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Insight
契約レビュー

自動運転タクシーの法務|運行主体・事故責任・遠隔監視の境界

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

運転席に人がいない車両が予約地点へ到着し、乗客を乗せ、目的地まで走る。車両メーカーが自動運転システムを提供し、タクシー会社が旅客運送を行い、別会社の遠隔監視員が複数台を見守り、配車アプリが利用者との接点を持つ。自動運転タクシーでは、運転者がいなくなる一方、事業に関わる会社は増えます。

この事業の中心論点は、事故が起きたときの責任より前に、誰が旅客運送事業を経営し、誰が安全な運行を管理するかです。許可を持つタクシー会社が名目上だけ存在し、配車、運行判断、遠隔対応を他社へ委ねる設計では、道路運送法上の事業主体と実際の運営主体がずれます。事故責任、個人情報、委託契約は、その運行主体を確定した後に配置することになります。

日本では、レベル4に相当する特定自動運行の制度が2023年4月に施行されました。国土交通省は2025年5月、自動運転ワーキンググループ中間とりまとめを公表し、2026年頃と見込まれる自動運転タクシーの実装に向け、運行管理、配車プラットフォーム、認証基準、事故原因の究明、被害者補償等を検討課題に挙げています。

公道で自動運転車を走らせることと、対価を得て乗客を運ぶことには、それぞれ別の規律があります。車両と自動運転システムが道路運送車両法上の保安基準等を満たし、道路交通法上の特定自動運行の許可を得ても、タクシー事業として営業するには道路運送法上の許可と運行管理が必要です。

実証実験の段階では、自治体が費用を負担し、利用者は無料で乗車し、運行区域と時間を限定することがあります。商用化すると、運賃、配車、乗車拒否、運送約款、運行記録、苦情対応等が加わります。実証時の契約と安全体制を、そのまま有償サービスへ移すことはできません。

旅客運送事業の許可と経営主体

道路運送法3条は、一個の契約により一定の乗車定員未満の自動車を貸し切って旅客を運送する事業を、一般乗用旅客自動車運送事業と位置づけています。同法4条により、一般旅客自動車運送事業を経営するには国土交通大臣の許可が必要です。自動運転車であることは、この事業許可を不要にする理由にはなりません。

ここでいう「経営」は、車両を所有することだけを指しません。誰が運送契約の当事者となり、運賃を定め、車両を運行へ投入し、運行の安全について指揮監督するかを見ます。配車アプリが予約を受ける場合でも、アプリ会社がタクシー会社のために受付機能を提供するのか、自ら運送契約を締結するのかで役割が違います。

タクシー会社が運行管理を別会社へ委託する場合、委託できる業務の範囲と、許可事業者に残る責任を確認します。国土交通省の中間とりまとめでも、許可を持たない自動運転サービス提供会社が運行管理を受託するビジネスモデルを念頭に、管理の受委託や責任分担の制度整備が論点とされています。制度改正前に、契約だけで事業主体を入れ替えた扱いにすることはできません。

利用者向けの画面でも、配車アプリ名だけを前面に出し、運送事業者が分からない表示は避ける必要があります。予約時には、運送契約の相手方、運賃、乗降条件、自動運転であること、緊急時の連絡先を確認できるようにします。

特定自動運行と遠隔で担う業務

道路交通法75条の12は、特定自動運行を行おうとする者に、運行場所を管轄する都道府県公安委員会の許可を求めています。申請では、使用する自動車、場所、経路、時間、特定自動運行主任者等に関する計画を示し、許可基準に適合させます。

特定自動運行は、一定の条件下で自動運行装置が運転操作の全部を行い、運転者を必要としない運行です。しかし、人の関与が一切なくなることを意味しません。道路交通法上、特定自動運行主任者は、遠隔監視装置を適切に作動させ、異常時に必要な措置を講じ、警察官の指示へ対応するなどの役割を担います。

旅客運送の側でも、車内事故、乗客の急病、忘れ物、ドア周辺の安全確認、避難誘導等、従来は運転者が担っていた運転操作以外の業務が残ります。2023年の関係法令整備では、特定自動運行保安員を置き、遠隔で業務を行う場合には、車内外の状況を把握するカメラ・センサー等を備える枠組みが設けられました。

一人が複数台を監視する「1対N」の運用では、平常時に画面を見られるかだけでなく、二台以上で同時に異常が生じた場合に対応できるかを確認します。通信断、センサー異常、乗客による非常ボタン、警察・消防への連絡、現地要員の出動について、誰が何秒又は何分以内に判断するかを運用手順へ落とします。遠隔監視会社へ業務を委託しても、運送事業者と特定自動運行実施者に法令上残る義務は別に確認が必要です。

