英文契約の基本構成と読解の手順|shall・mayと責任条項の確認
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
英文契約を受け取ったとき、価格と納期の合意を確認するだけでも、定義や別紙を行き来することがあります。本文の一文は短くても、その中の定義語や例外規定まで読むと、負担する義務の範囲が変わるからです。翻訳が自然な日本語になっていても、契約全体のつながりを確認する作業は残ります。
英文契約を読む際には、まず当事者と取引内容を把握します。そのうえで義務と違反時の責任、契約終了の条件を対応させて確認することが必要だと考えています。英文契約にも国や契約類型による違いがあり、共通の並び順が必ずあるわけではありません。それでも、見出しと定義語を手掛かりにすれば、確認すべき箇所を探しやすくなります。
契約の構成と定義語の適用範囲
英文契約では、次のような項目が見られます。売買、業務委託、ライセンス、M&Aでは、必要となる項目や配置が異なります。
- Title・Parties:表題と当事者の表示
- Recitals:契約の背景や目的
- Definitions:用語の定義
- 本体条項:給付内容、支払、表明保証、誓約、前提条件など
- Indemnification・Limitation of Liability:補償と責任制限
- 一般条項:完全合意、譲渡、通知、準拠法、紛争解決など
- 署名欄・Schedules・Exhibits:署名と別紙
Recitalsは、Whereasで始まる形もある背景説明の部分です。そこに書かれた目的や事情が、本文の解釈に関係する場合があります。どの程度の効力が認められるかは、準拠法や契約の書き方によって異なります。背景説明という見出しだけで読み飛ばさず、本文で約束した業務や権利の範囲と矛盾していないかを確認します。
定義語には、辞書とは異なる意味が与えられていることがあります。Confidential InformationやEffective Dateのような大文字で始まる語は、定義の有無を確かめる手掛かりになります。ただし、大文字の語がすべて定義されているとは限りません。定義を一か所にまとめず、各条項の中に置く契約書もあります。
Affiliateを「関連会社」と訳しても、どの会社まで含まれるかは分かりません。支配の定義、議決権割合、共通支配を受ける会社の扱いを読む必要があります。秘密情報をAffiliateへ開示できる契約であれば、その定義と、開示先に負わせる秘密保持義務を併せて確認してください。
別紙にも、仕様、料金、対象会社、除外事項が記載されます。本文と別紙が食い違う場合の優先順位や、参照されている版を確認しておく必要があります。リンク先の規約を取り込む契約では、リンク先の内容と変更方法も確認の対象になります。
表明保証・誓約・前提条件の役割
Representations and Warranties(表明保証)、Covenants(誓約)、Conditions(条件)は、いずれも取引のリスクに関係しますが、同じ役割ではありません。何について述べているか、いつ充足すべきか、満たさない場合に何が起きるかを分けて読みます。
表明保証は、一定の事実が真実かつ正確であることなどを表明し、保証する規定です。対象には、契約締結権限、知的財産権、法令遵守などがあります。確認する時点は署名日だけとは限りません。過去の特定期間を対象とする場合や、取引実行日にも改めて表明保証する場合があるため、条項の文言と日付を照合します。
実際の事実と異なる場合でも、契約解除や補償が当然に認められるとまではいえません。違反に対してどの救済を定めているか、認識や重要性による限定があるか、開示事項による例外があるかを確認する必要があります。M&Aでの検討については、株式譲渡契約における表明保証条項でも取り上げています。
Covenantsは、当事者が行うこと、又は行わないことを約束する規定です。継続的な報告義務だけでなく、特定の日までに承認を取得する義務など、一回の行為を約束する場合もあります。担当部署が対応できる内容か、期限や協力を求める相手が明確かを確かめます。
これに対し、取引実行のConditions Precedentは、当事者が取引を実行するための前提条件を定めるものです。条件が満たされなかった場合の扱いと、その条件を満たすための義務は区別して読む必要があります。条件の不充足それ自体が契約違反になるとは限らず、別に定められた協力義務等への違反が問題になる場合があります。
