子会社管理の法務|関係会社管理規程と内部統制の骨格
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
会社が1社だけのころは、契約書の保管場所や意思決定の経緯、登記の手続き漏れなどを、経営陣や管理部門が頭の中だけで把握できているケースが珍しくありません。ところが子会社が1社、2社と増えてくると、その把握が一気に難しくなります。どの法人名義で交わした契約か、誰が最終決裁したのか、資金移動を裏付ける書類はあるのかといった点で、親会社の管理部門が見ている景色と子会社の現場の実態との間にずれが生じ始めます。
子会社が2社、3社と増える時期は、そうした認識のずれが特に広がりやすいタイミングです。1社目の段階では親会社の役員が兼務して直接目を配れていたとしても、数が増えれば目が行き届かなくなります。どの権限を子会社に残し、何を親会社の承認事項にするかというルールを決めないまま現場判断で契約を進めてしまうと、グループ全体の統制が利きません。グループ法務をうまく機能させられるかは、この早い段階で管理の骨組みを作っておけるかどうかに左右されます。
関係会社管理規程による権限の整理
グループ会社が増え始めた企業が最初に着手したいのが、個別の契約書の手当てではなく、関係会社管理規程の作成です。この規程は、親会社が子会社のどんな意思決定を事前承認の対象とし、どんな事項を報告対象とするかを定めるもので、グループ管理の土台になります。
事前承認事項としては、一定額を超える借入や債務保証、重要資産の取得や譲渡、増減資、子会社役員の選解任、グループ会社間の重要取引などがよく挙げられます。一方の報告事項には、月次の業績数値、基準額未満の契約締結、人事異動、訴訟やクレームの発生などが並びます。承認の範囲を広げすぎれば子会社の現場判断が親会社の確認待ちで止まり、逆に狭めすぎると知らないところで重大な取引が進んでしまいかねません。子会社の事業規模や親会社の体制を踏まえて、金額の基準や取引の種類を具体的な数字で決めておくことが実務の出発点になります。
承認と報告の項目に加え、誰がどのルートで承認を求め、判断が遅れたときに子会社内で取引を保留するかを定めます。親会社の管理規程だけで子会社の取引を当然に停止できるわけではないため、各社の機関決定や必要な社内規程との整合も確認します。現場で先に話を進め、後から親会社に知らせる運用が続けば、規程は形骸化してしまいます。
兼務役員の利益相反と取引の承認
子会社が増える過程では、親会社の役員が子会社の取締役や代表取締役を兼任する体制がよく見られます。親会社と子会社の間で業務委託や資金の貸し借りを行う場合、兼務取締役について、会社法356条の利益相反取引に該当するかが問題になります。同条は、取締役が自己又は第三者のために会社と取引をする場合などに、重要な事実の開示と承認を求めています。取締役会設置会社では承認機関は取締役会となり、取引後の報告も必要です(同法365条)。親会社と子会社のそれぞれについて、取引の形態、取締役の立場及び機関設計を確認し、必要な承認手続を漏らさない運用にしておきます。
グループ間取引の書面化と各リスクへの手当て
グループ内の取引は、経営指導料の支払いや社員の出向、資金の貸借など、日常的なものほど契約書を作らず慣行で済ませてしまいがちです。身内同士だからと口頭や社内メモだけで処理している会社も多く見られます。
しかし、契約書を省いてしまうと、まず税務上の指摘を受けるリスクが高まります。経営指導料や業務委託料は、金額の算定根拠や業務の実態を具体的に示せないと、寄附金と認定されたり損金不算入とされたりするおそれがあります。契約書に提供する業務内容や金額の計算式を明記し、日々の業務実態と一致させておくことが、税務調査で説明する際の後ろ盾になります。
また、将来のM&Aや資金調達でデューデリジェンスを受ける場面でも、契約書の有無は影響を及ぼします。買い手や投資家はグループ間の取引を細かくチェックするため、契約書が残っていない取引は、対価が妥当かどうかを確かめる材料がなく、簿外債務や偶発債務の懸念として扱われかねません。契約書があれば条件を示して即座に説明できますが、口頭任せにしてきた取引は経緯を一から掘り起こす必要が生じ、確認対応の負担を大きく増やしてしまいます。
さらに、子会社に少数株主がいる場合は、取引条件がその少数株主の利益を損なっていないかという視点も無視できません。根拠が曖昧なまま親会社が資金を吸い上げているような構造は、取引の妥当性を問われた際に最も説明に苦慮するポイントになります。出向についても、出向元と出向先の間で指揮命令の権限、給与の負担割合、社会保険の扱いを書面で定めておかないと、出向者本人との労働条件の調整や、出向先での労務管理責任の所在が曖昧になってしまいます。
