← AI法務ラボへ戻る
Insight
契約レビュー法務における生成AI活用法AIサービス法務

契約書レビューへのAI活用と弁護士法72条|法務でAIに任せられる範囲

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

夕方、事業部門から至急で確認してほしいと依頼された新規取引の契約書が届きます。納期が迫る中で法務担当者が生成AIに契約書の全文を読み込ませると、条項の修正案と懸念される論点の一覧がすぐに画面に出ます。このとき迷うのは、その指摘をそのまま信用して相手方に差し戻してよいかという点です。自社の事業の特性や過去の取引経緯を踏まえた内容なのか、相手方との力関係を反映しているのかは、画面の文章を眺めているだけでは分かりません。作業時間が縮んだ手応えと、この出力をどう自社の判断に落とし込むかという迷いは、同時に生じます。

もう一つの迷いは、法律の側にあります。弁護士でない者が報酬を得て法律事務を業として扱うことは、弁護士法72条で禁止されています。AIに契約書レビューをさせること、AIによる契約書レビューのサービスを企業に提供することは、この条文とどう関係するのか。法務省は2023年と2026年にこの点についてガイドラインを公表しており、法務でAIをどこまで使えるかは、この二つの文書を読めば大枠が分かります。

法務でAIが使われている場面

企業法務でAIが使われている場面は、担う役割と対象とする業務工程に応じて、次のように分かれます。

  • 契約書の作成・レビュー・管理を支援するソフトウェア
  • 法令・判例・社内資料のリサーチと要約
  • 議事録・社内説明メモ・翻訳などの文書作成支援
  • 汎用の対話型生成AIに契約書や質問を入力する使い方
  • 指示に従って複数の作業工程を自律的に進めるAIエージェント

法務省が2026年に公表したガイドラインは、こうした技術を活用したサービスを「AI等法務業務支援サービス」と呼んでいます。対象は契約書レビューに特化した専用ソフトに限られず、汎用型AIのサービス提供者が対価を得て事業者にサービスを提供する場合も念頭に置かれています。

AIが得意なのは、形式が決まっていて量の多い下準備です。契約書全体から不利な条項や欠けている条項を洗い出す論点の抽出、自社のひな形や相手方の提示案との条項対比、修正履歴の突き合わせ、判例や行政資料からの関連箇所の抽出と要約、条項の修正案のたたき台の作成がこれに当たります。

一方で、契約書の外にある情報を前提とする判断は人が担います。相手方との資本関係や力関係、過去の取引実績、今回の取引をどうしても成立させたいという事業上の要請、自社が許容できるリスクの限度、経営陣が納得する説明の深さは、契約書の文言の中には書かれていません。AIが抽出したリスクを自社の基準に照らして受け入れるかどうか、相手方にどの修正案を出しどの要求を取り下げるかという交渉方針は、こうした情報を把握している法務担当者や弁護士が決める事項です。「AI弁護士」という呼称が使われる場面もありますが、AIは法律上の判断責任を引き受ける主体ではありません。言葉の意味と弁護士との使い分けはAI弁護士とは?生成AI時代の企業法務で弁護士とAIをどう使い分けるかで扱っています。

弁護士法72条とAIによる契約書レビュー

法務でのAI活用で避けて通れない法的主題が、弁護士法72条との関係です。同条本文は次のように定めています。

「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」

同条ただし書は「この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」と規定します。

民間事業者が提供するAIサービスがこの条文の禁じる非弁行為に当たるかどうかは、罰則の構成要件該当性の問題です。個別の事実関係に基づき、弁護士以外の者が他人の法律事件に介入することを業とするのを放置すれば、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害するという同条の趣旨(最高裁昭和46年7月14日大法廷判決)に照らして判断され、最終的には裁判所の判断に委ねられます。

法務省は、この解釈について二度ガイドラインを公表しています。2023年8月の「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」(以下、2023年ガイドライン)と、2026年8月21日の「ビジネス分野におけるAI等法務業務支援サービス提供と弁護士法第72条の関係について」(以下、2026年ガイドライン)です。2026年ガイドラインは、生成AIの進展と対話型・自律型サービスの普及を受けて2023年ガイドラインを補完・拡充するもので、両者は併せて参照されます。

2023年ガイドラインは、72条の要件ごとに一般的な考え方を示しました。

「報酬を得る目的」の報酬は、法律事務取扱の役務に対する対価をいいます。利用料など一切の利益供与を受けずに提供する場合は通常この要件に当たりません。他方、有償サービスへの誘導、第三者からの支払、会費等を支払った者だけへの提供のように、実質的に対価関係があれば該当し得ると解されています。

