定款変更の手続と登記|事業目的・機関設計・公告方法の実務
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
新しい事業の許認可申請を準備していたところ、提出用の定款にその事業が書かれていない。資金調達の直前に、発行可能株式総数の枠が足りないと分かった。定款を見直す必要性は、こうした具体的な手続の中で見えてきます。設立時の事業や株主構成に合わせて作成した定款は、その後の事業展開に応じて会社が見直す必要があります。
定款は会社の根本規則です。ただし、条文を直すだけでは、変更の手続は終わりません。株主総会の決議、必要に応じた種類株主総会や投資家の事前承諾、変更登記、許認可上の届出など、それぞれの要否と順序を確認します。本稿では、日本の株式会社を前提に、定款変更が必要になる場面と、実務で確認したい点を説明します。
定款変更の決議要件と事前準備
会社法466条は、定款の変更を株主総会の決議によって行うと定めています。事業担当者や取締役会が変更案を作成した後、必要な決議を経て変更の効力が生じます。
通常の定款変更は、同法309条2項11号の特別決議によります。法定の原則は、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上が賛成することです。定款で定足数を3分の1以上の範囲で引き下げたり、賛成割合を引き上げたりしている場合があるため、法定の原則と現行定款を照合します。
ここでの「3分の2」は、通常、出席した株主の議決権を基準にする数字です。創業者が全議決権の過半数を保有しているという事情だけでは、可決できるとは限りません。株主ごとの議決権、出席予定、議決権行使の方法を確認し、議案ごとに定足数と賛成数を計算する必要があります。
変更内容によっては、さらに別の要件が問題になります。たとえば、種類株式発行会社でない会社が、全部の株式について譲渡制限を新設する場合には、同条3項の特殊決議が適用されます。また、非公開会社で株主ごとに異なる取扱いをする定めの新設・変更には、同条4項の要件が関係します。種類株式の権利に影響する変更では、種類株主総会等の要否も個別に検討します。
投資契約や株主間契約にも確認が必要です。定款変更を投資家の事前承諾事項としている場合、会社法上の決議を得られることと、契約上の義務を履行していることは別の問題です。変更案、理由、新旧対照表、効力発生日を早めに共有し、契約上の承諾と法定手続の双方を予定に組み込むことが大切だと考えています。
事業目的・商号・本店所在地の見直し
新規事業を始める際は、現行の目的条項が、その事業をどこまで含んでいるかを確認します。許認可が必要な事業では、所管官庁の申請案内や審査基準を参照し、定款や登記事項証明書に求められる記載を確かめます。業種や申請先によって扱いが異なるため、すべての許認可で同じ文言が必要と決めつけることはできません。
「前各号に附帯又は関連する一切の事業」という条項があっても、それだけで新たな事業の許認可上の要件が満たされるとは限りません。一方、目的欄に事業名がそのまま書かれていないことだけで、その事業や取引が直ちに違法・無効になると判断するのも適切ではありません。目的条項の解釈と、個別業法の許認可要件を分けて確認する必要があります。
目的変更が必要であれば、申請期限から逆算して株主総会と変更登記を進めます。事業担当者が使うサービス名だけで条項を作ると、実際の提供内容や許認可上の業務区分とずれることがあります。誰に何を提供し、どのような対価を得る事業かを確認したうえで、目的の文言を検討する進め方が実務的です。
商号の変更や本店移転でも、定款と登記の両方を確認します。本店所在地を「東京都千代田区」のように最小行政区画まで定めている場合、同じ区内での移転なら、通常は定款の文言を変更する必要がありません。ただし、具体的な移転先や移転日を決める会社内部の手続と、本店移転登記は別途必要です。
これに対し、定款に丁目・番地まで記載している場合、その記載と異なる住所に移転するには定款変更が必要になります。定款の記載範囲、登記上の所在地、実際の移転先を並べて確認すると、必要な決議を判断しやすくなります。商号や本店を変更する際は、契約書、請求書、許認可、金融機関等への届出も併せて確認します。
公告方法と発行可能株式総数
会社の公告方法は、会社法939条により、官報、時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙、電子公告のいずれかを定款で定めることができます。定款に定めがない場合は官報によります。電子公告を選ぶ場合には、事故その他やむを得ない事由で電子公告ができないときの予備的な公告方法を定めることもできます。
