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売掛金の回収手順|催促から支払督促・少額訴訟・訴訟までの流れ

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

取引先への請求書を送ったのに入金がなく、経理担当から「今月もA社からの入金が確認できません」と報告が上がってくる。管理部長が電話で問い合わせると「経理処理が遅れている」「来月まとめて払う」と返事があり、いったんは様子を見る。ところが翌月も同じ説明が繰り返され、気づけば入金遅延が3か月、4か月と続いている。法務担当者がいない会社では、この段階になって初めて「そろそろ何か手を打つべきか」という話が経営者の耳に入ることが多いです。

売掛金の回収は、催促の電話やメールから始まり、内容証明郵便による督促状、支払督促、少額訴訟、通常訴訟という段階を踏んで強度を上げていく手続です。どの段階でどの手段を選ぶかは、金額や証拠の有無、相手方が争う可能性、時効までの残り期間によって変わります。

入金遅延が続いたときにまず確認すること

督促の電話をかける前に、社内で確認しておくべき事項があります。

まず、請求金額と支払期日の根拠です。契約書や発注書など取引の根拠となる資料が、請求書の内容と一致しているかを確認します。次に、相手方から遅延について何らかの説明を受けているか、メールや議事録に残っているかです。口頭でのやり取りだけで済ませていると、後で内容証明や支払督促を出す段階になって、いつ・誰が・何を伝えたかを裏付ける資料がないという事態になりかねません。

もう一つ確認すべきは、相手方の経営状態です。経理処理の遅れにとどまるのか、資金繰りが悪化しているのかによって、その後に取るべき手段の優先順位が変わります。他の取引先への支払遅延の噂、代表者との連絡が取りにくくなる、決算内容の急激な悪化といった資金繰り悪化の兆候がある場合は、悠長に督促を重ねている間に他の債権者に先を越される可能性があるため、早めに弁護士へ相談したほうがよい局面です。

電話・メールでの督促と記録の残し方

入金遅延に気づいた直後は、まず電話やメールで事実確認と督促を行うのが通常の流れです。この段階では相手方との取引関係を維持する余地が大きく、支払遅延の理由を確認しながら、いつまでに、いくら支払うのかを具体的に詰めていきます。

この段階では、口頭でのやり取りを記録に残しておくと、後の手続で証拠として使えます。電話で話した内容は、通話後にメールで「本日お電話でお伝えした内容の確認です」として送り、支払期日や分割払いの合意があればその条件を書面化します。相手方が「来月末までに全額支払う」と口頭で約束した場合も、メールで確認を取っておけば、後に支払督促や訴訟に進む際の証拠になります。

督促を重ねても支払の目途が示されない、あるいは示された期日を守らないという状態が続いたら、次の段階に進む時期です。目安としては、督促の電話・メールを2回から3回行っても具体的な支払期日の合意すら得られない場合、書面による督促に切り替えることを検討してよいと考えます。

内容証明郵便による督促

電話やメールでの督促に応じない相手方に対しては、内容証明郵便で督促状を送る方法があります。内容証明郵便は、いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったかを郵便局が証明する制度で、後に支払督促や訴訟になった際に、督促の事実と内容を客観的に示す証拠になります。

督促状には、請求金額、請求の根拠となる契約・請求書、支払期日、支払方法、支払がない場合には法的手続に移行する旨を記載します。感情的な表現や事実と異なる記載は避け、契約書や発注書に基づく事実だけを書くようにします。

内容証明郵便を送っても支払がない場合、あるいは相手方から連絡すらない場合は、次の段階として法的手続を検討することになります。この段階まで来たら、自社の担当者だけで交渉を続けるのではなく、弁護士に相談して手続選択の助言を受けたほうがよい局面だと考えます。支払遅延を含む契約不履行への初動対応は、契約不履行とは?債務不履行との違いと企業法務の初動対応でも扱っています。

支払督促という選択肢

支払督促は、金銭の支払を求める場合に、原則として相手方の住所地を管轄する簡易裁判所の書記官に申し立てる手続です。書類審査のみで進むため、裁判所に出向く必要がありません。

支払督促が相手方に送達され、相手方が送達日から2週間以内に異議を申し立てない場合、申立人はその後30日以内に仮執行宣言の申立てをすることができます。仮執行宣言が付されると、強制執行の申立てが可能になります。一方、相手方が適法に異議を申し立てた場合は、通常の訴訟手続に移行します。

支払督促には、少額訴訟のような金額の上限がありません。相手方に争う姿勢がなく、支払を先延ばしにしているだけと見られる場合に向いた手続です。相手方が金額や契約内容そのものを争ってくる可能性が高い場合は、異議によって通常訴訟に移ることになるため、最初から通常訴訟や少額訴訟を検討したほうが手戻りが少ないこともあります。

