専門用語をかみ砕いて説明してもらう|生成AIのやさしい使い方
こんにちは!Legal Agent 代表弁護士の朝戸です。
契約書や法令には、難しい専門用語がたくさん出てきます。たとえば、業務委託契約のレビュー結果を事業部に説明する場面を思い浮かべてみてください。「この条項は表明保証ですが、ここで虚偽があると契約解除や損害賠償につながり得ます」と伝えても、表明保証という言葉自体が伝わっていなければ、相手は判断のしようがありません。法務の説明が専門用語のまま事業部に届くと、「結局、何に気をつければいいのか」が共有されず、契約の差戻しややり直しが増えてしまいます。
専門用語を専門用語のまま説明するのは、説明したことにならない、とよく言われます。法務の仕事は、難しい言葉を正しく使うことだけではなく、相手が判断できる言葉に翻訳することでもあると考えています。
そこで役に立つのが、生成AI(ChatGPT、Claude、Geminiなど、文章を理解して文章で答えてくれるAIサービスの総称です)による「かみ砕き」です。専門用語をやさしい言葉に言い換えたり、身近なたとえに置き換えたりする作業は、生成AIがとても得意とするところです。この記事では、専門用語を分かりやすく説明してもらう使い方を、法務の具体的な場面に沿って整理していきます。
この記事で分かること
この記事では、専門用語をやさしく説明してもらうコツ、社内説明や用語集づくりに使うときの工夫、サンプルプロンプト、よくある失敗、そして秘密情報の扱いや人による最終確認といった注意点を整理します。法律をはじめて扱う事業部の方に説明する場面を想定し、初心者目線を保ちながら進めていきます。
相手のレベルを指定すると、ちょうどよい説明になる
専門用語の説明は、誰に向けた説明なのかを指定すると、ちょうどよい分かりやすさになります。
たとえば「中学生にも分かるように説明してください」「法律をまったく知らない事業部の担当者向けに説明してください」と一言添えるだけで、かみ砕き方の度合いが大きく変わります。逆に、相手を指定しないと、生成AIは法律家どうしの会話のような説明を返してくることがあり、かえって伝わりにくくなることがあります。
具体例を挙げます。秘密保持契約(NDA。取引で知った秘密を外に出さないと約束する契約です)に出てくる「残存義務」という言葉を考えてみます。相手を指定せずに尋ねると、「契約終了後も一定期間存続する義務」といった、それ自体がやや硬い説明が返ってくることがあります。これを「新入社員にも分かるように」と指定すると、「契約が終わったあとも、しばらくは秘密を守り続けないといけない約束のことです」といった、すぐに腹落ちする説明になりやすいです。
説明の相手をはっきりさせることは、生成AIに対してだけでなく、自分の頭の中を整理するうえでも役立つと感じています。
具体例・たとえ・一言の言い換えをセットで頼む
抽象的な説明だけだと、かえって分かりにくいことがあります。そこで、「身近な例で説明してください」「一言で言い換えてください」とあわせて頼むと、理解の手がかりが増えて伝わりやすくなります。
法務でよく説明に困る用語を、いくつか例にしてみます。
- 善管注意義務(業務委託契約の受託者が負う、専門家として通常期待される注意を尽くす義務です)。たとえば「資格を持ったプロとして、ふつうに気をつけるべきことはきちんと気をつけてください、という義務です」と言い換えると伝わりやすいです。
- 債務不履行(契約で約束したことを守らない状態のことです)。「やると約束したのにやらない、期限までに納品しない、といった状態のことです」とたとえると分かりやすいです。
- 連帯保証(主たる債務者と並んで、同じ責任を全部負う保証のことです)。「友だちの借金を、自分の借金とまったく同じ重さで背負う約束です」とたとえると、その重さが伝わりやすいです。
一言の意味、身近なたとえ、実務上の注意点という三段構えで頼むと、事業部への共有資料にもそのまま使いやすい形になります。
サンプル:用語のやさしい説明(基本形)
