契約社員の雇止め、更新回数と無期転換の実務
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
契約社員の更新を止める際、契約書の満了日だけを確認して通知を出すことには注意が必要です。有期労働契約は期間満了による終了が原則ですが、初回の更新を迎える契約でも、採用時の説明などから更新への合理的な期待が生じていれば、雇止めが制限されることがあります。
雇止めの可否を左右する中心的な問題は、労働契約法19条によって契約更新が認められるかという点です。同一の使用者との契約期間が通算5年を超える場合には、同法18条の無期転換申込権も確認します。更新上限の明示や30日前の予告を行っても、これらの問題が解消するとは限りません。
雇止め法理が及ぶ二つの類型
労働契約法19条は、一定の有期労働契約について、更新拒絶が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は、従前と同じ労働条件で申込みを承諾したものとみなします。期間満了日までの更新申込みに加え、満了後遅滞なく行った有期労働契約の締結の申込みも対象になります。同条の一号又は二号に該当することが、その前提です。
一号は、過去に反復して更新されており、雇止めをすることが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められる契約です。実質的に無期契約と変わらない運用を続けてきた契約に、期間満了だけを理由に打ち切りの自由を認めない趣旨といえます。二号は、労働者において契約の更新を期待することについて合理的な理由があると認められる契約です。更新回数が少なくても、更新手続の実態や使用者の言動から合理的期待が生じていれば対象になります。
いずれかに該当すると、更新拒絶の理由と相当性が審査されます。解雇権濫用法理と同様の文言が用いられていますが、具体的な判断では契約の性質や更新への期待の内容が考慮されます。全ての有期契約に正社員の解雇と同じ結論が当てはまる、という意味ではありません。
更新への合理的期待を生む事情
二号の合理的期待は、契約書の記載だけで決まるものではなく、更新手続の実態から認定されます。実務上、期待を生みやすい運用として次のようなものが挙げられます。
- 更新の都度、面談や書面確認をせず自動的に契約書を再発行する運用
- 業務内容が正社員と実質的に区別されず、恒常的な業務に従事させる運用
- 採用時や更新時に「長く働いてほしい」「特に問題がなければ更新する」といった発言を伴う運用
- 更新回数や勤続年数の上限を契約書に明記しないまま更新を重ねる運用
これらは合理的期待を判断する際の事情になります。どれか一つで結論が決まるわけではなく、契約書の記載、業務の継続性、過去の説明や実際の更新手続を合わせて評価します。更新の都度面談を行っていても、それだけで合理的期待が否定されるわけではありません。
無期転換ルールと通算5年のカウント
有期契約を反復更新する会社が同時に向き合う必要があるのが、労働契約法18条の無期転換ルールです。同条は、同一の使用者との間で締結した二以上の有期労働契約について、通算契約期間が5年を超える労働者が無期契約を申し込んだときは、使用者の承諾を擬制します。申込みは現に締結している契約の満了日までに行い、無期契約による労務の提供はその翌日から始まります。労働条件は、契約期間を除き、別段の定めがある部分以外は従前と同じです。
通算するのは、既に働いた日数だけではありません。現に締結している契約の期間も含みます。1年契約を切れ目なく更新する通常の例では、6年目の契約を締結した時点で、その契約期間中に無期転換を申し込めます。契約のない期間が挟まる場合には同条2項の通算除外の要件を確認し、高度専門職や定年後継続雇用者等については特例の適用も区別します。
契約社員から嘱託社員への名称変更や、同一の使用者の下での部署異動だけでは通算はリセットされません。また、18条と19条は別の制度です。通算5年に達していないという事情は、19条による雇止めの制限を受けない理由にはなりません。
更新上限と労働条件の明示
更新上限を契約当初に定めることは、雇用期間について労使の認識を合わせる材料になります。ただし、上限の記載だけで19条の適用を排除できるわけではありません。上限を超えた更新や、上限後も雇用が続くとの説明があれば、その運用も評価の対象になります。
2024年4月施行の労働条件明示ルールでは、有期契約の締結・更新時に、更新上限の有無と内容を明示することが必要です。契約締結後の上限設定が一律に禁止されているわけではありません。「有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準」1条は、契約の変更・更新に際して上限を新設又は引き下げる場合、あらかじめ理由を説明するよう定めています。説明義務の履行と、変更の有効性や雇止めの適法性は別に判断します。
無期転換申込権が発生する更新時には、無期転換の申込機会と転換後の労働条件の明示も必要です。申込権を行使しないまま有期契約を更新する場合も、申込権が発生する更新の都度、明示が必要になります。
雇止めの予告と理由の明示
有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準2条は、3回以上更新した契約、又は雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者の契約について、雇止めの30日前予告を求めています。あらかじめ当該契約を更新しない旨が明示されているものは除かれます。
更新上限の記載と、今回の契約を更新しない旨の明示は、常に同じではありません。予告の要否は当該契約の文言と説明内容から判断します。予告の対象外であっても、労働契約法19条の検討は必要です。
同基準3条は、対象となる雇止めについて、労働者から理由の証明書を請求されたときは遅滞なく交付するよう定めています。予告後の請求だけでなく、雇止め後の請求も対象です。更新しない具体的な理由を説明するため、期間が満了したという事実だけで説明を終えることは避けなければなりません。予告と証明書の交付を行っても、更新拒絶の理由と相当性の審査を免れるわけではありません。
更新履歴に応じた会社の判断
実際の雇止めを検討する際は、採用時から現在までの契約書を並べ、更新回数、契約期間、更新基準及び上限の変更を確認します。その上で、採用担当者や上司が雇用継続についてどのように説明してきたかを、メールや面談記録から確かめます。現在の契約書だけでは、既に形成された更新への期待を判断できないためです。
能力や勤務態度を理由とする場合は、評価の根拠、本人に伝えた課題と改善の機会を確認します。業務の終了を理由とする場合は、その仕事が実際に終了するのか、その後も別の人に担当させるのかを確かめます。通知書の文言を先に作るのではなく、確認した事実から更新を拒絶する理由を説明する必要があります。
不更新条項を追加する場合
契約書に「本契約の更新はない」「次回更新は行わない」といった不更新条項を入れる会社もあります。この条項自体は無効というわけではありませんが、既に反復更新されて合理的期待が形成された後の契約に、労働者の実質的な同意なく一方的に追加した場合、条項の効力や、条項に同意したこと自体の任意性が争われることがあります。特に、無期転換の申込権が発生する直前のタイミングで不更新条項や不同意を理由とする雇止めが行われると、無期転換ルールを回避する目的だったのではないかという評価を招きやすくなります。
条項を追加する場合は、その必要性、説明の時期と内容、本人の認識を記録します。署名を得たとしても、それだけで以前からの合理的期待が失われたとは限りません。契約変更の合意や就業規則の変更の有効性についても、労働契約法8条から10条等に照らした検討が必要です。
通知前の確認事項
契約更新を止める、または無期転換への対応を整理する場面で、人事担当が確認すべき手順は次のとおりです。
- 対象契約の更新回数と通算契約期間の確認
- 過去の更新手続(面談の有無、書面確認の有無、発言内容)の記録の確認
- 通算5年到達時期と無期転換申込権発生時期の確認
- 雇止め予告の要否と通知期限の確認
- 雇止め理由の具体化と証明書請求への準備
私は、満了日から逆算した通知期限に加え、無期転換申込権が生じる更新時期を契約管理表へ記録しておくことが、判断の遅れを防ぐと考えています。通知を出す前に、契約履歴、本人への説明及び理由を裏付ける資料をそろえ、雇止めと無期転換の双方を検討します。