申立ての手数料は、裁判所が公表している現在の手数料額早見表で確かめることになります。2026年7月時点では、支払督促の申立ては訴額100万円で書面申立て7,700円・電子申立て7,500円、訴額300万円で書面申立て12,700円・電子申立て12,500円とされています。

少額訴訟という選択肢

少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払を求める場合に限って利用できる、簡易裁判所の特別な訴訟手続です(法務省サイトで確認)。裁判所は原則として1回の期日で審理を終えて即日判決を言い渡す点が特徴で、同一の簡易裁判所において同一年内に利用できる回数には制限があります(裁判所公式サイトで確認)。

判決に不服がある場合、相手方(あるいは自社)は、判決または判決の調書の送達を受けてから2週間以内に、同じ簡易裁判所に異議を申し立てることができます。異議が申し立てられると、通常の訴訟手続で審理されることになります。

少額訴訟は、請求額が60万円以下で、契約書・請求書・納品書などの証拠がその場で提示できる程度に整理されている場合に選びやすい手続です。60万円を超える売掛金については、この手続自体を利用できないため、支払督促か通常訴訟を検討することになります。

通常訴訟を選ぶ場面

相手方が金額や契約内容そのものを争っている場合、請求額が少額訴訟の上限を超える場合、あるいは支払督促に対して異議が出された場合は、通常訴訟で決着をつけることになります。

通常訴訟は、簡易裁判所または地方裁判所に訴えを提起し、複数回の期日を重ねて主張と証拠を出し合う手続です。相手方が事実関係を争う可能性がある案件では、契約書・発注書・納品書など取引の経過を裏付ける証拠を整理したうえで訴状を作成することになります。

裁判所に納める申立手数料は訴額に応じて定められており、2026年7月時点の裁判所公式サイトの手数料額早見表では、民事・行政訴訟の訴え提起について、訴額100万円で書面申立て12,500円・電子申立て11,400円、訴額300万円で書面申立て22,500円・電子申立て21,400円、訴額500万円で書面申立て32,500円・電子申立て31,400円が目安です。これに加えて、弁護士費用や、勝訴後の強制執行にかかる費用も見込んでおく必要があります。

時効管理を後回しにしない

売掛金の回収を検討するうえで見落としやすいのが、消滅時効の管理です。民法166条は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間、または権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、債権は時効によって消滅すると定めています(e-Gov法令検索で確認)。通常の売掛金であれば、支払期日の到来によって権利を行使できることを債権者が認識しているのが通常であるため、支払期日から5年で時効にかかる場合が多いと考えられます。

督促を繰り返しているうちに数年が経過し、気づいたときには時効の完成が目前に迫っているという事態は避けなければなりません。取引先ごとに支払期日と時効の完成時期を一覧化し、完成が近づいている債権については、内容証明郵便による催告で時効完成を一時的に猶予し、その期間内に支払督促・訴訟の申立てなどを行うことを優先的に検討する必要があります。時効管理は、金額の大小にかかわらず、すべての売掛金についてリスト化しておくべき事項です。

遅延損害金の請求

売掛金の回収では、元本に加えて遅延損害金を請求できる場合があります。契約書に遅延損害金の利率を定めている場合はその利率により、定めがない場合は法定利率によることになります。民法404条の法定利率は年3%とされ、3年を1期として見直される仕組みになっていますが、2026年7月時点では次の見直し時期(令和8年4月1日から令和11年3月31日まで)においても年3%のまま変動しないことが法務省から公表されています(法務省サイトで確認)。

契約書に遅延損害金の定めがある場合は、その利率と法定利率のどちらが適用されるかを確認したうえで、督促状や支払督促の申立書に金額を明記します。

今週やっておきたいこと

入金遅延が数か月続いている状態であれば、次の作業を今週中に始めることをお勧めします。

  • 遅延している取引先ごとの関連資料(契約書・請求書・納品書)とやり取りの記録の集約
  • 支払期日と消滅時効の完成時期の一覧化、時効完成が近い債権の洗い出し
  • 口頭中心だった督促のメールによる記録化
  • 内容証明郵便で送る督促状の文案準備
  • 金額・証拠の状況を踏まえた、支払督促・少額訴訟・通常訴訟の手続選択の検討

督促を重ねても入金の見込みが立たない、あるいは相手方の資金繰り悪化が疑われる段階まで来たら、自社の担当者だけで交渉を続けず、弁護士に相談して手続選択を含めた方針を固める時期です。

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