AI時代に、若手弁護士はどう育つのか
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
LegalAgentでは、生成AIが用意した下書きや調査結果を弁護士が確認し、案件の対応に生かしています。
LegalAgentでは生成AIを活用し、原則1営業日以内の回答を掲げています。成果物の納期は、案件の内容や分量などに応じて個別に調整します。最近、法律事務所における生成AI活用について考える中で、若手弁護士がどう育つのかという問題に向き合う機会が増えています。
初動作業の代替と育成機会の変化
まず、率直に言うと、生成AIは多くのアソシエイト弁護士が担ってきた作業を大きく変えていくと考えています。
Wordアドイン作ったときも感じましたが、CodeX触っていると、ますます「アソシエイト弁護士不要論」が現実味を帯びています。
とはいえ、私は、かつて「アソシエイト弁護士」として先輩やクライアントに育ててもらった身であり、「日本の法曹界の持続的な成長」という意味でも、…
— 朝戸統覚(Asato Noriaki)@Legal Agent (@NoriakiAsato)
May 2, 2026
ここでいう変化は、弁護士資格そのものや専門家としての最終判断が不要になるという意味ではなく、企業法務の実務において、これまで主に一年目から三年目ほどのアソシエイト弁護士が長い時間をかけて担ってきた作業の相当部分が、生成AIに置き換わっていくという意味です。もちろん、すべての若手の仕事がなくなるわけでも、AIが全件で直ちに同じ品質の成果物を保証するものでもありません。
法律事務所に入ったばかりの若手弁護士は、最初から案件全体の方針を決める立場にはありません。資料を読み込み、契約書を確認し、初稿やリサーチメモを作る作業から実務に入ります。この実務は事務所の生産活動であると同時に、若手が基礎を学ぶ大切な機会でした。しかし生成AIは、まさにこの領域で高い処理能力を発揮します。AIを使うと大量の資料を読み込んで、条項の差分を比較し、過去のひな形や類似案件を探して、たたき台の文案や論点候補を整えます。
これにより、従来は若手に任せていた初動作業をAIに依頼する動きが広がります。一定水準のたたき台が短時間で得られるなら、初動の作業そのものに長い時間をかけることに対して、クライアントは価値を見いだしにくくなります。事務所としても、AIで処理できる作業にあえて人手を割いて時間を請求することは説明が難しくなります。
この変化は、パートナーが全体を統括し、多数のアソシエイトが作業量を支えるピラミッド型の組織構造にも影響します。若手を増やして作業量をこなす発想は弱まり、少数の弁護士がAIを使って初動作業を短時間で進め、最終的な法的判断を弁護士が下す形へと変わっていくと考えています。
丁寧に作業すること自体は引き続き大切ですが、AIが短時間で作った初稿と同じ粒度の作業を人間が何時間もかけてやり直すだけでは、十分な付加価値になりません。これまで若手は、契約書を何度も読み返し、リサーチで悩み、過去案件を探し、先輩から赤入れを受ける地道な過程を通じて実務感覚を養ってきました。初動の工程がAIに置き換わると、そうした自然な育成の機会が減少する懸念があります。
案件の回転数と経験の蓄積
ただ、私はこの変化を悲観してばかりはいません。AIによって時間をかける作業自体の価値は下がりますが、AIが作成した成果物を点検し、疑問を持ち、修正して具体的な判断に落とし込む力の価値は高まります。この力もまた、日々の実務経験を通じて伸びていきます。
企業法務において、弁護士の判断の質は経験値に大きく左右されます。同じ業務委託契約でも、数件しか扱ったことがない弁護士と、百件、千件と見てきた弁護士とでは、契約書から読み取れる深さが異なります。損害賠償責任の上限を定めるべきか、秘密保持義務の違反を除外すべきかといった判断は、条文の知識だけでなく、過去の類似案件でどのような紛争や実務上の問題が生じたかという経験に支えられています。
生成AIを活用すると、契約書の要約や条項比較、コメント案の作成が速くなり、デューデリジェンスで確認できる資料の量も増えます。一人の若手が一年間で触れられる案件数や契約書の数には限界がありましたが、前工程にかかる時間が短縮されることで、若手が実際の実務に触れる機会を増やす余地があります。
たとえば、同じNDAを何十件も確認するからこそ、目的外利用に関する条項の表現の違いが理解できるようになります。また、同じ投資契約を繰り返し見ることで、創業者にとって真に重い負担となる条項がどこにあるかが見えてきます。AIが下準備を担うことで、若手弁護士は一件の案件に向き合う速度を上げ、多様な成果物を比較し、先輩からのフィードバックを受ける頻度を高められます。単にAIを導入しただけで自動的に実務能力が伸びるわけではないものの、経験の回転数を高める道具としてAIを位置づけることで、成長の速度を上げる道筋が開けます。
出力の検証とレビューの負荷
AIを業務に取り入れる際には、AIが作成した大量の成果物を高速で確認し、判断を下し続ける難しさに目を向ける必要があります。AIは文章の形式を整え、一見すると論点に抜け漏れがないように見える出力を返してきます。しかし、法律実務では体裁が整っているだけでは足りません。
出力の根拠となる条文や公的ガイドラインに誤りがないか、前提事実を取り違えていないか、依頼者の事業目的や立場に合致しているかを確認する姿勢が欠かせません。さらに、提示されたリスクをそのまま相手方に伝えるコメントと、社内限りの留意事項として残すべき論点とを適切に分ける判断も大切です。あえて指摘を見送るべき論点があるかどうかも、取引の背景や相手方との関係性、リスク許容度を踏まえて検討します。
こうした検証を行う作業は、精神的にも体力的にも大きな負荷を伴います。私自身も、AIから次々と提示される契約書案やリサーチ結果を高速で確認していると、頭の処理が追いつかなくなるような感覚を覚えることがあります。若手がこの負荷に向き合う過程では、一人で抱え込まずに疑問点を率直に相談できる上位者や同僚の存在が欠かせません。
AIの出力を鵜呑みにせず、一次情報にあたって裏付けを取り、過去の事例と比較しながら疑問を投げかける力は、まさに実務経験の中で磨かれます。AIを遠ざけるのではなく、AIの出力を実際に読み込み、修正を重ね、上位者からの具体的なフィードバックを受ける訓練を積むことが有効です。
意図的な教育設計と事務所の支援
法律事務所では、日常の案件処理を通じて若手が学ぶ機会が多くあります。その反面、担当する案件や指導を受ける機会によって経験に差が出ることもあります。しかし、AIの普及によって作業工程が短縮される時代には、育成を偶然任せにせず、意図的に仕組みとして整えていく視点が大切です。
具体的には、AIが生成した成果物に対して若手がどのような視点でレビューを行い、どのような論点を修正したのか、その理由を記録に残す運用を進めます。案件フォルダや検討履歴の中に、先輩弁護士がどのような意図で修正を加えたのかという理由が蓄積されていれば、若手はAIの出力と完成形を見比べるだけでなく、判断に至る思考過程を深く学ぶことができます。
若手弁護士が早い段階から多くの案件に触れ、AIの出力を点検し、上位者の判断理由から学び続ける環境があれば、従来よりも速い歩みで実務力を身につけていけるはずです。LegalAgentとしても、生成AIと弁護士の協働を深めながら、次世代の実務家が着実に成長できる環境づくりを大切にしていきます。
当事務所では、生成AIと企業法務に精通した弁護士の協働により、契約レビューや資金調達、M&A対応などを行っています。法務面でお困りのことがありましたら、お力になれる場面が多いと考えておりますので、お気軽にお問い合わせください。