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Insight 11 min read

AI Nativeな法律事務所とは、どのような組織なのか

こんにちは!Legal Agent 代表弁護士の朝戸です。

最近、生成AIを使う法律事務所や法務部はかなり増えてきました。

契約書を要約し、条項の意味を確認し、修正文案や法律相談の回答案を作るといった使い方は、すでに多くの弁護士や法務担当者が試していると思います。

ただ、私は、生成AIを使っていることと、AI Nativeな法律事務所であることは、かなり違うと考えています。

その違いを考える前に、そもそも法律事務所は何のためにあるのか、というところから考える必要があると思っています。

法律事務所は、クライアントの価値を最大化するためにある

私は、法律事務所は、法律論を説明するためだけに存在しているわけではないと考えています。

法律事務所の目的は、クライアントの価値を最大化し、クライアントの成長に寄与することにあると思っています。契約書をレビューすること、法律相談に回答すること、交渉コメントを作ること、意見書を書くことは、あくまでそのための手段です。

企業法務の現場では、法的に正しい回答を出すだけでは足りない場面が多くあります。重要なのは、その回答によって、事業部が次に動けること、経営陣が判断できること、取引が前に進むこと、クライアントが不要なリスクを避けながら成長の機会を取りに行けることです。

たとえば、契約書のレビューであっても、「この条項にはリスクがあります」と言うだけでは、クライアントの価値最大化にはつながりません。そのリスクがどの程度現実的なのか、取引金額や利益率との関係で受け入れられるのか、相手方との関係でどこまで交渉すべきなのか、事業スピードを落としてでも修正すべきなのか。ここまで踏み込んで初めて、法律事務所として価値を出せると考えています。

法務は、事業を止めるためにあるのではありません。もちろん、取ってはいけないリスクを止めることは重要です。ただ、それと同じくらい、取れるリスクと取れないリスクを分け、クライアントが成長するための意思決定を支えることが重要だと考えています。

この前提に立つと、AI Nativeな法律事務所というものも、単に新しいツールを使う法律事務所という話ではなくなります。クライアントの価値最大化という目的から逆算して、法律事務所の業務、組織、納品物、品質管理、意思決定支援のあり方を作り直すことだと考えています。

AI Nativeな法律事務所とは、単に弁護士がChatGPTを使っている事務所ではありません。法律事務所の業務フロー、組織構造、採用、品質管理、案件管理、納品物の作り方まで、最初からAIを前提に作り直している組織です。

私がLegal Agentで作りたいのは、まさにこのような法律事務所です。

AIを「売るもの」ではなく、事務所の内部基盤にする

Legal Agentでは、法務特化のWord AI Agentを開発しています。

ただ、私が本当に重要だと考えているのは、AI Agentを単体のプロダクトとして売ることだけではありません。むしろ、AIを法律事務所の内部基盤として使うことです。

なぜ内部基盤にする必要があるのかというと、法律事務所の価値は、単発の回答のきれいさだけでは決まらないからです。案件を受けてから、資料を読み、事業背景を理解し、論点を抽出し、リスクを評価し、クライアントが意思決定できる形にして返す。この流れ全体が速く、深く、安定していることが、クライアントの成長に直結すると考えています。

法律事務所の仕事は、外から見ると、弁護士が契約書を読んでコメントしているだけに見えるかもしれません。しかし、実際にはかなり多くの作業があります。

依頼内容を確認し、過去資料を読み、クライアントの事業を理解し、契約書の変更履歴や相手方コメントの意図を確認したうえで、社内向けの説明と相手方向けのコメントを分け、最後に弁護士として外に出せる状態に整える必要があります。

この一連の流れの中にAIが入っていないと、単に「途中で便利なツールを使った」だけになります。AI Nativeな法律事務所では、案件受付から納品までの流れそのものにAIが組み込まれている必要があります。

たとえば、契約レビューであれば、契約書、過去版、商談資料、議事録、事業部からの相談内容、過去の類似案件をAIが読み込みます。その上で、主要論点、修正文案、相手方向けコメント、社内向けリスクメモ、追加確認事項を下書きします。

弁護士は、その下書きを見て、会社の事業背景、交渉状況、リスク許容度を踏まえて、最終的な判断をします。ここまでできて初めて、AIは単なる道具ではなく、法律事務所の業務基盤になると考えています。

重要なのは、AIによって法律事務所の作業時間を減らすこと自体ではありません。作業時間を減らすことで、弁護士がクライアントの事業、成長戦略、取引上の優先順位に向き合う時間を増やすことです。ここが抜けると、AI Nativeという言葉は、単なる効率化の話で終わってしまうと思っています。

Wordと変更履歴から逃げない

法務の実務でかなり重要なのは、Wordです。

契約レビューも、利用規約の修正も、投資契約書のレビューも、企業買収・合併等の契約書の修正も、多くはWord上で行われます。変更履歴を残し、コメントを付け、相手方のコメントに返答し、社内向けには別の説明を作る。ここが日々の法務実務の中心です。

