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資金調達・投資契約スタートアップ法務

創業者の資産管理会社は作るべきか|株式を移す前に確認すべき法務論点

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

事業が成長して自社株式の評価額が高まってきた創業者の方から、資産管理会社を立ち上げた方がよいのかという相談を受ける機会があります。実際のところ、資産管理会社となる法人を設立する登記手続きそのものは、それほど難しい手続きではありません。慎重な検討を要するのは、その新会社へ創業者自身の持株を移転させるという局面です。株式の移転は税法上の譲渡にあたる上、投資契約や株主間契約の制約を受け、将来の上場審査でも実質的な支配関係について詳しい説明を求められる可能性があるためです。

資産管理会社の仕組みと検討の背景

資産管理会社とは、創業者個人が保有している自社株式や不動産などの資産を、個人名義から自身が支配する別法人へと移し替えて管理する手法を指します。創業者が資産管理会社の株式の大半を保有し、その資産管理会社が事業会社の株式を保有するという、いわゆる二階建ての保有形態をとるのが通例です。

この仕組みを導入する動機としては、相続を見据えた自社株式の集約や、後継者への議決権の一括承継、配当の受取先を法人にすることによる柔軟な資金管理などがよく挙げられます。ただし、これらは家族構成や保有資産の内訳、今後の株価見通しなどの個別条件によってメリットの有無や規模が大きく変動する論点であり、誰にとっても節税になると一括りに結論付けることはできません。具体的な効果を見極めるには、税理士による精緻なシミュレーションが前提となります。

法務の観点から前もって整理しておきたいのは、税務上の損得を検討する以前に、株式を資産管理会社へ譲渡する行為自体が複数の法的な制約に関わってくるという点です。

株式の譲渡に伴うみなし譲渡課税のルール

創業者個人が保有する株式を資産管理会社へ譲渡する場合、売買であれ贈与であれ、税務上は個人から法人への資産の移転として取り扱われます。国税庁のタックスアンサーNo.3217は、土地や建物を法人へ時価の2分の1を下回る価額で売却した場合には、実際の売却価額ではなく時価を収入金額として譲渡所得を計算すると説明しており、その根拠法令として所得税法59条と同法施行令169条を挙げています。

この規定は土地や建物に限らず、株式を含む譲渡所得の基因となる資産に適用されます。中心となるのは所得税法59条1項2号です。同号は「著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)」を、みなし譲渡課税の対象として定めています。そして、何をもって著しく低い価額とするかについて、所得税法施行令169条は、譲渡時における資産の価額の2分の1に満たない金額をこれに該当すると規定しています。つまり、創業者が保有株式を時価の2分の1未満の金額で自身の資産管理会社に売却した場合、実際の取引金額がいくらであっても、時価で売却したものとみなされて譲渡所得税が課されることになります。

なお、時価の2分の1以上の価額による譲渡であれば同号の適用はありませんが、所得税基本通達59-3は、同族会社に対する譲渡が所得税法157条(同族会社等の行為又は計算の否認)に該当する場合には、時価により譲渡所得を計算できるとしています。また、時価より低い価額で株式を取得した資産管理会社の側でも、時価との差額が受贈益として法人税の課税対象となる可能性があります。

上場していないスタートアップの株式には市場価格がないため、この「時価」をどう算出するかが実務上の最初の関門になります。所得税基本通達59-6は、この場合の時価を同通達23〜35共-9に準じて算定するものとしており、売買実例があれば最近の売買のうち適正と認められる価額により、売買実例等がなければ、一定の読替えを条件として財産評価基本通達の取引相場のない株式の評価方法の例により算定する取扱いを示しています。種類株式を発行している会社では株式の種類ごとに売買実例の有無を判定するため、直近の資金調達ラウンドで投資家が引き受けた優先株式の価格がそのまま創業者の普通株式の時価になるとは限りません。直近の調達ラウンドの株価、純資産価額、類似業種比準価額など、採用する評価方式によって時価の水準は大きく変わります。株価の算定を誤ると意図せず低額譲渡と判定され、想定外の課税や加算税につながる恐れがあるため、この評価作業は税理士が中心となって進めるべき領域です。

投資契約および株主間契約における制約

外部から資金調達を行っているスタートアップでは、創業者自身が保有する株式について、投資契約や株主間契約によって譲渡制限や事前承諾の条項が定められていることが多くあります。そのため、自身の株式を資産管理会社へ移転させようとする際は、まず契約条項に違反しないかを確認することになります。また、スタートアップの多くは定款で株式の譲渡制限を定めており、譲渡制限株式を資産管理会社へ譲渡するには、会社法136条以下の手続に従って会社の承認を得る必要があります(会社法139条1項により、定款に別段の定めがない限り、取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社では株主総会の決議によります)。

確認すべきポイントは大きく分けて2点あります。第1に、資産管理会社への株式の移転を認める例外規定が置かれているかどうかです。株主間契約の譲渡制限条項では、投資家の事前承諾なく株式を第三者へ譲渡することを原則として禁止するのが一般的ですが、例外として創業者の親族や自身が支配する資産管理会社への移転であれば無承諾で行える旨を定めている契約もあります。そうした例外規定が見当たらない場合は、株式を移す前に投資家へ相談し、事前承諾又は契約変更の合意を取り付ける必要があります。例外規定がある場合でも、投資家への事前通知や、資産管理会社が契約の当事者として加わることを条件としている例があるため、条件の内容まで確認します。