「その他一般の法律事件」は、法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、又は新たな権利義務関係の発生する案件をいい、訴訟事件などに準ずる程度に争いや疑義があるという「事件性」が必要と考えられています。取引当事者間で紛争が生じた後の和解契約書の作成には事件性が認められ得ます。親子会社間の慣行的な取引を明確にする契約書や、基本契約に基づく従前同様の調達契約は、通常、事件性を認め難いとされています。企業法務の通常の業務に伴う契約締結に向けた話合いや法的問題点の検討は、多くの場合に事件性がないとの当局の指摘に留意しつつ、契約の目的や当事者の関係、経緯を考慮して判断します。

「鑑定…その他の法律事務」の鑑定とは、法律上の専門的知識に基づき法律的見解を述べることをいい、その他の法律事務とは、法律上の効果を発生、変更等する事項の処理をいいます。該当するかどうかは、サービスの機能や利用者への表示から判断されます。契約書レビューのサービスについて2023年ガイドラインが示した機能ごとの対比は次のとおりです。

サービスの種類 該当し得る機能 通常該当しない機能
契約書の作成支援 利用者の非定型的な入力に応じ、契約に至る経緯や背景事情を法的に処理して具体的な契約書を表示する 定型的な入力や選択肢に従って、登録済みのひな形を選別してそのまま、又は入力内容を反映して表示するにとどまる
契約書のレビュー支援 個別の事案に応じた法的リスクの有無や程度を表示する、経緯や背景事情を法的に処理した具体的な修正案を表示する 登録したひな形との相違部分を字句の意味内容と無関係に表示する、言語的な類似性だけで類似部分を表示する、ひな形やチェックリストに紐付けた一般的な条項例や解説を個別の修正なしに表示する
契約書の管理支援 管理対象の契約書について、随時自動的に個別の事案に応じた法的リスクや対応の必要性を表示する 契約当事者、契約日、履行期日、更新日、金額などの文言に応じて分類・表示する、登録した時期や条件に達したときに登録済みの留意事項を表示する

利用者が弁護士である場合の扱いも示されています。弁護士又は弁護士法人に提供され、その弁護士がサービスの結果も踏まえて自ら精査し、必要に応じて自ら修正する方法で利用するとき、及び弁護士以外の者に提供される場合でも、提供先の職員や役員である弁護士が同じ方法で利用するときは、通常72条に違反しないと解されています。

2026年ガイドラインは、対話型AIや汎用モデルの実態を踏まえ、事件性のある案件に関する「鑑定…その他の法律事務」の取扱該当性を補完しました。サービス利用者がプロンプトを入力してAIに出力させる行為であっても、サービス提供者が設計から提供を通じて実質的に主導・企図している場合には、規範的に評価すればサービス提供者の行為と評価され得るとされています。事件性の有無は、最高裁平成22年7月20日決定を参考に、法的紛議が生じることがほぼ不可避に想定され得る案件かどうかという基準で判断します。

この基準を前提に、2026年ガイドラインは「価値中立的なサービス提供」という考え方を示しました。サービスの設計・機能が、法的紛議が顕在化している案件やほぼ不可避な案件に関する法律事務に利用させることを目指したものでなく、そうした利用に特化した、あるいは念頭に置いた特性・機能(事件性のある案件の処理を主たる用途とする画面や、その用途を積極的に案内する表示)を持たないものは、価値中立的なサービス提供といい得ます。ファイルをアップロードしてプロンプトを自由に入力できるチャットボット機能は、この範囲に含まれます。

価値中立的なサービスであっても、事件性のある案件に現に利用されていることを認識・認容しながら提供する場合や、例外的とはいえない範囲の利用者が事件性のある案件に利用する蓋然性が高い状況を認識・認容しながら提供を続け、利用停止、警告、弁護士への相談案内といった合理的な措置を講じない場合には、72条違反の責任を問われるおそれが否定されません。

通常の業務に伴う支援、具体的には文献その他のリサーチや法的問題点の検討、書面の作成・レビュー・管理、社内研修や経営判断の適法性確認を含むガバナンス・リスク管理・コンプライアンス、内部通報事案の調査、新規業務スキームの構築や事業再編、トラブル発生時に会社としての対応方針を決めるための内部調査、株主総会や取締役会などの会議業務を目的とするサービスは、設計・機能が上記に当たらない限り、一般に価値中立的なサービス提供といい得ると整理されました。

