法務FAQ・契約用語集のたたき台を作る|生成AIによる社内ナレッジの整備
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
社内から法務に届く相談には、似た内容が繰り返し寄せられます。「NDAは何のために結ぶのか」「業務委託には請負と準委任があると聞いたが何が違うのか」といった質問です。業務委託は法律上の単一の契約類型ではなく、実態に応じて請負や準委任、あるいは双方が混ざり合った内容になります。こうした問い合わせに毎回ゼロから回答していると、法務の限られた時間が奪われてしまいます。
そこで役立つのが、用語集やFAQ(よくある質問と回答をまとめた資料)です。あらかじめ共有しておけば、事業部門が自ら初期的な疑問を解消でき、法務はより判断を要する個別相談に集中できるようになります。とはいえ、白紙から書き起こす作業には手間がかかります。こうした資料の初稿(たたき台)を素早く組み立てる場面で、生成AI(ChatGPTやClaude、Geminiなどの文章生成サービス)が力を発揮します。
FAQを社内で安定して運用するには、回答の文面だけでなく、対象となる契約類型や想定読者、相談先まで明確にしておく必要があります。生成AIに初稿を依頼した後、自社のルールに合っているかを担当者が確認します。公開後の更新担当者も決めておきます。
繰り返し届く質問から選ぶ
「以前にも同じことを聞かれた」と感じる質問は、FAQの項目にする有力な候補です。過去の相談履歴や想定される質問事項をAIに渡し、Q&Aの形式に整えてもらうと、手作業で書くよりも早く骨格が出来上がります。
法務においてFAQにまとめやすいテーマには、次のようなものがあります。実際に届いている相談から、まずは数問を選んでみます。
- NDA(秘密保持契約)を結ぶ際の基本的な確認点
- 業務委託契約における委託者・受託者の留意事項
- 押印と電子署名の使い分けの基準
- クラウドサービス(SaaS)利用規約の同意基準
- 個人情報を含むデータを外部提供する際の注意点
言葉の意味に、実務で気をつける点を添える
用語集は、単に言葉の辞書的な意味を並べるだけでなく、「なぜ実務で重要なのか」「どのような取引場面で現れるのか」をあわせて記載すると、事業部門の担当者が現場で使える手引きになります。
たとえば、「損害賠償の予定」(民法第420条)を取り上げる場合、次のように整理します。まず定義として、債務不履行が生じた際に支払う賠償額をあらかじめ契約で定めておく合意であることを示します。次に実務上の意味として、有効な予定条項の適用条件を満たせば、実際の損害額を個別に立証することなく予定額を請求できる一方、支払う側にとっては過大な負担になり得るため、金額の妥当性や条項の有効性を確かめることが大切である旨を説明します。そして登場場面として、業務委託契約や売買契約の違約金条項などを挙げます。
説明を読んだ担当者が、「当社が支払う場合に負担できる額か」と法務へ相談できれば、用語集が個別の判断につながります。予定額の記載があれば、どのような違反でも請求できるという意味ではありません。
想定読者と回答の範囲
社内向けの資料は、法律の専門家ではない読者が理解できる言葉遣いに合わせることが大切です。指示を出す際に「専門用語は避け、使う場合は平易な説明を添える」と指定しておくと、実務で使いやすい文章になります。
事業部門向けのFAQでは、迷ったときの相談を促すように指示します。回答の数や長さは、扱う質問に合わせて変えられます。
次のテーマについて、社内の事業部担当者向けのFAQのたたき台を作ってください。質問と回答の形式で、5問程度お願いします。
- 回答は専門用語を避け、3〜5行で。専門用語を使うときは必ず一言で説明を添える
- 判断が分かれる点は「ケースにより異なるため法務に相談してください」と記載
- 断定すると危険な点(金額や期間が状況で変わる等)は、そのように注記してください【テーマ:例「秘密保持契約(NDA)を結ぶときの基本」】
用語集では、言葉の意味に実務での使いどころを添えるように依頼します。具体例が自社の取引にも当てはまるかは、出力後に確かめます。
次の法律用語について、社内向けの用語集のたたき台を作ってください。用語ごとに、次の3点((1) 定義(専門用語を使わず、一文で)、(2) なぜ実務で大事か、(3) どんな契約・場面で出てくるか(具体例を1つ))でお願いします。
事業部の担当者が読む前提です。意味が文脈で変わる用語は、その旨を注記してください。【用語:NDA、業務委託、検収など】
次は、NDAについての回答例です。これだけで署名の可否を判断させるのではなく、自社の承認手続や相談先も添えます。
Q. 取引先からNDAを求められました。すぐ署名してよいですか? A. NDA(秘密保持契約)は、開示される秘密情報の利用目的や管理方法などを定める契約です。署名前に、(1) 守る対象(秘密情報)の範囲が広すぎないか、(2) いつまで義務が続くか、(3) 違反したときの責任、の3点を確認してください。判断に迷う場合は法務にご相談ください。
回答末尾に「法務に相談」という案内を入れておくことで、判断に迷った担当者が相談先を思い出しやすくなります。さらに実効性を高めるには、どのような資料や条件を揃えて誰に相談すべきかという窓口のルールまで明確にしておくことが大切です。
共有前の確認と更新担当者
AIが作成した一般的な解説をそのまま社内資料として公開してしまうと、自社の業務手順や過去の運用方針と食い違いが生じ、かえって現場に混乱を招くおそれがあります。AIの出力はあくまでたたき台であり、自社固有のルールや判断基準は人が追記して整える分担が適切だと考えています。
また、生成AIはもっともらしい不正確な情報(ハルシネーション)を出すことがあります。特に法令の名称や条番号、具体的な数値については、原文や公式情報を参照して入念に確認します。一律に断定せず、状況に応じた例外や留保を適切に残しておくことも欠かせません。
FAQや用語集は、社内の知識資産として継続的に参照されます。作成日や更新責任者、対象となる社内ルールの版数を明示し、法改正や業務手順の変更に合わせて定期的に見直す体制を整えます。また、過去の問い合わせ事例を入力する際は、個別の秘密情報や個人情報が含まれていないかを確認し、会社が認めた利用環境であることを確かめたうえで利用します。