会社法が求める企業集団の内部統制
会社法362条4項6号は、取締役会が取締役に決定を委任できない事項として、自社及び子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するための体制の整備を掲げています。その決定を義務付ける同条5項の対象は、大会社である取締役会設置会社です。大会社でない取締役会設置会社も、決定する場合は取締役会で扱う事項となります。会社の規模や機関設計によって適用条文を確認する必要があります。
具体的な体制の内容は会社法施行規則100条1項に定められており、同項5号では子会社を含む企業集団の適正を確保するための体制として、次の事項を挙げています。子会社の取締役等の職務執行に関する事項を親会社へ報告する体制、子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制、子会社の職務執行が効率的に行われることを確保するための体制、そして子会社の役員および使用人の職務執行が法令や定款に適合することを確保するための体制です。
内部統制の体制を決定する場合は、自社だけでなく子会社からの報告経路、リスク管理、業務の効率性及び法令遵守も対象となります。子会社が増えたときは、既存の基本方針が実態に合っているかを確認し、必要に応じて報告ルートを見直します。
買収後の統合で確認すべき法務論点
M&Aによって子会社をグループに迎える統合実務(PMI)では、法務面のすり合わせが抜け落ちやすい傾向があります。買収前の会社は独立して運営されてきたため、各種規程や契約書の書式、社内の決裁ルールが親会社と異なっているのが普通です。
最初に取り組みたいのは社内規程の確認です。買収先における就業規則、経理規程、稟議規程の内容が親会社グループの基準と大きくかけ離れている場合、統一するのか当面そのまま維持するのかを決めておかなければ、グループ内で二重の決裁基準が放置されてしまいます。次に、買収先が結んでいる既存契約の中にチェンジ・オブ・コントロール条項が含まれていないかを確認し、親会社の交代によって解除事由に当たらないかを点検します。買収の検討段階で確認していたとしても、統合後に契約台帳を再整備する過程で改めて見落としが見つかる例は珍しくありません。
許認可についても注意を払う必要があります。買収後に代表者や役員の顔ぶれが変わる場合、法律上の承継や変更の届出が必要になるケースがあります。株式の取得だけで手続きが不要なこともあれば、役員変更届や事業内容の変更手続きを求められることもあるため、対象会社が持っている許認可の一覧を早い段階で洗い出し、統合の計画に組み込んでおくのが無難です。
段階的な体制整備と専門家の活用
子会社が2社、3社という規模の段階では、上場企業が敷くような大規模な管理体制を最初から目指す必要はありません。分不相応に細かなルールを作ってしまうと、現場の判断が追いつかずに決裁が滞り、かえって形骸化を招いてしまいます。
まずは関係会社管理規程の有無を確かめ、未作成であれば事前承認と報告の項目一覧を整理することから始めます。あわせて、親会社と子会社の間、あるいは子会社同士の間で続いている取引(経営指導料、出向、資金貸借、業務委託など)を洗い出し、金額や継続性の大きいものから順に契約書の形へ落とし込んでいきます。内部統制の基本方針がある場合はグループ全体を対象にした文面になっているか確認し、取締役会設置会社では必要に応じて取締役会で見直します。これらは一度にすべて完成させる必要はなく、子会社が増えるごとに規程と契約書を整え、承認金額の基準を微調整していけば、将来グループがさらに大きくなった際に慌てて作り直す事態を避けられます。
関係会社管理規程の設計やグループ間取引の契約書化、基本方針の見直しは、子会社が増えるたびに整合性を確認し続ける継続的な取り組みです。LegalAgentのコーポレートガバナンス支援では、関係会社管理規程の設計からグループ内取引の契約書化、内部統制システムの基本方針の見直しまでを対象としています。法務担当者の手が回らなくなってきた場合には、契約審査から規程整備までを継続して依頼できる法務アウトソーシングも選択肢になります。
グループ会社の法務は、資金調達や買収の場面で外部から指摘されてから手を付け始めると、確認すべき取引や書類の量が膨大になり対応に追われます。関連する法務DDへの備えについては、M&Aやデューデリジェンスに強い会社は、普段の法務が違うやシリーズA前後の法務DDで、投資家に見られるポイントでも詳しく触れています。