商標権侵害の警告書|届いたときの初動と送る前の点検
こんにちは!Legal Agent代表弁護士の朝戸です。
商品を販売し始めたところ、「その名称は当社の商標権を侵害している」と警告書が届く。使用停止だけでなく、在庫の廃棄、売上資料の提出、損害賠償まで求められると、何から確認すればよいのか迷うのではないでしょうか。ウェブサイトの名称を変えるだけで済む場合もあれば、パッケージ、販売店への案内、広告契約まで見直しが必要になる場合もあります。
警告書への対応では、相手の要求に答える前に、権利の内容と自社の使用実態を確かめる必要があります。同時に、侵害の可能性が高いのに販売を続ければ、損害が拡大するおそれもあります。事実確認と事業上の暫定措置を並行して進めることが大切だと考えています。
今回は、警告書を受け取った側の初動から、送る側の点検、合意に至る場合の条件までを説明します。
1. 受領直後の証拠保存と暫定対応
最初に保存するのは、警告書と封筒、受領日時、添付資料です。メールの場合は本文だけでなく、送信元や添付ファイルも残します。社内では、法務、商品担当、広報、販売管理の担当者を決め、相手への連絡窓口を一本化します。担当者ごとに異なる説明をすると、後で事実関係を修正しにくくなるためです。
次に、問題とされた名称やロゴが、いつ、どこで、何に使われていたかを記録します。現在のウェブページ、広告、商品写真、パッケージ、販売履歴、名称の採用経緯を保存します。画面を保存するときは、URLと取得日が分かるようにし、表示を変更する場合も変更前の状態を残します。権利関係が分からないまま記録を消すと、後の説明や反論に必要な資料まで失うことになります。
使用を続けるか止めるかは、証拠保存とは別に判断します。警告された登録商標と同じ名称を同種の商品に使っているなど、侵害の可能性が高い場合は、追加出荷や新規広告を一時的に止めることも検討します。他方、対象商品の一部だけが問題であれば、影響のない事業まで一律に停止する必要があるかを見極めます。暫定措置の理由、対象、開始時刻を社内で記録し、相手への説明では侵害を認める趣旨かどうかを明確にします。
回答期限の扱い
相手が警告書で指定した回答期限と、裁判所の手続上の期限は区別しなければなりません。警告書にある日付を過ぎたことだけで、相手の主張を認めたことになるわけではありません。しかし、放置すれば、仮処分や訴訟に進む可能性があります。
確認に時間が必要なら、受領と確認中であること、回答できる時期を伝え、猶予を求めます。その際、相手が猶予に応じても、当然に差止請求を控える合意や、時効に関する合意まで成立するわけではありません。裁判所から訴状や仮処分の書類が届いている場合は、警告書への回答とは別に、指定された期日や提出期限を確認する必要があります。
2. 登録内容と実際の使い方の照合
警告書に登録番号があれば、J-PlatPatで対象を特定します。権利者、出願日、登録日、登録された商標、指定商品・指定役務を確認し、必要に応じて商標登録原簿も取得します。警告書の差出人が権利者と異なるときは、代理人なのか、専用使用権者なのかなど、請求の根拠も確かめます。
商標権は設定登録によって発生します。ただし、「まだ出願中だから無視してよい」ということではありません。商標法13条の2は、一定の警告後の使用について、設定登録後に金銭を請求できる制度を定めています。登録済みの権利による差止めと、出願中の警告が持つ意味を分けて検討する必要があります。
また、存続期間の満了日が過ぎていても、期間経過後の更新登録申請などが問題になる場合があります。表示された日付だけで権利が確定的に消滅したと判断せず、更新手続や経過情報を確認します。
名称だけでなく商品・サービスも比較
商標法25条、37条1号に基づく一般的な検討では、商標同士の同一・類似と、商品・役務の同一・類似をそれぞれ確認します。「名前が似ている」という指摘だけでは、対象商品の範囲まで明らかになりません。
商標の類否は、見た目である外観、読み方である称呼、意味やイメージである観念を、取引の実情も踏まえて総合的に判断します。読み方が一部共通する、ロゴの色が違うといった一つの事情だけで結論を出すことはできません。商品・役務についても、登録上の区分番号が同じならすべて類似し、違えば非類似になるわけではありません。
例えば、警告書が複数の商品をまとめて指摘している場合でも、主力商品、付属品、オンラインのサービスでは、検討結果が異なる可能性があります。商品ごとに、表示する名称、掲載場所、用途、販売先、相手の指定商品との関係を表にすると、争点と対応範囲を把握しやすくなります。
3. 反論に必要な条件と裏付け資料
権利の存在と対象範囲を確認した後は、自社の使用に権利が及ばない事情があるかを検討します。反論は、制度名を挙げるだけでなく、その要件を満たす資料と結び付ける必要があります。
先に使っていたという事情
