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予測市場の適法性と日本法上の規制|Polymarket・Kalshi、賭博罪・金融規制

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

選挙の勝者、政策金利の変更、スポーツ大会の結果などについて、「起こる」と「起こらない」の持分を売買し、結果が確定したときに精算する。予測市場は、意見を集計する仕組みとしても、短期の投機商品としても使われています。米国では2026年に入っても、商品先物取引委員会(CFTC)がイベント・コントラクトをめぐる執行や州当局との訴訟を続けており、市場の拡大に制度が追いついていない様子が見えます。

日本で同じサービスを始める場合、米国で金融商品として扱われているという説明だけでは、適法性を基礎付けられません。参加者が金銭等を拠出し、偶然の結果によって一方が利益を得て他方が損失を負うなら、最初に見るべきなのは刑法の賭博罪です。金融商品取引法や資金決済法は、その構造を刑法上評価した後に、対象指標、決済手段、顧客資産の管理方法に応じて確認することになります。

予測市場で売買されるもの

典型的な予測市場では、将来の出来事について二つ以上の選択肢を設け、参加者が各選択肢に対応する持分を購入します。結果が確定すると、的中した持分には一定額が支払われ、外れた持分は無価値又はそれに近い状態になります。価格が市場参加者の予測を反映して動くため、決済前に持分を売却できるサービスもあります。

この仕組みは、アンケートとは違います。参加者は回答を寄せるだけでなく、自己の資金を失う危険を引き受けます。また、通常の保険とも異なります。保険は、被保険利益のある者が事故による損害を填補するために利用するのに対し、予測市場では、選挙結果や他社の業績のように参加者自身の損害と結び付かない出来事も取引対象になります。

名称が「マーケット」「情報取引所」「イベント・コントラクト」であっても、日本法上の評価は取引の実態から行われます。無料ポイントだけで順位を競うサービス、現金を拠出して結果に応じた払戻しを受けるサービス、固定額の調査謝礼を受けるサービスでは、同じ予測機能を使っていても法的な構造が異なります。

中心論点となる賭博罪

刑法185条は、「賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。」と定めています。反復して賭博をした場合には常習賭博罪が、賭博場を開張し又は博徒を結合して利益を図った場合には賭博場開張等図利罪が問題となります。後者の法定刑は3月以上5年以下の拘禁刑です(186条2項)。

条文には「賭博」の定義がありませんが、一般に、偶然の勝敗によって財物又は財産上の利益の得喪を争う行為をいうと解されています。予測市場では、将来の選挙結果や試合結果は参加者が確実に支配できません。統計や専門知識を使って的中率を高められるとしても、結果を左右する偶然性が残るため、それだけで賭博性が消えるとは考えにくいところです。

もう一つの文言である「得喪を争う」は、当事者が互いに財産を失う危険を負い、その結果に応じて財産上の利益が移る関係を指すと解されています。参加者の拠出金を原資として、的中側へ払戻しを行う仕組みは、この関係に近づきます。運営会社が取引ごとに手数料だけを受け取り、参加者同士の注文を対応させる場合でも、場を提供して利益を得ている事実は残ります。自ら相手方となる方式か、注文を媒介する方式かは、運営会社の関与の評価には影響しますが、参加者間の賭博性が当然に消えることにはなりません。

185条ただし書の「一時の娯楽に供する物」は、その場で消費される飲食物などを念頭に置いた例外と解されています。現金、暗号資産、換金できるポイントを継続的に投じるサービスが、この例外に依拠することは難しいと考えられます。

富くじ罪との境界

参加者同士が相対して損得を争う構造が弱く、運営会社が代金を集め、偶然の結果によって購入者へ不均等な利益を分配する仕組みであれば、刑法187条の富くじ罪も視野に入ります。同条1項は、富くじを発売した者を2年以下の拘禁刑又は150万円以下の罰金に処すると定めています。

富くじは、発売者が対価を得て札等を販売し、偶然の方法によって購入者間に不均等な財産的利益を分配するものと説明されます。公営の宝くじは、当せん金付証票法という特別法に基づいて発売されるため適法に運営されています。民間事業者が利用規約だけで同じ例外を作ることはできません。

