生成AIとは何か?法務担当者のためのやさしい入門
こんにちは!Legal Agent 代表弁護士の朝戸です。
最近、「生成AIを法務でも使ってみたい」というご相談をいただくことが増えました。一方で、「そもそも生成AIが何なのかよく分からないまま、なんとなく不安で触れていない」という法務担当者の方も少なくないと感じています。
たとえば、上司から「うちの法務でもChatGPTを使えないか検討して」と言われたものの、何ができて何が危ないのかが整理できず、最初の一歩を踏み出せずにいる、という場面です。あるいは、事業部が勝手に生成AIで契約書をチェックし始めてしまい、法務として急いで基礎を理解しなければならなくなった、というご相談もあります。
この記事では、専門用語をできるだけ使わずに、生成AIとは何か、法務のどの場面で役に立つのか、そして使い始める前に知っておきたい前提を、最初の一歩として整理します。技術の専門家になる必要はありません。業務で安全に使うイメージを持てることを目標にしています。
この記事で分かること
生成AIのおおまかな仕組み、法務で得意なこと、最初に知っておくとよい前提を、やさしく整理します。技術的な正確さよりも、契約審査やメール対応といった日々の業務で「どこに使えそうか」がイメージできることを優先しています。あわせて、コピーして試せるサンプルプロンプトと、初心者がやりがちな失敗も紹介します。
生成AIは「文章を作るのが得意な道具」
生成AI(Generative AI)とは、大量の文章を学習し、人間の指示に応じて新しい文章を作り出すAIのことです。代表例が、ChatGPTやClaude、Geminiといったチャット型のサービスです。
イメージとしては、「とても物知りで、文章を読む・書く・要約する・言い換えることがものすごく速いアシスタント」が、画面の向こうにいると考えると分かりやすいです。法律の専門書をたくさん読んだ新人が、24時間いつでも下書きを手伝ってくれる、という感覚に近いと思います。
質問を打ち込むと、まるで人と会話するように文章で答えてくれます。契約書の条文を貼り付けて「この条項の意味を、法律に詳しくない事業部の人に分かるように説明して」と頼めば説明を、「この秘密保持契約を5行で要約して」と頼めば要約を返してくれます。指示の文章のことを「プロンプト」と呼びますが、要は「AIへのお願いの文章」と考えていただければ十分です。
生成AIは、どうやって答えを作っているのか
少しだけ仕組みに触れておきます。生成AIは、入力された文章の続きとして「次に来る可能性が高い言葉」を、確率的に選びながら文章を組み立てています。膨大な文章を学習しているため、その「もっともらしさ」の精度が非常に高く、結果として人間が書いたような自然な文章になります。
ここで大切なのは、生成AIは「正解を検索して持ってきている」わけではない、という点です。インターネット検索のように、どこかにある正しい答えを探し出しているのではなく、学習した知識をもとに、その場で文章を組み立てています。
この性質は、法務にとって両面があります。良い面は、決まった答えのない「下書き」「言い換え」「要約」がとても得意なことです。注意すべき面は、もっともらしいけれど事実と違う内容を、自信たっぷりに作ってしまうことがある点です。たとえば、存在しない条文番号や、実在しない判例を、本物らしい体裁で示してくることがあります。この現象は「ハルシネーション」と呼ばれ、別の記事で詳しく扱います。
なぜ法務と相性が良いのか
法務の仕事は、契約書、メール、議事録、社内規程、法令、ガイドライン、過去案件の資料など、大量の文章を扱う仕事です。
生成AIは、まさにこの「文章を読んで、整理して、書く」作業が得意です。そのため、契約審査の下準備にあたる部分で力を発揮しやすいと考えています。
具体的には、次のような場面が考えられます。
- NDA(秘密保持契約)を貼り付けて、秘密情報の定義、目的外利用の禁止、存続期間といった重要条項を一覧に整理してもらう
- 業務委託契約について、委託者の立場で気をつけたい条項(成果物の範囲、検収、再委託、損害賠償、契約解除など)を洗い出してもらう
- 相手方から届いた長いメールを要約し、こちらが回答すべき論点を箇条書きにしてもらう
- 専門用語の多い条項を、事業部向けにかみ砕いた説明文に書き換えてもらう
- 社内向けの簡単なリスクメモのたたき台を作ってもらう
いずれも「ゼロから人が書くと時間がかかるが、土台があれば確認と修正で仕上げられる」作業です。生成AIは、この土台づくりを高速化してくれる道具だと考えています。
生成AIが「苦手なこと」も最初に知っておく
