会社に訴状が届いた日にすべきこと、答弁書提出期限までの初動対応
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
裁判所から訴状が届いたとき、最初に確認すべき事項は同封書類に記載された答弁書の提出期限です。この期限は裁判所が個別の事件ごとに指定する期日であり、社内で反論の準備が整うのを待ってはくれません。対応を先送りにすれば反論の機会を失うおそれがあるため、届いたその日のうちに初動を起こすことが何より大切になります。
特別送達による訴状の受領
会社宛てに裁判所から届く訴状等の書類は、通常の郵便とは送達の手続が異なります。紙の書面による送達には郵便法第49条に基づく「特別送達」が用いられ、民事訴訟法第100条第1項および第103条から第106条に定める方法に従い、日本郵便の配達員が名宛人へ手渡し、受領の事実を証明する記録を残します。郵便受けへの投函で済まされる普通郵便とは異なり、いつ誰が受け取ったかが正確に記録される点が大きな特徴です。
会社が名宛人である場合、代表者の住所や本店所在地への送達が原則となりますが、民事訴訟法第106条の規定により、受付担当者や従業員などの使用人等で相当のわきまえがある者が交付を受けることも認められています。ここで生じやすいのが、受付や総務が受領した書類を「裁判所からの郵便」としてそのまま机の上に置き、代表者が開封しないまま日数が経過してしまう事態です。法的には代表者が現実に内容を読んでいなくても、適法な受領権限を持つ者が受け取った時点で送達の効力が生じる場合があります。受領した部署だけで書類を抱え込まず、すぐに経営陣や法務担当者へ届けることが受領時に必要な対応です。
なお、2026年5月21日からは対象となる民事訴訟においてシステム送達も利用できます。紙の郵便物に加えて、提訴日や経過措置を確認したうえで、民事訴訟法第109条の2に基づく届出の有無や裁判所からの案内に応じた電子通知の管理も視野に入れる必要があります。システム送達では、通知送信から1週間が経過した日または閲覧・記録が行われた日のいずれか早い時点で送達の効力が生じます。本人の責めに帰することができない事由で閲覧・記録ができない期間を1週間に算入しない規定もあります(民事訴訟法第109条の3)。そのため、メールの受信確認だけに頼らない管理体制が前提となります。
答弁書の提出期限と第1回口頭弁論期日
訴状とともに送られてくる封筒には、「口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」が同封されています。ここには、第1回口頭弁論期日の日時とともに、答弁書をいつまでに裁判所へ提出すべきかという具体的な日付が記載されています。答弁書とは、訴状に記載された請求の趣旨や請求の原因に対して、会社側の主張や言い分を法的に示す最初の書面です。
答弁書の提出期限は受領日から一律の日数(たとえば30日後など)として法定されているわけではなく、裁判所や担当部が個別に指定します。そのため、届いた書類の日付そのものを正確に読み取らなければなりません。また、答弁書の提出期限は第1回口頭弁論期日より前に設定されるのが通常であり、第1回の期日当日までに用意すれば足りるというわけではない点にも留意してください。
答弁書を作成する実務では、原告の請求を退けるよう求めるのか(請求棄却の申立て)、あるいは認めるのかという「請求の趣旨に対する答弁」と、訴状の事実関係を認める・否認する・知らない(不知)に分ける「請求の原因に対する認否」を明確に区別して記載します。ここで特に注意したいのは、個々の事実を認める認否と、原告の請求そのものをすべて受け入れる「請求の認諾」を取り違えないことです。請求を認諾する旨を記載した書面を裁判所に提出すると、欠席時にも裁判所が認諾の陳述をしたものとみなす場合があります。認諾が電子調書として所定のファイルに記録されると、確定判決と同一の効力が生じます(民事訴訟法第266条、第267条)。事実関係を十分に確認しないまま、書式の空欄やチェック欄を安易に埋めて提出してしまう運用は避けなければなりません。
答弁書の未提出と欠席に伴うリスク
適正な答弁書を提出せず、第1回口頭弁論期日にも出頭しなかった場合、会社は極めて不利な立場に置かれます。裁判所の案内にも明記されているとおり、答弁書を出さずに期日を欠席すると、原告の請求を全面的に認める判決が言い渡される可能性があります。
この根拠となるのが、民事訴訟法第159条に定められた「自白の擬制」という制度です。被告が口頭弁論期日において原告の主張した事実を争うことを明らかにしない場合、その事実を自ら認めたものとみなされます。その当事者が最初にすべき口頭弁論の期日では、事前に提出された答弁書を陳述したものとみなす取扱い(民事訴訟法第158条)が認められていますが、これはあくまで適正な答弁書を提出していることが前提です。答弁書を出さずに欠席すると、争わなかった事実が自白したものとみなされ、請求を認める判決につながるおそれがあります。ただし、弁論の全趣旨から争っていると認められる場合や、公示送達による呼出しの場合などには例外があります。契約書に管轄や準拠法の定めがある場合の論点については、準拠法・合意管轄・仲裁条項とは?紛争時のルールを契約書でどう設計するかで整理しています。
