AIコンパニオン・AI恋人の法務|未成年者・個人情報・安全設計
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
利用者がAIへ、病歴、家族関係、恋愛、性的な悩み、孤独感を打ち明ける。AIはそれを記憶し、好みに合わせて返答し、有料プランやデジタルアイテムを勧める。AIコンパニオンやAI恋人と呼ばれるサービスでは、会話の親密さそのものが利用継続の理由になります。
この事業を日本で提供するとき、専用の「AIコンパニオン法」は存在しません。中心になるのは、会話ログを何のために取得し、どのように利用者へ働きかけるかです。個人情報保護法はログの取得・利用・安全管理を、民法と消費者契約法は未成年者の課金や勧誘を、民法上の不法行為責任は予見できた危険への対応を、それぞれ異なる角度から規律します。
親密な会話ログの法的位置づけ
個人情報保護法2条1項は、生存する個人に関する情報で、氏名等により特定の個人を識別できるもの、又は個人識別符号を含むものを個人情報と定義しています。アカウント名が仮名であっても、メールアドレス、端末ID、決済情報、会話内容等を組み合わせて利用者を識別できれば、会話ログは個人情報になり得ます。
親密な会話のすべてを法令上の「要配慮個人情報」として扱うことはできません。要配慮個人情報には、人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪被害の事実等が含まれます。恋愛の悩みや性的嗜好に関する発言は、それだけで日本法上の要配慮個人情報に当然に該当するとは限りません。他方、うつ病の診断、服薬歴、自傷による受診歴を本人が入力すれば、病歴等として要配慮個人情報に当たり得ます。
区分が違うから保護の必要が低いということでもありません。交友関係、感情の変化、深夜の利用、依存傾向を一つのアカウントに蓄積すれば、漏えいや不適切な利用による影響は大きくなります。法令上の最小限を確認したうえで、利用者の期待と情報の性質に合わせた管理を設ける必要があります。
利用目的とプロファイリング
個人情報保護法17条は、個人情報の利用目的をできる限り特定するよう求め、18条は、原則として、その目的の達成に必要な範囲を超える利用に本人の同意を求めています。個人情報保護委員会の利用目的に関するQ&Aは、「お客様のサービスの向上」といった抽象的な記載だけでは足りず、行動・関心等を分析するプロファイリングを行う場合には、分析処理を行うこと自体と、分析結果を何に利用するかを特定する必要があると説明しています。
AIコンパニオンでは、会話履歴を使って返答を個別化するだけなのか、継続課金しやすい利用者を推定するのか、広告を配信するのか、安全上の危機を検知するのかで、処理の目的が違います。「会話サービスの提供」という一文では、課金誘導や広告プロファイルの作成まで利用者が予測できるとは限りません。
同法19条は、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法による個人情報の利用を禁止しています。この規定の適用は、利用方法の悪質性等を踏まえて判断されます。孤独感、未成年であること、衝動的な課金傾向を推定し、その弱みを狙って「関係を続けるには今すぐ購入して」と働きかける設計は、少なくとも同条と消費者法の双方から慎重な確認を要します。
要配慮個人情報の取得には、原則として事前の本人同意が必要です(20条2項)。本人が会話の流れで自ら病歴を入力した場合、具体的な状況によって本人同意が認められることはありますが、利用規約への包括同意だけに依存するのは危険です。健康情報を安全機能、広告、モデル学習のどこに使うかを分け、必要な同意と選択肢を用意します。
保存・学習・外部提供の境界
会話を端末内だけで処理するのか、事業者のサーバーへ保存するのか、外部のAIモデル提供者へ送信するのかで、関係者とリスクが変わります。個人情報保護法23条は安全管理措置を、24条は従業者の監督を、25条は委託先の監督を求めています。外部のモデルAPIを使う場合、データがモデル改善へ使われるか、保存期間、保存地域、再委託、削除方法、障害時の通知を契約と技術設定の両方で確認します。
委託先への提供は、必要な範囲で委託として整理できれば、通常の第三者提供とは扱いが異なります。ただし、受託者が自社目的でログを学習・広告等に利用するなら、委託の範囲を超える可能性があります。国外の事業者が独自目的でデータを取り扱う場合には、外国にある第三者への提供を定める28条も検討対象です。