相性が良い一方で、生成AIは魔法の箱ではありません。最初の段階で「できないこと」を知っておくと、安全に使い始められます。
第一に、会社固有の事情を勝手には知りません。過去の交渉でこの取引先にどこまで譲歩したか、自社のリスク許容度がどの程度か、といった社内の文脈は、こちらが伝えない限り反映されません。
第二に、最終的な法的判断を代わりにしてくれるわけではありません。「この損害賠償の上限を受け入れてよいか」という判断は、取引の重要度や金額、情報漏えい時の影響などを踏まえた経営判断を含みます。生成AIは論点の整理は手伝えますが、責任を持って結論を出すのは人間の役割だと考えています。
第三に、最新の法改正や、ごく最近の出来事を正確に反映できていないことがあります。学習した時点より後の情報は持っていないか、不正確なことがあるため、条文や制度の最新性が重要な場面では、必ず一次情報での確認が必要です。
まずは「下書きを作ってもらう道具」と考える
最初のうちは、生成AIを「自分の代わりに最終判断をする存在」ではなく、「下書きやたたき台を高速で作ってくれる道具」と捉えると、安全かつ実用的に使い始められます。
たたき台をAIに作らせ、内容を人間が確認し、修正して仕上げる。この使い方であれば、スピードを上げながら、品質と責任を自分の手元に残せます。契約審査でいえば、「AIに論点の抜け漏れを防ぐ補助線を引いてもらい、最終的なリスク判断とコメントの強弱は人間が決める」というイメージです。
サンプル:最初に試してみる質問(基本形)
まずは、社外秘の情報を含まない一般的な資料を使って、次のように尋ねてみると感触がつかめます。秘密情報や個人情報は入れないようにしてください。
あなたは企業法務の経験が豊富なアシスタントです。
これから貼り付ける文章を、法務担当者向けに5行で要約してください。
専門用語にはかっこ書きで簡単な説明を付けてください。
最後に、追加で確認すべき点があれば3つ挙げてください。
【ここに要約したい文章を貼り付け(社外秘でないもの)】
サンプル:立場と論点を指定する質問(応用形)
慣れてきたら、自社の立場と契約類型を指定すると、より実務的な出力になりやすいです。「問題点を全部挙げて」と漠然と聞くより、見てほしい観点を絞る方が、使いやすい答えが返ってきます。
あなたは企業法務の経験が豊富なアシスタントです。
次の契約書を、受託者(業務を受ける側)の立場でレビューしてください。
以下の観点ごとに、気をつけるべき点を整理してください。
1. 成果物の範囲と検収の条件
2. 再委託の可否
3. 損害賠償の範囲と上限
4. 契約解除の条件
5. 知的財産権の帰属
出力は、観点ごとに「条項の要旨」「懸念点」「確認したいこと」の
3つに分けてください。
なお、あなたの回答は下書きであり、最終判断は人間が行う前提です。
【ここに契約書本文を貼り付け(社外秘でないもの)】
このように立場(委託者か受託者か、開示側か受領側か)を伝えるだけで、出力の実用性が大きく変わります。これは、契約審査で「最初に自社の立場を確認する」という実務の考え方と同じです。
よくある失敗
初めて生成AIを使うときに、つまずきやすいポイントをいくつか挙げます。
第一に、出力をそのまま正解として使ってしまうことです。生成AIはもっともらしい文章を作るのが得意なので、間違いが「正しそうな見た目」で混ざります。条文番号や数字、固有名詞は、特に鵜呑みにしないことが大切です。
第二に、丸投げの質問をしてしまうことです。「この契約、大丈夫?」とだけ聞くと、一般論しか返ってきません。契約類型、自社の立場、見てほしい論点を具体的に伝えると、答えの精度が上がります。
第三に、軽い気持ちで秘密情報を貼り付けてしまうことです。取引先名や個人名、未公表の条件などが含まれていないか、入力前に一呼吸おいて確認する習慣が大切です。社内ルールで利用可能なサービスや入力してよい情報の範囲が決まっている場合は、それに従う必要があります。
使うときの注意点
- 会社の秘密情報や個人情報は、安易に入力しないでください。取引先名、契約金額、未公表の条件、個人名などが含まれていないか、貼り付ける前に確認することが大切です
- 利用するサービスが、入力した内容を学習に使うのか、ログをどこに保存するのかを、社内ルールやベンダーの規約で確認しておくと安心です
- AIの回答は間違っていることがあります。条文番号、数字、固有名詞、判例などは、必ず一次情報で確かめてください
- 最終的なリスク判断と、相手方へ返すコメントの内容は、必ず人が確認することが前提です
- 自社に生成AIの利用ルールがある場合は、利用してよいサービスや情報の範囲について、そのルールに従うことが大切です