相手方と交渉中だからといって、「話し合いで解決する見込みがあるため裁判の期日は静観しよう」と判断するのは危険です。原告側と水面下で協議を継続する場合であっても、裁判所に対しては期限内に答弁書を提出し、請求を争う意思を正式に示しておく必要があります。法的な手続を放置することは、相手方の言い分を全面的に受け入れたのと実質的に同じ結果を招きかねません。
社内での事実確認と関連資料の保全
訴状が届いたら、答弁書の起草と並行して、社内に存在する事実関係の確認と資料の保全を速やかに進めます。訴状の請求原因には、契約締結に至る経緯、業務の履行状況、トラブルの経過、損害発生の主張などが原告側の視点から記載されています。会社側としては、その主張が客観的な事実と合致しているかどうかを、手元の一次資料と照合しながら検証していきます。
契約の内容は、契約書と注文書・請書、仕様書で確認します。履行と支払の状況は納品書や検収書、請求書と入出金明細を照合します。担当者間の電子メールやチャット履歴、社内の稟議書も、合意や判断の経緯を示す資料として確保します。電子データについては作成日時や送受信ログなどのメタデータを保持したまま原本を保全し、決して改ざんや消去を行わない配慮が欠かせません。訴訟が長期化すると資料の散逸や担当者の異動が生じやすいため、受領した段階で関係資料の写しを時系列にまとめ、原本の所在と管理者を一覧化しておくと、その後の主張立証が円滑に進みます。
あわせて、当時取引に関与した担当者への聞き取りも早い段階で実施します。人の記憶は時間の経過とともに曖昧になり、退職や休職によって事情を聴けなくなる事態も想定されます。いつ、誰が、相手方とどのような協議を行い、契約条件や合意内容がどのように変化したのかを担当者本人の言葉で聞き取り、原告の主張と食い違う点をメモに残しておくことが有効です。この聞き取り記録は、答弁書のみならず、その後に提出する準備書面や証拠説明書を作成する際の大切な土台となります。
弁護士への相談時期と持参資料
訴状が届いた事案において、弁護士へ相談する時期は受領直後が基本となります。期限までに事実確認を行い、認否の方針を固め、反論の骨子を組み立てる作業には相応の時間を要するためです。地方裁判所の訴訟では弁護士代理の原則(民事訴訟法第54条)があり、法令上の例外を除き弁護士以外の者が代理人として法廷に立つことはできません。代表権を持つ代表取締役自身が会社を代表して訴訟を追行することは可能ですが(民事訴訟法第37条)、一般の従業員が代理人となることはできず、専門的な訴訟手続を社内だけで抱え込むことには実務上の限界があります。
弁護士へ相談する際は、受領した訴状の原本(または写し)と、同封されていた期日呼出状・答弁書催告状を一式持参します。さらに、請求原因に関連する契約書や取引の履歴、担当者間のやり取りを時系列順に並べた一覧を用意しておくと、初回の打合せから具体的な争点把握に入ることができます。資料の不足や所在が分からないものも伝え、追加確認を誰が進めるかを打合せで決めます。
社内で事実関係を完全に調べ上げてから相談しようとすると、かえって提出期限直前の慌ただしい対応を招く結果になります。事実関係の確認自体を弁護士と協議しながら進める方が、争点を的確に絞り込んだ答弁書を期限内に作成できる可能性が高まると考えられます。やむを得ない事情で期限までの提出が難しい場合でも、早めに裁判所へ事情を伝え、提出期限や期日の取扱いを確認します。変更を確認できるまでは、当初の期限を前提に準備を進めます。契約上の債務不履行が請求原因となっている案件では、契約不履行とは?債務不履行との違いと企業法務の初動対応で解説した初動の考え方もそのまま活用できます。
受領当日の対応と初動の進め方
訴状を受領した当日に取り組むべき作業は、届いた書類一式を直ちに経営陣と法務担当者へ共有し、答弁書の提出期限と第1回口頭弁論期日を確定させることです。訴状に記載された事件番号、原告名、請求の趣旨、請求原因の骨子をまとめたメモを作成しておくと、社内の関係者間や弁護士への情報共有を円滑に行えます。
受領した週のうちには、請求原因に関連する契約書類や通信記録の集約を進め、当時の関係者からの聞き取りに着手します。そして答弁書の提出期限から逆算して弁護士との面談日程を設定し、委任の要否や対応方針の検討に入ることが実務的な順序です。争う意思がある場合は、答弁書においてその旨と事実に対する認否を明確にしたうえで、指定された期限までに裁判所へ届けることを最優先に行動してください。
訴訟への対応そのものは訴訟・紛争解決でお受けしています。社内対応と並行して契約関連の相談体制を見直したい場合には、法務担当が専任でいない会社の初動対応から継続的に支える法務アウトソーシングのページもご覧ください。