縦型ショートドラマの法務|出演者契約・二次利用・海外配信
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
一話90秒ほどの縦型ドラマを数十話制作し、最初の数話は無料、その先はアプリ内課金で公開する。反応のよかった場面をSNS広告へ切り出し、別言語へ吹き替え、海外版を配信する。縦型ショートドラマは短い映像の集合ですが、契約上は、一本の長編作品より利用形態が増えることがあります。
この事業の中心論点は、完成映像の著作権を誰が持つかという一問だけではありません。原作、脚本、音楽、撮影素材、出演者の実演、氏名・肖像等について、縦型化、分割、広告転用、翻訳、吹替え、海外配信まで利用できる権利が制作会社又は配信主体へつながっているかが問われます。権利の一箇所が途切れると、作品全体の配信を止めることになり得ます。
テレビ朝日と香港SHORTTV LIMITEDが共同制作した『奪い愛、冬2025』は、全85話、各話90秒から120秒前後の縦型ショートドラマとして、2025年3月31日から配信されました。テレビ朝日の公表記事では、2017年のテレビドラマを新キャストでリメイクし、世界198以上の国・地域で展開するアプリで配信したと説明されています。
この例には、縦型ショートドラマで生じる権利処理がよく表れています。既存ドラマの脚本・設定を使うリメイク、共同制作、新しい出演者による実演、海外の配信プラットフォーム、多話数への再構成が重なっています。オリジナル作品でも、原案がウェブ小説、マンガ、SNS投稿である場合や、制作費をブランドが負担して広告にも使う場合には、関係者が増えます。
短い動画だから許諾範囲も狭くてよいとは限りません。本編、予告、切り抜き、静止画、サムネイル、広告、メイキング、テレビ放送、横型再編集、ダイジェスト、続編、翻訳・吹替えなど、完成後に使う形を制作前に想定します。
映画の著作者と映画製作者
著作権法16条は、映画の著作物の著作者を、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当し、その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者と定めています。原作、脚本、音楽等の著作者は、それらの著作物の権利を別に持ちます。
一方、同法29条1項は、映画の著作物の著作権が、その著作者が映画製作者に対し参加を約束しているとき、映画製作者に帰属すると定めています。映画製作者は、映画の製作に発意と責任を有する者をいいます(2条1項10号)。制作費を出した会社、制作実務を担った会社、配信を企画した会社が別々であれば、誰が発意と責任を有するかを契約名だけでなく実態から確認します。
29条によって完成映像の著作権が映画製作者へ帰属しても、原作小説、脚本、劇中音楽、既存映像、写真、ロゴ等の権利まで自動的に移るわけではありません。原作をドラマ化する行為や別言語へ翻訳する行為には、著作権法27条の翻案権・翻訳権が関わり、制作した二次的著作物を配信する際には、28条により原著作者が二次的著作物について持つ権利も問題になります。
著作権を譲渡する契約で27条・28条の権利が特に掲げられていない場合、これらの権利は譲渡人に留保されたものと推定されます(61条2項)。契約に「著作権一切を譲渡する」とだけ書き、海外リメイクや多言語版まで取得できたと考えるのは危険です。譲渡か許諾かを決めたうえで、対象作品、利用方法、地域、期間、言語、再許諾、対価を記載します。
出演者の実演と人格的利益
出演者は、脚本や映像の著作者でなくても、実演家として著作隣接権を持ちます。著作権法91条は録音・録画権を、92条は放送・有線放送権を、92条の2は送信可能化権を定めています。
映画の著作物に録音・録画された実演については、実演家が最初の録音・録画を許諾した場合、原則として、その後に映画として利用する際、91条2項、92条2項、92条の2第2項により、実演家の許諾権が及ばない仕組みがあります。一般に「ワンチャンス主義」と呼ばれるものです。文化庁の令和7年度著作権テキストも、映画として二次利用する場合は原則として改めて了解を得る必要がない一方、サウンドトラックのように映画から録音物を作る場合は例外となることを説明しています。
この仕組みがあるから出演契約を簡略化できる、という結論にはなりません。そもそも対象が映画の著作物に当たるか、実演家が録音・録画を了解したか、利用が映画としての利用の範囲にあるかを確認する必要があります。出演料、成功報酬、競合出演の制限、撮影日時、危険な演技、衣装・ヌード、生成AIによる声や顔の利用は、著作隣接権とは別に契約で定める事項です。
実演家には氏名表示権と同一性保持権に相当する実演家人格権もあります。実演家人格権は譲渡できません。縦型画面に合わせて出演者の身体の一部を切り取り、台詞を別の場面とつなぎ、本人が支持していない商品広告のように見せる編集は、著作隣接権の許諾だけで解決しないことがあります。編集・広告利用の範囲を説明し、人格的利益を害する改変を避ける条項と承認手続を設けます。
氏名、芸名、肖像、経歴を宣伝へ使う範囲も出演契約に記載します。本編配信の告知と、出演者が商品を推奨しているように見える広告では性質が違います。SNS広告の配信地域、期間、媒体、静止画の切出し、第三者ブランドとのタイアップを分けて扱います。
原作・音楽・制作スタッフの権利