法的リスクの指摘についても線が引かれています。「この条項には訴訟リスクが生じる可能性がある」といった一般的な指摘は、それ自体が直ちに事件性のある案件への法的助言に当たるものではないと考えられますが、具体的な紛争案件に関連してなされる場合は該当し得ます。訴状、準備書面、答弁書、証拠説明書その他の裁判所提出書面や和解契約書のように、法的紛議を前提とした対外使用書面の作成は該当します。

2026年ガイドラインは、サービス提供者向けのガバナンス上の留意・推奨事項も挙げています。日本国内のインシデント対応窓口の設置、鑑定にわたり得る機能の設計への日本の弁護士の実質的関与、検索拡張生成(RAG)や学習データと出力の性質の説明、弁護士に代わる判断を提供する、あるいは法的結論の正確性を保証すると想起させる表現の不使用、利用申込時の利用者の属性と目的の確認、利用規約への明記、プロンプト入力前や出力結果へのディスクレーマーの表示、高リスク機能への注意表示の強化、根拠・参照元の表示、日本弁護士連合会の弁護士検索の案内、重大な規約違反時の利用停止です。利用規約に明記する事項としては、AIは弁護士などの専門家に代わる最終判断をするものではなく回答は参考情報にすぎないこと、事件性のある案件に利用させる目的で提供するものではないこと、そうした案件は弁護士に相談する必要があること、自己の業務にのみ利用し他人の法律事務を取り扱うためには使用しないことが挙げられています。

企業グループ内で親会社の法務部門が子会社や関連会社の法務業務を支援するためにサービスを利用することは、通常「他人の法律事務を取り扱うため」には当たらないと整理されています。弁護士又は弁護士法人が自らサービスを開発して提供する場合や、サービスの出力結果を前提に弁護士の名義と責任で判断して法律事務を提供する場合(弁護士提供モデル)は、直ちに72条に抵触するものではないとされています。なお、2026年ガイドラインは事業者が自己の事業活動に関連して利用する「ビジネス分野」を対象としており、消費者を主たる対象とするサービスには別途の考慮が必要となる場合があります。

企業の法務部と法律事務所それぞれの使い方

前節の枠組みを企業の法務部門にあてはめると、位置づけは次のようになります。企業の法務部や法務担当者が、自社が当事者となる契約のレビューや自社の業務のためにAIを使うことは、自己の業務の処理であり、他人の法律事務を扱うものではありません。社内に弁護士がいる組織では、その弁護士がサービスの結果も踏まえて自ら精査し修正する弁護士利用モデルをとれます。社内に弁護士がいない組織では、利用規約とディスクレーマーに従い、紛争が顕在化している案件、相手方と権利義務を争っている案件、和解契約を作る案件のような事件性のある案件はAIで処理せず、弁護士に相談する運用にします。

LegalAgentのような法律事務所が生成AIやAIエージェントを使って契約書レビューや法務相談を行う場合は、弁護士がAIの出力を前提としつつ、事実関係の確認と法的判断を自ら行い、自己の名義と責任で依頼者に意見を出します。この弁護士提供モデルでは、事件性のある案件も含めて扱えます。

企業が契約書レビューやリサーチにAIを定着させる手順は、順を追って設計します。

最初に用途を切り分けます。事件性のない通常業務、具体的には契約書レビューの一次読み、条項比較、法令や判例のリサーチ、議事録の起案、社内説明メモの作成から導入します。紛争対応、和解契約の起案、訴訟書面の作成は対象外とし、相手方との対立が生じた段階で弁護士へ回す基準を先に決めておきます。

次に情報管理を確認します。入力データが学習に使われない設定になっているかを技術面と契約面の両方で確認し、秘密保持契約で秘密保持義務を負う情報を入力してよいかを精査します。個人情報を含む文書を扱う場合は、個人データの委託に当たるかを確認します。会議の録音や入力で起きる整理漏れはAI議事録ツールと守秘義務、社内ルールの作り方は生成AI利用ポリシーの作り方で扱っています。

ベンダーの確認では、2026年ガイドラインの留意・推奨事項をそのまま質問項目にできます。日本国内に窓口があるか、弁護士が設計に関与しているか、根拠と参照元を表示するか、ディスクレーマーと利用規約に事件性のある案件への不使用が書かれているか、利用停止のルールがあるかを確認します。契約審査の進め方はAIベンダーDDと契約審査で扱っています。

