懲戒処分の種類と選び方|減給・出勤停止・懲戒解雇の判断基準
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
経費の不正精算や社内情報の持ち出しが発覚したとき、会社は、行為の事実だけでなく、どの懲戒処分を選ぶかまで説明する必要があります。違反の存在が確認できても、その行為に対して重すぎる処分をすれば、処分自体が無効になることがあります。
中心となるのは、就業規則に根拠があるか、その根拠に照らして認定した行為と処分の重さが釣り合うか、という問題です。減給額の上限や懲戒解雇時の解雇予告は、選んだ処分を実施する際の追加条件になります。本稿では、民間企業が雇用する従業員への懲戒を対象にします。
懲戒の根拠となる就業規則と周知
使用者が懲戒を行うには、あらかじめ就業規則に懲戒の種類と事由を定め、適用を受ける従業員に周知しておくことが必要です。会社が雇用主であるというだけで、自由な制裁を加えられるわけではありません。
労働基準法89条9号は、制裁の定めをする場合、就業規則にその種類と程度を記載することを求めています。同法106条1項は、就業規則を掲示・備付けや書面交付などによって周知する義務を定めています。従業員が必要なときに内容を確認できることと、全員が実際に読んだことは区別されます。
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成・届出義務があります。ただし、10人未満で届出義務がないことは、懲戒の根拠を設けずに処分できることを意味しません。懲戒制度を運用するのであれば、規定の内容と周知方法の双方を確認します。
処分の根拠は、行為当時に適用されていた規定です。問題が発覚した後に新しい懲戒事由を設け、過去の行為に遡って適用することはできません。「会社に損害を与えたとき」といった文言があっても、対象行為が実質的にその事由に該当するかを判断する必要があります。土田道夫『労働契約法〔第2版〕』474〜475頁も、規定への該当性と処分の相当性を別の要件として説明しています。
労働契約法15条が求める処分の相当性
労働契約法15条は、懲戒について、労働者の行為の性質・態様その他の事情に照らし、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、権利濫用として無効になると定めています。
就業規則に懲戒解雇の項目があることと、その事案で懲戒解雇を選べることは、同じではありません。規定に該当する行為があっても、動機、業務への影響、損害の程度、本人の処分歴や情状を踏まえ、選択した処分が相当といえるかが審査されます。会社の管理方法や指導不足が問題の発生に影響した事情も、判断から外せません。
同種の違反に対する過去の処分との均衡も問題になります。ただし、名称が同じ違反であれば、必ず同じ処分になるという意味ではありません。行為の反復、職責、損害や隠蔽の有無などに違いがあれば、その差が処分の重さにどう関係するかを説明します。
懲戒には、同じ行為を重ねて処分できないという制約もあります。一度処分した行為について、後から重い処分にやり直すことは原則として許されません。他方、新しい違反の処分を決める際に過去の処分歴を考慮することまで禁止されるものではありません。この区別と、処分の均衡・手続の規律は、前掲『労働契約法〔第2版〕』504〜507頁で説明されています。
懲戒処分の種類と従業員への影響
懲戒の種類や名称が法律で一律に決まっているわけではありません。実際に選べる処分とその内容は、会社の就業規則によります。一般的な処分は、次のようなものです。
| 処分 | 一般的な内容と確認事項 |
|---|---|
| 戒告・譴責 | 注意によって将来の改善を求める処分。始末書の要否などは規定による |
| 減給 | 制裁として賃金を減額する処分。労働基準法91条の上限が適用される |
| 出勤停止 | 一定期間の就労を禁止する処分。期間と、その間の賃金の扱いを確認する |
| 降格 | 懲戒として役職や資格・等級を引き下げる処分。引下げ対象と賃金への影響を確認する |
| 諭旨退職・諭旨解雇 | 退職を促す手続を経る処分など。応じない場合の扱いを含め、規定により内容が異なる |
| 懲戒解雇 | 制裁として労働契約を終了させる処分。解雇予告や退職金の扱いは別途確認する |
戒告と譴責の区別も会社によって異なります。通常の業務上の注意をしたことが、当然に正式な懲戒処分になるわけでもありません。通知書の名称だけで判断せず、どの規定に基づき、どの不利益を課したのかを確認します。
