一般的で、転換価格は次回ファイナンスの条件によって事後的に決まります。J-KISSのひな形も、次回株式資金調達を条件として自動的に転換対象になる設計が基本であり、会社側の取得条項によって強制的に処理される場面があります。どちらの手段でも、発行時点で「転換するかどうかを誰が決めるのか」を確認しておかないと、次回ラウンドの交渉で想定外の当事者が意思決定に関与することになります。

M&Aと資金調達不成立時の扱い

株式転換が実現する前に会社が売却される場合や、満期・転換期限までに次の資金調達が実行されない場合の扱いは、コンバーティブルノートとJ-KISSで構造が異なります。

コンバーティブルノートの投資家は、法的には債権者です。満期までに適格ファイナンスが実行されなければ、契約上の返済請求権を行使できます。M&Aの場面でも、債権者としての地位に基づき、株主に先立って弁済を受けられる立場にあります。会社にとっては、M&A交渉やクロージングのスケジュールに、貸付金の返済という確定債務が並走することになります。

J-KISSでは、転換前に支配権移転取引等が生じた場合、発行価額の2倍の金銭で新株予約権を取得されるか、キャップを基準に株式へ転換したうえで売却に参加するかのいずれかになる設計です。転換期限までに次回株式資金調達が発生しない場合は、発行価額総額の過半数の保有者の承認によって普通株式へ転換できる仕組みが置かれていますが、期限到来だけで処理内容が確定する設計にはなっておらず、延長するのか、条件を変更するのか、普通株式に転換するのかを、その時点の会社の状況を前提に投資家と交渉することになります。転換期限の定めを特定の日付に変更する延長合意の実例は、J-KISS調達前のチェックリストで紹介したとおりです。

両者を並べると、コンバーティブルノートは「確定した返済義務」という形で不成立時のリスクが顕在化し、J-KISSは「多数投資家との交渉」という手続的な対応で不成立時のリスクに向き合う構造だと整理できます。どちらが会社にとって扱いやすいかは、次回ラウンドの確度と、投資家との関係の強さによって変わります。

既存投資契約と定款の確認

いずれの手段を選ぶ場合でも、既存の投資契約・株主間契約と定款を先に確認しておく必要があります。

既にJ-KISSや優先株式を発行している会社では、既存の投資契約に、新株予約権や株式の発行前に必要な事前承諾事項や、既存投資家の持株比率を維持するための優先引受権が定められていることがあります。J-KISSのひな形には、会社が既存の契約に重要な点で違反していないことを表明保証する条項が置かれているため、既存契約上の通知や承諾を欠いたまま新しいJ-KISSを発行すると、既存投資家との関係の問題にとどまらず、新規投資家に対する表明保証違反の問題にも発展し得ます。会社法上の手続としては、新株予約権を引き受ける者を募集する場合、募集事項の決定は原則として株主総会の決議によります(会社法238条1項・2項)。種類株式発行会社では、目的となる株式の種類や定款の定めによって種類株主総会の要否も確認する必要があります。

コンバーティブルノートを金銭消費貸借契約として構成する場合は、会社法上の新株予約権の手続は不要になる一方、貸金業法上、貸主が貸金業者登録を要する属性に当たらないかという論点や、利息制限法の上限金利との整合性、既存の金融契約に付されている担保提供制限・財務制限条項(コベナンツ)との抵触がないかという論点が別途生じます。これらは税務・貸金業規制に関する専門的な確認が必要な領域であり、契約書の文言だけで判断せず、貸主の属性と既存契約の制約条項を個別に確認する必要があります。

どの状況で候補になるか

J-KISSは、シード期からプレシリーズAにかけての資金調達で広く使われていますが、案件ごとに向き不向きがあり、一律に選べる手段ではありません。候補として比較する軸は、ブリッジの性質、既存優先株主の有無、次回ラウンドの確度です。

