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商標出願のタイミング|サービス公開前の調査と指定商品・役務の選び方

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

新しいサービス名が決まると、ロゴの制作、ドメインの取得、営業資料の作成などが一斉に動き出します。この段階で「似た名前の登録商標が見つかった」となると、名前を変えるだけでも、制作物の修正や取引先への説明に費用と時間がかかります。サービスの公開日が決まっていれば、調査や出願を担当する人にも判断を急ぐ負担が生じます。

商標について動き出す時期は、名称を最終決定した後よりも、候補を比較している段階が適しています。そこで調査を進め、採用する名称と対象事業が決まったら、公表前の出願を基本に日程を組む、という流れです。ただし、出願を済ませることと、商標権を取得することは異なります。今回は、この違いを踏まえながら、公開準備の中で決めておきたい事項を説明します。

先に出願する意味と、出願だけでは得られない権利

商標法8条は、同一・類似の商品やサービスについて、同一・類似の商標が異なる日に出願された場合、原則として最も早く出願した人が登録を受けられると定めています。これが「先願主義」です。先にサービスを始めていたという事情だけで、後から出願する人が優先される仕組みにはなっていません。

もっとも、登録には出願日の先後以外の要件もあります。商品やサービスの内容を説明するだけの表示など、登録要件を満たさない名称もあります。先に出願された商標や他社の広く知られた商標との関係も審査されます。また、一定の場合には先の出願人・商標権者の承諾があり、混同のおそれがないことなどを条件として、後の出願も登録される制度があります。出願日の順番だけで結論が決まる、と理解するのは正確ではないと考えます。

商標権が発生するのは、出願日ではなく、設定登録が行われた時点です(商標法18条)。出願番号を取得しても、それだけで他社に使用の差止めを請求できる商標権を手にしたことにはなりません。自社の使用が他社の権利を侵害しない、という保証にもならない点には注意が必要です。

登録前の使用については、出願後の書面による警告など、法律上の条件を満たした場合に、一定の金銭請求を認める制度があります。ただし、その請求権を行使できるのは設定登録後です(同法13条の2)。出願した当日から、登録商標と同じ権利行使ができると説明するのは避けるべきです。

早い出願の意義は、調査と出願内容の検討を済ませたうえで、先後関係の判断に使われる出願日を確保することにあります。名称の安全性を確かめる調査と、日付を確保する出願の両方を、公開準備に組み込んでおく必要があると考えます。

「先に使っていた」という主張の条件

出願をせずにサービス名を使い始めた場合、他社が後から出願して登録を受けても、自社の使用を継続できるかが問題になります。この場合に検討する制度の一つが、商標法32条の先使用権です。一定の条件を満たす使用者は、他社が商標登録を受けた後も、その使用を継続できる場合があります。

ただし、単に使用開始日が早いだけでは足りません。他社の出願前から、日本国内で不正競争の目的なく使用しており、他社の出願時に、その商標が自社の商品やサービスを示すものとして需要者の間に広く認識されていたことなどが必要です。さらに、その後も継続して使用していることが求められます。

ここでいう需要者や認識の範囲は、商品・サービスの性質や取引の実情に即して検討します。「全国で有名でなければ一切認められない」と一律に判断するものでもありません。一方、サービス開始直後のウェブサイト公開の事実だけで、周知性まで証明することは困難な場合があります。

実際に先使用権を主張する場面では、当時の広告、売上や取引の記録、利用者数、掲載記事などを確認することになります。現在の知名度が高くても、問題になる出願日の時点で条件を満たしていたかは別に確かめる必要があります。立ち上げ時には、後から先使用権を主張することを前提にするより、調査と出願の日程を先に確保する方が、判断の不確実性を抑えられると考えます。

候補名の調査から出願までの進め方

事前調査では、登録済みの商標に加え、審査中の出願も確認します。無料で利用できるJ-PlatPatは、その入口になります。候補名の表記だけでなく、読み方、似た語の組合せ、関連する商品・サービスを変えて検索することが大切です。

たとえば、新しいSaaSの名称をアルファベットで検索して一致する結果がなかったとしても、同じように発音する片仮名の商標が出願されている可能性があります。検索結果がゼロでも、別の条件での調査や類否の検討が残ります。INPITの案内でも、商標の類似は外観・称呼・観念などから判断するものであり、検索だけで結論が出るものではないとされています。データの反映に時間差がある点にも留意します。

