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Insight
契約レビュー法務における生成AI活用法

契約審査とは?AI時代の契約レビューの進め方とチェックポイント

こんにちは!Legal Agent 代表弁護士の朝戸です。

契約審査という言葉はよく使われますが、実務では人によって意味が少しずつ違います。ある人は「契約書の危ない条項を見つけること」と考え、別の人は「相手方に返す修正案を作ること」と考えています。事業部からは「法務チェック」と呼ばれ、法務側からは「レビュー」「赤入れ」「コメント作成」「リスク整理」など、複数の作業がまとめて扱われることがあります。

この言葉の曖昧さが、契約レビューの遅さにつながることがあります。契約審査で何をするのかが整理されていないと、法務は毎回広く読みすぎ、事業部は何を待っているのか分からなくなります。

この記事では、契約審査を実務でどのように進めるべきか、AIを使う場合にどこまで任せ、どこを人間が判断すべきかを整理します。

この記事で分かること

この記事では、このテーマについて、基本的な意味、実務で問題になりやすい場面、契約書で確認すべきポイント、AIで一次整理するときに人が見落としてはいけない点を整理します。定義から入り、次にチェックリストとして確認できる順序にしています

最初に確認するポイント

  • AIに入力されるデータに、秘密情報、個人情報、第三者の著作物が含まれるか
  • AIの出力結果を、誰が、どの業務で、どの範囲まで利用するのか
  • 外部送信、学習利用、ログ保存、再利用の扱いを契約や社内ルールで説明できるか
  • 利用規約、プライバシーポリシー、社内ポリシー、ベンダー契約が同じ前提でそろっているか
  • AIの回答をそのまま採用せず、最終判断者とレビュー手順を決めているか

契約審査は、条項チェックだけではない

契約審査とは、契約書の内容を確認し、自社にとって受け入れられる条件かどうかを判断する業務です。

ただし、実務上の契約審査は、条項の法的有効性だけを見るものではありません。少なくとも、次の要素を含みます。

  • 契約類型の確認
  • 自社の立場の確認
  • 取引背景の理解
  • 契約書本文のレビュー
  • 別紙、仕様書、SOW、見積書の確認
  • 重要条項のリスク評価
  • 修正案の作成
  • 社内向けコメントの作成
  • 相手方向けコメントの作成
  • 交渉方針の整理

契約書の文言だけを見ると、一般的には問題がなさそうに見える条項でも、取引背景によっては大きなリスクになることがあります。

たとえば、損害賠償上限が月額利用料1か月分に制限されている条項は、低額SaaSなら受け入れられることがあります。しかし、基幹システムや個人情報を大量に扱う業務委託では、同じ上限では足りない可能性があります。

契約審査では、条項の意味と、取引の実態を結びつけて判断することが重要です。

最初に見るべきは、契約類型と自社の立場

契約審査を始めるとき、最初から第1条を読み始めるよりも、まず契約類型と自社の立場を確認した方がよいです。

契約類型が分かると、重点的に見るべき条項が分かります。自社の立場が分かると、どの条項が有利で、どの条項が不利かを判断しやすくなります。

たとえば、秘密保持契約では、開示側なのか受領側なのかによって、秘密情報の範囲、目的外利用、第三者開示、残存義務の見方が変わります。

業務委託契約では、委託者側なのか受託者側なのかによって、成果物、検収、再委託、知的財産権、損害賠償、契約解除の見方が変わります。

利用規約では、サービス提供者側なのか利用者側なのかによって、サービス停止、免責、データ利用、規約変更、アカウント停止、返金の見方が変わります。

契約審査の入口でここを確認しておかないと、レビューコメントが一般論になりやすいです。

レビューの深さは、リスクの大きさで変える

すべての契約書を同じ深さでレビューする必要はありません。

企業法務では、時間と人員に限りがあります。低額で定型的な契約と、事業上重要な契約を同じ粒度で見ると、重要案件に時間を使えなくなります。

レビューの深さは、次の要素で調整するとよいです。

  • 契約金額
  • 契約期間
  • 解約のしやすさ
  • 取引の代替可能性
  • 個人情報や秘密情報の有無
  • 知的財産権の重要性
  • 損害が発生した場合の影響
  • 相手方の信用力
  • 過去の取引実績
  • 法令上の規制の有無

たとえば、数万円の単発業務と、数千万円規模の継続業務では、同じ業務委託契約でもレビューの深さを変えるべきです。

AIレビューを使う場合でも、この優先順位付けは人間側が決める必要があります。AIにすべての契約書を同じ強さでレビューさせると、軽微な案件にも大量のコメントが出てしまい、かえって運用しにくくなることがあります。

社内向けコメントと相手方向けコメントは分ける

契約審査でかなり重要なのが、コメントの宛先を分けることです。

社内向けコメントでは、リスクの強弱、ビジネス判断が必要な点、交渉方針、受け入れる場合の注意点を率直に書くことができます。一方で、相手方向けコメントでは、交渉しやすい表現にする必要があります。

