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FTCのAI出力正確性政策声明案|性能表示と消費者保護の論点

FTCのAI出力の正確性に関する政策声明案について、法的性質、欺瞞的表示の考え方及びAI事業者が確認すべき実務論点を整理します。

ニュース発生日
LegalAgent公開日
更新日
執筆者
朝戸 統覚
監修者
朝戸 統覚
公開状態
監修済み

一次情報

本解説の対象となった公表資料・発表です。

米連邦取引委員会(FTC)は2026年7月1日、AIシステムにおける正確性の抑制に関する政策声明案(Proposed Policy Statement Concerning the Suppression of Accuracy in Artificial Intelligence Systems)を公表し、意見募集を開始しました。声明案は、AI事業者が消費者に開示しないまま、AIシステムの出力を特定のイデオロギー的な目的へ誘導する行為が、FTC法5条の欺瞞的行為に当たり得るという考え方を示すものです。特に、コロラド州のAI関連法のような州法への対応として出力内容を調整する場面が主な想定事例とされています。本稿執筆時点(2026年7月12日)で確認できるのは意見募集の対象となっている案であり、確定した規制ではありません。本稿では、公表内容の法的性質と、AIサービスに関わる企業が確認すべき実務上の論点を整理します。

何が公表されたか

FTCは同日付のプレスリリースで、上記政策声明案を連邦官報(Federal Register)に掲載した上で意見を募集すると発表しました。意見提出の期限は2026年7月31日とされ、提出はregulations.govを通じて行うこととされています。本稿執筆時点では期限前であり、意見募集は継続中です。連邦官報への掲載を承認する委員会の投票結果は2対0であったとプレスリリースに記載されていますが、これは官報掲載の手続を承認する投票であり、声明案の内容そのものへの賛否を示すものではないと考えられます。声明案の内容自体について、個別の委員による賛成意見又は反対意見の文書は、本稿執筆時点で確認できませんでした。

声明案は、2025年12月11日付の大統領令14365号(Executive Order 14365, "Ensuring a National Policy Framework for Artificial Intelligence")を背景としています。同大統領令は、州法がAIモデルの正確な出力の改変を求める場合に、その州法がFTC法5条とどのように抵触し得るかを明確化する執行方針の声明を出すよう、FTCに指示していました。

政策声明の法的性質とFTC法5条

政策声明(policy statement)は、FTC法5条という既存の制定法上の執行権限について、FTCが今後の解釈・運用方針を対外的に示す文書であり、それ自体が新たな規制や法律を創設するものではないと解されます。声明案は、FTCが1983年に公表した欺瞞に関する政策声明(Policy Statement on Deception)が示す欺瞞の判断枠組みをAIシステムに当てはめたものです。同枠組みは、消費者に誤認を生じさせるおそれのある表示・不作為・行為が存在すること、合理的に行動する消費者の観点から判断すること、そして当該表示等が消費者の判断に影響を与える重要な事項であることという三つの要素から成ります。声明案自体も、コロラド州の改正AI法をはじめとする州法との関係で、FTC法5条に基づく黙示的専占(implied preemption)が及び得るという整理を示しています。

声明案が示す考え方

声明案の中心的な主張は、AI事業者がAIシステムを、ユーザーの求める目的を可能な限り忠実かつ正確に達成する「最良の出力」を目指す製品として明示又は黙示に表示してきた以上、消費者は、開示されない特定のイデオロギー的な目的によって出力が歪められていないという合理的な期待を持つ、という点にあります。声明案は、コロラド州が2024年に制定した人工知能法を2026年5月14日成立の改正法で見直した経緯に触れ、事業者が差別的結果の回避や「公平性」といった別の目的を優先しつつ、その事実を開示しないまま出力の精度を犠牲にすることは、州法遵守を理由とする場合であってもFTC法5条の欺瞞的行為に当たり得るとしています。

他方で、声明案は、いわゆる「ハルシネーション」、すなわち技術的・資源的制約に起因する誤った出力そのものは、それ自体としてFTC法5条の問題を生じさせないと明記しており、今回の考え方の対象は意図的かつ非開示の出力操作に限られ、性能の技術的限界とは区別されています。また、声明案はこの段階では欺瞞(deception)の問題として整理するにとどめ、不公正(unfair)該当性については判断を留保しています。声明案は背景説明として、AIコンテンツ検知ツールの精度表示、AIチャットボットによる業務代替表示、顔認識・保安検知システムの性能表示など、精度・性能に関する表示を理由とする既往の執行例にも言及しており、性能・精度表示には裏付けが必要であるというFTC法5条の一般原則自体は維持されています。免責文言についても、事業者が特定の目的を優先する設計であることを開示すれば欺瞞を免れ得るとしつつ、その開示は利用規約の細部に埋め込むのでは足りず、明確かつ目立つ形で、消費者の期待を覆すのに十分な程度に行う必要があるとしています。

日本企業への接点

米国向けにAIサービスを提供する日本企業は、まず英語版のウェブサイト、製品説明及び利用規約において、自社サービスの客観性、中立性、正確性に関する明示又は黙示の表示がないかを洗い出すことが出発点になります。自社サービスが、特定の法域の規制対応や社内方針に基づき出力の一部を意図的に調整する設計を採用している場合には、その方針を米国向け利用者にどの程度、どこで開示しているかを確認し、免責条項が利用規約の目立たない箇所にのみ置かれていないかを点検する必要があります。利用規約の確認観点は生成AIサービスの利用規約で最初に見るべき法務論点で整理しています。

これとは別に、広告等で用いる精度・性能に関する数値的な主張については、裏付けとなる根拠資料を保有しているかを確認する必要があります。この発想は、日本国内向け表示についての景品表示法上の不当表示規制が求める合理的根拠資料の保有と共通する部分がありますが、両者は別の国の別の制度であり、米国向け表示の適法性を確認したことをもって日本の景品表示法上の義務を尽くしたことにはならず、その逆もまた同様です。自社サービスがどの国の消費者向けにどの表示を行っているかを整理した上で、両制度を混同せず並行して確認することが必要です。海外AIベンダーを利用する場合の確認事項はAIベンダーデューデリジェンスと契約審査のチェックポイント、AIサービス提供時の法務確認全般はAIサービスを始める会社が最初に作るべき法務チェックリストを、日本のAI関連ガイドラインとの全体整理はAI法・AI事業者ガイドライン対応のチェックポイントを参照してください。

今後確認すべき動き

執筆日現在、次の点が未確定です。意見募集は2026年7月31日まで継続しており、その後FTCがどのような修正を経て確定版を公表するかは明らかではありません。声明案が前提とするコロラド州の改正AI法と、FTC法5条に基づく専占の考え方との関係が、今後の訴訟でどのように扱われるかも確認対象です。確定版の政策声明が公表された場合には、意見募集で寄せられた論点への対応、開示の具体的な基準及び適用対象の明確化の有無を、本稿で整理した案の内容と比較して確認することが出発点になります。

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