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内部通報窓口の実務|300人の壁と「機能しない窓口」の直し方

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

社内に内部通報窓口を設けている企業の担当者に伺いたい点があります。昨年度、窓口に届いた通報は何件あったでしょうか。年間ゼロ件だった、あるいは数件届いたものの軽微な内容にとどまったという企業は珍しくありません。従業員が数百人規模の組織で通報が全くない場合、問題が一切起きていないというより、窓口が活用されていないと捉える方が実情に近いといえます。制度の設置と運用の実効性は別の課題です。

300人の閾値と体制整備の義務

公益通報者保護法11条は、事業者に対し、通報の受付や調査、是正措置を行う従事者を定めること(1項)、および適切な対応に必要な体制を整備すること(2項)を義務付けています。同条3項は、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者について、1項の従事者の指定と2項の体制整備をいずれも努力義務に読み替えています。

この300人という基準は、正社員に限らず、パートやアルバイトであっても常態として使用している労働者を含めて判定します。正社員数だけで300人以下だからと判断せず、人事部門と法務部門が定期的に人員数を確認しておくことが大切です。

体制整備の具体的な内容は、消費者庁の指針(令和3年内閣府告示第118号)に示されています。通報を幅広く受け付ける仕組み、対応業務の中立性や公正性の確保、通報者の探索や特定につながる情報漏えいの防止などが定められています。300人以下で努力義務とされる企業であっても、指針が掲げる水準を目指すことが望ましいとされています。

窓口が機能しない原因と入口・出口の設計

窓口が形骸化する背景には、大きく分けて2つの原因があります。

1つは、窓口の存在は知られていても、通報後の流れが分からず従業員が不安を抱く状況です。誰が対応するのか、匿名で相談できるのか、上司に知られないかといった点が不透明だと、従業員は利用を躊躇します。もう1つは、通報があっても調査が進まない状況です。担当者が兼務で時間を取れない、調査権限があいまい、結果の伝え方が決まっていないといった事情があると、通報への対応が停滞します。「相談しても何も変わらなかった」という印象が社内に広がると、窓口は使われなくなります。

窓口を機能させるには、通報しやすい環境(入口)と、調査や是正を確実に進める体制(出口)の双方を整える必要があります。具体的には、規程の中に次の事項を明記しておくことが実務上有効です。

  • 受付手段(専用フォームや外部窓口など複数経路)と匿名受付の可否
  • 受理から一次回答までの目安期間
  • 調査担当者の権限(関係者への聞き取りや資料提出要請)
  • 調査中の通報者との連絡方法
  • 調査結果の通報者へのフィードバック範囲
  • 是正措置の決定権者と実施後の確認手順

従事者の守秘義務と不利益取扱いの禁止

公益通報者保護法11条1項に基づき指定された「公益通報対応業務従事者」には、同法12条により守秘義務が課されます。正当な理由なく、業務上知り得た通報者を特定し得る事項を漏らしてはならず、違反した場合は同法21条により30万円以下の罰金という刑事罰の対象になります。

この守秘義務は、300人以下の事業者であっても、従事者を指定した場合には例外なく適用されます。担当者本人に刑事罰のリスクを周知するとともに、通報者情報の取り扱い手順を明確にしておく必要があります。また、調査の過程で情報に触れる役員や人事担当者を都度従事者に指定するかどうか、責任の所在を整理しておくことも大切です。

さらに、同法5条は通報を理由とする降格、減給、退職金不支給などの不利益な取扱いを禁じています。不当な人事評価や配置転換といった措置が通報を契機に行われたと判断されれば、同条に違反するおそれがあります。通報対応から時間が経過した後の人事考課においても、不当な扱いが生じないよう別の視点から確認する仕組みを用意しておくと安心です。

経営陣関与事案と外部窓口の活用

窓口の運用で特に配慮を要するのが、社長や役員など経営陣自身が通報の対象となった場合です。窓口担当者が人事部門や総務部門の管理職である場合、組織の指揮命令系統から独立して調査を進めることは容易ではありません。

こうした事案に備えて、通常の報告ルートとは別に監査役や社外取締役への直通ルートを設けることや、社外の法律事務所などの外部窓口を併用することが効果的です。外部窓口を導入することで、従業員が社内の人間関係を気にせず相談しやすくなり、経営陣が関与する問題でも中立的な初期対応が可能になります。ただし、外部窓口が担うのは主に受付や論点整理であり、社内の事実調査や是正措置とどのように連携させるか、委託契約で事前に役割分担を決めておく必要があります。

2026年12月施行の改正法への備え

公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)は、2026年12月1日に施行されます。改正に対応する指針の改正は消費者庁が2026年3月31日に公表しており、改正後の指針も12月1日から適用されます。

改正後は、300人超の事業者が従事者の指定を怠ると、消費者庁による勧告に従わない場合の命令や立入検査の対象となり、命令違反や検査拒否には30万円以下の罰金が科されます。労働者等への公益通報対応体制の周知も、体制整備義務の内容として条文に明示されます。正当な理由なく通報をしない旨の合意を求めるなどして通報を妨げる行為と、通報者を特定しようとする行為も禁止され、通報をしない旨の合意は無効になります。

不利益取扱いについては、通報後1年以内の解雇・懲戒は通報を理由とするものと推定され、推定を覆す立証責任は事業者側が負います。通報を理由に解雇・懲戒をした者には6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金、法人には3,000万円以下の罰金が科されます。業務委託先のフリーランスも保護対象に加わります。

施行までに見直す対象は、内部通報規程と社内周知資料、入社時の誓約書や秘密保持契約にある「社外に一切口外しない」型の条項、通報者を探す行為を禁じる調査担当者向けの手順、フリーランスへの窓口案内です。前述した人事考課での確認も、懲戒処分の決定手続に組み込んでおくと、推定規定の下で処分理由を説明する材料になります。

LegalAgentでは、内部通報規程の作成や見直しにとどまらず、通報受付後の調査設計や、経営陣が関与する事案における中立的な調査体制づくりを支援しています。平時の体制点検はコンプライアンス支援で、実際の通報対応や調査は危機管理・不祥事対応・社内調査でご相談いただけます。

組織統治や労務管理の関連論点として、取締役会でAIガバナンスを議論するときのチェックリストスタートアップが後回しにしがちな労務リスクとカスタマーハラスメント対応も参考にしていただけます。

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