契約書・規程の2案を比較表にまとめる|生成AIを使った差分確認
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
「修正前と修正後で何が変わったのか」「相手方のA案と当社のB案はどう違うのか」を整理する場面は、法務でよくあります。業務委託契約の交渉で、相手方から修正版が返ってきたとき、どの条項がどう変わったのかを正確に把握しないと、知らないうちに不利な変更を受け入れてしまうおそれがあります。
こうした「2つのものを並べて違いを見る」作業は、目が滑りやすく、時間もかかります。生成AIは、違いを比較表にまとめるのが得意で、検討の出発点を素早く用意してくれます。生成AIとは、ChatGPTやClaude、Geminiのように、文章で指示すると文章で答えてくれるサービスのことです。
比較表を実務で使うには、文言の差だけでなく、どの権利義務が変わったか、どの当事者に影響するか、原文のどこを再確認すべきかまで示す必要があります。生成AIには差異の候補を拾わせ、最終的な変更履歴と原文はWordその他の正確な比較手段で確認します。
「並べて違いを見る」を任せる
2つの文章を見比べて違いを拾う作業は、人がやると見落としが起きやすい部分です。生成AIに「違いを表にして」と頼むと、項目ごとに並べた形にしてくれるため、検討の出発点が作れます。
たとえば、相手方から提示されたNDA(秘密保持契約)と、当社の標準フォーマットを並べて、「秘密情報の定義」「目的外利用の禁止」「存続期間」「損害賠償」といった項目ごとに違いを表にしてもらうと、どこを交渉すべきかが一目で見えてきます。標準フォーマットと比べることで、相手方の案で「足りていない条項」や「当社案より重くなっている義務」が浮かび上がるため、自社の型を持っている会社ほど、この使い方は効果的だと考えています。
何を比べたいかを指定する
ただ「比べて」と言うより、比較の観点(表の列)を指定すると、目的に合った表になります。観点を指定しないと、文章表現の細かな違いまで拾ってしまい、肝心の論点が埋もれることがあります。法務で比較に使いやすい観点には、次のようなものがあります。
- 当社にとっての有利・不利
- リスクの大きさ(大・中・小)
- 交渉の余地があるか(必須で直したい/できれば直したい/受け入れ可)
- 該当する条番号
「当社への影響(有利/不利/要検討)」のような列を加えると、表がそのまま判断の材料になります。自社が委託者なのか受託者なのか、開示側なのか受領側なのかによって有利・不利は逆になるため、立場を最初に伝えておくことが大切です。
どんな場面で使えるか
比較表が役立つ場面は、契約交渉にとどまりません。法務の実務では、次のような場面で使えます。
- 相手方から提示された契約書と、自社の標準フォーマットを並べて、差を確認する
- 同じ取引について、2社の取引先から届いた契約条件を並べて、どちらが当社に有利かを検討する
- 利用規約やプライバシーポリシーの改定前と改定後を並べて、ユーザーへの影響を確認する
- 社内で作った修正案を複数用意し、それぞれのメリット・デメリットを整理する
いずれの場面でも、AIに作らせるのは「検討の出発点となる一覧」であり、結論ではありません。表で当たりを付け、重要な部分は人が原文で確認する、という流れを守ることが大切だと考えています。
サンプル:2案の比較表(基本形)
次のA案とB案を比較し、表にまとめてください。当社の立場は「委託者(業務を発注する側)」です。列は「観点」「A案」「B案」「当社への影響(有利/不利/要検討)」でお願いします。比較してほしい観点は次のとおりです。
- 損害賠償の範囲と上限
- 解約・中途解除のしやすさ
- 知的財産権(成果物の権利)の帰属
- 秘密保持の範囲と存続期間
- 再委託(下請に出すこと)の可否
差がない項目は「実質的に同じ」と記載してください。判断に契約書の他の条項が必要な場合は「要確認」と明記してください。以下にA案とB案を貼り付けます。【A案】…【B案】…
出てきた表の読み方
AIが返してくる比較表は、次のようなイメージになります。列の見方は、このあと順に説明します。
| 観点 | A案 | B案 | 当社への影響 |
| 損害賠償の上限 | 上限なし | 契約金額が上限 | 有利(B案) |
| 中途解除 | 30日前通知で可 | 解除不可 | 不利(B案) |
| 知的財産権 | 当社に帰属 | 受託者に帰属 | 不利(B案) |
このような表が出てきたら、まず「当社への影響」の列を見て、不利と評価された項目に当たりを付けます。次に、その項目について原文の条項を読み、本当にその評価でよいかを確かめる、という順番で進めると効率的だと考えています。表はあくまで「どこを重点的に読むか」を教えてくれる地図のようなもので、結論そのものではない点に注意が必要です。
サンプル:変更前後の差分を表にする(応用形)
契約書の修正前と修正後を渡して、変わった点だけを抜き出してもらう使い方です。交渉で相手方から赤字入りの修正版が返ってきたときに役立ちます。業務委託契約のレビューで一度こちらが修正したものに、相手方がさらに手を入れて返してきた場合、その差分だけを正確に把握したい、という場面で力を発揮します。
次の「修正前」と「修正後」の契約条項を比較し、変わった点だけを表にまとめてください。列は「条番号」「修正前」「修正後」「変更の意味(当社にとって有利か不利か)」でお願いします。
- 文言の細かな言い回しの違いではなく、権利義務が変わる変更に絞ってください
- 削除された条項、追加された条項も漏らさず拾ってください
- 有利・不利の判断が難しいものは「要確認」と明記してください
修正前と修正後は、それぞれ次に貼り付けます。順番を入れ替えないでください。【修正前】…【修正後】…
「変わった点だけ」「権利義務が変わる変更に絞る」と指定すると、表が見やすくなります。ただし、AIが微妙な変更を見落とすことがあるため、重要な契約では、原文同士の照合や、Wordの変更履歴の確認も併用してください。
よくある失敗
1つ目は、比較表を最終結論として鵜呑みにしてしまうことです。比較表はあくまで検討の出発点で、重要な差異は原文に戻って確かめます。表の「有利/不利」も、AIの一般的な判断にすぎません。
2つ目は、AIが差分を取り違える、または見落とすことです。「30日前までに通知」が「30日以内に通知」へ変わると意味が大きく違いますが、見た目が似ているため、表で「変更なし」と扱われてしまうことがあります。
数字・期間・「以上/以下」「できる/できない」といった、意味が反転しやすい箇所は特に注意して原文と見比べます。この種の反転は、AIが最も見落としやすい変更です。
最後に多いのが、立場を伝えずに有利・不利を判断させてしまうことです。同じ条項でも、委託者と受託者では有利・不利が逆になります。
立場を最初に指定しないと、表の評価が自社の実態と合わなくなります。立場は毎回、プロンプトの冒頭で明示するのが安全です。
使うときの注意点
- 比較表は検討の出発点です。重要な差異は、必ず原文同士で確認してください
- AIが差分を取り違える・見落とすことがあります。特に数字・期間・「できる/できない」の反転に注意し、表を鵜呑みにしないでください
- 有利・不利の評価は、自社の立場や取引の実態を踏まえて、人が最終判断してください
- 2つの案を貼る前に、秘密情報・個人情報の取扱いを確認してください。会社が許可したサービスか、入力がAIの学習に使われない設定かを確認することが大切です