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M&A法務

M&Aスキームの選び方|株式取得・事業取得・組織再編を絞り込む法務の視点

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

対象会社との大枠の条件がまとまり、「株式譲渡か、会社分割か」を検討する段階では、取引後に何をどの会社へ残すかを先に確認します。スキームの名称だけでは、必要な手続や契約条件は決まりません。

しかし、実際の検討順序は逆です。支配権をどこまで取得するか、承継したい対象は何か、対価は現金か自社株式かといった点に加え、少数株主や許認可、税務の論点を先に固めてから、候補となるスキームを絞り込みます。株式譲渡と事業譲渡それぞれの承継範囲、契約・従業員・許認可の扱いは株式譲渡と事業譲渡の違いで比較しています。

スキーム選択で先に確認する六つの問い

候補を絞り込む前に、次の六点を確認します。

  • 対象の取得割合(100%取得か一部取得か)
  • 対象会社の法人格の扱い(存続か消滅か)
  • 承継から除外したい資産や負債の範囲
  • 対価の支払手段(現金か自社株式か)
  • 取引後の少数株主の有無
  • 統合後の経営や運営の体制

この六つの前提が固まらないまま「株式譲渡か事業譲渡か」だけを議論すると、承継したくない債務や少数株主の扱いといった決定的な論点が後回しになります。たとえば株主が分散している対象会社の100%取得を目指す場合、任意の株式譲渡だけを前提にすると、譲渡に応じない株主の分は取得できず、取得比率が目標に届かないことがあります。この場合には、後述する少数株主の扱いまで含めて検討を進める必要があります。

株式取得・事業取得・組織再編の位置付け

M&Aの手法は、大きく「株式を取得するもの」と「事業を取得するもの」に分かれます。さらにそれぞれについて、会社法上の組織再編手続によらない手法と、組織再編手続による手法が存在します。

手法 移転する対象 対価の受け手 法人格の扱い 主な根拠条文・手続
株式譲渡(相対・公開買付) 既発行株式 既存株主 対象会社は存続 対象会社側では原則不要。売主会社の一定規模の子会社株式売却は467条1項2号の2、譲渡制限株式は譲渡承認を別途確認
第三者割当(新株発行等) 新株・自己株式 発行会社 対象会社は存続 会社法199条以下
事業譲渡 事業を構成する資産・負債・契約等を個別に特定 譲渡会社 譲渡会社・譲受会社とも存続 会社法467条以下
吸収分割 事業に関する権利義務の全部又は一部 分割会社 分割会社・承継会社とも存続 会社法2条29号、757条以下
新設分割 事業に関する権利義務の全部又は一部 分割会社 分割会社は存続、新会社が設立される 会社法2条30号、762条以下
吸収合併 消滅会社の権利義務の全部 消滅会社の株主 消滅会社は消滅する 会社法2条27号、748条以下
株式交換 完全子会社となる会社の発行済株式全部 完全子会社となる会社の株主 双方存続し完全親子関係となる 会社法2条31号、767条以下
株式移転 発行済株式全部 元の会社の株主 新設の完全親会社が成立する 会社法2条32号、772条以下
株式交付 子会社化に必要な範囲の株式(発行済株式全部でなくてよい) 株式を譲り渡す株主 双方存続 会社法2条32号の2、774条の2以下

株式交換が完全子会社化(100%取得)を前提とする手法であるのに対して、株式交付は他の株式会社を自社の子会社とするために必要な範囲の株式を譲り受け、その対価として自社株式を交付する制度です(会社法2条32号の2、774条の2以下)。買収後も対象会社に一定割合の少数株主を残したい場合には、株式交付が検討候補になります。ただし、他の日本の株式会社を法務省令所定の子会社にする取引であり、対価の少なくとも一部に自社株式を用いるなどの要件があります。外国会社の取得や、すでに子会社である会社の株式の買増しに、そのまま使える制度ではありません。なお、株式譲渡と事業譲渡の対象・対価・法人格の違いは、株式譲渡と事業譲渡の違いで表を用いて比較しています。

