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AI News Analysis

FTCのDoNotPay最終命令|「AI弁護士」表示と性能根拠の法的リスク

FTCのDoNotPay最終命令をもとに、「AI弁護士」等の表示、性能の裏付け、米国の命令内容及び日本法上の実務リスクを解説します。

ニュース発生日
LegalAgent公開日
更新日
執筆者
朝戸 統覚
監修者
朝戸 統覚
公開状態
監修済み

一次情報

本解説の対象となった公表資料・発表です。

米国連邦取引委員会(FTC)は2025年2月11日、「世界初のロボット弁護士」を掲げてサービスを宣伝してきたDoNotPay, Inc.に対する同意命令(Decision and Order)を最終化したと公表しました。命令は、19万3000ドルの金銭的救済の支払、対象期間の既存顧客への通知、今後の表示に関する禁止事項を課すものです。この事件は2024年9月にFTCが公表した一斉摘発「Operation AI Comply」の一環として提起され、意見募集を経て最終化されました。本稿では、命令の法的性質、FTCが問題視した表示と根拠不足の理由、命令が課す具体的義務を一次資料から確認した上で、日本企業が「AI弁護士」等の表示を行う場合に生じる景品表示法及び弁護士法上の論点を、米国の命令とは別の枠組みとして整理します。

命令に至る経緯と法的性質

FTCは2024年9月25日、DoNotPayを含む複数の事業者に対する一斉摘発の一環として、告発内容と提訴合意案を公表しました。委員会は5対0で告発状及び提訴合意案の発出を承認し、30日間の意見募集に入りました。5件の意見が寄せられ、委員会は2025年1月16日に5対0で最終命令の承認を可決したとFTCは説明しています。委員会が発出した告発状(Complaint)及び決定・命令(Decision and Order)にはいずれも2025年1月14日の日付が付されており、事件番号はDocket No. C-4812です。

この命令は連邦地裁の判決ではなく、FTC法5条に基づく行政上の同意命令(consent order)です。決定書は、DoNotPayが告発状記載の事実を認めも否定もしないこと、本手続の目的に限り管轄を基礎付けるために必要な事実のみを認めることを明記しており、表示の実体に関する事実関係そのものを法的に認めたものではありません。もっとも告発状記載の事実は、DoNotPayが金銭支払義務を履行しない場合の破産免責除外手続等、将来の一定の執行手続では証明なしに真実とみなされます。命令の名宛人はDoNotPay, Inc.及びその承継人・譲受人に限られ、他のAI法律サービス事業者を直接拘束するものではないと解されます。

FTCが問題視した表示と根拠不足の理由

告発状によれば、DoNotPayはウェブサイト、アプリストア、TikTok等の広告で「世界初のロボット弁護士」を掲げ、ボタン一つで訴訟を提起できると宣伝し、CEOは「2000億ドル規模の法律業界を人工知能で置き換える」と述べたとされています。同社サイトには「このロボット弁護士ができることは、人間の弁護士がすることと驚くほど似ている、あるいはそれ以上だ」との引用が掲載されていましたが、告発状はこの引用の出所が実際にはロサンゼルス・タイムズ紙が運営する高校生向けブログに掲載された一高校生の意見記事であったことを指摘しています。

告発状が問題視した中心的な表示は、同サービスが人間の弁護士のように、依頼者固有の事実関係に法令を適用し、時効や賠償上限、管轄といった落とし穴を専門知識に基づき回避し、事業者のウェブサイト上の法令違反を検知して助言する能力を持つという表示です。加えて、メールアドレスのみで数百件の連邦・州法違反を検知し、放置すれば12万5000ドルの弁護士費用を要する事態を防げるとした「ウェブサイト診断」機能の表示も、実際にはそのような分析を行っていなかったとされています。

FTCが根拠不足と判断した理由は明確です。DoNotPayは法律関連機能の出力が人間の弁護士の水準にあるかを一度もテストしておらず、サービスは自然言語処理モデルとチャットボット、OpenAIのChatGPT APIを組み合わせたもので、包括的かつ最新の連邦法・州法や判例のコーパスで訓練されたものではありませんでした。同社は品質・正確性を検証する弁護士を雇用も委託もしていませんでした。なお、カリフォルニア州弁護士会は2021年から別途、非弁行為の疑いで同社を調査していましたが、フォーガソン委員の同意意見は、FTCの本件対応が州の非弁行為規制の執行と同視されるべきではなく、委員会は州の職業免許法を執行する権限を持たないと明記しています。表示の裏付け不足を理由とする規制と、非弁護士による法律事務の取扱いそのものを禁止する規制は、法的な性質が異なるためです。

