法律業務でのCodexとClaude Code|Word実務への入り方
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
案件内容にもよりますが、当事務所(LegalAgent)では、多くのご依頼について1営業日以内、場合によっては即日での納品を行っています。こうした迅速な対応を支える日々の作業手順を紹介します。
私自身、さまざまなツールを試しながら業務の効率化を図ってきましたが、ここ最近の実務ではCodexが非常に馴染んでいます。今回は、法律事務所におけるCodexの活用法について、実際の使い方に踏み込んで書いていきます。弁護士業務の中で生成AIをどこで活用し、どこで弁護士の判断が必要になるかという全体像は、AI弁護士とは?生成AI時代の企業法務で弁護士とAIをどう使い分けるかで整理しています。
ツール選定と作業環境としての特徴
Codexというと、一般にはソフトウェア開発者がコードを書くためのツールという印象が強いかもしれません。実際に、プログラムの作成や不具合の修正、テストの実行といった用途では広く知られています。
ただ、実際の法律実務で使ってみると、Codexは日常の法務作業でも十分に主力となり得るツールです。ビジネス用途ではClaude Codeも広く話題になっており、こちらも優れたツールですが、私の日々の業務には現時点でCodexの方が合っていると感じています。
理由として大きいのが、画面構成と操作の分かりやすさです。私が使い始めた当時の使用感として、Claudeではチャットや各種機能の入口が分かれており、どこから作業を始めるべきか迷う場面がありました(画面の設計は随時更新されるため、あくまで当時の印象です)。開発に慣れた方であれば使い分けられるかもしれませんが、非エンジニアにとっては「今どこで何を操作すべきか」が見えにくい面があります。
その点、Codexは作業の入口が明確です。同じ画面から指示を出すだけで、指定したフォルダの読み込みからWord資料の修正、法令調査、複数の並行作業までを依頼できます。非エンジニアが日常的に触る法律実務の現場では、迷わずに作業を開始できる使い勝手が助けになります。
また、本稿を書いた当時に私が利用していたGPT-5.5の使用感も、実務に合っていた理由の一つです。Claude Opus 4.7も優れたモデルですが、日本語による契約文書の作成や細かな論点の検討においては、当時のGPT-5.5の方が文章の分かりやすさや検討の粒度の面で使いやすい印象を受けました。従来のモデルで目立っていた不自然な日本語表現も落ち着き、法務の現場でそのまま利用しやすい表現が増えています。さらにFast modeを選択することで、実用的な速度を保ちながら作業を進められました。これは当時の個人としての利用経験に基づく所感であり、特定のモデルが常に万能という趣旨とは異なりますが、当時の利用条件の下では、大量の条文や資料を扱う作業を継続しやすいと感じました。利用上限はプランや時期、作業量によって変わります。
法律業務で生成AIを活用する際、多くの方はブラウザ上のチャットに条文を貼り付け、質問を投げ、返ってきた文章をWordに手作業で戻す手順を想像すると思います。それだけでも一定の助けにはなりますが、実際の法務は回答を読んだだけで完結するものではありません。契約書のどの部分を修正し、変更履歴をどう残し、相手方用と社内用のコメントをどう分けるか、過去の類似事例や取引関係に照らしてどこまで交渉を求めるかといった判断と作業が重なって初めて業務が完了します。
Codexの利点は、単に質問へ答えるだけでなく、ローカル環境のフォルダを直接確認し、必要なファイルを複製して差分を比較しながら編集できる点にあります。作業の場そのものに入り込んで動いてくれるため、画面間の行き来を大幅に省けます。
フォルダ参照と自作MCPによるWord連携
これまでの生成AIの利用では、弁護士や所内スタッフが対象ファイルを手作業で選び、ブラウザの画面からアップロードする必要がありました。今回の契約書だけでなく、過去の締結版や関連する議事録などを人間がフォルダから探し出して添付する作業は、実務上かなりの負担になります。AIに何を読ませるかを決めるために、人間が過去の経緯を思い出しながら最新版を探す前処理が必要だったからです。
Codexにアクセス範囲を指示できる環境を整えると、この前処理の形が変わります。たとえば、次のように指示を出します。
- 過去の類似案件の探索
- 同一の相手方と過去に締結した契約書の確認
- 今回の作業用ファイルの作成と複製
アクセスを許可したフォルダの中から必要な範囲を指定することで、Codexが過去の事例や資料の候補を自ら探してくれます。もちろん、権限があるからといって所内の全資料を無制限に走査させる運用は採りません。依頼者との守秘義務や案件ごとの情報管理ルールに基づき、対象範囲を絞って探索させます。
法律事務所の保管場所には、過去の契約書、事務所ひな形、コメント付きのWord、先方からの返送版、議事録、調査資料などが蓄積されています。毎回人間がこれらを探して添付する代わりに、Codexへ必要な範囲のフォルダを参照させることで、事前のファイル準備にかかる時間を大きく短縮できます。
ただし、契約書レビューの実務にCodexをそのまま用いるには難点もありました。Codexはテキストファイルの編集や複数ファイルの横断処理に長けている一方、Wordの書式を維持しながら変更履歴を正確に残し、条項番号や表の構造、コメントの位置を崩さずに最小限の差分で修正することは標準機能だけでは困難だったからです。
そこで当事務所では、Wordを開いたままCodexから編集操作を行える専用のMCPを自作しました。このMCPを組み込むことで、弁護士が画面上で確認しているWordファイルに対し、本文の修正、変更履歴の挿入、吹き出しコメントの付与を直接反映できるようにしています。