対象会社の事業の一部だけを取得したい場合、対象事業を直接、事業譲渡や会社分割で引き渡す方法のほかに、売主側がいったん会社分割や現物出資で対象事業を新設・既存の子会社に承継させ、その子会社株式を買主が譲り受ける手法も実務でよく使われます。会社分割などの組織再編では会社法上の計画書や契約書の法定記載事項に縛られ、アーンアウトやエスクローのような柔軟な対価条項を直接盛り込みにくい制約があります。後払い等の可否は、法定の契約・計画の要件に適合するか、別の契約で調整できるかを踏まえて判断します。対価の設計に幅を持たせたい場面では、この二段階の手法も候補になります。

包括承継と個別承継の違い

事業譲渡は、事業を構成する契約、債務、労働契約などの権利義務を個別に特定して買い手に移転させる手法です。契約上の地位の移転には契約の相手方の承諾が、債務の引受によって売主を免責させるには債権者との合意・承諾等の法定要件の充足が、労働者の移転には各労働者本人の同意がそれぞれ求められます。これに対して、会社分割や合併は、権利義務を一括して移転させる包括承継の手法です。

会社分割では、事業に関する契約上の地位は原則として相手方の同意を得ずに承継させることができます。承継対象事業に主として従事し、分割契約・計画に労働契約の承継が定められた労働者は、法定手続を経て従前の労働条件のまま承継されます。主として従事しているのに承継対象から外れた労働者は、異議を申し出て承継を求められます。反対に、主として従事していないのに承継対象とされた労働者は、異議を申し出て分割会社に残ることができます。もっとも、これは一人ひとりから個別に同意書を取り付ける手続が不要になるという意味であり、手続そのものを省略できるわけではありません。労働者に対しては労働契約承継法に基づく書面通知や協議の手続が義務付けられており、一定の要件を満たす労働者には異議申出の権利が認められています。

債権者保護の手続も同様です。会社分割において、分割後に分割会社に対して債務の履行を請求できなくなる債権者がいる場合、会社は官報による公告と、知れている債権者への個別催告を行わなければならず、異議を述べることができる期間は1か月を下ることができません(会社法789条1項2号・2項、810条1項2号・2項)。一定の財産を株主へ交付する分割などでは対象債権者の範囲が広がるため、取引ごとに確認します。法定要件を満たす二重公告で個別催告を省略できる場合もありますが、会社分割における不法行為債権者には個別催告が必要です。吸収分割の承継会社側の債権者についても、会社法799条の手続を別に確認します。期間内に異議が述べられなかった債権者は分割を承認したものとみなされますが、異議が述べられた場合は、弁済や担保提供などの対応が必要です(債権者を害するおそれがないときを除きます。会社法789条4項・5項、810条4項・5項)。吸収合併における消滅会社の債権者などにも同様の手続があります(会社法789条1項1号、810条1項1号)。会社分割や合併を選ぶ理由が「契約や労働者の個別同意を省くため」であったとしても、債権者保護や労働契約承継法の手続日程は、実行スケジュールにあらかじめ織り込んでおく必要があります。

デューデリジェンスで判明したリスクを承継対象からどのように切り離すかという論点は、法務デューデリジェンスで確認した事項を踏まえて具体的に設計します。

少数株主への対応と法規制の事前確認

対象会社に少数株主が残ったまま取引を進めると、買収後の重要事項決定などで想定以上の調整負担が生じる場面があります。完全子会社化(100%取得)を目指す場合で株主全員から任意の株式譲渡の合意を得られないときは、総株主の議決権の10分の9以上(対象会社の定款がそれを上回る割合を定めている場合はその割合以上)を有する特別支配株主が残りの株式等を強制的に取得する株式等売渡請求(会社法179条以下)、株式併合、全部取得条項付種類株式の取得といった手法が選択肢となります。

株式等売渡請求には対象会社の承認も必要です。これらの手法には、取得価格の公正さの確保、少数株主への通知や公告、反対株主による裁判所への価格決定申立てなど、それぞれ固有の手続要件があります。株主構成や取得可能な議決権割合によって採りうる手段が異なるため、対象会社に少数株主がいると分かった段階で、スキーム選定と並行して手続の検討に入ります。

許認可は、原則として名義人である法人に対して与えられます。株式譲渡や株式交換、株式交付のように対象会社の法人格がそのまま存続する手法では、名義人が変わらないため許認可は維持されやすい傾向にあります。ただし、業法によっては株主構成の変更自体に届出や承認を義務付けているものもあります。一方、事業譲渡や会社分割で別の会社が事業を引き受ける場合は、根拠法令に承継を認める規定があるかを個別に確かめます。法令上の承継規定がない業種では、譲受側で許認可を新規に取得し直すことになり、審査日程が全体のスケジュールに影響します。