予測市場では、注文状況に応じて価格が動き、満期前に売却できる点が伝統的な富くじと違います。しかし、運営会社が固定価格で参加権を販売し、結果に応じて自社から賞金を支払う設計に寄せるほど、参加者同士の取引市場という説明は弱くなります。賭博罪と富くじ罪のどちらが問題になるかは設計によって変わりますが、「どちらにも当たらない」とするには、参加者が財産を失う危険と、偶然による利益分配の双方を説明する必要があります。

米国のイベント・コントラクトとの制度差

米国では、一定のイベント・コントラクトが商品取引所法上のデリバティブとしてCFTCの監督下で提供されています。それでも、すべてのテーマを自由に上場できるとは限りません。商品取引所法には、違法行為、テロ、暗殺、戦争、賭博などに関する契約を公益に反すると判断して禁止できる枠組みがあります。州の賭博規制との境界も争われています。

2026年2月、CFTCは、Kalshi上のイベント・コントラクトについて、非公開情報を利用した取引等を理由とする二件の執行事例を公表しました。さらに同年4月には、Wisconsin州がKalshi、Polymarketなどを州賭博法で規制しようとしたことに対し、連邦の商品先物規制が優先するとしてCFTC自身が提訴しています。これらは、米国でも「予測市場だから賭博ではない」という一行の説明で決着していないことを示します。詳しくはCFTCの2026年2月25日公表資料及び同年4月28日公表資料で確認できます。

日本の金融商品取引法にもデリバティブ取引の定義がありますが、金利、通貨、金融商品、金融指標等を基礎とする取引を法定の類型に沿って捉える制度です。ある出来事に連動して金銭を精算するという経済的な似方だけで、あらゆる予測市場が金融商品取引法上のデリバティブになるとは限りません。金融規制の対象になり得ることと、刑法上の賭博性が否定されることも別の問題です。外国で登録された市場であることは、日本国内での勧誘や取引について日本法を検討しなくてよい理由にはなりません。

日本向けサービスで分かれる評価

日本で予測市場を提供する場面では、参加者が何を拠出し、外れたときに何を失い、的中者への支払原資を誰が負担するかを一枚の資金フローにすることが出発点です。現金又は換金可能な暗号資産を参加者から集め、外れ側の損失を的中側へ移す構造は、賭博罪の「得喪を争う」に近い評価を受けます。運営会社が取引所の形を取り、自己資金を賞金に充てないとしても、参加者同士の損得を対応させ、手数料収入を得ていれば、賭博の場を提供したという問題が残ります。

これに対し、参加者が財産を拠出せず、予測の的中率に応じて運営会社が広告費等から固定の謝礼を支払う調査型では、参加者側の財産喪失がありません。社内の需要予測や研究目的で、換金できないポイントを付与するだけの仕組みも、財産上の利益への該当性を個別に見る必要はあるものの、有償参加型とは距離があります。ただし、無料参加を掲げながら、有料会員だけが高額賞品の対象になる、ポイント購入額に応じて予測回数が増えるといった設計では、支払と結果が再び結び付きます。

対象が金融商品の価格、金利、為替その他の金融指標であり、差金決済や証拠金取引の構造を採る場合には、金融商品取引法上のデリバティブ取引や業規制を別途確認します。顧客から法定通貨を預かり送金する機能、暗号資産を交換・管理する機能、独自の有償ポイントを発行する機能を組み込めば、銀行法、資金決済法上の暗号資産交換業、前払式支払手段等が問題となる可能性があります。ここでは「暗号資産で払うから賭博ではない」という整理は成り立ちません。暗号資産も財産上の利益に当たり得るからです。

海外サービスを日本語化し、日本居住者向けに広告を出し、国内のアフィリエイターを使う場合には、どこでサービスが提供され、誰が勧誘し、誰が顧客資産を受け取るかを契約と実態の両方から確認します。アクセス遮断の有無だけでなく、日本語サポート、日本円換算表示、国内向けキャンペーン、本人確認対象国なども、日本市場を対象としているかを示す事情になります。

オンラインオリパと同じく、偶然による結果と財産の移転が接するビジネスですが、予測市場では「商品を買った」という外形すらないことが多く、刑法上の説明はさらに難しくなります。ランダム型物販との違いは、オンラインオリパの法規制で扱っています。

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