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オフィス賃貸借契約のレビュー|移転前に確認すべき解約・原状回復・敷引き

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

オフィスの移転や増床を検討し始めた企業では、多くの場合、二つの異なるスケジュールが動いています。一つは、新オフィスの契約や内装工事の手配から逆算した移転の希望日です。もう一つは、現オフィスの賃貸借契約に定められた解約予告期間です。この二つを一つの日程表で合わせて管理しておかないと、移転希望日に解約が間に合わなくなったり、新しい入居先が決まる前に現オフィスの退去期限が迫ってしまったりします。

事業用のオフィス契約は、住居用賃貸借と同じ感覚で読むと思わぬ落とし穴があります。住居用に比べて借主を法律で手厚く守る仕組みが限られているためです。契約内容に即して、解約予告や原状回復、敷金や保証金の精算条件を丁寧に確認しておくことが大切です。

事業用賃貸借における契約の拘束力

消費者契約法2条では、「消費者」を個人(事業として、または事業のために契約当事者となる場合を除く)、「事業者」を法人や事業のために当事者となる個人と定めています。法人が借りるオフィスの賃貸借契約は事業者同士の取引となるため、同法が適用される消費者契約には該当しません。

そのため、住居用賃貸借でよく使われる「消費者契約法10条を根拠に借主に不利な特約を無効とする」という主張は、オフィス契約では基本的に通用しません。契約書に借主側に不利な特約が記載されていても、原則として書面通りの効力が認められやすい仕組みになっています。

普通借家と定期借家の終了手続き

オフィス賃貸借契約は、大きく分けると普通借家契約と定期借家契約の二種類があります。この区別は、更新の有無や契約終了の見通しに大きく関わります。

普通借家契約の場合、借地借家法26条により、期間満了の1年前から6か月前までの間に更新しない旨の通知を行わなかったときは、従来の条件(期間の定めを除く)で契約が更新されたものとみなされます。また、賃貸人側からの更新拒絶や解約の申入れは、同法28条が定める正当事由(建物の使用を必要とする事情、これまでの経緯、利用状況、建物の現況、立退料の申出など)が認められなければ行うことができません。賃貸人の都合だけで一方的に終了させることは難しく、借主にとっては入居を継続しやすい形態です。

これに対して定期借家契約は、借地借家法38条1項により、公正証書などの書面(同条2項により、契約内容を記録した電磁的記録を含みます)で契約する場合に限り、更新がない旨を合意できる制度です。同条3項は、賃貸人があらかじめ借主に対し、更新がなく期間満了によって契約が終了する旨を記載した書面を交付して説明することを義務付けています。この事前説明をしなかったときは、同条5項により更新がない旨の定めは無効となるため、書面の交付と説明を受けたかは借主側でも確かめておきたい事項です。定期借家は期間満了によって終了するのが原則であり、引き続き利用したい場合は双方の合意で再契約を結ぶ必要があります。賃貸人に再契約へ応じる義務はないため、現オフィスがどちらの類型かによって、終了時に自社で更新を選べるかどうかが変わってきます。

中途解約の予告期間と違約金の定め

契約期間の途中で移転や解約を行う場合、普通借家か定期借家かにかかわらず、契約書にある中途解約の定めに従うことになります。借地借家法38条7項には、床面積200平方メートル未満の居住用定期借家について、転勤や療養、介護などのやむを得ない事情がある場合に借主から中途解約できる規定がありますが、これは居住用に限られ、事業用オフィスには適用されません。オフィスで中途解約ができるか、どのような条件が付くかは、完全に契約書の記載によって決まります。

契約の確認では、解約予告期間の月数(3か月や6か月など)、予告期間中の賃料支払義務、即時解約する場合の違約金計算方法、解約通知の手段(書面限定か、到達基準か発信基準か)などを具体的に読み解きます。たとえば予告期間が6か月の契約であれば、移転希望日の6か月以上前に通知を出さなければ、希望通りの日程で退去できません。期間を過ぎた後の通知でも解約自体は認められるものの、予告期間満了までの賃料相当額を違約金として請求される約定が一般的です。移転方針が固まり切っていない段階でも、解約予告の期限だけは早めに把握しておく必要があります。

原状回復の範囲とスケルトン戻し特約

国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、市場家賃程度の民間賃貸住宅を想定した指針であり、事業用の建物賃貸借を対象としたものではありません。オフィス退去時の原状回復において、ガイドラインにある通常損耗や経年変化の負担基準をそのまま当てはめることはできません。

事業用のオフィス契約では、入居時の設備や内装を撤去してコンクリート打ち放しの状態に戻すスケルトン戻し特約や、通常使用による損耗や経年変化の修繕費用も借主が負担する特約がよく盛り込まれます。事業者間の取引は対等な立場で条件を交渉できると考えられているため、こうした特約も有効と判断されやすい傾向にあります。スケルトン戻しや通常損耗負担の特約がある場合は、早い段階で工事費用の見積もりを取り、移転費用として予算を組んでおくのが賢明です。あわせて、工事業者について賃貸人指定の業者を使う義務があるかも確かめておきます。

敷引特約・フリーレント返還・転貸制限の確認

オフィス契約では、敷金のほか「保証金」の名目で金銭を預託することも多くあります。この保証金から一定額や一定割合を差し引いて返還しない特約が置かれることがあり、これがいわゆる敷引きです。住居用では敷引金の額が過大であれば消費者契約法10条で無効となり得るとする判断枠組みがありますが、法人契約のオフィス賃貸借には適用されません。償却特約は原則として有効であることを前提に、償却割合やその時期(契約時か明渡し時か)、返還期日を数値で把握しておきます。

また、初期費用を抑えるために設定されるフリーレント(一定期間の賃料免除)にも目を向ける必要があります。契約書によっては、短期間で中途解約した場合に免除された賃料の返還や違約金支払を義務付ける条項が含まれていることがあり、急な移転の際に想定外の出費となることがあります。返還の基準(何年以内の解約でいくら返還するか)を事前に把握しておくことが大切です。

さらに、フロアの一部をグループ会社や取引先と共有したり、社内の一部をコワーキングスペースとして外部に開放したりする計画がある場合、無断転貸の禁止条項に抵触する恐れがあります。賃貸借契約では賃借権の譲渡や転貸に賃貸人の事前書面承諾を求めるのが通例です。同一ビル内で別フロアを追加で借りる増床では別契約か覚書かによって解約予告の起算日が変わることもあり、一部解約(減床)の可否や賃料按分の計算方法も合わせて確認しておきます。

解約通知期限の逆算

移転を進める際は、まず現オフィスの解約予告期間を確認し、新オフィスの契約、内装工事、什器搬入にかかる期間を見積もって移転完了の目標日を定めます。その目標日から予告期間を逆算した日付が、解約通知を出す最終期限です。解約予告期間が6か月や9か月、あるいは1年といった長期に及ぶ契約では、新しい物件の選定や社内稟議の完了を待ってから逆算を始めると、希望する時期の移転に間に合わなくなります。

なお、中途解約や契約解除に関する基本的な視点はこちら、契約締結後の期限管理や更新手続きの進め方についてはこちらでも詳しく解説しています。

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