人材紹介契約のチェックポイント|手数料・返戻金・直接採用条項
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
紹介経由で入社した社員がわずか数か月で退職してしまい、慌てて契約書の返還規定を読み直すという場面は少なくありません。採用が決まった時点では紹介手数料の支払額にばかり目が向き、返戻金の条件や直接採用時の取り扱いまで確認していなかったというケースです。人材紹介会社と結ぶ契約は、発注書代わりの定型書面として形式的に処理して済ませるのではなく、契約条件を事前に把握しておくことが大切です。
有料職業紹介事業の許可と事前確認
まず前提として、人材紹介(有料職業紹介)は職業安定法に基づく国の許可が必要な事業です。同法30条は、有料職業紹介事業を行おうとする者に対し、厚生労働大臣の許可を受けることを義務付けています。
採用企業としては、契約を結ぶ前に相手方が有効な許可番号を持つ事業者かどうかを確かめる作業が出発点となります。通常、許可番号は求人票や契約書の冒頭部分に記載されます。番号の記載がない場合や表記に不自然な点がある場合は、契約前に事業者へ確認するのが賢明です。無許可の事業者と契約しても採用企業がただちに行政処分を受けるわけではないものの、関係指針が求める条件明示や苦情処理体制が整っていない相手と手数料取引を行うリスクを避けるためにも、事前の確認は欠かせません。
手数料の二つの算出方式と明示義務
人材紹介の手数料には、法令上二つの徴収方式が定められています。一つは厚生労働省令で上限が定められた「上限制手数料」で、職業安定法施行規則20条と別表により、上限は支払われた賃金額の100分の11(免税事業者は100分の10.3)とされています。同一の者が6か月を超えて雇用された場合は、6か月間の賃金が計算の基礎となります。もう一つは、厚生労働大臣にあらかじめ届け出た手数料表に基づいて徴収する「届出制手数料」で、事業者ごとに独自の料率や計算方法を設定できます。
実務で「理論年収×一定料率」という説明をよく受けるのは、多くの紹介会社が届出制手数料を採用し、想定年収に割合を乗じる手数料表を設けているためです。ただし、具体的な料率や理論年収の計算方法は事業者ごとの届出内容によって異なり、法律で一律に決められているわけではありません。契約書だけでなく手数料表の内容も照らし合わせ、基本給のみを基礎とするのか、諸手当や想定賞与まで含めるのかといった算定基準を確認しておくことが大切です。
職業安定法32条の13は、事業者に対し求人者と求職者の双方へ手数料に関する事項を明示するよう義務付けています。後日、返戻金の計算や直接採用をめぐって見解が分かれた際の基準となるため、契約書上の料率だけでなく、明示された手数料表そのものを受け取って社内で保管しておくのが安心です。
返戻金条項の段階設定と返還条件
返戻金制度は、紹介により就職した人材が早期に退職してしまった場合に、紹介会社が受け取った手数料の全部または一部を返還する仕組みです。厚生労働省の指針でも、有料職業紹介事業者がこの制度を設けることが望ましいとされています。実際の契約書では、入社日からの経過期間が短いほど高い割合で返還し、就労期間が延びるにつれて返還割合が段階的に下がる設計が一般的です。
採用企業側で確認しておきたいのは、返還の対象となる退職理由の範囲です。自己都合退職のみを対象としているのか、会社都合や試用期間中の本採用見送り(解雇)まで含まれるのかによって、受けられる保護の範囲が変わります。また、退職から一定期間内に書面等で通知しなければ請求権を失う条項も多いため、早期離職が発生した際に社内の誰がいつまでに紹介会社へ連絡するのか、人事の運用手順にあらかじめ組み込んでおくことが大切です。
紹介会社側にとっても、手数料表と契約書の返戻金規定で期間区分や返還率に相違があると、法令上の明示義務違反を問われかねません。契約書面と別途交付する手数料表の記載が整合しているかを確かめておく必要があります。
直接採用防止条項とお祝い金提供の禁止
選考段階で紹介を受けた候補者について、紹介を外して直接採用に切り替えるような場面では、直接採用防止条項が問題になります。候補者と自社が別のルートで連絡を取り直したように見えても、最初に紹介会社から情報提供を受けた事実がある限り、紹介の効力が及ぶと定めている契約が多く見られます。
この条項は、紹介を受けた後、契約で定めた一定期間内にその候補者を直接雇用した場合、紹介手数料と同額や所定割合の支払いを求める内容です。対象となる期間の長さは契約によって異なります。採用企業としては、過去に選考を辞退した人物や、別の求人媒体から自発的に応募してきた人物まで対象に含まれてしまわないか、適用範囲をあらかじめ確かめておきたいところです。紹介会社側としても、いつ交付した紹介書面の対象者かを特定できるようにしておかなければ、後日の立証で争いが生じやすくなります。
また、候補者の個人情報の管理にも細心の注意を払わなければなりません。指針では目的外の保管や利用を原則として禁じており、人種や信条、労働組合への加入状況など社会的差別の原因となる事項の収集も原則として認められていません。採用企業側でも、提供を受けた履歴書等を別部署の選考に無断で流用したり、社内データベースに無期限で残したりすることは避け、利用目的の範囲内で取り扱う必要があります。
あわせて注意したいのが、いわゆるお祝い金等の扱いです。職業紹介事業者の責務に関する指針では、「お祝い金」その他これに類する名目で、社会通念上相当と認められる程度を超えて求職者に金銭等を提供し、求職の申込みを勧奨することを禁止しています(令和3年4月1日から適用)。さらに、無期雇用で就職した者に対して就職日から2年間は転職の勧奨を行ってはならない旨も定められています。安易な金銭提供で転職を繰り返させる事業者を避け、採用した人材の早期流出を防ぐ観点からも、相手方がこうした規律に従って運営しているかを見極めることが大切です。
人材紹介契約の点検
人材紹介契約は、業務委託契約や取引基本契約と同じく、その後の取引関係の土台となる大切な契約です。手数料の仕組みや返戻金、直接採用に関する特約を事前に整理しておくことが、将来の不要なトラブルを防ぐことにつながります。
契約書の点検の視点については取引基本契約書のレビューや業務委託契約の見直しポイントでも解説しています。