調査を制作開始の直前にまとめて行うと、問題が見つかったときに代替案を選ぶ余裕がなくなります。名称の候補が二つか三つある段階で簡易な調査を行い、採用候補について詳しく検討し、制作費を大きく使う前に判断する順番が実務上は扱いやすいと考えます。

社内で共有するメモは、次の事項が分かる形にすると、事業部と手続を担当する人の認識を合わせやすくなります。

  • 名称の候補、読み方、実際に提供する商品・サービス
  • 検索した条件、確認日、気になる出願・登録とその検討結果
  • 採用する名称、出願人、指定する商品・サービス
  • 出願予定日、制作物の確定日、社外への公表日

出願人も事前に決めます。設立後の会社が使う予定の名称を創業者個人の名義で出願する場合には、会社への権利移転や費用負担などを別途検討することになります。ブランドを保有する主体と、実際に使う会社を確認し、意図せず名義が分かれたままになることを避けたいところです。

なお、出願内容は商標法12条の2に基づく出願公開の対象になります。「サービスの発表前に出願すれば、発表日まで名称が秘密のまま保たれる」とは限りません。秘密保持が特に必要な新規事業では、出願公開と広報発表の関係も含めて、日程を検討する必要があります。

区分番号よりも、指定する商品・役務の内容

商標出願では、その商標をどの商品・役務に使うかを指定します。「役務」はサービスのことです。商品・役務は区分に分けられていますが、区分番号が異なる商品・サービスの間でも、類似すると判断される場合があります。商標法6条3項も、区分は商品・役務の類似の範囲を定めるものではないと明記しています。

このため、「第何類を取るか」だけで打合せを終えず、出願書類に具体的に何を記載するかまで確認することが必要です。同じ区分の中にも異なる商品・サービスがあるため、保護する範囲は、具体的に指定した商品・サービスを基に検討します。

SaaS事業であれば、利用者がダウンロードするソフトウェアと、オンラインで利用するソフトウェアの提供では、指定内容を分けて検討する場面があります。関連するコンサルティングも提供するなら、その内容を確認します。契約や提供方法と照らし合わせ、自社の事業内容を出願上の表現に対応させる作業になります。

特許庁の商品・役務の区分に関する案内などを参照しつつ、現在の事業と、実際に予定している事業を洗い出します。追加開発や海外展開の計画がある場合も、名称をどの主体が、どの商品・サービスに使うのかを具体的にすることが先になります。

将来の計画を見込むことには意味がありますが、無関係な商品・サービスを広く列挙すればよいというものでもありません。商標法3条は、自らの業務に係る商品・役務について使用する商標を登録の対象としています。使用意思の確認や、区分を増やした場合の費用も踏まえて判断します。

登録後、継続して3年以上、日本国内で使用されていない登録商標には、不使用取消審判を請求される可能性もあります(同法50条)。実際の使用や使用していない正当な理由などが問題になるため、広く指定して登録を取った後も、使用状況の管理が必要になります。

審査日程と登録後の管理

公開日程を組むときは、出願と登録の間に審査期間があることも織り込みます。特許庁の審査着手状況の2026年8月3日更新分では、同年8月から11月に審査へ着手する通常の国内出願について、分野ごとに出願から5〜9か月という見通しが示されています。これは審査に着手する時期の目安であり、出願から登録までの期間を保証する数字ではありません。

拒絶理由が通知されれば、内容を検討し、意見書や補正書などで対応する時間もかかります。サービス公開までに登録が間に合わない場合には、出願中の状態で公開するか、名称変更の余地を残すかといった事業上の判断が必要になります。出願をした事実だけで安心せず、先行商標との関係や、公開後に変更が必要となった場合の費用を確認しておきます。

早期審査の制度もありますが、使用や使用の準備の状況など、対象になる条件があります。公開日が近いという事情だけで自動的に利用できる制度として扱わず、対象となるかを確認したうえで日程を見込む必要があります。

登録後の存続期間は設定登録日から10年で、更新登録により継続できます(商標法19条)。通常の更新登録申請期間は、存続期間満了前の6か月から満了日までです(同法20条)。期限を過ぎた場合の手続に頼らず、登録日、満了日、更新の担当者を登録時に記録しておくことが大切です。

社名変更や事業譲渡があった場合には、名義や使用の主体も見直します。登録証を保管して終わりにせず、指定した商品・サービスと現在の事業が合っているかを、事業の変更時に確認する運用が適していると考えます。

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