ウェブ小説やマンガを原作とする場合、原作利用契約で認められた映像化の範囲を確認します。日本語の縦型ドラマだけなのか、各国語への翻訳・吹替え、続編、スピンオフ、横型再編集、テレビ放送、商品化まで含むのかを定めます。既存のテレビドラマを縦型にリメイクする場合には、原作だけでなく、旧脚本、登場人物設定、音楽、映像素材等の利用関係も調査します。
脚本家との契約では、各話の納品物、改稿、監修、クレジット、続編、翻訳、脚本の出版等を扱います。委託料を支払った事実だけで、脚本の著作権が当然に制作会社へ移るわけではありません。著作権を譲渡する場合も、27条・28条の権利を特掲し、著作者人格権は譲渡できないため、不行使の対象と限界を定めます。
音楽は、既存曲、書き下ろし曲、ライブラリ音源で処理が違います。配信プラットフォーム上の本編に使えるライセンスがあっても、SNS広告、テレビCM、海外配信、サウンドトラックには使えないことがあります。作詞・作曲、原盤、実演の各権利と、利用地域・媒体を分けて確認します。
監督、撮影、編集、美術等のスタッフが映画の全体的形成に創作的に寄与すれば、16条の著作者になり得ます。29条の帰属を前提にする場合も、映画製作者への参加約束、報酬、クレジット、素材の納品、ポートフォリオ利用、守秘義務を契約で明確にします。再委託先やフリーランスが作成した小道具、グラフィック、VFX素材の権利が制作会社へ届いているかも確認が必要です。
制作委託に個人又は一人法人のフリーランスが関わる場合、フリーランス法に沿って、発注時に、業務内容、納期、納品場所、検査を行う場合の検査完了日、報酬額・算定方法、支払期日を直ちに書面又は電磁的方法で明示します。著作権の譲渡・許諾を求めるなら、その範囲と対価も明示事項に対応させます。発注者が従業員を使用しているか、委託が一定期間続くかなどにより、期日内の報酬支払、ハラスメント対策、中途解除時の予告等の適用関係が変わります。
制作会社間の取引では、2026年1月施行の取適法も確認が必要です。映像、脚本、CG、音響データ等の作成は、実際の発注内容によって情報成果物作成委託に当たり得ます。適用の有無は、契約名に加え、発注者・受託者の資本金と常時使用する従業員数、給付内容から判断します。適用がある場合には、発注内容等の明示、受領から60日以内のできる限り短い支払期日、記録保存、発注後の減額や無償のやり直し等の禁止を制作工程へ反映します。映画制作に関する具体例は、公正取引委員会の取適法Q&Aでも示されています。
多言語配信・広告転用・生成AI
海外展開では、完成映像を別地域へ配信する権利だけでなく、字幕、吹替え、タイトル変更、現地向け編集、検閲対応、広告素材の作成が必要になります。原作利用契約が日本国内に限定されている、出演契約が日本語版だけを想定している、音源ライセンスが特定国を除外しているといった不一致があれば、一部の権利を取り直すことになります。
配信先との契約では、独占・非独占、地域、期間、言語、最低保証、売上分配、アプリ内課金の計算、広告費の控除、視聴データ、海賊版対策、配信終了後の削除を定めます。多数話をコインで解放する場合には、消費者向けに、一話当たりの価格、セット価格、自動更新の有無、未使用コイン、返金条件を表示します。日本向け販売で有償コインを発行する場合、前払式支払手段への該当性も確認します。
生成AIによる翻訳、吹替え、リップシンクを使う場合、制作効率の問題だけで終わりません。出演者の声を学習し、本人が話していない言語の台詞を生成するなら、出演契約で、学習用データ、生成できる台詞、言語、作品、広告利用、保存期間、第三者へのモデル提供、契約終了後の扱いを定めます。既存の録音・録画許諾やワンチャンス主義から、声のモデルを別作品へ使う権利まで当然に導けるとは考えにくいところです。
AI翻訳によって台詞の意味や人物像が変われば、脚本家の著作者人格権や出演者の人格的利益も問題になります。現地版の監修者を決め、宗教、差別表現、年齢区分、広告規制等を確認し、公開後に修正できる手順を持ちます。
制作開始前に固定する権利の連鎖
縦型ショートドラマへ著作権法をあてはめる際は、契約書の本数より、予定する利用ごとに許諾が途切れていないかを確認します。原作・旧作品についてはリメイク、続編、海外版、脚本・演出・撮影については多話数化、再編集、翻訳、出演者については本編、切り抜き、広告、AI吹替えを対応させます。音楽、写真、美術は配信とSNS広告で許諾範囲が違うことがあり、配信プラットフォームとの契約では国内外の配信、課金、データ、再許諾を扱います。
企画時に、現在確定している利用だけでなく、成功した場合に行う利用を列にします。本編の縦型配信、横型版、SNS切り抜き、広告、テレビ放送、海外字幕、AI吹替え、続編、商品化について、権利者、契約日、期間、地域、対価、再許諾の可否を一つの台帳にします。
撮影開始前に取得できていない権利は、仮の扱いにせず、公開スケジュール上の停止条件にします。出演後、配信直前に広いAI利用や海外広告を追加で求める交渉は、出演者側にとって拒みにくく、紛争の原因になります。未確定の利用はオプションとして範囲と追加対価を定め、行使時に書面で通知する方法が考えられます。
納品時には、完成映像だけでなく、脚本、音源、画像、フォント、出演同意、再委託先の契約、素材の出典を権利台帳と対応させます。共同制作では、どちらの会社が原契約を保管し、配信先から権利証明を求められたときに提出するかを決めます。
公開後に切り抜きや広告を作る担当者が、元の契約を読まずに素材を使うこともあります。利用可能な範囲を素材管理システムに表示し、期限切れ、地域制限、広告不可、AI利用不可をファイル単位で確認できるようにすると、契約上の制限が制作現場まで届きます。