条件を放棄できる当事者、放棄の方法、最終期限までに充足しない場合の解除権も確認してください。条件の一覧だけを訳しても、実行を見送れる場面や、既に生じた義務が残るかどうかまでは判断できません。
補償と責任上限の関係
Indemnificationは、一定の事由による損失等を負担させる規定です。まず、補償の対象となる事由と、請求できる者を読みます。表明保証違反、契約上の義務違反、第三者からの知的財産権侵害請求など、何を対象とするかは契約によって異なります。
次に、補償対象のLosses等の定義を確認します。弁護士費用を含むか、第三者からの請求だけか、当事者間の直接の請求も含むかによって、負担の範囲が変わり得ます。第三者から訴えられた場合には、防御を指揮する者、弁護士の選任、和解への同意、通知が遅れた場合の扱いも確認が必要です。
Limitation of Liabilityは、その補償条項と照合して読みます。上限額だけを把握しても、補償義務が上限の対象に含まれているかは分かりません。契約違反による責任、補償義務、不法行為等による責任のうち、どこまで制限する文言かを確かめる必要があります。
上限の計算でも、「支払済みの料金」と「支払済み又は支払うべき料金」は異なります。参照する期間、請求ごとの上限か累計の上限か、上限の対象外となる事由も確認してください。秘密保持義務違反等の例外があっても、それが金額上限だけの例外なのか、特定の損害を除外する規定にも及ぶのかは、条項の配置と参照関係から読む必要があります。
英国政府が公表するModel Services Contractの変更説明でも、補償と責任上限の関係を明確にする修正が説明されています。これは同契約の例ですが、補償という見出しだけで上限の適用を決められないことを確認する参考になります。
一般条項とshall・may・will
一般条項にも、担当者が対応を決めるための条件が含まれます。Noticesでは通知先だけでなく、認められる送付方法と通知の効力発生時点を確認します。担当者にメールを送れば契約上の通知が完了するとは限らないためです。Assignmentでは、譲渡に相手方の同意を要するか、組織再編等の例外があるかを確かめます。
Entire Agreementは、契約内容をどの文書にまとめるか、従前の合意等をどう扱うかに関係します。交渉中のメールで約束された内容があるなら、最終契約や取り込まれる別紙に反映されているかを確認してください。この条項があるだけで、不実表示等に関するあらゆる責任が排除されるとまではいえません。別の免責文言や準拠法も検討する必要があります。
shallは義務、mayは権利や裁量を表すためによく用いられます。willも契約上の約束に使われるため、将来の予定にすぎないと決めつけないようにします。助動詞だけで効果を確定せず、主語、動詞、条件、例外を含む一文として読んでください。
たとえば、may terminateと書かれている場合、通常は当事者が解除を選べる趣旨です。ただし、その直前に相手方の違反や是正期間が定められていれば、無条件に解除できるわけではありません。mayという語の訳に加え、解除権を行使できる時点、通知方法、未払料金等の処理まで確認する必要があります。
Governing Lawと紛争解決条項も別々に確認します。適用する法と、訴訟や仲裁を行う場所・手続は異なる問題です。英文で作成されていることから、米国法や英国法が適用されると推測することはできません。
読む順序と翻訳結果の照合
最初に当事者、取引の目的、給付内容、金額、期間を把握します。そのうえで、主要な定義、補償と責任制限、終了の条件を読み、本体の義務と対応させていく方法が考えられます。期限の短い通知や自動更新の条項があれば、確認中に期限が過ぎないよう先に担当者へ共有します。
交渉事項は条項番号に沿って記録します。求められる行為と期限、違反時の扱い、変更したい理由を書いておくと、事業部門と相談しやすくなります。契約書全体の確認方法は、契約書の構成と読み方も参考にしてください。
翻訳ツールや生成AIへ契約書を入力する際は、守秘義務と社内ルールに適合する利用環境かを先に確認します。出力を読むときは、定義語の訳が一貫しているか、否定や例外、条項番号が欠けていないかを原文と照合してください。補償条項だけを切り出して要約させると、責任制限の例外やLossesの定義を反映できない場合があります。
私は、翻訳を読んで不利に感じた部分ほど、関連条項を含めて原文に戻るようにしています。修正を求める際には、単語を置き換えるだけで足りるのか、定義や例外も直す必要があるのかを確認することが大切だと考えます。