出勤停止では、無給期間の長さが従業員の生活に直接影響します。降格でも、役職を外すだけか、資格・等級や賃金まで引き下げるかで不利益は変わります。名称の軽重だけで並べると、実際の負担を見落とします。人事上の配置変更や評価による降格を行う場合も、懲戒としての降格と根拠・要件を混同しないようにします。
減給の上限と懲戒解雇の追加条件
減給額には二つの上限
労働基準法91条による減給の制裁は、一つの事案について平均賃金1日分の半額が上限です。複数の事案を処分する場合も、一賃金支払期における減給総額は、その期間の賃金総額の10分の1を超えることができません。両方の制限を満たす必要があります。
ここでいう平均賃金は、労働基準法12条に従って算定する金額です。月給を単純に所定労働日数で割った額とは限りません。賃金台帳を基に対象期間や除外期間を確認し、平均賃金と、その支払期に許される減給総額を計算します。同じ事案の減給を月ごとに繰り返すことで、一事案当たりの上限を回避することもできません。
懲戒として賞与を減額するときも、この上限規制が問題になります。厚生労働省の事業者向けQ&Aは、懲戒による賞与の減額にも労働基準法91条が適用されると説明しています。通常の人事評価による賞与算定と、制裁目的の減額を区別する必要があります。
解雇予告と退職金はそれぞれ別の判断
懲戒解雇を選んだからといって、解雇予告手当なしで即時に解雇できるわけではありません。労働基準法20条により、原則として30日前の予告か、予告日数の不足を補う平均賃金の支払が必要です。従業員の責に帰すべき事由を理由に予告・手当なしで即時解雇する場合は、所轄労働基準監督署長の解雇予告除外認定が必要になります。厚生労働省の解説でも、この手続が示されています。
除外認定は、懲戒解雇の民事上の有効性を保証するものではありません。解雇の相当性は、労働契約法15条・16条の問題として残ります。
退職金の全額不支給も自動的には認められません。退職金規程の根拠に加え、その退職金の性格、勤続中の功績、行為の背信性などから、減額・不支給の可否と程度を判断します。厚生労働省「退職金不払い」は、懲戒解雇が有効でも退職金の一部支給を認めた裁判例を紹介しています。処分通知と給与・退職金の計算は、それぞれの根拠を確認して準備します。
事実調査から処分決定までの実務
経費不正であれば、申請額だけで処分を決めず、申請資料と領収書、承認経路、精算ルール、本人の説明を照合します。誤入力か意図的な請求か、繰り返しがあるか、会社側の案内が不明確だったかにより、同じ金額でも評価は変わります。少額・初回であることだけで軽い処分に限定されるわけではなく、悪質性や職責を含めた判断が必要です。
情報持ち出しでは、対象情報の機密性、利用目的、転送先、実際の利用・漏えいの有無を確認します。会社の記録上「社外送信」があるというだけで、競業他社への漏えいまで認定することはできません。ログで分かる事実と、本人・関係者の説明によって補う事実を分けて記録します。
調査の途中で処分の重さを確定せず、認定しようとする事実を本人に具体的に示し、反論や資料提出の機会を設けます。就業規則・労働協約に懲戒委員会や組合との協議が定められていれば、その手続も確認します。弁明の機会がない場合の効力については事案ごとの差がありますが、規定がないという理由だけで説明を聞かずに処分すると、事実認定と手続の両面で争いが残ります。
ハラスメント事案では、本人への説明と、相談者・関係者の情報保護を両立させる必要があります。反論に必要な事実は示しつつ、聴取記録をそのまま全て渡すことが必要かは別途判断します。担当者と決裁者に限定した記録の保管先も設けます。
処分案を決裁に回す際には、次の事項を対応づけて記載します。
- 認定事実と裏づけ資料、本人の説明を採用・不採用とした理由
- 適用する就業規則の条項、行為当時の規定と周知状況
- 処分による不利益、同種事案との差異、軽い処分では足りないと判断した理由
- 弁明・審議の記録、通知内容、減給や解雇に伴う金銭計算
初めて処分する会社では比較対象となる先例がありません。その場合は、行為による支障と選択する処分の不利益を具体的に記録します。戒告・減給・出勤停止を順番に経なければ懲戒解雇ができないという一律のルールはありませんが、軽微な違反について改善の機会があったかは、重い処分の相当性を左右します。
既に処分した行為があるときは、その通知書と対象事実も照合します。後から新たな違反が判明した場合でも、既処分の行為と実質的に同じものではないかを確認し、二重処分を避けます。
処分の社内公表は、処分の有効性とは別に検討します。民法709条による名誉・プライバシー侵害の問題が生じ得るため、再発防止の目的に必要な情報、配信先、本人を特定させる記載の要否を絞ります。懲戒委員会の議事録をそのまま全社へ配信する必要は通常ありません。