まずは、用語をいくつか挙げて、決まった型で説明してもらう基本形です。
次の法律用語を、法律を知らない事業部の担当者向けに説明してください。
それぞれ、(1) 一言での意味、(2) 身近なたとえ、(3) 実務で注意する点 の順でお願いします。
専門用語をどうしても使う場合は、その場でかっこ書きで補足してください。
【用語】表明保証 / 善管注意義務 / 債務不履行
サンプル:契約書の用語を抜き出して用語集にする(応用形)
次は、実際の契約書を渡して、その中に出てくる用語をまとめて用語集の形にしてもらう応用形です。社内共有用のたたき台づくりに向いています。
次の契約書に出てくる専門用語を抜き出し、用語集の形にしてください。
出力は、用語 / やさしい意味 / この契約での使われ方 / 注意点 の表形式でお願いします。
・読み手は、法律をはじめて扱う事業部の担当者です。
・この契約書に書かれていない一般論は加えず、書かれている範囲で説明してください。
・意味があいまいで判断できない用語は「要確認」と記載してください。
【ここに契約書を貼り付け(社名・個人名などは伏せる)】
「書かれている範囲で説明してください」と一言加えておくと、生成AIが一般論を持ち出しすぎるのを抑えやすくなります。
よくある失敗
ここで、私が見聞きしてきた、ありがちな失敗を挙げておきます。
ひとつめは、やさしい説明を「正しい定義」と取り違えてしまうことです。たとえば、生成AIが「瑕疵担保責任(契約の目的物に欠陥があったときの売主の責任)」をかみ砕いて説明してくれたとしても、現行法では契約不適合責任という整理に変わっているなど、制度自体が改正されていることがあります。やさしい言い換えは入口の理解には役立ちますが、最終的な定義は条文や信頼できる解説で確かめることが大切だと考えています。
ふたつめは、文脈を伝えずに用語だけを尋ねてしまうことです。たとえば「検収」という言葉ひとつとっても、ソフトウェア開発委託での検収と、物品の売買での検収では、確認する内容も期間の意味も変わってきます。契約の種類や自社の立場(委託者なのか受託者なのか)を添えずに尋ねると、一般論としては正しくても、その契約には当てはまらない説明が返ってくることがあります。
みっつめは、やさしくしすぎて法的な含みが落ちてしまうことです。「免責」を「責任を負わないこと」とだけ説明すると、どの範囲で、どの場合に責任を負わないのかという肝心な部分が抜けてしまいます。事業部向けにかみ砕くときも、判断に影響する条件まで残せているかを確認することが大切だと感じています。
社内の用語集・FAQづくりに広げる
専門用語のかみ砕きは、その場の説明にとどめず、社内の用語集やFAQとして残していくと効果が大きいと考えています。
法務に寄せられる質問は、「表明保証ってどういう意味ですか」「再委託ってなぜダメな場合があるのですか」といった、用語の意味に関するものが繰り返し出てくる傾向があります。こうした頻出の用語について、やさしい意味と自社での扱いをまとめておくと、同じ説明を何度も繰り返さずに済みます。生成AIには、過去のやりとりをもとに用語集の初稿を作らせ、内容を法務が確認して整える、という分担が向いています。
用語集が育ってくると、事業部が契約を見るときの目線もそろってきます。法務の説明コストを下げるだけでなく、会社全体の契約リテラシーを底上げする取り組みにもなると感じています。
使うときの注意点
- やさしい説明は入口として便利ですが、正確さが求められる場面では、定義を条文や信頼できる解説で確認することが大切です
- 用語の意味は契約の種類や文脈によって変わります。生成AIの一般的な説明をそのまま当てはめず、その契約での使われ方に照らして確認してください
- 実在する契約書を貼り付けて説明させる場合は、秘密情報や個人情報の取扱いに注意し、社名・個人名・金額などは必要に応じて伏せてから入力してください
- 生成AIの出力は下書きと位置づけ、社内や社外に出す前には、必ず人が最終的に内容を確認する、という手順だけは崩さないようにしています