ブラウザ上の生成AIに条文を貼り付けて回答をもらうだけでは、この実務には入り切れません。

特に契約交渉では、「どこを直したか」だけではなく、「なぜ直したか」「相手方にはどう説明するか」「社内にはどのリスクを伝えるか」が重要になります。相手方に見せるコメントと、社内だけで見るコメントを混ぜてしまうと、かえって使いにくいアウトプットになります。

AI Nativeな法律事務所では、Word上で変更履歴を付けること、吹き出しコメントを付けること、本文中に社内向けコメントを残すこと、相手方コメントに返答することまで、業務フローに組み込まれている必要があります。

これは地味ですが、かなり重要です。法務の現場は、きれいな回答文ではなく、実際に相手方へ返せるWordファイルで動いているからです。

逆ピラミッド型の法律事務所

従来の法律事務所は、基本的にはピラミッド型です。

少数のパートナーがいて、その下にアソシエイト弁護士、さらにスタッフがいる。案件は、スタッフや若手が作業し、上位者がレビューし、クライアントに返す。この構造には、教育や品質管理という面で意味があります。

ただ、この構造はどうしても重くなります。契約レビューや日常的な法務相談のように、短い時間で実務的な回答を返すべき業務では、クライアントの事業スピードと合わないことがあります。

AI Nativeな法律事務所では、この構造が逆ピラミッド型に近づくと考えています。

つまり、AIが大量の下準備を行い、弁護士はその上で判断する。多くの人が順番に作業するのではなく、AIが契約書、資料、過去案件を読み、論点と文案を作り、経験ある弁護士が短時間で確認して外に出せる状態にする。

この形になると、弁護士の役割は「ゼロから文章を書く人」ではなくなります。弁護士は、AIが作った90点のアウトプットを見て、どこが会社の実務に合っていないか、どのリスクを取るべきか、どのコメントを相手方に出すべきかを判断する人になります。

これは、弁護士の価値が下がるという話ではありません。むしろ、弁護士が本来見るべき判断に時間を使えるようになるということです。

法律事務所の納品物も変わる

AI Nativeな法律事務所では、納品物も変わります。

従来の法律事務所の納品物は、契約書の赤字、コメント、意見書、メール回答が中心でした。もちろん、これらは今後も重要です。

ただ、クライアントが本当に欲しいのは、法的に正しい文章だけではありません。事業部が次に動けること、経営陣が判断できること、相手方にそのまま返せることが重要です。

法律事務所の納品物は、クライアントの社内でさらに加工される素材ではなく、できる限りそのまま意思決定や交渉に使えるものであるべきだと考えています。クライアントの価値を最大化するという観点からは、法律事務所に依頼した後に、社内法務や事業部がもう一度翻訳し直す時間は、できる限り減らした方がよいと思っています。

たとえば、契約レビューであれば、納品物は次のように分かれているべきだと考えています。

  • Word本文に入った変更履歴
  • 相手方に見せるコメント
  • 社内向けのリスクメモ
  • 事業部への追加確認事項
  • 経営判断に上げるべき論点
  • 交渉上の落としどころ

これが一つのWordファイルや案件メモにまとまっていると、クライアント側の再作業がかなり減ります。

法律事務所に依頼した後、社内法務が回答を読み直し、コメントを削り、事業部向けに説明し直し、相手方に出す表現へ書き換えているのであれば、まだ業務はあまり減っていません。

AI Nativeな法律事務所が目指すべきなのは、クライアントがそのまま次のアクションに移れる納品物を返すことだと考えています。

外部弁護士が内部法務のように動く

私は、これからの法務アウトソーシングの本質は、定型業務を外に出すことではないと考えています。

外部弁護士が、内部法務部員のように、クライアントの事業背景、社内判断基準、リスク許容度、過去の判断を理解し、意思決定まで支えることに価値があります。

ここでも目的は、単にクライアントの手元の作業を減らすことではありません。クライアントが、より少ない固定費で、より高い解像度の法務判断を継続的に使える状態を作ることです。社内に常時フルタイムの法務部員を置くことが難しいフェーズでも、外部弁護士が内部法務に近い役割を担えれば、クライアントは成長に必要な法務機能を変動費として持つことができます。

これは、特にスタートアップや成長企業にとって重要だと考えています。資金調達、採用、業務提携、利用規約、個人情報、知的財産、取締役会、株主対応など、会社が成長するほど法務論点は増えていきます。一方で、早い段階から大きな法務組織を固定費として抱えることは難しい場合があります。だからこそ、外部弁護士が内部法務のように意思決定まで支えることには、大きな意味があると考えています。

たとえば、業務委託契約のレビューであれば、単に「損害賠償責任の上限を入れた方がよい」と返すだけでは足りません。取引金額、利益率、相手方との関係、事故時の想定損害、保険の有無を踏まえ、「この案件では契約金額相当額を上限とする案が現実的です」「ただし、個人情報漏えいについては別途社内判断が必要です」と返す必要があります。

