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法務アウトソーシング法務における生成AI活用法

AIによる顔・声の利用と人格的権利|企業が広告制作で確認すべき許諾の設計

こんにちは!Legal Agent代表弁護士の朝戸です。

AIで人物の声を再現したナレーション、生成AIで作った説明員のデジタルヒューマン、著名人の話し方に寄せた合成音声のCM。広告やコンテンツ制作の現場では、実在する人物の顔や声をAIで再現・合成して使う場面が急速に増えています。問題になりやすいのは、本人の許諾なしに、あるいは許諾の範囲を超えて、こうした素材を制作・配信してしまう類型です。

顔と声で保護の枠組みが違う

人物の顔・声のAI利用を考えるとき、最初に押さえておく必要があるのは、顔(肖像)と声とで、現時点の法的な保護のされ方が同じではないという点です。

肖像については、氏名や肖像等をみだりに利用されない権利が人格権に由来するものとして認められ、そのうえで、肖像等が持つ顧客吸引力を排他的に利用する権利(パブリシティ権)が判例法理として形成されています。最高裁は、肖像等を無断で使用する行為について、肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合、商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付する場合、肖像等を商品等の広告として使用する場合など、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして不法行為法上違法となる、という判断枠組みを示しています(最高裁第一小法廷平成24年2月2日判決)。広告での利用は、この3類型のうち「商品等の広告として使用する場合」に真正面から当たり得るため、無断利用のリスクが特に高い使い方だと理解しておく必要があります。

声については、肖像権による保護の枠組みは顔の肖像と異なりますが、パブリシティ権、不法行為法、不正競争防止法などによる保護の可能性が整理されています。声を無断で利用された場合の法的な受け皿としては、パブリシティ権、不法行為(民法709条)、不正競争防止法上の周知表示混同惹起行為、著名表示冒用行為、誤認惹起行為、信用毀損行為などが、利用態様に応じて問題となります。経済産業省は、肖像と声のパブリシティ価値について、現行の不正競争防止法における考え方を整理した資料を2025年に公表しており、周知性・著名性の程度や利用形態に応じて、周知表示混同惹起行為、著名表示冒用行為、誤認惹起行為、信用毀損行為に該当し得るとの整理を示しています。あわせて法務省は、肖像・声等の無断利用による民事責任の在り方を検討する検討会を設け、2026年7月27日までに第5回会合を開いています。声の保護をめぐる議論は、既存の制度の解釈で対応する段階から、専門の検討会で在り方そのものを議論する段階に移っており、今後の議論の展開を注視する必要があります。

「声には肖像権のような明文の権利がないから自由に使ってよい」という理解は、企業の実務担当者が陥りやすい誤解です。明文の法律がないことは、無許諾利用のリスクがないことを意味しません。不法行為や不正競争防止法による保護の可能性が残っている以上、声についても顔と同じ水準で本人の許諾を取る運用にした方が安全です。

許諾を取らずに進めた場合に起きること

顔や声の利用許諾を取らずに広告・コンテンツ制作を進めた場合、起こり得る事態は段階的です。

本人または代理人から利用停止や削除を求められたり、広告姿勢そのものが批判の対象になったりするリスクがあります。さらに、パブリシティ権侵害や不法行為を理由とする損害賠償請求に発展する可能性があります。広告としての利用は前述の3類型の中心に位置するため、無断利用のリスクが特に高い類型です。広告媒体側から許諾関係の確認を求められる可能性もあります。

AIで生成した音声・映像であることが、この責任を軽くする方向には働きません。本人の声や顔の特徴に似せて生成した場合、「本物ではなくAI生成物だから問題ない」という主張は、本人の同一性を想起させる利用である以上、通用しにくいと考えられます。むしろAI生成であることを隠したまま公表すると、後述する表示上の問題も別途生じます。

許諾契約で決めておくべき4つの範囲

本人から顔・声の利用許諾を得る場合、契約で詰めておくべき事項は、大きく4つに整理できます。

利用範囲は、どの媒体で使うのか、広告なのか販促物なのか社内利用なのかを具体的に定めます。「広告に使用する」とだけ書くと、後から動画広告、屋外広告、SNS広告、店頭POPのどこまで含むのかで解釈がぶれます。

利用期間は、開始日と終了日を明記し、自動更新の有無を決めます。AI生成コンテンツは複製・再配信されやすいため、期間経過後の広告データの扱いも契約で確認します。

改変の可否は、AI音声化・AI映像化そのものが改変に当たるという前提で許諾を取ります。本人の発言内容を変える改変、表情や口調を変える改変、他のコンテンツと合成する改変を区別し、どこまで許容するかを個別に定めます。声質を学習・複製してモデル化する利用は、録音物をそのまま使う利用とは性質が異なるため、モデル化の可否を契約書上で明示しておいた方がよいです。

二次利用は、当初の契約主体以外への提供、グループ会社での利用、海外展開時の利用、契約終了後の広告アーカイブとしての保管を想定して定めます。二次利用先を限定しない契約では、本人の想定を超えた場面で顔・声が使われる可能性があります。

表示面で見落とされやすい論点

許諾契約が整っていても、表示の問題は別に残ります。AI生成の顔・声であることを隠して、あたかも本人が実際に発言・出演しているかのように見せる表示は、視聴者の誤認を招く表示として、景品表示法上の不当表示や、前述の不正競争防止法上の誤認惹起行為の観点から問題になり得ます。本人の出演許諾を得ていても、「AIによる音声合成」「本人の音声を基に生成」といった説明を適切に行うかどうかは、許諾の有無とは別に検討する必要があります。

広告審査の実務では、原稿の内容だけでなく、この種のAI利用の表示が視聴者にどう受け止められるかまで確認する必要があり、単純な文言チェックでは足りない場面が増えています。

制作前に確認しておきたい実務ポイント

企業が広告・コンテンツ制作でAI音声・AI生成の人物イメージを使う際は、次のチェックリストを制作着手前に確認します。

  • 利用する顔・声のモデルが実在の特定人物を想起させるものか、それとも完全な創作物か
  • 実在人物由来である場合、本人または権利者から利用範囲・期間・改変・二次利用を明記した許諾を取得済みか
  • 許諾書の利用範囲が、実際に出稿する媒体・地域・期間と一致しているか
  • AI生成であることの表示方法を、媒体や表示内容に応じて準備しているか
  • 過去に許諾を得て制作した音声・映像データを、別の広告で転用していないか

このチェックは、クリエイティブがほぼ固まった段階ではなく、企画段階で行った方がよいです。許諾範囲を超える利用が後から判明すると、修正の選択肢が狭くなる可能性があります。

生成AIによる著作権・学習データの論点は、この顔・声の利用とは別の切り口として、生成AIと著作権・学習データのチェックポイントで扱っています。また、AI生成コンテンツを使ったキャンペーンでは、景品規制と表示規制の両方の確認が必要になる場面があります。この点はキャンペーン施策と景品表示法のポイントで取り上げた考え方が参考になります。

制作前の法務確認について

顔・声のAI利用に関する許諾契約の設計や広告表示の確認は、制作が進んでからではなく、企画段階で法務が入った方が手戻りが少なくなります。LegalAgentでは、著名人・タレントの肖像や音声を扱う制作案件を念頭に置いたIP・エンタメ法務と、広告表現・キャンペーン設計の確認を行う広告審査を通じて、この領域のご相談をお受けしています。

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