← AI法務ラボへ戻る
Insight
法務アウトソーシング

ハラスメント相談後の社内調査|ヒアリングと事実認定の進め方

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

ハラスメントの相談を受けた会社は、相談者の安全に配慮しながら、処分の前提となる事実を確かめる必要があります。聞き取りを急ぐうちにチャットが削除されたり、相談内容が職場に広まったりすれば、調査自体が新たな問題を生みかねません。何を先に確保し、誰にどこまで伝え、証拠が食い違ったときに何を認定できるか。この判断が、相談後の対応の中心になります。

相談対応と社内調査の法的な位置づけ

以下では、社内のパワーハラスメント相談を中心に取り上げます。セクシュアルハラスメントや妊娠・出産等に関するハラスメントでは根拠法令・指針が異なるため、相談の内容に応じた確認も必要です。

労働施策総合推進法30条の2第1項は、事業主に対し、職場における優越的な関係を背景とした言動であって業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより労働者の就業環境が害されることのないよう、相談に応じ適切に対応するための体制整備その他の雇用管理上必要な措置を講じる義務を課しています。厚生労働省のパワーハラスメント防止指針(令和2年厚生労働省告示第5号)4(3)(7〜8頁)は、相談後の対応として、事実関係の迅速かつ正確な確認、被害者への配慮措置、行為者への措置、再発防止措置の4点を柱として示しています。相談後の調査は、この「事実関係の迅速かつ正確な確認」に当たる作業です。担当する人事・法務部門には、処分を急ぐ前に事実確認の過程を確保する役割があります。

相談者への確認と客観資料の確保

指針は、相談窓口の担当者、人事部門又は専門の委員会等が相談者及び行為者の双方から事実関係を確認することを求めていますが、実務上は、相談者へのヒアリングを最初に行い、そこで得られた事実関係の骨格をもとに客観資料を集め、行為者への確認に進む順序が合理的です。

相談者への確認は、出来事が起きた日時や場所、関与した人物、発言の内容といった手がかりを得るための重要な情報源です。得られた説明から、確保すべき客観資料の範囲を絞り込みます。行為者への告知によって資料の削除や口裏合わせが起きるおそれがある事案では、告知前の証拠保全が必要です。ただし、法律や指針がすべての事案に同じ聞き取り順を定めているわけではありません。暴力や心身への切迫した危険がある場合は、接触の回避や受診の支援を先行させ、証拠の確保と並行して進めます。

相談者ヒアリングでは、出来事の日時・場所・内容だけでなく、その場に居合わせた人物、関連するメール・チャット・録音の有無、これまでに誰かに相談したかどうかまで聞き取ります。指針も、相談者の心身の状況やその認識に配慮しながら事実確認を行うことを求めており、事実確認と心理的な配慮は同時に行う作業です。

消失しやすい記録の保存

相談者ヒアリングで事実の骨格を把握したら、行為者に事情を伝える前に客観資料を押さえます。社内チャットのログや勤怠記録、防犯カメラの映像などは、時間が経つほど上書き・自動削除で失われます。保存期間は会社ごとに異なるため、情報システム部門に確認し、必要であれば削除保留(リーガルホールド)を依頼します。取得した記録は原本を保持し、取得日時・取得者・対象期間を記録します。切り取った画面だけでは会話の前後関係が分からないため、必要な範囲のログを確保します。

会社の端末やアカウントであっても、調査と無関係な私生活の情報まで無制限に調べてよいわけではありません。対象期間と検索範囲を事案に合わせ、調査担当者の閲覧権限を絞ります。私物端末や個人アカウントの資料は、提出を求める範囲と方法を別途検討する必要があります。

行為者・周辺者へのヒアリングと記録

行為者へのヒアリングは、相談者ヒアリングと客観資料の確保が一定程度進んでから行います。冒頭では、事実関係を確認するための面談であることを伝え、弁明の機会を確保します。これを怠ると、後で処分の有効性が争われた際に手続の適正さが問題視されます。同時に、調査情報の不用意な拡散や口裏合わせ、相談者への報復をしないよう伝えます。ただし、弁護士への相談や労働局等への申告まで一律に禁じる説明は避けます。

聞き取りでは、非難しない聞き方を徹底します。「なぜそんなことをしたのか」という詰問調を避け、「その場面で何が起きたか、順を追って教えてください」という時系列の質問から入り、行為者と相談者の認識がどう食い違うかを発言単位で特定します。感情的な応酬に終始すると、認定に必要な具体的事実を聞き取れないまま面談が終わるおそれがあります。

周辺者の選定と質問の範囲

相談者と行為者の主張が一致する部分は、共通の説明として記録します。ただし、一致していることだけで直ちに認定を終えず、客観資料と明らかに矛盾していないかも確認します。問題は食い違う部分で、ここを埋めるために周辺者へのヒアリングを行います。指針も、双方の主張に不一致があり事実の確認が十分にできない場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずることを求めています。

周辺者は、その場で見聞きした人を中心に、直後に相談を受けた人など、具体的な情報を持つ人から選びます。当事者との人間関係は供述を評価する際に考慮しますが、その近さだけで選定・除外を決めないようにします。ヒアリングでは、まず双方の説明を先入観として与えず、本人が見聞きした事実を尋ねます。「〇〇さんが怒鳴っていたのを見ましたよね」といった誘導的な質問は避け、追加確認に必要な情報を伝える場合も範囲を絞ります。