命令が課す具体的義務

決定・命令は、DoNotPayに19万3000ドルを命令発効から30日以内にFTCへ支払うよう命じています。加えて、2021年1月1日から2023年12月31日までの加入顧客を対象に、命令発行から180日以内に指定文面によるメール通知を義務付けています。通知文面は、FTCが同社の広告の一部を裏付け不十分と判断したこと、及び今後は十分な根拠がない限り人間の弁護士のように書面作成や訴訟提起、法的助言を行えると宣伝しないことを消費者に伝える内容です。

将来の表示規制の範囲は法律業務に限定されません。命令が定義する「対象製品・サービス」は、DoNotPayサービスに加え、同社が提供する法律・会計・建築・コンサルティング・医療等の「専門的サービス」を称するあらゆるインターネット製品・サービスを含みます。命令は、これらが人間の専門家のように機能する、あるいは専門家並みの性能を持つと表示する場合、表示時点において、専門家による客観的な検証を経て業界で一般に信頼性が認められた「有能かつ信頼性のある証拠」を保有していない限り、当該表示を禁止しています。このほか、10年間の記録保存義務、1年後及びその後3年間の年次コンプライアンス報告義務、命令発行日から20年間の存続期間を定めています。

日本企業への接点(景品表示法・弁護士法72条との対比)

日本企業が同種の「AI弁護士」表示を行う場合、少なくとも二つの異なる法的論点を区別して検討する必要があると考えられます。

一つは、景品表示法5条1号が定める優良誤認表示の論点です。AIサービスの性能について実際より著しく優良であると消費者に誤認させる表示は、消費者庁による調査の対象となり得ます。同法7条2項の不実証広告規制により、消費者庁から根拠の提出を求められた場合、事業者は原則15日以内に資料を提出しなければならず、提出できなければ不当表示とみなされます。FTCの命令が表示時点での根拠保有を求めるのに対し、不実証広告規制は求めに応じて事後的に根拠を提出する構造である点が異なりますが、性能主張には裏付け資料が必要という点は共通していると考えられます。

もう一つは、弁護士法72条が定める非弁護士による法律事務取扱いの禁止です。同条は、弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で訴訟事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱うことを業とすることを禁止しています。この規制は表示の真実性と無関係に働く点でFTCの命令と大きく異なります。性能表示が正確でも、サービスの実質が個別事案の鑑定や代理に当たる法律事務を報酬を得て業として行うものであれば72条の問題が生じ得ますし、逆に性能表示に根拠がなくても、実体が情報提供や書式作成支援にとどまれば72条の問題は生じません。この役割分担については、AI弁護士とは何かを整理した記事でも取り上げています。

自社のAIサービスで「AI弁護士」「弁護士に代わる」「人間の専門家と同等」といった表示を用いている場合、翌営業日までに次の点を確認することが実務対応の出発点になります。

  • 表示文言の棚卸し。ウェブサイト、アプリストア、SNS投稿を含め、性能や専門家との同等性を示唆する表現を洗い出す。
  • 性能主張の根拠資料。表示を行った時点で第三者検証や専門家のテスト結果等の裏付け資料が存在するかを確認し、存在しなければ表示の修正又は根拠資料の整備を検討する。
  • 専門資格者の関与に関する表示。弁護士や有資格者が監修・関与しているかのような表示をしている場合、実際の関与の有無・範囲と表示内容が一致しているかを確認する。

利用規約や表示の見直しには、生成AIサービスの利用規約で最初に見るべき法務論点や、AIサービスを始める会社が最初に作るべき法務チェックリストも参考になります。DoNotPayの事件でFTCが問題視した根本的な原因の一つは、AIの出力を人間の専門家が検証する体制が存在しなかったことにあります。この点は、生成AIの回答を人が最終確認する重要性とも共通する論点です。

今後確認すべき動き

決定・命令は、DoNotPayに対し発行日から1年後(2026年1月頃)を目途とするコンプライアンス報告を義務付けています。本稿執筆時点で、この報告の内容やFTCによる評価結果は公表されていません。また、FTCは2026年7月にAI出力の正確性に関する政策声明案を公表していますが、これは本件とは別の一般的な政策形成の動きであり、本稿では深入りしません。DoNotPayの命令が示した、専門的サービスを提供すると称する表示には表示時点での裏付けが必要という考え方が、他のAI法律サービスや医療・会計分野のAIサービスに対する今後のFTC執行にどこまで応用されるかは、継続的に確認すべき事項です。

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