社内向けリスク説明メモのたたき台を作る|生成AIの活用法
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
契約書を検討する法務の役割は、不利な条項を見つけ出すことにとどまりません。見出したリスクを事業部門や決裁者に分かりやすく伝え、決裁者が、契約を進めるか、条件を変えるかを判断できる説明が求められます。たとえば業務委託契約の審査で賠償責任の上限が設定されていないことに気づいたとしても、条文の番号や法律用語をそのまま並べるだけでは、「結局どの程度危険で、何を判断すればよいのか」が決裁者には伝わりません。
ChatGPT、Claude、Geminiなどを使えば、確認した論点を「リスク・影響・対応案」の形に書き直す下準備を任せられます。ただし、契約書に責任上限の定めがない場合であっても、請求された損害額が直ちに全額認められるわけではありません。民法415条や416条に基づき、債務不履行の要件や通常損害・特別損害の範囲、予見可能性といった法的な枠組みに従って賠償の有無や範囲が定まるためです。契約に上限がないことと、賠償額をあらかじめ定める「賠償額の予定」(民法420条)は区別します。こうした法的評価や会社の事情を踏まえ、どの選択肢を採るかは会社の決裁権限に従って人が決定します。
専門的な条項の翻訳と判断の前提
社内のリスク共有では、条項の文言をそのまま引くのではなく、「リスク」「影響」「対応案」の3要素に分けて提示すると、決裁者が素早く判断できるようになります。
たとえばクラウドサービス(SaaS)の利用規約で、サービス提供者が自らの都合により一方的に提供を停止できる条項が含まれていたとします。この場合、リスク(事業者の裁量によるサービス停止の可能性)、影響(業務システムとして利用している場合の業務停止リスク)、対応案((a) 事前通知期間と代替措置の要求、(b) 停止しても支障が生じない運用への限定、(c) 低リスク業務に限り現状のまま受容)という形で整理します。
対応案を「相手方と交渉する」という1点だけに絞るのではなく、運用での回避やリスクの受容といった複数の選択肢を用意しておくことが、実務で意思決定を前進させる助けになります。法務が法的な選択肢を示し、取引金額や相手方との関係、代替手段の有無を考慮して社内の意思決定者が最終方針を決定します。
取引の性質と自社の立場による着眼点
同じ契約類型であっても、自社が委託者側なのか受託者側なのかによって、重視すべきリスクは異なります。業務委託契約であれば、委託者側では成果物の品質保証、検収手続きの明確性、知的財産権の帰属が主要な関心事になります。受託者側では、際限のない修正要求の防止、賠償責任の範囲、再委託の自由度などが中心的な検討事項となります。秘密保持契約(NDA)においても、情報開示側か受領側か、双方が秘密保持義務を負うか、一方だけが負うかによって、確認する点が変わります。
また、契約金額の多寡だけでリスクの大きさを測ることはできません。数万円程度の小規模な契約であっても、顧客の個人データを取り扱う場合や中核業務に関わる場合には、情報漏えいや業務停止に伴う重大な影響が生じ得ます。金額の大小にとらわれず、実質的な影響の大きさに応じて論点の優先順位を見極める視点が大切です。
リスク説明メモの作成プロンプト
まずは、契約書からリスク、影響、対応案の3要素を抽出し、社内メモの骨格を作成させる基本プロンプトです。
次の契約書について、社内の決裁者向けのリスク説明メモのたたき台を作ってください。当社の立場は「受託者(業務を受ける側)」です。形式は、リスクごとに次の3点でお願いします。(1)リスクの内容(専門用語は避け、一文で)、(2)起きた場合の影響(当社の業務・金銭面で)、(3)考えられる対応案(交渉する/運用で回避する/受け入れる、を複数併記)。
重要度の高い順に並べてください。これは社内検討用のたたき台で、最終判断は人が行います。不確実な点や、契約書だけでは判断できない点は「要確認」と明記してください。
【ここに契約書または論点メモを貼り付け】
契約書だけでは分からない社内事情や事実関係は、推測で埋めずに「要確認」と表示させます。出力された重要度の順番も、実際に業務や金銭面で生じる影響を踏まえて見直します。
決裁者向け報告文への展開
整理したリスクメモをもとに、事業部長などの決裁者へ送る社内報告メールの下書きを作るプロンプトです。送る前に内容を確認し、必要な修正を加えます。
先ほど整理したリスクメモをもとに、事業部長に宛てた社内報告メールの下書きを作ってください。社内向けの文章なので率直で構いませんが、断定しすぎず、判断に必要な材料を示す書き方にしてください。
- 冒頭3行で「結論(締結を進めてよいか/要交渉か)」が分かるように
- 本文は、特に重要なリスクを3つに絞って、リスク・影響・対応案の順で
- 最後に「ご判断いただきたい点」を箇条書きで2〜3個
このプロンプトで報告文を作成する際は、冒頭の結論部分をAIに勝手に判断させず、人間があらかじめ確認した方針を指示するか、「要確認」として人間が選択できるように整えます。また、社内向けの報告メモには社内の許容度や交渉の落としどころが記されるため、相手方に送付する契約修正案とは明確に分けて管理します。
実務で生じやすい認識のずれ
契約書の一部に「損害賠償の上限なし」と見える条項があっても、別の条項で別段の定めや免責事項が置かれている場合があります。AIの出力を鵜呑みにせず、引用された条文番号や文言を原本全体と突き合わせて確認する作業が欠かせません。また、AIは一般的な契約類型を前提とした指摘を行う傾向があるため、提示されたリスクが自社の具体的な取引実態や業務運用に適合しているかを人間が評価し直す必要があります。
契約書や社内メモを入力する際は、情報管理の社内基準に従い、承認された環境で、入力できる情報の範囲を確かめます。サービスのデータ保存・利用条件も、社内のルールと合わせて確認します。
- 原本全体の条項と突き合わせたリスクの重大性と文脈の確認
- 取引金額のみに左右されない情報漏えいや業務停止リスクの評価
- 社内協議用の判断メモと相手方への修正提案の明確な区分
- 企業が承認した利用環境に基づく秘密情報の管理確認