ブリッジの性質という点では、まだ株式による調達を一度も行っていない会社が最初の外部資金を受け入れる場面と、既に優先株式ラウンドを終えた会社が次回ラウンドまでの短期の繋ぎ資金を必要とする場面とでは、資本構成に与える影響が異なります。後者では、既存の優先株式の内容との整合や、既存投資家の優先引受権との調整が必要になり、単純に「シード期と同じJ-KISSをもう一度使う」という判断では済まないことがあります。

既存優先株主の有無という点では、優先株主が既にいる会社では、その株主との投資契約・株主間契約上の事前承諾事項や優先引受権を確認しないまま新株予約権を発行すると、既存契約違反のリスクを負います。優先株主がいない会社であれば、この確認の負担は相対的に軽くなります。

次回ラウンドの確度という点では、近い時期に優先株式ラウンドを実行できる見込みが高い会社では、J-KISSの転換前提の設計と相性がよく、転換価額の計算や種類株式の設計に集中して準備を進められます。反対に、次回ラウンドの時期や実現可能性が不透明な会社では、転換期限が到来した時点で「多数投資家の承認による転換」という交渉局面に頼ることになりやすく、その時点での投資家との関係が結果を左右します。この場合、コンバーティブルノートのような確定的な返済義務を負う手段は、資金繰りへの影響がより直接的である一方、投資家側からは債権者としての優先的な地位を得られるという交渉材料にもなり得ます。

発行前の希薄化試算

どちらの手段を選ぶ場合でも、発行前に複数シナリオの希薄化試算を作成しておく必要があります。

試算に入れる要素は、次回ラウンドの想定評価額を複数置いたうえでの転換価額(キャップが効く場合とディスカウントが効く場合の両方)、完全希釈化後株式数の内訳(発行済株式、発行済ストックオプション、未発行のオプション・プールの枠、他の新株予約権の扱い)、そして既存株主とストックオプションプールへの影響です。ディスカウントで転換する分がある場合には、その転換後株数を分母に反映して再計算する必要があり、一度の計算では終わりません。

翌営業日に準備する資料としては、次の四点が具体的な出発点になります。現在の資本政策表(発行済株式、発行済ストックオプション、既存の新株予約権を含む)、既存の投資契約書・株主間契約書のうち事前承諾事項と優先引受権に関する条項、現行定款のうち発行可能株式総数と種類株式の内容に関する部分、そして次回ラウンドの想定時期と評価額に関する社内メモです。これらがそろって初めて、コンバーティブルノートとJ-KISSのどちらが、あるいはそのいずれでもない優先株式による直接調達が、自社の状況に合っているかを比較できます。

よくある質問

コンバーティブルノートとJ-KISSは同じものですか?

いいえ。コンバーティブルノートは金銭消費貸借契約に基づく貸付金であり、返済義務、満期、利息を伴うデット性の調達手段です。J-KISSは、取得条項付新株予約権を有償で発行するコンバーティブルエクイティであり、法的な器も貸借対照表上の扱い(負債か純資産か)も異なります。SAFEやKISSも含め、いずれも将来の株式転換を予定する点は共通しますが、同じ言葉として扱うと返済リスクの見落としにつながります。

J-KISSは新株予約権だから、資金を返す義務は一切ありませんか?

J-KISSは負債ではないため、コンバーティブルノートのような約定返済義務は負いません。ただし、転換前に支配権移転取引(M&A等)が生じた場合には、発行価額の2倍に相当する金銭を対価として新株予約権を取得される条項が置かれるのが通常であり、金銭の流出が生じない設計ではありません。「借金ではないからリスクがない」と単純化して理解すべきではないと考えられます。

既に優先株主がいる会社でも、J-KISSは同じように使えますか?

使えるとは限りません。既存の優先株式に付随する投資契約・株主間契約には、新株予約権の発行前に必要な事前承諾事項や優先引受権が定められていることがあります。既存投資契約と定款を確認しないまま発行すると、既存投資家との契約違反や、新規投資家に対する表明保証違反の問題に発展する可能性があります。

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