契約書から期限・金額・義務を一覧で抜き出す|生成AIの便利な使い方
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
契約書を読むとき、「いつまでに」「いくら」「何をしなければならないか」を拾い出す作業は、抜け漏れがとても起きやすい部分です。たとえば、SaaSの利用契約や業務委託契約を思い浮かべてみてください。契約期間と更新の条件は第2条、利用料と支払期限は第5条、解約は第15条、損害賠償は別表、というように、期限や金額が契約書のあちこちに散らばっていることがよくあります。これらを一つでも見落とすと、自動更新に気づかず不要な契約を続けてしまったり、支払期限を過ぎて遅延損害金が発生したりと、実害につながりかねません。
法務やバックオフィスの現場では、こうした重要事項を契約ごとに台帳へ整理し、期限が近づいたら担当部署に知らせる、といった管理が必要になります。その第一歩が、契約書から「期限・金額・義務」を漏れなく拾い出すことです。
生成AI(ChatGPT、Claude、Geminiなど、文章を理解して文章で答えてくれるAIサービスの総称です)は、こうした項目を一覧として抜き出すのが得意です。人が目視で拾うと見落としが起きやすい部分を、いったん生成AIに拾わせ、人が原文と照らして確認する。この流れが現実的だと考えています。抽出結果を契約管理に使える形へ落とすには、項目名だけでなく、根拠条文、期限の起算点、対応する当事者までそろえる必要があります。
ばらばらに散らばった情報を一覧にする
契約書では、期限や金額が複数の条項に分かれて書かれていることがよくあります。これを一覧にまとめると、対応漏れの防止や社内共有がしやすくなります。
たとえば業務委託契約であれば、契約期間と更新条件、委託料と支払期限、検収の期間、再委託の可否、知的財産権の帰属、損害賠償の範囲と上限、中途解約の予告期間、契約終了後のデータ返還といった項目が、それぞれ別の条項に置かれていることが多いです。これらを一覧にしておくと、「更新の意思表示は満了の何か月前までか」「解約には何日前の通知が必要か」といった、後から必ず確認したくなる事項をすぐに参照できます。
人が一条ずつ目で追って拾うと、どうしても見落としが起きやすくなります。生成AIにいったん拾わせて骨格を作り、人がその一覧を原文と突き合わせて確認する、という分担が向いていると考えています。
表の形にして、根拠条文を併記させる
抽出結果は、「表にまとめてください」と頼むと、項目・内容・該当条項が並んだ見やすい形になります。一覧にするときは、必ず根拠となる条番号を併記させることが大切だと考えています。
根拠条文が併記されていれば、一覧の数字が正しいかどうかを、その場で原文に戻って確かめられます。逆に、条番号がないと、抜き出された「支払期限:月末締め翌月末払い」という記載が本当に契約書のとおりなのかを確認するのに、また契約書全体を読み直すことになってしまいます。
あわせて、「記載が見当たらない項目は記載なしとしてください」と指示しておくことも大切です。たとえば損害賠償の上限について「記載なし」と返ってくれば、もともと上限の定めがない契約なのか、それとも抜き出し漏れなのかを切り分けるきっかけになります。一覧に空欄があると、見落としたのか、もともと無いのかが判断できなくなってしまいます。
サンプル:重要事項の抽出(基本形)
まずは、抜き出したい項目を指定し、根拠条文を併記させる基本形です。
次の契約書から、以下の項目を抜き出し、表にまとめてください。
各項目には、根拠となる条番号を併記してください。
記載が見当たらない項目は「記載なし」としてください。
原文にない内容は推測で補わないでください。
・契約期間と更新の条件
・支払金額と支払期限
・当事者それぞれの主な義務
・解約・中途解除の条件(予告期間を含む)
・損害賠償に関する定め(範囲・上限の有無)
