生成AIがうまくいかないときのチェックリスト|入門
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
生成AIを法務業務で試していると、「一般的な解説にとどまり、実務で使えない」「依頼した意図と微妙にズレている」と感じる場面に出会うことがあります。業務委託契約書の確認を依頼したのに当たり障りのない教科書的な説明しか返ってこなかったり、秘密保持契約の修正案を求めた際に自社が受領者(情報を受け取る側)であるにもかかわらず開示者に有利な文案を提案されたりするケースです。
こうしたズレが生じる場合、指示文における前提の共有不足だけでなく、モデル自体の得手不得手、長文の読み込み制限による情報の途切れ、あるいは出力形式の指定方法など、複数の要因が絡み合っていることがあります。利用者の指示の出し方だけが原因とは限りませんし、同じ指示を与えれば常に同じ結果が得られるわけでもありません。
それでも、指示文の組み立て方を見直すことで、AIから引き出せる回答の精度や実用性を高められる場面は多く存在します。手元で確認できる視点を整理しておくと、日々の業務で迷ったときの助けになります。
回答が自社の立場と合わないとき
意図通りの回答が得られないときは、まずAIに渡している文脈が十分かを確認してみる価値があります。特に法務の現場では、「誰に向けた文章か」「自社がどちらの立場か」によって確認すべき重点が大きく変わるためです。
たとえば秘密保持契約のレビューでは、自社が開示者か受領者かによって、注意を払うべき条項の優先順位が異なります。自社が受領者であれば、秘密情報の定義が広すぎないか、目的外利用の制限が業務に支障をきたさないか、開示可能な関係者の範囲が確保されているか、存続期間が長すぎないかといった点が主な確認事項になります。立場が伝わっていないと、一般論にとどまったり、意図と違う側に立った提案になったりすることがあります。
もっとも、立場や目的を詳しく伝えたからといって、法的な正しさが保証されるわけではありません。立場を指定して得られる回答は、あくまでその視点に立った検討材料の提案であり、実務的な適否の判断には依然として人間の確認が欠かせません。
目的、立場、形式、前提の確認
回答に違和感を覚えた際は、指示文に以下の要素が含まれているかを順に確かめる方法が役立ちます。
- 利用目的の提示: 誰に対してどのような用途で提出する文章かを指定する項目
- 取引上の立場: 委託者か受託者か、開示者か受領者かなど自社の位置づけを補う項目
- 出力形式の指定: 箇条書きや表形式、文字数や項目数など求める形を絞り込む項目
- 前提事実の共有: 取引の重要度や背景事情など確認済みの事実関係を補足する項目
目的を伝える際は、「事業部門の責任者に要点を説明するため、懸念の大きい順に絞り込んでほしい」といった具体的な利用場面を示すと、実用的な回答を得やすくなります。また、一度の指示に要約、論点抽出、修正条文の作成などをすべて盛り込むと焦点がぼやけやすいため、段階を分けて質問することも有用です。
「相手方ならこの条項をどう主張してくるか」と尋ね、反論を想定する方法もあります。ただし、そこで挙がった事情は仮説であり、相手方の実際の意図や確認済みの事実と混同しないようにします。
分かりにくい箇所への追加指示
最初の回答が期待と異なっていた場合、一からやり直すよりも、改善したい点に対象を絞って追加の指示を重ねる方が円滑に進むことがあります。たとえば「専門用語を平易な言葉に言い換える」「受託者側の負担が重い条項に絞って比較する」といった具体的な修正を指示します。やり取りが長くなり、過去の指示との混線が見られるときは、新しいチャットを開始して整理された前提条件を再入力する方が望ましい結果につながります。ただし、新しいチャットを開いても、サーバー上のデータが消えるわけではありません。サービスによっては共通の記憶機能なども働くため、前の文脈が一切引き継がれないとも限りません。
別のツールを試す場合は、そのサービスとアカウントが社内で承認されているかを確かめます。移す資料についても、入力が許される範囲かを確認します。
次は、受託者の立場から事業部長へ報告するための指示文です。三点に絞る指定は、報告用に優先順位を付けるためのものです。
あなたは企業法務の補助をするアシスタントです。次の契約条項について、レビューの観点を挙げてください。
前提となる立場や目的は次のとおりです。ここが変わるだけで、返ってくる回答の力点も変わります。
- 当社の立場:受託者(業務を受ける側)
- 目的:事業部長への報告用
- 出力の形:リスクの大きい順に、箇条書きで3点まで
- 各点は、なぜ問題か・どう直したいかを一文ずつ
【ここに条項を貼り付け】
回答が難しすぎる場合は、どの読者にとって分かりにくいかを伝えます。次の指示文では、社内の非専門家に向けて表現と長さを調整します。
今の回答は、社内の非専門家には少し難しく、量も多すぎます。次のように直してください。
- 専門用語は避け、必要なら短い言い換えを添える
- 重要な3点に絞る
- 箇条書きで、各点は2行以内
なお、事実や条文の正確性は人が別途確認します。実務での最終確認はこの工程が代替できません。
【必要なら、特に分かりにくかった箇所をここに記入】
修正後も、短くしたことで条件や例外が落ちていないかを確認します。表現を整える依頼と、内容の検証は分けて進めます。
短くした回答にも必要な原文確認
生成AIは、整った文章や箇条書きの体裁であっても、実在しない条文番号を引用したり、対象取引に適用されない古い法令を使ったりすることがあります。また、回答で「上位3点のリスク」が挙げられたとしても、それで契約書全体の確認が完了したわけではありません。形式が整っているほど誤りに気づきにくくなる点には意識的な配慮が必要です。
条文番号と内容はe-Gov法令検索で、判例は裁判所の裁判例情報や信頼できる判例データベースで実際の判決文を確認します。取引金額や相手方との交渉経緯といった個別の事実関係は、自社の契約書や社内記録などの一次情報に照らして人が確認する体制を崩さないことが大切です。特に社外へ提出する契約書案や対外的な連絡文面については、人が内容を確認したうえで最終決定を行う必要があります。
実務運用の支援サービス
契約書レビューにおける生成AIの活用方法や、自社に合わせた指示文の型づくりについて個別の支援をご希望の際は、以下のサービスをご活用いただけます。