この粒度で返すためには、外部弁護士がその会社の中に入り込む必要があります。

AIは、ここで非常に有効です。過去の契約書、社内ルール、プレイブック、過去のコメント、案件メモを読み込み、今回の案件に近い判断材料を出す。弁護士は、その材料を見て、会社に合った判断に仕上げる。

AI Nativeな法律事務所は、単に「早い法律事務所」ではありません。外部にいながら、内部法務に近い解像度で動く法律事務所だと考えています。

その結果として、クライアントは、契約レビューや法務相談を処理するためだけではなく、成長のための意思決定基盤として法律事務所を使えるようになります。私は、ここにこれからの法律事務所の大きな役割があると考えています。

採用と教育もAI前提になる

AI Nativeな法律事務所では、採用と教育の考え方も変わります。

従来型の法律事務所では、若手弁護士が大量の下調べ、初稿作成、契約書レビューを行い、上位者がレビューすることで育っていく面がありました。

ただ、AIが初稿作成や論点抽出をかなり担えるようになると、若手弁護士に求められる能力も変わります。

重要になるのは、AIの出力をそのまま信じることではありません。AIが出した論点のどこが実務に合っていないか、どの条項は相手方との関係上コメントしない方がよいか、どのリスクは経営判断に上げるべきかを見極める力です。

また、事務所としては、各弁護士がばらばらにAIを使うだけでは足りません。事務所としてのプレイブック、チェックリスト、過去案件、コメントの書き方、納品物の型を共有し、それをAIに適用させる必要があります。

これにより、ジュニア弁護士の底上げと、レビュワーの負担軽減を同時に進めることができます。

AI Nativeな法律事務所では、優秀な弁護士を採用するだけでなく、その弁護士が最初から高い生産性で働ける業務基盤を提供することが重要になります。

経営指標も変わる

AI Nativeな法律事務所では、見るべき経営指標も変わると考えています。

従来の法律事務所では、弁護士数、稼働時間、時間単価、売上が中心でした。もちろん、これらは今後も重要です。

ただ、AI Nativeな法律事務所では、次のような指標も重要になります。

  • 初稿返却までの時間
  • 一営業日以内に返せる案件の割合
  • 弁護士一人当たり売上
  • 再レビューが必要になった割合
  • クライアントがそのまま使える納品物の割合
  • プレイブックが適用されている案件の割合
  • AIが下準備した後に、弁護士が判断に使った時間

法律事務所の競争力は、単に弁護士の人数だけでは測れなくなると思います。どれだけ速く、どれだけ実務で使える形で、どれだけ安定した品質で返せるかが重要になります。

そして、そのためには、AI、弁護士、オペレーション、営業、ナレッジ管理が一体になっている必要があります。

さらに言えば、法律事務所側の経営指標も、最終的にはクライアントの価値に結び付いている必要があると考えています。返答が早くなった結果、契約締結が早くなる。実務で使える納品物が増えた結果、事業部の待ち時間が減る。内部法務のように判断を支えられる結果、経営陣がより速く意思決定できる。こうした変化まで見ていくことが、AI Nativeな法律事務所には必要だと思っています。

AI Nativeな法律事務所は、プロダクト会社ではなく、組織の作り方である

私は、AI Nativeな法律事務所は、単なるプロダクト会社ではないと考えています。

もちろん、優れたプロダクトは必要です。Word上で変更履歴を付ける、コメントを付ける、過去資料を参照する、プレイブックを適用する。こうした機能がなければ、実務には入り込めません。

ただ、プロダクトだけでは足りません。

クライアントから案件を受け、必要資料を集め、AIが下準備を行い、弁護士が判断し、その結果をWordに反映する。そのうえで、社内向けコメントと相手方向けコメントを分け、納品後の質問にも対応し、最後は過去案件としてナレッジ化する流れになります。

この流れを組織として回せることが重要です。

Legal Agentが目指しているのは、AIを使う弁護士がいる法律事務所ではありません。AIを前提に、法律事務所の業務、組織、採用、品質管理、納品物を作り直すことです。

そして、その先にある目的は、あくまでクライアントの価値を最大化し、クライアントの成長に寄与することです。AIを導入すること自体が目的ではありません。クライアントがより速く、より良い意思決定を行い、事業を前に進めるために、法律事務所のあり方を作り直す必要があると考えています。

生成AI時代には、法律事務所の競争軸が変わると考えています。

単に専門知識があることだけではなく、クライアントの事業スピードに合わせて、実務で使えるアウトプットを速く返せること。外部にいながら、内部法務のように判断を支えられること。弁護士一人当たりの生産性を高め、より多くの企業に高品質な法務サービスを提供できること。

これが、私の考えるAI Nativeな法律事務所です。

Legal Agentでは、AI Agentと弁護士の協働により、契約レビュー、法務相談、資金調達、企業買収・合併、デューデリジェンス、法務アウトソーシングを、企業の現場で本当に使える形にしていきたいと考えています。

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