たとえば、社内向けには「この損害賠償上限は低すぎるため、個人情報漏えい時のリスクを踏まえると受け入れは慎重に判断すべきです」と書くことがあります。

相手方向けには、「個人情報の取扱いを含む業務であるため、情報漏えい等に起因する損害については、上限の例外としていただけないでしょうか」と書いた方がよい場面があります。

同じ論点でも、社内向けと相手方向けでは、表現の目的が違います。契約審査の品質は、リスクを見つけることだけでなく、そのリスクを社内外にどう伝えるかにも左右されます。

AIに任せやすい作業と、人間が判断すべき作業

生成AIは、契約審査の一部をかなり効率化できます。

AIに任せやすい作業としては、次のようなものがあります。

  • 契約書の要約
  • 条項の抽出
  • 一般的なリスクの洗い出し
  • 契約類型ごとのチェックリストとの照合
  • 相手方向けコメント案のたたき台作成
  • 社内向けリスクメモの初稿作成
  • 修正案の候補作成

一方で、人間が判断すべき作業も残ります。

  • その会社のリスク許容度に照らした判断
  • 事業上譲れない条件の整理
  • 相手方との交渉力を踏まえたコメントの強さ
  • 法令解釈が分かれる論点
  • 経営判断が必要なリスク
  • 過去の取引経緯との整合性
  • 最終的に受け入れるかどうかの判断

AIは、レビューの下準備として非常に有効です。しかし、AIの出力をそのまま相手方に返すと、交渉上強すぎたり、逆に曖昧すぎたりすることがあります。

AI時代の契約審査では、AIを「読む人の代替」ではなく、「見るべき論点を漏らさないための補助線」として使うのが現実的だと考えています。

契約審査の実務フロー

契約審査の実務フローは、次のように整理できます。

  1. 受付情報を確認する
  2. 契約類型と自社の立場を確認する
  3. 契約書本文と別紙を確認する
  4. 重要条項を重点的に読む
  5. 社内判断が必要な点を切り分ける
  6. 修正案を作る
  7. 社内向けコメントを作る
  8. 相手方向けコメントを作る
  9. 事業部と交渉方針を確認する
  10. 修正版を確認する

この流れを整えておくと、契約審査はかなり安定します。逆に、毎回その場で考える運用にしていると、担当者によってコメントの深さや表現が変わりやすくなります。

よくある見落とし

契約審査でよくある見落としは、法的に重要な条項だけを見て、運用に関する条項を軽く扱ってしまうことです。

たとえば、通知先、担当者変更、成果物の受け渡し方法、検収の連絡方法、障害発生時の連絡先、サポート時間、データ返還の方法などは、一見すると細かい運用条項に見えます。しかし、実際にトラブルが起きると、こうした運用条項が整っているかどうかで、対応のしやすさが大きく変わります。

もう一つの見落としは、契約書本文だけを見て、別紙やSOWを見ないことです。契約書本文が比較的標準的でも、別紙で非常に重い成果保証をしていることがあります。逆に、契約書本文で広い責任を負っているように見えても、SOWで業務範囲が限定されていることもあります。

契約審査では、本文と別紙を一体として見ることが重要です。AIに契約書本文だけを読ませる場合でも、別紙や周辺資料があるかを確認する必要があります。

法務プレイブック化する意味

契約審査の流れを安定させるには、契約類型ごとの法務プレイブックを作ることが有効です。

プレイブックといっても、最初から大きなマニュアルを作る必要はありません。NDA、業務委託契約、SaaS利用規約、売買契約、取引基本契約など、頻出する契約類型について、重点確認条項、原則修正する条項、ケースによって判断する条項、社内確認が必要な条項を整理するだけでも効果があります。

AIを使う場合、このプレイブックはプロンプトやレビュー基準としても使えます。人間が見る場合にも、担当者ごとのコメントのばらつきを減らせます。契約審査を速くするには、個別案件ごとに頑張るだけでなく、判断基準を会社の知識として残していくことが重要です。

すべての条項を同じ重さで見ない

契約審査で時間がかかる会社では、すべての条項を同じ重さで確認していることがあります。もちろん、契約書全体を見る必要はありますが、実務上の重要度は条項ごとに違います。

たとえば、NDAであれば秘密情報の定義、目的外利用、開示範囲、存続期間が中心になります。業務委託契約であれば、業務範囲、成果物、検収、知的財産、再委託、損害賠償が中心になります。SaaS利用規約であれば、サービス停止、データ取扱い、個人情報、セキュリティ、責任制限、解約後のデータ削除が重要になります。

契約審査では、まず高リスク条項を特定し、その後に全体整合性を確認する流れが現実的です。AIを使う場合も、単に「問題点を全部挙げて」と入力するより、契約類型ごとの重点条項を指定した方が、実務で使いやすい出力になりやすいです。

この優先順位を持っているかどうかで、レビューの質とスピードは大きく変わります。

また、優先順位を決めておくと、事業部への説明もしやすくなります。法務コメントが多い場合でも、「この契約では知的財産と責任制限が重要です」「この条項は交渉し、こちらは受け入れてよいと考えます」と整理できるため、事業判断に接続しやすくなります。契約審査は、赤字を入れる作業ではなく、事業部が判断できる形にリスクを翻訳する作業でもあります。

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