【ここに契約書を貼り付け(社名・個人名は伏せる)】
「記載なし」を明示させると、もともと無いのか、抜き出し漏れなのかが分かりやすくなります。
サンプル:期限・タスクをカレンダー用に整理する(応用形)
期限の管理に使うことを念頭に、「いつ・何を・誰が」という形でタスクとして整理させると、契約管理台帳やスケジュール表にそのまま転記しやすくなります。
次の契約書から、期限・更新・通知に関する事項だけを抜き出し、対応スケジュールの形で整理してください。
出力は、対応事項 / 期限・起算点 / 対応する当事者 / 根拠条番号 / 備考 の表形式でお願いします。
・「契約満了日の3か月前まで」のように、起算点と期間が分かる形で記載してください。
・自動更新の有無と、更新を止める場合の手続も項目に含めてください。
・原文から読み取れない期限は推測せず、「要確認」と記載してください。
【ここに契約書を貼り付け(社名・個人名は伏せる)】
このように整理しておくと、更新期限や解約予告の起算点を見落とすリスクを下げやすくなります。
よくある失敗
ここで、契約書からの抽出でありがちな失敗を挙げておきます。
ひとつめは、条番号や数字の取り違えに気づかないことです。生成AIは、「第5条」を「第15条」と取り違えたり、「翌月末払い」を「当月末払い」と誤って整理したりすることがあります。文章としては自然に読めてしまうため、見落とされやすい部分です。だからこそ根拠条文を併記させ、抜き出された期限・金額は一つひとつ原文と照合することが大切だと考えています。
ふたつめは、生成AIが原文にない条件を補ってしまうことです。たとえば、契約書には「協議のうえ更新する」としか書かれていないのに、一覧では「1年ごとに自動更新」と整理されてしまう、といったことが起こり得ます(このように、それらしい誤りを作ってしまう現象をハルシネーションと呼びます)。一覧の便利さと引き換えに、確認の手間までは省けません。
みっつめは、別紙や別表を渡し忘れることです。契約書本文に「料金は別表のとおり」「業務範囲は別紙記載のとおり」とあるのに、本文だけを貼り付けてしまうと、肝心の金額や義務が抜け落ちた一覧になってしまいます。抜き出す前に、本文と別紙・別表がそろっているかを確認することが大切だと感じています。
よっつめは、起算点を確認しないことです。「30日前までに通知」とあっても、何の30日前なのか(契約満了日なのか、更新日なのか)が曖昧だと、期限管理には使えません。起算点を読み違えると、期限管理そのものが機能しなくなります。
契約管理の仕組みづくりに広げる
期限・金額・義務の抽出は、一件ごとの読み取りにとどめず、契約管理の仕組みづくりに広げると効果が大きいと考えています。
抜き出す項目の型(契約期間、更新条件、支払、解約予告、損害賠償、データ返還など)をあらかじめそろえておくと、契約ごとに同じ観点で一覧を作れます。それを契約管理台帳に蓄積していけば、更新期限や解約予告の起算点を組織として把握しやすくなります。生成AIには台帳の初稿づくりを任せ、内容を人が確認して確定する、という分担にすると、台帳整備の負担を抑えやすいです。
ただし、契約管理は期限を見落とさないことが何より大切な業務です。生成AIが作るのはあくまで下書きであり、最終的な期限や金額は人が原文で確かめて確定する、という前提は崩さないことが大切だと考えています。
使うときの注意点
- 抜き出した期限・金額・義務は、併記された条番号をたよりに、必ず原文の条項と突き合わせて確認してください
- 生成AIは条番号や数字を取り違えたり、原文にない内容を補ったりすることがあります。一覧は便利ですが、人による確認が前提だと考えています
- 別紙・別表に重要な金額や義務が書かれていることがあります。本文だけでなく、関連資料がそろっているかを確認してください
- 契約書を貼り付ける前に、秘密情報や個人情報の取扱いを確認し、社名・個人名・金額などは必要に応じて伏せてから入力してください