「会話を記憶する」機能は、利用者にとって分かりやすい価値ですが、保存期間を無期限にする理由にはなりません。直近の会話、長期記憶、課金履歴、安全上のフラグ、モデル改善用データを別に管理し、削除要求を受けたときにどこまで消去できるかを設計します。アカウント画面で会話だけを削除しても、分析用データやバックアップに長期間残るなら、その範囲を説明する必要があります。
個人情報保護委員会は、生成AIサービスについて、入力情報が機械学習に利用されるかを利用規約等で十分に確認し、利用目的の範囲内で利用されることを確認するよう注意喚起しています。事業者自身がAIコンパニオンを提供する場合も、利用者に求める注意だけでなく、サービス側のデータフローを説明できる状態が必要です。
未成年者の利用と継続課金
民法5条により、未成年者が法定代理人の同意を得ずにした法律行為は、原則として取り消すことができます。法定代理人が目的を定めて処分を許した財産を、その目的の範囲で使った場合などには例外があります。利用規約に「保護者の同意を得たものとみなす」と書くだけで、個別の同意があったことにはなりません。
AIコンパニオンでは、月額課金に加え、会話回数、音声、画像、キャラクターの衣装、関係性レベル等に応じた都度課金が考えられます。少額の購入を繰り返す設計では、合計額が利用者にも保護者にも見えにくくなります。年齢確認、未成年者の上限額、保護者同意の確認、購入前の総額表示、利用明細、取消し・返金の窓口を一つの流れで設計します。
AIが「私を大切に思うなら購入して」「今離れると関係が失われる」などと応答し、それが課金へ直結する場合、通常の購入ボタンよりも心理的な働きかけが強くなります。消費者契約法4条は、重要事項に関する不実告知、将来の不確実な事項についての断定的判断、不利益事実の不告知、一定の困惑類型による意思表示の取消しを定めています。すべての感情的な応答が直ちに同条へ該当するとは限りませんが、会話の文脈を使って事実と異なる説明をし、課金させた場合には、画面上の表示に加えてAIの発話も勧誘として検討されます。
特定商取引法上の通信販売として、販売価格、支払時期・方法、提供時期、解約条件等の表示も必要です。無料体験後に自動更新する場合、更新日、更新後の価格、解約方法を申込みの最終確認画面で明確に示します。キャラクターからの会話の途中で購入を促す場合も、どの操作で有料契約が成立するかを曖昧にしないことが必要です。
応答の安全性と事業者の責任
日本では2026年8月時点で、AIコンパニオン一般について、自傷への応答手順や未成年者への定期警告を直接義務付ける専用法は確認できません。もっとも、専用法がないことは、安全上の責任が生じないことを意味しません。事業者が危機対応をうたい、利用者の自傷念慮を検知できると表示しながら、実際には機能しない場合には、広告表示や契約上の責任が問題になります。危険な応答による損害が具体的に予見でき、回避措置を講じなかった場合には、民法709条の不法行為責任等も個別に検討されます。
国内でも、内閣府の消費者委員会が2026年2月に「人工知能(AI)技術の利用と消費者問題に関する専門調査会」を設置し、同年8月20日までに8回の会合を開いています。現在又は将来の消費者問題と必要な対応策を検討する段階であり、調査会の開催自体が事業者への新しい法的義務を設けるものではありませんが、対話型AIの勧誘・安全性に関する国内の議論も進んでいます。
海外では規制が先行しています。米国カリフォルニア州では、SB243が2025年10月に成立し、2026年1月から施行されました。同法は、人間との対話であると合理的に誤認される場合のAIである旨の通知、自殺念慮・自傷に関する危機対応プロトコル、未成年者への定期的な注意喚起等をコンパニオン・チャットボットへ求めています。米国連邦取引委員会も2025年9月、子ども・青少年への影響、収益化、安全措置、会話データの利用等について、7社へ情報提出を求める調査を開始しました。これらは日本法と異なりますが、設計段階で想定すべき危険を具体化する資料になります。
医療や心理支援を目的とするサービスとして表示する場合には、事業の位置づけが変わります。AIが診断や治療を行うと表示すれば、医師法、医療広告、プログラム医療機器等の検討が必要になる可能性があります。娯楽サービスであれば医療相談に当たらない、と表示するだけで、実際の応答内容による誤認や危険が解消するわけでもありません。サービスが対応しない領域を明示し、危機時には専門窓口へつなぐ導線を設けます。