事故時に重なる責任

人身事故では、最初に自動車損害賠償保障法3条を確認します。同条は、自己のために自動車を運行の用に供する者が、その運行によって他人の生命又は身体を害したとき、原則として損害賠償責任を負うと定めています。免責には、自己及び運転者が注意を怠らなかったこと、被害者又は第三者に故意・過失があったこと、車両に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことのすべてを証明する必要があります。

「運行供用者」は、登録名義人と常に一致せず、運行を支配し、その運行から利益を得る関係から判断されます。自動運転タクシーでは、車両所有者、リース会社、許可を持つタクシー会社、遠隔監視会社が分かれることがあるため、誰が運行を支配し、旅客運送の利益を受けるかが問題になります。契約で一社だけに責任を負わせても、被害者に対する法定責任の判断を当然に拘束するものではありません。

車両やセンサー等の欠陥によって人の生命、身体又は財産に損害が生じた場合には、製造物責任法3条も検討対象です。同法上の製造物は「製造又は加工された動産」であり、車両に組み込まれたソフトウェアの不具合が車両全体の安全性を欠かせた場合には、製造物の欠陥として評価される余地があります。他方、クラウド上で提供されるソフトウェアだけを、同法上の製造物として直ちに扱うことはできません。開発会社や運用会社の責任は、民法上の契約責任・不法行為責任も含めて検討します。

事故原因は、認知・判断アルゴリズム、地図、センサー、通信、車両制御、遠隔指示、保守のいずれにもあり得ます。責任分担を判断するには、車両ログ、ソフトウェアの版、遠隔監視映像、警告、オペレーター操作、保守履歴を時刻同期して保存する必要があります。事故後に各社が別形式のログを持ち寄っても、同じ時点の出来事を再現できなければ、原因究明と求償が止まります。

車内映像・音声と位置情報

遠隔監視には、車外の道路状況だけでなく、車内の映像・音声、車両位置、乗降記録が使われます。顔や声、予約情報と結び付いた移動履歴により個人を識別できる場合、個人情報保護法上の個人情報として扱います。

利用目的は、安全な運行、緊急対応、料金計算、忘れ物対応、事故調査、サービス改善等に分けて特定します。「サービス向上のため」という記載だけで、長期間の車内録音や、乗客の行動分析まで広く行うことは避けます。安全確保に必要な常時監視と、モデル学習やマーケティングのための二次利用は、目的と保存期間を分けて設計します。

車内には、予約者以外の同乗者、通行人、救護に入った第三者も映り得ます。アプリのプライバシーポリシーに同意した予約者だけを前提にせず、車内表示、乗車前の通知、ウェブ上の説明を組み合わせます。マイクが常時作動する場合は、映像のみの場合より会話内容への影響が大きいため、録音の範囲と緊急時以外の閲覧権限を限定します。

委託先の遠隔監視センターや海外クラウドへデータを送る場合、アクセス権限、再委託、保存地域、漏えい時の連絡、契約終了時の削除を確認します。事故調査のために長期保存するデータと、平常運行後に短期間で削除するデータを区分すると、証拠保全とデータ最小化を両立しやすくなります。

商用運行に向けた役割の固定

自動運転タクシーへ法令をあてはめる際は、車両が走れるかという技術確認に加え、通常運行と異常時の意思決定を会社ごとに割り当てます。

役割 平常時の業務 異常時に決める事項
旅客運送事業者 運送契約、運賃、運行管理、乗客対応 運行中止、代替輸送、被害者対応
特定自動運行実施者 許可計画に沿った運行、主任者の配置 警察対応、運行停止、現場措置
遠隔監視・保安業務 車内外の監視、連絡、記録 同時異常の優先順位、現地出動
車両・システム提供者 車両、ソフトウェア、更新、保守 原因解析、更新停止、リコール等
配車プラットフォーム 予約、表示、決済、問い合わせ取次ぎ 利用者通知、返金、運行エリア閉鎖

同じ会社が複数の役割を担う場合でも、責任者と手順は分けておきます。出発判断、遠隔からの停止、現地要員の派遣、乗客の避難、警察・消防への通報、広報を時系列にし、同時多発時の代替要員を定めます。

各社間の契約では、法令上の責任を移せるかとは別に、費用と求償を決めます。事故調査への協力、ログの形式・保存期間、ソフトウェア更新の通知、サイバー事故、保険、補償上限、第三者請求への対応をそろえます。アップデートにより走行可能区域や挙動が変わる場合には、許可計画、認証、運送約款、利用者表示のどこを更新するかも事前に決めます。

商用開始前の訓練では、正常な乗車だけでなく、通信断、複数台同時停止、乗客の急病、車内トラブル、交通事故、サイバー攻撃を扱います。そこで生じた判断時間と引継ぎ漏れを手順へ反映し、許可申請時の説明と現場の運用を一致させます。

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