同席者と面談記録

ヒアリングは聞き手1名だけで行うと、後で「言った・言わない」の争いが調査そのものに生じかねません。聞き手と記録者を分けることは一つの実務的な方法です。法律がすべての面談の同席人数を指定しているわけではないため、相談者の負担や秘密保持にも配慮して同席者を決め、休憩や面談時間を調整します。

記録は面談後にヒアリング記録として整理し、可能であれば本人に確認してもらいます。会社が面談を録音する場合は、目的と保存・利用の範囲を説明し、了解を得る方法を基本とします。これは無断録音を一律に違法と評価する趣旨ではありません。質問と回答はできるだけそのままの言葉で残し、「〇〇と発言した」という事実と「〇〇という態度だったと感じた」という評価を混ぜて書かないようにします。

供述が食い違う場合の事実認定

相談者と行為者の供述が真っ向から対立し、周辺者の証言でも埋まらない場合、判断を放棄して「グレーのまま」で終えることは避けなければなりません。事実関係の迅速かつ正確な確認という要請は確認の努力を尽くすことを求めるものであり、報告書には、認定できる範囲とできない範囲を分け、その理由を示します。

事実認定では、供述に一貫性があるかどうか、客観資料や第三者証言と符合するかどうかを突き合わせ、供述を得た経緯もあわせて検討します。細部の記憶が変わったことだけで虚偽と決めつけず、出来事の核心部分と周辺部分を分けて評価します。たとえば「特定の発言があったこと」自体は複数の証言とログで裏付けられるが、「その発言の意図」までは確認できない、という切り分けは十分にあり得ます。この場合、発言の存在は事実として認定し、意図の解釈は行為者の説明も踏まえた評価として扱います。

証拠が乏しく行為の存在自体を認定できない場合でも、パワハラ指針はハラスメントの事実が確認できなかった場合にも再発防止措置を講ずることを事業主に求めており、認定に至らなかったからといって何もしない結論にはなりません。

認定後の対応と不利益取扱いの防止

事実認定ができた場合、指針は行為者への措置と被害者への配慮措置の双方を求めています。行為者への措置は就業規則の懲戒規定に基づく処分のほか、両者を引き離す配置転換や謝罪などが例に挙がり、被害者への配慮は労働条件上の不利益の回復や産業保健スタッフによるメンタルヘルス相談対応が示されています。労働契約法15条は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない懲戒を無効としています。処分は、就業規則の根拠と認定できた行為の内容・程度を照合して決める必要があります。認定できなかった部分まで理由に含めると、後で有効性が争われた際に根拠が崩れます。

相談者へのフィードバックも欠かせません。指針は相談者・行為者等のプライバシーに配慮した保護措置を求めており、この指針に、相談者へ処分の全詳細を一律に開示する定めはありません。社内規程や個別の事情も確認した上で、伝える範囲を判断します。ただし「対応しました」とだけ伝えて終わると、相談者は何も変わらなかったと受け止めかねません。認定した事実の範囲と、講じた措置の方向性(配置転換、再発防止の周知など)を、開示できる範囲で具体的に伝えます。

相談・調査協力を理由とする不利益の禁止

調査の過程を通じて、相談者に対する不利益取扱いは一貫して禁止されます。労働施策総合推進法30条の2第2項は、労働者が相談を行ったこと又は対応への協力に際して事実を述べたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならないと定めています。この禁止は相談者本人だけでなく、事実確認に協力した周辺者にも及びます。

見落とされやすいのは、解雇や降格だけでなく、配置転換や評価への反映も不利益取扱いになり得る点です。「調査対応で業務が滞ったから」という理由で評価を下げる運用は禁止に抵触するおそれがあり、調査後の評価時にも周知が必要です。

外部調査と紛争解決手続の使い分け

自社の人事・法務だけで調査を完結できない場面もあります。行為者が経営陣や役員である場合、相談者と行為者の力関係が大きく偏っている場合、社内の人間関係が複雑で担当者自身が当事者に近い場合は、社内調査の客観性そのものが疑われやすくなります。こうした事案では、外部弁護士による調査への切替えを検討した方がよいと考えます。外部弁護士への調査依頼と、第三者機関による紛争解決は役割が異なります。指針は、事実関係の確認が困難な場合の対応として、労働施策総合推進法30条の6に基づく調停の申請その他中立な第三者機関への紛争処理の委任を選択肢として挙げています。社内での事実認定が行き詰まった段階まで来たら、自社だけで抱え込まず、外部の手続や専門家の関与を検討した方がよい局面だといえます。相談窓口自体が機能していないという声が出る会社では、相談を受ける体制の整備そのものが先行課題です。組織拡大期の労務・ハラスメント対応の位置づけは、スタートアップが後回しにしがちな労務リスクとカスタマーハラスメント対応でも取り上げています。

キーワード
労務・ハラスメント
キーワード一覧から探す

あわせて読みたい記事

この記事と近いテーマの記事です。

Insight / 2026.09.10 退職者による顧客・従業員の引き抜き|会社の請求と証拠の要点 Insight / 2026.09.09 労働審判を申し立てられた会社の対応|答弁書と第1回期日の準備 Insight / 2026.09.08 労働基準監督署の調査対応|臨検・是正勧告・報告書の実務
AI法務ラボで他の記事を見る