電子公告への変更を検討する際は、掲載費用だけでなく運用も確認します。決算公告を除き、電子公告では原則として電子公告調査機関への調査の求めが必要です(同法941条)。また、貸借対照表等を電子公告する場合には、定時株主総会の終結の日後5年を経過する日まで継続して公告する必要があります(同法940条1項2号)。掲載先の管理者、掲載期間、URLの維持まで決めておく必要があります。
なお、官報等を公告方法とする会社でも、同法440条3項による貸借対照表の内容の電磁的な提供を選べる場合があります。会社全体の公告方法の変更と、決算情報の提供方法の見直しは、適用される条文と手続が異なります。決算公告の運用を見直したいという目的であれば、どの方法を採るかを先に検討します。有価証券報告書の提出義務がある会社には同条4項の適用除外もあります。
資金調達では、発行可能株式総数の確認が欠かせません。これは会社が発行できる株式の上限であり、登記事項でもあります。現在の発行済株式数と増資による発行予定数を確認し、必要なら上限の変更を増資の前に行います。種類株式を発行している会社では、種類ごとの発行可能種類株式総数や種類株主の権利も検討対象です。
ストックオプションの発行と、その権利行使による株式の発行は、時点を分けて確認します。ただし、将来の権利行使により発行する株式を見込まずに資本政策を進めると、その段階で枠が足りなくなるおそれがあります。新株発行の予定と未行使の新株予約権を同じ資本政策表で管理し、必要な定款変更とその効力発生日を確認しておくことが大切だと考えています。
機関設計と役員任期の変更
取締役会や監査役の設置・廃止を検討する場合には、条項を追加・削除する前に、その会社で選択できる機関設計を確認します。公開会社か非公開会社か、大会社かどうか等によって、設置が必要な機関が異なるためです。ここでいう非公開会社とは、すべての株式について譲渡制限を設けている会社をいい、上場の有無だけでは判断できません。
取締役会を廃止する場合、取締役会に付与していた権限、代表取締役の選定方法、株式譲渡の承認機関等も見直す必要があります。機関名の条項だけを削除しても、ほかの条文に「取締役会の決議による」と残っていれば、会社運営の根拠が不明確になります。変更箇所に関連する条文、社内規程、投資契約を一緒に確認します。
役員任期の変更も、影響を慎重に確認したい項目です。取締役の任期は、原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時までです。非公開会社では定款により、その「2年」を「10年」まで伸長できますが、監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社はこの特例の対象外です(会社法332条1項・2項)。
監査役の任期は原則として選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時までであり、非公開会社では定款により10年まで伸長できます(同法336条1項・2項)。いずれも任期の終点は、法定の期間を用いて特定される定時株主総会の終結時です。選任日、事業年度、定時株主総会の日を用いて確認します。
任期を短くする場合には、変更の効力発生によって現任役員の任期が満了するか、同時に選任決議が必要になるかを検討します。取締役会等の機関設計の変更でも、法定の事由に該当すると効力発生時に役員の任期が満了することがあります。定款変更議案だけを準備して役員選任や登記を失念しないよう、現在の役員ごとに変更後の扱いを確認する必要があります。
変更登記と最新版の管理
定款変更と変更登記は別の手続です。定款変更が有効に成立した後、会社法911条3項の登記事項に変更が生じた場合は、原則として変更後2週間以内に本店所在地で変更登記を申請します(同法915条1項)。決議日と効力発生日が異なるときは、登記事項にいつ変更が生じるかを確認します。
事業目的、商号、発行可能株式総数、公告方法、機関設計等の変更は、変更登記の検討対象です。他方、役員任期の条項そのものは登記事項ではありません。しかし、その変更に伴って役員が退任・重任する場合には、役員に関する変更登記が必要になります。「任期の条項は登記されないので、登記手続は一切ない」とは判断できません。
実施前には、新旧対照表を作り、各変更について、決議・承諾、効力発生日、登記、許認可等の届出、対応担当者を確認します。登記だけでなく外部への届出が必要な項目もあるため、それぞれの期限と必要書類を確認し、総会後の作業まで予定に含めます。
変更後は、決議を反映した現行定款を作成し、対応する株主総会議事録や承諾書とひも付けて保存します。旧版を失わず、改定日と変更内容が追える一覧を残しておくと、許認可申請やデューデリジェンスの際に、現行条項とその成立経緯を説明できます。現在の定款と登記事項証明書が一致するかを、登記完了後にも確認します。
資本政策や機関設計の確認にはシリーズA前に見直したい法務チェックリストを、総会の準備日程には株主総会スケジュールを短縮したいときに、会社法上どこまでできるかもご参照ください。