第2に、「創業者」や「経営株主」の定義条項に資産管理会社が含まれているかどうかです。株主間契約では、経営株主に課される競業避止義務や事業への専任義務、株式の処分制限といった義務が資産管理会社を挟むことで形骸化しないよう、「経営株主が実質的に支配する法人を含む」といった定義を置くのが通例です。この記載の有無によって、新会社を設立した後に創業者本人と同じ規律がその資産管理会社にも及ぶのかどうかが左右されます。契約条項を確認せずに株式を移してしまうと、投資家から重大な契約違反として責任を追及される事態にも発展しかねません。

株主間契約の全体像や確認の視点については、株主間契約書のレビューポイントでも詳しく取り上げています。資産管理会社への移転を検討する際は、手元の投資契約書や株主間契約書の原本を直接確認することが初めの一歩になります。

上場審査への影響と資産管理会社の株主構成

資産管理会社を通じて間接的に事業会社の株式を保有する形態は、上場準備の過程で証券会社や監査法人から追加の説明を求められる論点の一つです。上場審査においては、創業者をはじめとする関係者による株式保有が、経営の継続性や安定性にどのような影響を与えるかが厳格に確認されます。資産管理会社が間に入ることで、創業者個人が直接保有している場合と比べて、議決権の行使主体や実質的な意思決定権者が誰であるかの説明が一段複雑になるためです。また、新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)には「特別利害関係者等の株式等の移動状況」を記載する欄があり、上場前の一定期間に特別利害関係者等が当事者となった株式の移動は、移動株数、価格及び移動理由とともに記載されます。創業者から資産管理会社への移転も、この記載の対象となる可能性があります。

審査において具体的にどのような資料提出や説明が求められるか、どの程度の持株比率であれば安定株主として認められるかといった基準は、審査を担当する主幹事証券会社や取引所の個別判断に委ねられる部分が大きく、一概に確定的な基準を示すことはできません。上場前に資産管理会社の設立を検討しているのであれば、早い段階で主幹事証券会社や監査法人と協議を行い、審査上の扱いを確かめておく運用が現実的です。

また、資産管理会社自体の株主を誰にするかという資本設計も欠かせない検討事項です。創業者1人だけが100%の株式を持つ形であれば、資産管理会社を通じた議決権の所在は明瞭です。一方で、相続対策を優先して配偶者や子どもを資産管理会社の株主に加える設計をとる場合もあります。

親族を株主に迎え入れると、将来の相続発生や親族間の意見の不一致によって、資産管理会社の議決権そのものが分散してしまうリスクを抱えることになります。資産管理会社の議決権が割れてしまえば、その先にある事業会社の重要事項についても創業者の思い通りに決められなくなるおそれがあります。資産管理会社を作ったからといって議決権の分散リスクが根本から消えるわけではなく、実質的に分散の発生場所が事業会社の株主名簿から資産管理会社の株主名簿へと移るに過ぎないという構造は、設計の初期段階で理解しておく必要があります。親族を株主にするのであれば、資産管理会社の定款や当事者間の合意によって、議決権の行使方法や譲渡制限を事業会社と同等の水準で定めておくのが無難です。

設立と株式の移転の適切なタイミング

資産管理会社を立ち上げて株式を移転させる時期については、株価が低いうちほど税務上の金銭負担を抑えやすいという性質上、上場や大型調達によって株価が跳ね上がる前の早い段階の方が選択肢を確保しやすくなります。評価額が低いうちに移転を完了させておけば、みなし譲渡課税の基準となる時価自体が低いため、移転に伴う税負担を小さく抑えられるためです。

その一方で、創業初期の早い段階で資産管理会社を挟むと、その後に資金調達を実施するたびに投資契約や株主間契約の調整負担が増えるという側面もあります。すでに結んだ契約に資産管理会社への移転特例がなければ既存投資家との契約修正交渉が発生しますし、新規の調達ラウンドでも経営株主の定義に資産管理会社をどう組み込むかを都度協議しなければなりません。株価が低いうちが有利という税務上の理由と、契約関係が単純なうちが望ましいという法務上の理由は方向性としては重なりやすいものの、調達スケジュールとの兼ね合いで優先順位を判断していくことになります。

したがって、資産管理会社を作るべきかという判断と、実際に株式を移すタイミングの判断は切り離して整理する必要があります。設立の適否は相続や事業承継の全体方針に関わる問題であり、移転の時期は株価水準と契約上の制約のバランスで決まる問題です。この両面を税理士と弁護士のそれぞれに相談しながら、足並みを揃えて検討していく進め方が大切です。

法務と税務を両輪で進める実務対応

資産管理会社をめぐる検討は、税務上の効果検証が前提となる領域と、投資契約・株主間契約・上場審査といった法務上の制約を事前にクリアすべき領域に分かれます。保有株式の評価額が膨らんできた段階で検討を始めるのであれば、まず手元の投資契約書や株主間契約書を確認して資産管理会社への移転が可能かを確かめた上で、税理士と弁護士の双方に相談を持ちかける進め方が安全です。株主間の合意形成や将来のイグジットを見据えた株式の整理については、創業者株式と株主間契約の点検でも関連する視点を取り上げています。

契約上の縛りや上場審査における取り扱いを見落としたまま移転を実行してしまうと、後から投資家とのトラブルに発展したり、審査対応の負担が重くなったりすることがあります。

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