契約レビューのコメント設計|社内向けと相手方向けの書き分け
こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。
契約書の点検実務では、条文の修正案そのものと同じくらい、添えるコメントの書き方が使い勝手を左右します。とりわけ社内向けの説明と、取引先へ提示する文面を同一にしてしまうと、実務の進行に滞りが生じやすくなります。
社内向けコメントは、潜むリスクの性質や判断の根拠を率直に伝えるものです。一方、相手方向けのコメントは、円滑に合意へ導くための交渉文です。両者は目的が異なるため、同じ条項を扱う場合でも表現の仕方を明確に切り替えます。
社内向けコメントには判断の材料を記す
社内向けコメントの役割は、なぜその条文が不利なのか、どの程度の損害が生じうるのか、会社として取り得る選択肢には何があるのかを分かりやすく共有することです。たとえば損害賠償責任が無制限に設定されている場合、ただ「上限を設けてください」と書くだけでは現場は判断に迷います。契約金額に比して過大な賠償義務を負う懸念があること、通常損害に限定する案や契約金額あるいは数ヶ月分の対価を上限とする案、あるいは故意・重過失や秘密保持義務違反を上限の例外とする案など、検討可能な選択肢の例を提示して社内の判断を促します。
社内向けコメントは、事業責任者や経営陣がリスクを正しく理解し、どのような交渉方針を取るかを決断するための材料です。率直かつ具体的な説明が求められます。
相手方向けコメントは合意を目指す交渉文にする
相手方に送るコメントでは、同じ趣旨であっても表現を丁寧に変えます。社内向けに「自社にとって過大なリスクがある」と評価した内容であっても、その表現のまま相手方へ送付すると、交渉が進めにくくなることがあります。
相手方への文面では、「本契約の取引規模や双方のリスク分担を踏まえ、損害賠償については一定の上限を設定する形での修正をご検討いただけますでしょうか」といったように、背景にある合理的な理由を添えつつ、修正を検討してもらえるように伝えます。契約交渉の場では、法的な正しさを一方的に主張するだけでは合意に至りません。相手方が受け入れやすい言葉を選び、自社に必要な修正を伝えることが大切です。
宛先を分けることで現場の動きが円滑になる
社内向けと相手方向けのコメントを分けておけば、事業部門は、何を社内で判断し、何を相手方に伝えるのかを把握しやすくなります。社内で方針を確認したうえで送れるコメント案があれば、文面を作り直すやり取りも減らせます。
とりわけ営業担当者や事業責任者が直接交渉を進める場合、法務のコメントをそのまま顧客へ送ってよいのか迷う場面は少なくありません。率直すぎる社内検討の言葉を誤って先方に渡してしまうと、関係に影響する恐れもあります。外部弁護士へレビューを依頼する際も、「社内向けのリスク検討メモ」と「相手方に提示するコメント案」を分けて納品してもらうよう指定すると、受け取った後の使い方が明確になります。
生成AIを活用する際の用途指定
生成AIを使って契約レビューを行う際も、出力コメントの用途を明確に指定することが大切です。単に「レビューしてください」とだけ指示を与えると、社内検討用とも外部提示用とも判別のつかない曖昧な文章が生成されがちです。
AIを活用する際は、「社内の法務判断用として、想定リスクと理由を端的に記述してください」「相手方へそのまま送付可能な、丁寧な依頼文案として作成してください」「重要度を高・中・低に分類してください」といった具体的な指示を与えます。ただし、AIが起草したコメントは、必ず弁護士や法務担当者が自らの目で確かめることが前提です。とりわけ外部へ送る文章は、自社の立場や相手方との関係性を踏まえた繊細な語感の調整が欠かせません。
コメント設計まで含めた契約書レビュー
契約書レビューの役割は、条文の誤りを指摘することにとどまりません。社内で納得のいく意思決定を下せるように背景を説明し、相手方と建設的に交渉できるよう言葉を整え、事業の歩みを後押しすることまでを含めて一つの仕事です。
LegalAgentでは、契約レビューのコメントを法的な形式論にとどめず、企業の決断と交渉を支える実務的な文章だと位置づけています。社内向けと相手方向けを書き分けるだけでも、担当者が説明文を作り直す負担を減らせると考えています。宛先別のコメント付きレビューを継続して依頼する形は法務アウトソーシングで説明しています。