商標法32条の先使用権は、単に相手より早く名称を考えたり、販売を始めたりしただけで認められるものではありません。原則として、相手の出願前から、日本国内で不正競争の目的なく商標を使用し、出願時に自社の業務を示すものとして需要者の間に広く認識されていたことなどが必要です。その商品・役務について継続して使用する場合の制度であり、新しい商品への展開まで当然に認められるわけでもありません。
確認する資料は、最初の納品書だけでは足りません。出願時点までの売上、販売地域、広告の範囲、取引先の数、報道掲載などを集め、認知の広がりを説明できるかを検討します。先使用権が認められる場合でも、相手から混同を防ぐための表示を求められることがあります。
商品名やロゴとしての使用に当たるか
商標法26条1項6号は、需要者が誰の商品・役務かを認識できない態様で使われている商標には、商標権の効力が及ばないと定めています。ただし、社内で「装飾のつもりだった」と説明するだけでは足りません。
表示の位置や大きさ、周囲の文言、商品との関係、広告での扱いなど、購入者が実際に目にする状態を確認します。装飾的な図柄であっても、表示の仕方によってはブランドを示すものと受け取られる可能性があります。商品画像の一部分だけを切り出さず、包装や販売ページ全体を保存する意味がここにあります。
不使用取消審判の検討
相手の商標が使われていない場合は、商標法50条の不使用取消審判を検討します。同条は、継続して3年以上、日本国内で商標権者などが指定商品・指定役務について登録商標を使用していない場合の制度です。
同条2項で権利者側が証明する対象は、原則として審判請求の登録前3年以内の、日本国内での使用です。ここでいう「登録」は、商標を最初に登録した日ではなく、審判請求が登録されたことを指します。権利者本人の使用だけでなく、専用使用権者や通常使用権者の使用も問題となり、使用していないことに正当な理由がある場合の扱いも定められています。
したがって、通販サイトで商品が見つからないという事情だけで取消しが認められるとは限りません。請求する商品・役務の範囲、使用証拠の見通し、審判に要する時間と費用を検討します。また、請求しただけで商標権がなくなるわけではありません。不使用取消しが確定した場合の消滅時点については同法54条2項が定めており、過去の使用に関する責任も一括して解消されるとは限らない点に注意が必要です。
4. 警告書を送る前の権利と要求内容の点検
送る側は、相手の商品や広告が変更される前に、問題となる表示を保存します。ウェブページだけでは使用者を特定できない場合は、販売主体、製造主体、ドメインの運営者などを確認し、誰に何を求めるかを定めます。警告の対象を「貴社の全商品」と広げず、商品名、URL、画像、確認日で具体的に示すことが大切です。
自社の登録内容や更新状況に加え、相手の使用開始時期、先使用権の可能性、自社の使用証拠も点検します。差止請求の前提として常に自社の使用実績が必要になるわけではありませんが、不使用取消審判を請求されたときに何を提出できるかは、送付前に把握しておく必要があります。
要求は、法的な根拠と実行可能性に応じて組み立てます。商標法36条は侵害の停止・予防と、そのために必要な廃棄などの措置を定めていますが、名称の変更で対応できる商品まで、当然に全量廃棄を求められるとは限りません。損害賠償についても、差止めと同じ説明だけで金額が決まるわけではなく、責任の根拠、損害、算定資料を検討します。
特に慎重に扱うべきなのは、相手の取引先や販売プラットフォームへの通知です。内容や経緯によっては、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知・流布として、不正競争防止法2条1項21号が問題となる可能性があります。侵害の成否に争いがある段階で、取引先に断定的な説明を広めることは避け、通知先と表現を個別に検討する必要があると考えています。
5. 解決条件を決める際の事業上の確認
解決策には、使用の終了、名称の変更、一定の条件での共存、ライセンス契約などがあります。選択に当たっては、法的な見通しに加え、変更費用、残る在庫、取引先との契約、ブランドを維持する必要性を確認します。販売地域が違うという事情だけで問題がなくなるとは限らず、オンライン販売や広告が届く範囲も考える必要があります。
名称を変更する場合は、ウェブサイト、包装、請求書、SNS、ドメインなど、変更する対象を具体化します。既存在庫の販売を認めるなら、対象数量、販売期限、追加製造の可否を定めます。新名称への切替期間と、過去の使用について相互に何を請求しないかも、別々に書き分けます。
共存やライセンスの場合は、使用できる表示、商品・役務、地域、販売経路、使用料、品質管理、契約終了後の処理が中心になります。関連会社や販売代理店の使用まで含むかも確認します。契約の検討では、ライセンス契約のレビュー観点も参考になります。
警告書は、送った時点、回答した時点で問題が終わる書面ではありません。受け取る側も送る側も、証拠を残し、権利の範囲を確かめ、実行できる条件まで詰めることが、事業への影響を抑えた解決につながると考えています。