出力の確認手順も決めておきます。条文番号や出典は人が一次資料で確認します。AIが挙げた論点に優先順位を付け、会社のリスク許容度に照らして受け入れの可否を決めるのは法務担当者又は弁護士です。修正案と相手方向けのコメントは、人が文脈を整えて仕上げます。契約書レビュー全体の流れは契約審査とは?AI時代の契約レビューの進め方にまとめています。

社内ルールと記録は、生成AI利用ポリシーに、使ってよい業務、入れてよい情報、確認者、エスカレーション先を書くところから始めます。判断の理由を記録し、次の案件に引き継ぐ仕組みは法務プレイブックで扱っています。

AIエージェントを使う場合は、発注や送信などの実行権限をどこまで与えるか、誰がいつ確認し停止するかを先に決めます。権限の設計はAIエージェントの権限設計、開発者向けのAIエージェントを法律業務に使う入口は法律業務でのCodexとClaude Codeで扱っています。

ドラフトを受け取った翌日にできる作業として、自社の法務業務を「事件性がない定型業務」「判断が必要な業務」「紛争対応」の三つに分類し、AIに任せる範囲を最初の分類に限定した一覧を作る方法があります。任せる領域と人が判断する領域を最初に分けておくと、ツールを入れ替えても運用の土台は変わりません。

法務でのAI活用と法律事務所の関与

LegalAgentは、弁護士がAIエージェントを使って契約書レビューや法務相談を行う体制をとっています。企業の法務部門におけるAI活用の設計、具体的には用途の切り分け、規程の策定、ベンダーの確認と、弁護士の判断が必要な案件の両方を支援しています。

よくある質問

AIに契約書レビューをさせると弁護士法72条に違反しますか?

企業が自社の業務としてAIツールを用いて自社が当事者となる契約書を審査する行為は、他人の法律事務を取り扱うものではないため、直ちに弁護士法72条に違反するものではありません。ただし、サービスを提供するベンダー側については、個別事案に応じた法的リスクの判断や修正案の提示などを行う場合、対価性や事件性の有無によって同条に抵触するおそれが生じます。利用企業側も紛争案件は弁護士に相談する運用が求められます。

弁護士法72条の「事件性」とは何ですか?

権利義務に関して争いや疑義があるか、または法的紛議が生じることがほぼ不可避に想定され得る案件の性質を指します。2023年および2026年の法務省ガイドラインでは、訴訟事件等に準ずる程度に争いや疑義が存在することが要件とされています。すでに紛争が生じている事案での和解契約書作成などは事件性があると解されますが、企業法務の通常の業務に伴う契約締結交渉や日常的な取引契約は、多くの場合において事件性がないと考えられています。

AIに任せてはいけない法務業務はありますか?

紛争が生じている案件への対応や、相手方との交渉方針の決定、自社のリスク許容度を踏まえた最終判断は、AIに任せずに法務担当者や弁護士が判断します。訴状や答弁書などの裁判所提出書面や和解契約書の作成は、法務省のガイドラインが事件性のある案件に関する法律事務に当たり得るとしている業務です。契約書の文面の外にある取引の背景事情や力関係、経営への影響を踏まえた受け入れ可否の判断は、AIでは代替できないと考えられます。

AIによる契約書レビューのサービスを選ぶときに確認する項目は何ですか?

ガイドラインが示すガバナンス基準に沿っているかを確認することが指標となります。具体的には、日本国内の対応窓口の有無、弁護士の設計関与、出力根拠の表示機能、および入力データの機械学習への不利用設定が挙げられます。さらに利用規約や免責表示において、事件性のある案件への不使用が明記されているかや、規約違反時の利用停止ルールが整備されているかを確かめることが安全な運用の基礎となります。

あわせて読みたい記事

この記事と近いテーマの記事です。

Insight / 2026.08.27 法務DDのデータルーム整備|資料の版管理とAIが読める資料の置き方 Insight / 2026.08.12 AI議事録ツールと守秘義務|NDA対象会議の録音・入力で起きる整理漏れ Insight / 2026.06.13 AIベンダーDDと契約審査|導入企業・提供企業別の確認点

このテーマに関連するサービス

法務アウトソーシング 契約レビュー、社内法務、法務体制づくりを継続的に支援します。 生成AI法務相談 AI利用規約、個人情報、著作権、AIガバナンス、社内AI利用ルールを支援します。
AI法務ラボで他の記事を見る