買い手や出資者に外国法人や非居住者(外国投資家が実質的に支配する国内法人を含みます)が含まれる場合は、外為法の対内直接投資審査制度も確認します。財務省や日本銀行が公表する指定業種(国の安全に関わるコア業種を含みます)に対象会社の事業が当てはまる場合、投資家の属性、取得する議決権の割合、免除制度の適用条件などに応じて、事前の届出を要することがあります。届出後は原則として一定の待機期間(実行禁止期間)が置かれます(財務省対内直接投資審査制度について)。上場会社について公表されている財務省のリストも参考資料であり、届出要否を確定するものではありません。上場・非上場を問わず、投資家自身が対象事業と取引内容を照合します。

独占禁止法に基づく企業結合規制への配慮も欠かせません。一定規模を超える株式取得や組織再編を行うときは、公正取引委員会への事前届出が必要となる場合があります。届出基準は取引類型ごとに異なります。たとえば株式取得では、買い手側企業結合集団の国内売上高合計額が200億円を超え、対象会社とその子会社の国内売上高合計額が50億円を超え、かつ取得側集団の議決権保有割合が新たに20%超または50%超となる場合に届出が必要です(公正取引委員会株式取得の届出制度)。合併や会社分割などにもそれぞれ別の基準が定められています。取引類型と売上高の規模が固まった段階で、該当する制度の詳細を個別に確認します。

法務・税務・会計を並べるスキームメモ

スキーム候補を比較する際は、法務だけで判断できる論点と、税務や会計の確認を要する論点を同じ表に置いて整理すると、専門家との初回協議が具体的になります。

論点 法務で確認する事項 税務・会計で確認する事項
支配権 取得比率、少数株主の有無、必要な承認決議 連結範囲、のれん等の会計処理の適用可否
承継対象 契約・許認可・訴訟・偶発債務を個別に特定する必要があるか 資産の時価評価、繰越欠損金の承継可否
対価 現金・株式の別、対価の受け手(株主か対象会社か) 消費税、登録免許税、不動産取得税の発生有無
少数株主・債権者 買取請求・異議手続の要否と公告・催告のスケジュール 少数株主持分の会計処理
従業員 個別同意の要否、労働契約承継法の適用有無 退職給付債務の引継ぎ
許認可・届出 承継手続の有無、競争法・外為法の届出要否と待機期間 届出費用、実行スケジュールへの影響

このメモを対象会社ごとに埋めておくと、法務・税務・会計の担当者が同じ前提を共有して検討に臨めます。対価や補償の設計に落とし込む段階ではSPA(株式譲渡契約)の補償・価格調整・クロージングを、スキームを書面に落とし込む段階ではM&A基本合意書(LOI)レビューを確認します。検討の初期段階では、この表の各行に対応する社内資料(株主構成、契約一覧、許認可一覧、想定対価、対象事業に従事する従業員の範囲)を洗い出すところから着手します。スキーム選定から最終契約までの対応内容はM&A支援で確認できます。

よくある質問

M&Aのスキームは何から決めればよいですか?

株式譲渡や会社分割といった名称から選ぶのではなく、支配権、承継対象、対価、少数株主、債権者、従業員、許認可、税務、競争法及び実行後の組織という論点を先に確認し、候補となるスキームを絞り込みます。

会社分割を使えば従業員や契約先の同意なしにM&Aを実行できますか?

会社分割では契約上の地位を相手方の同意なく承継させることができ、承継する事業に主として従事する労働者も同意なく承継されますが、債権者に対する公告・催告と異議手続、労働者に対する労働契約承継法上の通知・異議手続は必要です。同意・通知・異議の手続が一切不要になるわけではありません。

M&Aで公正取引委員会への届出が必要になるのはどのような場合ですか?

取引類型ごとに国内売上高合計額や議決権割合の基準が定められています。株式取得では、株式を取得しようとする会社側の国内売上高合計額が200億円を超え、株式発行会社側が50億円を超え、議決権保有割合が新たに20%又は50%を超える場合に届出が必要になります。合併や会社分割等には別の基準があるため、取引類型が固まった段階で個別に確認します。

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