この連携環境により、作業の手応えは大きく向上しました。自作MCPを通じて修正をWordの変更履歴として記録できるため、弁護士は画面を見ながら「この表現は先方への伝え方として強すぎるため和らげてほしい」「この条項は別案に差し替えてほしい」といった追加の指示を即座に出せます。複数のファイルを並行して整えることも可能です。
あわせて、Wordファイルの比較版を自動作成するMCPも自作しました。実務では新旧対照表や比較履歴の作成が頻繁に生じますが、手作業で対象ファイルを選んで比較機能を動かす作業は、ファイル数が増えるほど煩雑になります。MCPを通じてCodexに指示を出せば、比較すべき対象ファイルを判断して比較版を生成してくれるため、確認作業の手間を大きく減らせています。
法律実務における具体的な活用場面
業務委託契約のレビュー
受託者側での業務委託契約レビューを例に取ります。従来の手順では、受領したファイルを所定の場所に保存し、過去の類似案件やひな形を探し出し、過去の交渉経緯や相手方との関係性を思い出しながらWordを開いていました。手作業で条文を修正し、変更履歴を崩さないよう気を配りながらコメントを付け、条項番号の参照関係を一つずつ確認する作業には相応の時間がかかります。
Codexを活用する場合、最初の指示は次のようになります。「受託者側でのレビュー依頼に対応したい。クライアントとのやり取りや過去の類似案件、適切なひな形を参照したうえで必要な修正を加え、設定済みのチェックリストに沿って検討を進めてほしい」。この指示を受けると、Codexは指定フォルダを確認し、過去事例やひな形との差分を把握したうえで、修正方針、Wordへの変更履歴、確認事項のたたき台を作成します。
弁護士は出来上がったたたき台を念入りに確認します。初稿の作成や資料探しの負担が軽減される分、弁護士は事業の背景や取引上の力関係、相手方との落としどころの判断といった核心的な検討に集中できます。
法務デューデリジェンスの資料確認
法務デューデリジェンス(法務DD)の現場でも、大量の資料を扱う際に役立ちます。対象会社の商業登記簿、株主名簿、投資契約書、各種規程など、膨大な開示資料を確認しなければなりません。
従来の進め方では、担当者が資料を一つずつ開きながら確認事項や質問票を手作業でまとめていました。また、ファイルを逐一クラウドサービスへ手動アップロードする作業は、日々新たな資料が追加される現場ではかえって手間がかかります。
対象フォルダへの参照を設定しておけば、個別のファイル添付を省き、フォルダ内の開示資料一覧の作成、不足資料の抽出、各資料の重要箇所の確認へと速やかに移行できます。過去の調査報告書や案件ひな形を参照しながら、検出事項の整理、質問事項の起案、報告書ドラフトの作成までを進められます。当事務所ではExcelを直接編集するMCPも用意しているため、質問事項シートの作成や更新もCodexから行えます。
なお、手動でのファイル添付を行わない運用であっても、外部送信が一切生じないとは言えません。ローカルフォルダを参照する場合でも、処理に必要なデータはモデル提供者のサーバーへ送信され得ます。送信される対象、利用規約、学習利用の除外設定、データの保存期間を確認したうえで、依頼者との秘密保持に沿った適切な範囲で運用することが前提となります。
日常の法務相談と法令リサーチ
事業部門から寄せられる「この施策を進めて問題ないか」「この表現は広告関連法規に照らして適切か」といった相談でも同様です。弁護士は単に条文を引くだけでなく、社内の過去の回答、過去に経営判断へ諮られた経緯、利用規約との整合性を踏まえて判断を下します。
Codexに関連する過去の回答メモや類似相談の検索を指示し、回答案のたたき台を作成させることで、回答の質と対応速度を高められます。また当事務所では、所内で閲覧可能な実務書、法令条文、公的ガイドラインなどを、法的に許容される範囲でテキストデータ化して検索できる体制を整えています。一般的なデータベース検索のように「外部サイトで検索して結果をコピーし、手元の文書に貼り直す」という作業の分断を解消し、同一の作業環境で調査から回答案の作成まで一貫して進められる点が特徴です。
弁護士が担う判断領域と運用の変化
Codexを導入しても弁護士の役割が失われるわけではありません。むしろ、ツールを活用するほど、弁護士による最終判断の重みが増すと考えています。
AIは過去の契約例を探し、条項の差分を洗い出し、Wordに変更履歴やコメントのたたき台を入れる作業を素早くこなします。しかし、会社としてどの程度のリスクを許容するのか、相手方との今後の関係を考慮してどの条項で譲歩すべきか、経営判断として経営陣に諮るべき論点はどれかといった判断は、弁護士自身が見極めなければなりません。Codexは弁護士に代わって最終判断を下す道具というより、弁護士が高度な法的判断に集中できるよう、準備作業と成果物の初稿作成を担う存在です。
この進め方は、法律事務所の日常の運用にも変化をもたらします。従来は若手弁護士やスタッフが時間をかけて過去資料を探し、初稿を作り、上位者がそれを手直しする流れが一般的でした。もちろんそれにも実務教育としての役割はありましたが、定型的なファイル探しや機械的な条文比較に多くの時間を割き続ける必要はありません。Codexが資料を整理して初稿を整え、弁護士がその妥当性を吟味して修正方針を決める形へと移行することで、人手の確保だけに頼らず、AIを活かした持続的な執務体制を整えられます。これこそが、当事務所の目指すAI Native Law Firmの姿です。
当事務所では、AIエージェントと弁護士の協働により、契約書レビュー、法務相談、M&A対応の質と速度を高め、クライアントの成長に貢献する事務所づくりを続けていきます。
法務アウトソーシングのご案内
本稿で紹介したような、AIを活用した進め方を前提に、契約書レビューや社内法務の継続的な支援を行っています。詳しい支援内容は以下のページをご覧ください。